今回の主役は、スケジュール主義のカレンダ・レンダさんです。
♢カレンダ・レンダ
カレンダ・レンダの朝は早い。目覚まし時計のなる音で目を覚まし、起床。時刻は朝4時30分。ナイトキャップをベットの上に畳んで置き、洗面台へ行って顔を洗う。
鏡に映るのは、魔法少女カレンダ・レンダの整った顔立ちだ。人事部門で勤務しているレンダは、いつ急な仕事が入るかわからないので、普段から魔法少女の姿で生活することを徹底している。さすがに寝るときはコスチュームは着替えるが、これもひとえに効率のためだ。
冷水で眠気を覚ましたところで、ポットに水を入れる。そして、湯が沸くのを待つ間にデスクトップパソコンの電源を点け、カメラ映像をチェックする。
デュアルディスプレイ一面に広がるのは、レンダが趣味と実績を兼ねて仕掛けたカメラが映し出す映像だ。その映像を眺めているだけでQOLが上がっていくのを感じる。
ポットがお湯を沸いた音を告げ、レンダはお気に入りのブレンドのコーヒーを淹れて、サンドイッチと一緒に食べる。これもいつも通りのルーティーン。ここまでの一連の流れできっちり30分。これも完ぺきに予定通りだ。
「さて、コスチュームに着替えたら、仕事場に行く前に今週のスケジュールを組んでしまいましょうか」
チェック柄のパジャマから着替えるのは、タキシード風のきっちりとしたコスチュームだ。鎖付きのモノクルをかけたその姿は、非常に紳士然としていて、顔立ちの凛々しさと相まって美少年のようにも見える。レンダの胸のサイズが小さいのも、中性的な魅力を漂わせていた。最も、レンダ本人は自分の容姿には興味がないため、女性的ではないことを気にすることはない。
レンダがコスチュームに着替え、懐から取り出したのは、シンプルなデザインの黒いスケジュール帳だ。そのスケジュール帳のページを開き、レンダは今週一週間のスケジュールを記載していく。
魔法少女カレンダ・レンダの魔法は、『魔法のスケジュール帳で予定をきっちりたてられるよ』というものだ。週の初め、月曜日の朝に、一週間分のスケジュールを書き記すことで、書かれた予定は必ず予定する時刻に発生する。レンダは、この魔法の便利さゆえに人事部門に若くしてスカウトされた。
しかし、この魔法にはちゃんと欠点もある。そのことは、魔法を扱うレンダが一番理解している。単純に未来を確定できるという夢のような魔法では断じてないのだ。
まず、この魔法で確定できる『予定』は、1日3つまでだ。一週間分の予定を一気に書き記すため、3×7の合計21個分の予定しか確定させることができない。
次に、この魔法で確定できるのは、自分が関与する未来のみということだ。つまりは、他人の予定をスケジュール帳に書いて、それを確定させることはできない。
ただ、上記の2つの欠点に関してはそこまで大きなデメリットにはならない。1日3つ分も予定を確定できれば、基本乱れなくスケジュールを進めることができるし、他人の未来を確定できないといっても、自分が関わることのできる予定ならば必ず時間通りに発生させることができるのだ。
基本的に自分のスケジュールを予定通りに進めることしか頭にないレンダにとっては、他人の未来など興味がないので、ほとんど問題ない。
レンダは、ためらうことなくスケジュール帳に予定を書き記していく。スケジュール帳に付属された魔法のペンで書かれた予定は、きらきらとした光を放ち、スケジュール帳の空白の欄にもその光が延びていく。その光が及んだ範囲に新たに記されるのは、予定を確定させたことで発生する、それに付随する未来の出来事だ。
スケジュール帳に書ける予定は3つまでだが、その3つの予定を確定させることによって、その日の『運命』がだいたい決まる。レンダの魔法は、未来を確定させると同時に、未来を予知することもできるのだ。
ただし、この未来予知に関してもいくつかの条件がある。
ひとつ、確定した予定に付随してスケジュール帳に記される未来は、30分おきにしか分からない。
ひとつ、確定した予定とは異なり、正確な発生時刻や発生場所は分からない。
ひとつ、予知で書かれた未来は、確定ではないため、他人の魔法の影響によって書き換わる可能性がある。
⋯⋯とまあ、このようにいろいろな制約があるので、ひとえに便利なだけの魔法とは言い切れない。しかし、あまり頭がよくない人事部門の上司などはよく、レンダの魔法のことをチートだなんだと指摘するが。
レンダは、未来予知で現れた予定も参考に、空いたスペースにも予定を書き詰めていく。この予定に関しては、本当にただの予定だ。予定はきっちり数分単位で立てておきたいレンダは、毎回このスケジュール帳にびっしりと予定を書き詰めている。
今週は、特にいつも以上にレンダは気合を入れて予定を組んでいた。なぜならば、ちょうど一週間後に外せない大事な予定が待ち構えているからだ。早くその予定を書いて確定させたいが、その間の予定とておろそかにするわけにはいかない。丁寧に、丁寧に。しかしながら時間は意識してなるべくスピーディに。
時間にして7分と43秒。ようやく目的の日にちの予定を書く順番になった。若干浮き立つ気持ちを押さえながら、ゆがみ一つない丁寧な字でスケジュールにその予定を記す。
しかしながら、書いたその予定は、きらきらと光りだすことなく、そのままページに吸い込まれるように消えていってしまい、レンダは思わず眉をひそめた。
レンダが認識している最大の欠点。それがこれだ。もし、書いた予定が、自分の力ではどうあがいても実行できない場合、確定することはできない。分かりやすい例だと、『三日後にパンチで地球を破壊する』などといった、絶対にできない予定は確定できないのだ。
しかしながら、今書いた予定は、そのような『ありえない』予定ではない。それなのに消えたのは、おそらく、外部的要因によって、その予定が決してかなわないということ。
その仮説を証明するように、スケジュール帳には、消えた文字の代わりに、赤い文字が浮かび上がる。そこに書かれた未来を見て、レンダは何故書いた予定が消えたのかを悟った。
『複数人の魔法少女によって、人事部門への襲撃事件が発生。人事部門の魔法少女は全員、この襲撃事件によって死んでしまう』
なるほど。つまり、この襲撃でレンダが死んでしまうため、書き記した予定は確定させることができなかったのだろう。なかなかにショックな未来だ。さすがのレンダも、少し動揺してペンを持つ手が震える。
だが、この未来は、確定した未来ではない。まだ変更可能な未来であり、つまりは、レンダの魔法によって確定させる予定次第では回避可能な未来であるということだ。
だが、この作業にも注意が必要だ。レンダの魔法、その最後の欠点として、書き直しは3回しか行えないというものがある。消えてしまった予定に関してはそのカウントには含まれないが、もし予定が確定し、それに付随して発生する未来の出来事が喜ばしいものでなかったとしても、やり直すチャンスは3回しかないのだ。
レンダは、先ほどよりも慎重に予定を吟味し、最悪の未来を回避できるルートを模索する。そのルートを模索するのにかけた時間は、およそ5時間半。すでに始業時間はとっくに過ぎており、レンダが人事部門に所属して以来、初めての遅刻となることが確定した。
しかしながら、やり直し回数1回分の猶予も残して、何とか最悪の未来を回避できるスケジュールを組むことができた。
レンダは、ほっと一息つき、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干す。そして、遅刻してしまった言い訳をあのバカでのろまで可愛い上司にどう告げようかと考えながら、職場へとゆったりとした足取りで向かうのであった。