♢キューティー☆E
カラカラと回る車輪の音。関節を動かすたびに鳴る金属音。無事一命をとりとめることができたキューティー☆Eだったが、もう戦える身体ではなくなっていた。失った手足は義手と義足で補っているが、それでも歩くことはできない。だから、車いすでの移動を余儀なくされている。これらを買うのに、キューティー☆Eは貯金をほぼすべて使い果たしていた。そのうえ、これからキューティー☆Eは無職になる。機械でできたその手には、辞表が握りしめられていた。
こんこん、と義手でドアをたたく。どうぞと中から声がしたので、キューティー☆Eはドアを開けて中へと入った。
「話は聞いているよ。どうやらいろいろと大変だったようだね。私は、新しくこの人事部門の部門長を任されることになったプフレだ。よろしく頼むよ」
「はっ! 私はキューティー☆Eという者であります!! こちらこそ⋯⋯と申し上げたいところなのですが、生憎、今日は辞表を提出しに参りました!!」
キューティー☆Eは、失礼ではあると理解しつつも、どうしようもないため、車いすに座った姿勢のまま、ビシッと90°のお辞儀をして挨拶する。上司への挨拶は基本。それは、辞表を提出する際でも決して変わることは無い。ルールはルール。キューティー☆Eは、ルールに忠実に従うだけだ。
あのごたごたの中で、前任の部門長は殺されていたらしい。その後釜に座ったのが、この目の前にいる魔法少女、プフレだ。あり得ないほどの出世スピードで昇進していき、とうとう部門長の座にまでたどり着いた。よほどの有能なのだろう。
「それは何とも惜しい話だ。君のような優秀な魔法少女は、是非とも残ってほしいところだ。先ほども、辞表を提出しにきた魔法少女がいてね。今、人員不足なんだよ」
「⋯⋯評価していただけるのは大変嬉しいですが、今の私はただの残りカス。残っていてもお役に立てません。それに、同じ部署に車いすが二人もいては、窮屈でしょう」
「それもそうだ。では、この辞表は受け取ることにするよ」
プフレは、自分の座る車いすに付けられた鳥の飾りを手で弄りながら、キューティー☆Eが差し出した辞表を受け取り、テーブルの上に置く。そこには、既に一枚の辞表が置いてあり、“お茶たちょ茶田千代”という見覚えのありすぎる名前が載っていた。
「それでは、失礼いたします!!」
「ああ、達者でね。君の未来に幸あらんことを祈っているよ」
入ってきた時と同様に、きびきびとした動作で部屋を後にするキューティー☆E。その車輪の音が十分に遠ざかったことを確認し、プフレは徐に引き出しから一枚のポスターを取り出した。
それは、スタンプラリー開催の日程を告げるポスター。お手製にしては、よくできたと思っている。これを海外に郵送するのは、なかなかに手間がかかった。だが、そのおかげで、予定より早くこの椅子に座ることができた。
「これはもう必要なさそうだね」
そう言って、ライターでポスターに火を点けてしまえば、あとにはただの灰しか残らない。プフレの頭の中は既に、失った人員をどう補充するかという問題に切り替わっていた。
☆☆☆☆☆
部門長室を後にしたキューティー☆Eが向かうのは、職員たちが住まう住居エリアだ。通り過ぎる魔法少女たちは、キューティー☆Eのことをじっと見つめてくる。あの事件は、人事部で起こった凄惨な事件として、ずいぶんと騒がれた。その生き残りであるキューティー☆Eに、皆興味津々というわけだ。
そして、キューティー☆Eの目的地にいるのも、同じく事件の生き残りの魔法少女だ。
こんこん、と先ほどと同じようにノックをすると、中から「どうぞっす~!」と、想定していたものとは異なる声がする。一瞬眉を顰めたキューティー☆Eだったが、どうぞと言われて待たせるのもあれなので、ドアを開けて中に入ることにした。
「あー、そのお顔は、ご主人様のご友人、キューティー☆E様っすよね~!? ドロップちゃんが車いす押してあげるっすから、安心して任せてくれっすよ~!!」
ドアを開けた瞬間目の前に居たのは、Tierドロップだった。確か、洗脳されたわけでもなくギャシュリーとマーブルフェイスに従っていたクズ野郎だったはずなのだが、様子がおかしい。目の焦点が微妙に合っていないし、この部屋の主のことをご主人様と呼んでいる。いったい、この魔法少女の身に何があったのか。
「い、いや、遠慮しておこう。私は一人で問題ない」
「遠慮することはないっすよ~!! ドロップちゃんからの愛、受け取ってほしいっす!! 愛はすべてを凌駕する。ラブイズパワー!! パワーイズラブなんすよぉ!!!」
やばい。話が通じない。こういう相手は苦手だ。
「え~っと⋯⋯キューティーさんが困っているようなので、その辺にしておいてくれませんか、ドロップ」
「ああああ!!? ご主人様がドロップちゃんの名前を呼んだぁ!? 全身がビリビリ痺れて、震えてくるっすぅぅぅ!!! これが⋯⋯愛!?」
ドロップへの対処に困り果てていたキューティー☆Eに助け舟を出してくれたのは、この部屋の主、茶田千代だった。そして、茶田千代の声を聞いた瞬間、ドロップはビクビクと身体を震わせ、白目を剥いて気絶してしまう。その様子に、キューティー☆Eは底知れぬ恐怖を感じた。
「⋯⋯助かった。ところで茶田千代。こいつがこうなった理由について、何か知っているのか?」
「あ、あはは~。えっと、それは、ちょっと私の恋人の分身がやりすぎちゃった結果? みたいな? あんまり気にしないでください。この子は人事部に残るみたいなんで。正直、私も怖くて関わりたくないです」
茶田千代は、そそそ~っとドロップから視線を逸らしながら、キューティー☆Eを部屋の奥まで案内する。キューティー☆Eも、これ以上掘り下げるとなんだかヤバそうだったので踏み込みはせず、素直に案内に従うことにした。
「部門長室であなたの名前の書かれた辞表を見たぞ。事前に聞いてはいたが、やはり辞めてしまうのか。次の仕事のあてはあるのか?」
「あはは~。私は、しばらくはお仕事はいいかなって。折角なんで、新婚旅行にでも行こうかと思ってます。キューティーさんは、どうなんですか?」
薬指にはめられた指輪を、愛おし気に撫でる茶田千代。その動きに合わせ一瞬ぶぉんと何かが起動したような音がした気もしたが、気のせいだろうか。それにしても、茶田千代に恋人がいたとは知らなかった。お祝いの品を考えておかなければ。
「新婚旅行とは、めでたい話だ。結婚式をするなら呼んでくれ。こんな身体だが、必ず駆けつけよう。そして、私の仕事の話だったか。幸いなことに、こんな私を迎え入れてくれるという変わり者がいてな。そこに世話になる予定だ」
「お~!! よかったですね!! いったい、どんな人なんですか? 私も、新婚旅行が終わったら、働かせてくれるかなぁ?」
「⋯⋯彼女たちは、二人で活動をしている。ボランティア活動などを地道にこなしながら、魔法少女として活発的に動いているそうだ。きっと、貴殿も迎え入れてくれるだろう」
二人という人数を聞き、茶田千代の目が開かれる。その人数、そして、茶田千代でも迎え入れてくれるような魔法少女というと、彼女たちしか思い浮かばなかった。
「そっか。よかった。元気でやってるんですね⋯⋯。ちなみに、今はなんてチーム名で活動しているんですか?」
「名前はまだ、決めていないらしい。でも、彼女たちなら、きっと素敵な名前を思いつくだろう」
「そうですね⋯⋯。うん、きっとそうだ」
キューティー☆Eと茶田千代は、青い髪の毛の魔法少女と、白い消しゴムの魔法少女を頭に浮かべ、お互いに笑いあった。
いろいろなことがあった。たくさんの人を失った。それでもきっと、これから先の未来は、明るいはずだ。キューティー☆Eは、希望を胸に、車いすを漕ぎ出す。
向かう先は、いまだ枯れずに咲き誇る桜の大木。その桜で作られたアジトの中で、キューティー☆Eのことを二人が待っている。義手で胸に手を当て、そこに確かにある鼓動を感じ取ったキューティー☆Eは、生きている幸せを噛みしめながら、未来へと進むのであった。
これにて、魔法少女育成計画NoName、本編完結となります!!
3月の第三弾朗読劇までに完結させることができて、とても嬉しいです。最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。
一応、番外編の構想はいくつかありますが、この物語はここで終わりとなります。
番外編は、今予定しているものだと、『Re:Nameのオフ会』は、いつか必ず書く予定です。奈子ちゃん加入前の全員で、変身前の姿でオフ会を行う話です。殺伐とした本編と違って、ゆる~い雰囲気になりますので、どうかそちらも気が向いたらぜひお読みください。