♢厚木愛
私の名前は
ちなみに、魔法少女名は♰
普段は、おしゃれを気にする趣味もおしゃれをみせる相手もいないので変身していない時はジャージ姿でいることが多いが、今日は違う。Vネックのセーターに、デニムのスカート。無駄におしゃれで少し高めの洋服に身を包み、若干気合を入れたファッションだ。
しかし、あまりに着慣れなさ過ぎて衣装に着られている感が半端ない。このファッションはジャージとゴスロリしか持ってない愛の女子力の低さを嘆いた友人が選んでくれたものだが、おそらく着るのはこれきりだろう。友人と違って、自分の顔は変身していなければ平凡そのものなのだ。
今日愛がこんなおしゃれをして外に出ている理由。それは、その友人⋯⋯魔法少女“ああああ”が、一週間ほど前にこのようなことを言い出したからだ。
『我々もだいぶ長い付き合いになってきた。どうだろう。ここで一度、“オフ会”というものをやってみないか?』
ああああの言うオフ会とは、変身前の人間の姿で、Re:Nameメンバー皆で集まることを意味していた。この提案に、割と陽キャよりの性格が多いメンバーは、さららを除いて皆賛成。さららも多数決で流され参加することを決め、結局全員が変身前の姿で集まることが決まったのであった。
正直、愛もあまり乗り気ではなかったが、参加を尻込みする気持ちよりも、皆の変身前の姿を知りたい気持ちの方が勝った。今も、少しワクワク胸を弾ませながら、待ち合わせ場所の犬の銅像の前へと向かっている。
集合時間15分前。待ち合わせ場所は、割と有名なスポットということもあって、そこそこな数の人がいる。その中でも特に目を引くのは、耳に大量のピアスを付けた長身の人物と、モデル並みにスタイルのよい美女だ。そして、その美女が、こちらに気づいて手を振ってくる。
「おーい、愛。ずいぶんと早いじゃないか。⋯⋯うん、その服、やはり似合っているね。綺麗だよ」
「あんたに言われても褒められた気分にならないのよ。自分の顔を鏡で見てから言いなさい」
愛を本名で呼ぶこの美女こそ、魔法少女ああああの人間時の姿だ。名前は、
「私は本心で言っているんだけれどね。それに、胸のサイズなら愛、君の方が大きいじゃないか」
「私のこれはただデブなだけだっつーの。って、おい! 揉むな!!」
「ははは、気にするな気にするな」
「私が気にするっつーの!!」
愛は、顔を赤くして腕で胸を隠しながら、亜子から半歩後ずさる。人前でこういうことをするのはやめてほしい。変な趣味に目覚めたらどう責任取ってくれるんだ。
ふふふ⋯⋯と怪しい笑みを浮かべて指をワキワキさせる亜子だったが、その視線が愛の背後に向き、おっと目が開かれる。誰か来たのかと愛もまた後ろを振り返ったところ、そこにはセーラー服姿の女子高生が立っていた。
「えーっと。たぶんだけれど、かいちょーとアイアイだよね!? 私、松本さくら!! うん、こういう時本名で魔法少女名登録してるの便利だね~。1席2兆!!ってやつ!?」
「桜花、じゃなくて、今はさくらと呼ぶべきか。私のことは、かいちょーではなく、亜子と呼んでくれ。旗本亜子が本名なのでな。それと、そのニュアンスだとかなり高い座席代になりそうだ。正しくは一石二鳥だな」
「えー、かいちょーはかいちょーだよ。それにしても、めっちゃ美人さんだね~。あ、アイアイはおっぱいデカいね!!」
「⋯⋯二人とも、うちの印象おっぱいしかないんすか? あと、本名は愛なんで、愛って呼んでほしいっす」
さくらが来たので、口調を皆の前でのものに戻し、改めてさくらの姿を見る。セーラー服のスカートは短く、爪も丁寧に桜色のネイルを入れており、いかにもギャルといった風貌の見た目だ。なかでも目を引くのは、その髪の色だろう。驚くべきことに、さくらの髪の色は魔法少女の時と同様のピンク色だった。
「ところでさくら、その髪の色は校則とか大丈夫なんすか? それとも、セーラー服着ておいてホントは成人していてコスプレとかっすか?」
「ちょ、違うよアイアイ~! 私、れっきとした高校一年生だからね!! この髪の色は、今日のために染めてきたの!! この方が私ってわかりやすいでしょ!? どう、似合ってる~?」
「ああ、よく似合ってるよさくら。とてもすてきだ」
亜子は、さくらの髪の色を褒めると、さりげない動作で髪の毛を一束すくい、そこにキスを落としてみせる。そんな気障なしぐさも、美人がやると様になるのがずるい。されたさくらも満更ではない様子で、顔を赤らめて全身をくねらせていた。
「おうおう! この往来で何いちゃついとるんや!! たぶんやけれど、あんたら今日のオフ会メンバーやろ? 全員集まる前に目立つのやめてくれ。はっずいわ~!」
あまりにも聞き覚えがありすぎる関西弁に、皆の視線が声のした方へ向く。そこに立っていたのは、全身トラ柄の目立つ衣装に身を包んだ金髪の女性であった。だが、その身長は思っていたより低い。140センチほどしかないのではないだろうか?
「えーっと⋯⋯らっきょんであってるっすかね?」
「お、よく分かったなぁ!! その通り、うちがガリことらっきょん。本名は
「皆してどうしてうちのおっぱいのことばっか言ってくるんすかねぇ!?」
「あきらめろ。その胸は誰だって目が行く。ところで里美、失礼なことを尋ねるようだが⋯⋯君は何歳だ?」
「あー、うちがチビやから未成年かもって疑ってるんやろどうせ。こう見えてもうちは二十歳。既に成人済みの現役大学生や。勿論酒も飲めるで!!」
「え~!? 見えな~い!! さとっち、めっちゃちっこくて可愛いのに、私より年上なんだね~!!」
「がー! 頭撫でんなやさくら!! ⋯⋯ところで、うちの相方とさららはまだ来とらんのか? もうすぐ集合時間やろ」
「ああ、まだ来ていない。ちなみに、里美はジュエリーゼリーの変身前の姿を見たことはあるのか?」
「いや、うちも変身前では会ったことないで。魔法少女としては3年くらい一緒におるけどな。⋯⋯ん? なんや、この音は」
何かの音に気付いた里美が、耳に手を当て、不思議そうな顔をする。その直後、他の3人にも近づいてくる音の正体が分かった。
それは、運動会でよく流れる音楽。確か、『天国と地獄』とかいう曲名だったはずだ。その音楽が、リコーダーらしきもので奏でられている。そして、その音は徐々にこちらに近づいていき、ざわざわとどよめく人の波を掻き分け、音を奏でる張本人が姿を現した。
フリフリのロリータ風の水色のドレスに身を包んだ、まるで人形のような美少女。そんな美少女が、リコーダーを口に咥えながら、固まる4人の前で立ち止まる。そしてリコーダーを口から外すと、背負った水色のランドセルを揺らし、ビシッと敬礼のポーズを決めた。
「⋯⋯待たせたな。アイアム
「そ、その独特な喋り口調。まさか、あんた、クラムか!?」
「イカにも。オクトパス地方から推参、足先八丁口八丁。そういうあなたは同士ガリ? もしかして、私と同い年だったりするめいか?」
「小学生ちゃうわ!! 立派に成人済みやわ!! ⋯⋯じゃなくて!! 噓やろ、クラムあんた、小学生だったんかいな!?」
愛もクラムゼリーがまさか小学生だったとは驚いたが、それ以上にショックを受けていそうなのが里美だった。それもそうだろう。自分も、亜子とは魔法少女として結構長いこと一緒にいるが、そんな彼女が小学生だったとなればあれくらい驚く自信がある。
「そんな驚く? しょうがくせぇなのは、ガリも一緒なはず」
「ガリだけに生姜臭ぇってか。やかましいわ!!」
「⋯⋯私が、小学生って知って、もうコンビ組みたくなくなった?」
そう問いかける海月は、どこか寂し気に見えた。そんな海月の様子を見てはっと目を見開いた里美は、彼女の肩を強く抱きしめる。
「馬鹿!! こんなんで今さらコンビ解消したりせんわ。これからもよろしくな、クラム!」
「⋯⋯うん、よろしく」
「まあでも、年下と分かったからには、これからどんどん頼ってくれてええからな!! あんたのことはうちが死んでも守ったるわ!!」
そう言って胸を張る里美だが、二人とも身長が同じくらいなので、あまり威厳はない。むしろ、海月が小学生にしては発育がややいい分背丈が上に見えるが⋯⋯それは里美のためにも言わない方がいいだろう。
「⋯⋯よし! これで、後はまだ来ていないのはさららだけか。あいつのことだ。決まった以上は遅れることは無いはずだが、念のためもう一度連絡を入れて⋯⋯」
「おーう、そこのお姉ちゃんたち、可愛いねぇ!!!」
腕時計を確認し、皆に声をかけた亜子の声を遮るようにして、男の声が割り込んでくる。ずいぶんとチャラチャラした格好をしたその男は、似たような格好の男4人を後ろに連れ、ニヤニヤと笑いながらこう続けた。
「俺たち、ちょうど遊びの相手探してんだよね。お姉さんたち、美人ぞろいだし、俺らとちょうど人数一緒だしさ。どうよ?」
「⋯⋯すまない、私たちはこれから用があってな。それに、こちらには子供もいる。そういうのに誘うのは、遠慮して貰いたい」
「え~、いいじゃんか!! 俺らの仲間にそういう系好きな奴もいるし。今は小学生でも彼氏いるような時代だよ~? 子供が2人いても、俺ら全然気にしないよ~。なあ!?」
そう言って男が後ろの仲間に呼びかけると、仲間も男と同様ににやついた笑みを浮かべながらうなずく。そのうちの一人の視線が思いっきり愛の胸に向けられていたので、愛は慌てて腕で胸を隠した。⋯⋯気持ち悪い。
「⋯⋯なあ、あいつら、うちのことをシンプル子供扱いせんかったか?」
「どうする? 処す?」
「二人がその気なら、私もやっちゃうよ~!?」
「さ、三人とも、気持ちはわかるっすけれど、落ち着くっすよ。こんな往来で変身するわけにもいかないっす」
やや物騒な気配を漂わせ始めたさくらたち三人を、愛が小声で制する。しかし、困った。まさか、こんな面倒な輩に絡まれてしまうとは。
「⋯⋯すまない。もう一度言うが、私たちは君たちと遊ぶつもりはない。悪いが、他を当たってくれないか?」
「⋯⋯っ! この、ちょっと美人だからって、調子に乗りやがってよぉ!!」
相変わらず冷静な態度で男からの誘いを断る亜子だったが、その態度が逆に癪に障ったのか、男が激昂して腕を振りかぶる。こうなっては、もう往来がどうこうとか言ってられない。慌てて変身して止めに入ろうと身構える愛だったが、男の手が亜子に振り下ろされることはなかった。
「⋯⋯ダメじゃないですか。女性に手を振り上げるなんて」
「な、なんだおめぇは!?」
男が、動揺した様子で声を震わせる。それもそのはず、男の手を掴んで止めたのは、男より頭一つほど背の高い、180センチメートルほどの長身の人物だったからだ。しかも、バチバチに耳元にピアスを付けており、威圧感が凄い。
(あ、この人って、亜子が居た時からここに居たあのピアスの人だ!!)
そのピアスで、愛はここに来た時に見かけた人物と今ここに居る人が同一人物であることに気が付いた。それにしても、本当にすごい見た目だ。ピアスだけではなく、トゲのついた革ジャンに、ダメージジーンズと、見事にパンクな見た目である。それでいて顔が中性的なイケメンなこともあって、そんな奇抜な恰好が妙に様になっている。
「⋯⋯これ以上この人達に絡むようなら、警察に通報しますけれど」
「わ、わかったよ。分かったから手を離せ、このピアス野郎!!」
男たちは、警察の名前とピアスの人の容貌にビビったのか、すごすごと逃げるように去っていく。そんな男たちの背中を睨みつけるように見ていたピアスの人だったが、不意にこちらへと視線を戻した。
「だ、だいじょうぶでしたか⋯⋯? ぼ、ボクがしゃしゃり出て、迷惑じゃ、なかったですかね⋯⋯?」
そして、先ほどまでの堂々とした態度がウソのように、急におどおどした口調で喋り始める。その口調に、愛を含めたこの場の全員が、もしやとある一つの可能性を思いついた。
「す、すまない。誤解だと申し訳ないのだが⋯⋯あなたは、もしや“さらら”ではないか?」
「あ、やっぱり皆さんそうだったんですね。もしかしてそうかな~とは思っていたんですけれど、話しかける勇気が無くて⋯⋯。も、申し遅れました。ボクは
「ちょ、ちょっと待ってほしいっす。沙羅ってことは、女であってるっすか!?」
「あ、はい⋯⋯。ご、ごめんなさい。ボク、胸が無くて、よく勘違いされるんです⋯⋯。背も無駄に高くて⋯⋯その、邪魔ですよね?」
「そんなことないよ!! さららちゃん、ちょーかっこよかった!! これって、ギャップ萌えって奴だよね!? 私、さららちゃんが男だったら惚れてたかも~!!」
「くっ、さららに登場のインパクトで負けた⋯⋯」
「いや、あんたは何を競ってるねん」
そんなこんなで、集合の段階からいろいろとありつつも、その後はカラオケに行って盛り上がったり、最後は皆で食事を取って楽しい思い出を作ることができたのであった。
このオフ会は、奈子が加入するまでに計3回開催され、その度に様々なトラブルが起こるのだが⋯⋯それはまた、別のお話である。
オフ会(集合しただけ)
思ったより長くなったので詳細は書かなかったですが、需要があればカラオケの様子なども書きたいと思います。
また、番外編で出してほしい魔法少女のリクエストなどありましたら、気軽に感想欄などでコメント頂ければ、暇なときにでも書きます。ネタがないんです。よろしくお願いします。