むかしむかし、湖のほとりにあるキャンプ場では、とある殺人鬼の噂が囁かれていました。
その殺人鬼は、ホッケーマスクを被り、手に鉈を持った大男で、彼によって殺された人間は、200人近くに上ると言われています。
しかし、最近では被害者が出ることは無くなり、一時期は客足がぱったり途絶えてしまったキャンプ場も、徐々にその賑わいを取り戻してきていました。
今日は、6月13日の金曜日。生憎の雨の中、とあるカップルがキャンプ場を訪れました。そこで、人生最期の時を迎えることになるとも知らずに⋯⋯。
☆☆☆☆☆
「ジニー!! 愛してる、愛してるよ!!」
「私もよ、ポール!! 愛してるわ!!」
ベッドの上で互いに生まれたままの姿で絡み合い、名前を呼び合う、若い男女。彼らの耳には、激しい雨の音など一切聞こえていない。互いの息遣いのみが聞こえ、より一層激しく愛が燃え上がっていく。
しかし、そんな熱い男女の営みを切り裂くような稲妻の光が、ベッドの上の二人を照らす。遅れて響く轟音は、流石に耳に入ってきた。思わずびくっと肩を跳ねさせた女の腰を、男は優しく抱きかかえた。
「雷が怖いのかい? 大丈夫、僕が今夜はずっとそばに居るよ」
「ありがとう、ポール。私、昔から雷って苦手なの。それに、ほら。ここって少し不気味な噂があるでしょう? だから、余計怖くなっちゃって」
「ああ、確か、昔殺人鬼がいたんだっけ? 大丈夫さ。その殺人鬼ももうとっくの昔に死んでいるだろうし、もし仮に殺人鬼が来たとしても、僕がやっつけてやるさ。こう見えてボクシングをやってるんだ。僕の拳を殺人鬼の尻の穴にぶち込んでイかせてやるよ」
冗談めかして笑う男につられ、女も自然と笑顔になる。しかし、その笑みは数秒ももたなかった。
突然、ドン!と激しい音が聞こえてくる。明らかに、雷の音ではない。その音は、この丸太小屋の入り口から聞こえてきた。さらに、もう一度ドン!!と先ほどよりも大きな音が男女の居る部屋まで届き、聞き間違いの可能性を否定する。
女は、不安気な様子で男を見つめる。男は、そんな女をなだめるように優しく頭を撫でた。
「やれやれ、こんな雨の日に客とは困ったね。ノックノックジョークをやるなら他所でやってもらいたいもんだ」
男は、ベッドから起き上がると、服を着て、部屋の隅に置いていたバッドを拾い上げる。小屋の入り口に居ると思われる謎の人物は、ドアを叩くだけで何も言ってこない。まさか、噂の殺人鬼だなんてことはないと思うが、まともな人物ではないことは確かだ。警戒するに越したことはない。
女を部屋に残し、バッドを構えたまま小屋の入口へと向かう。そして、ドアの向こうに立っているであろう人物に向かって、声をかけた。
「へい、君は誰だい?」
その直後だった。男は、自分の右腕がやけに熱をもっているなと感じ、視線を手元に落とす。そこには、バッドを持っているはずの自分の手はなく、真っ赤な血が噴き出している。遅れて襲ってきた痛みに叫び声をあげる男の目の前で、ドアから突き出された鈍色の鉈が、その裂け目をさらに大きく広げた。
男は、裂け目から目撃する。そこに立っていたのは、2メートルは優に超えるであろう身長の大男。その顔にはホッケーマスクを被っており、手には赤い液体の滴る鉈を持っている。間違いない。目の前に居る男は、噂の殺人鬼だ。
「だ、誰か!! 誰か、助けてくれぇぇぇぇ!!!」
男は、先ほどまで自らが女に語っていた言葉も忘れ、恐怖で叫んでいた。その股間にはじんわりと黄色い染みが広がり、顔中の至るところから液体を噴き出している。
そんな男の叫びなど気にも留めず、無情にも、殺人鬼はドアの裂け目から身をかがめて小屋の中へと入ってくる。そして、腰が抜けて震えている男目掛け、鉈を振り上げた。
「のっく、のっく、のっく!! 誰かいませんかぁ?」
その時だった。やけに場違いな明るい少女の声が、小屋の外から聞こえてきた。殺人鬼にもその声は聞こえたようで、鉈を振り下ろす寸前で、くるりと背後を振り返った。そして、殺人鬼が身をよじったことで、男も小屋の外に新たにやって来た客人の姿を見ることができた。
そこに居たのは、二人の少女だった。一人は、仮面を被った白い服を纏った少女。もう一人は、やけにニコニコとしている黒い衣装を身に着けた少女だ。仮面の少女の方ははっきりと顔は分からないが、どちらの少女も、どこか人間離れした雰囲気を放っていた。
男は知る由もないことだが、この二人はもちろん、ギャシュリーとマーブルフェイスである。このキャンプ場に出るという殺人鬼の噂を聞きつけ、一目みたいと観光気分でやって来たのだ。
「わぁお! そのマスク、もしかして噂の殺人鬼さん? 会えて嬉しいなぁ。ねえ、あなたの名前、教えてよ!!」
お目当ての人物に出会えたギャシュリーは、ウキウキで話しかける。しかし、当然ながら返事が返ってくることは無く、代わりに鉈がギャシュリーの頭部目掛けて振り下ろされた。
「もう、ダメじゃん。名前を教えてくれないと、お友達になれないんだよ?」
ギャシュリーは、笑顔のまま、振り下ろされた鉈を片手で受け止めた。殺人鬼は鉈をもう一度振り上げようとしたが、ギャシュリーが鉈を掴む力は信じられないほど強く、ビクともしない。怪力には自信のある殺人鬼は、目の前のいかにも非力そうな少女が自分よりも力があることに驚いた。そして、そんな殺人鬼に追い打ちをかけるように、腹部に鈍い衝撃が走る。ギャシュリーが、鉈を受け止めている方とは逆の手で、殺人鬼の腹を殴ったのだ。
しかし、殺人鬼も並の人間ではない。普通なら腹部に穴が空くほどのギャシュリーの一撃に耐え、こみ上げる吐き気を抑えながらも、次の行動に移った。鉈からは手を離し、先ほど男の腕から物理的に切り離したバッドを拾い上げる。そして、全力でバッドを振りぬくと、それを受け止めたギャシュリーの身体は宙を舞った。
「わぁ!! すごいすごい!! マーブル、この人めっちゃ力強いよぉ!!」
吹き飛ばされたギャシュリーだが、まったくダメージは入っていない様子で、どことなく楽しそうだ。そして、吹き飛ばされたギャシュリーの代わりに、殺人鬼の前へと飛び出してきたのはマーブルフェイス。その手には、最近手に入れたばかりの銀製の鋏が握られている。
「あなたのマスク、いいですね。私が代わりに被ってあげます」
マーブルフェイスは殺人鬼の足元にしゃがみ込み、そこからロケットのように飛び上がって殺人鬼の首元を狙う。殺人鬼はとっさにバッドを自分の首元に当て、その攻撃を防いだ。だが、衝突の衝撃で、バッドは粉々に砕け散る。折れたバッドを振るう殺人鬼に対し、それを軽々と避けたマーブルフェイスは、懐から一枚の仮面を取り出した。
「”フェイスチェンジ”」
仮面を被ったマーブルフェイスの姿が変わる。お尻の上あたりから太いサメの尻尾が生え、頭にはサメのフードを被った魔法少女の仮面。魔法のアイテムは、ギュインギュインと唸るチェーンソー。絵本に描かれた名前は確か、サー・フィンだった。
「サメとチェーンソーは、ベストマッチです」
かつてこの仮面の顔を持っていた魔法少女の決め台詞と共に、チェーンソーを殺人鬼目掛け突き出す。人間離れした怪力を持つ殺人鬼だが、魔法のアイテムの前にはひとたまりもなかった。迎え撃とうと伸ばしたバットごと、身体を上下真っ二つにぶった切られ、殺人鬼は絶命した。マーブルフェイスは、いそいそとマスクを剥ぐ作業に取り掛かり始める。
そして、そんな一部始終を近くで見つめていた男はというと、訳が分からずにただただ震えていた。マーブルフェイスは男には一切興味がない様子でマスクの剥ぎ取りに集中している。この場から逃げた方がよいのだろうか。しかし、まったく動くことができない。
「ね、ねえ、ポール。いったい何が⋯⋯きゃあああああああ!!!?」
男の悲鳴を聞いて様子を見に来たのだろうか。女がほぼ裸の恰好で、寝室から出てきた。そして、この惨状を目の当たりにして悲鳴を上げる。その声を聞き、マーブルフェイスがゆっくりと顔をあげた。
「五月蠅いですね⋯⋯。貴女、なんで裸なんですか? 変態さんなんですか?」
マーブルフェイスの問いかけに、女は答えることができない。男同様に腰を抜かし、震えてしまっている。ただ、そんな女の代わりに、ふらふらと入り口まで戻ってきたギャシュリーが答えた。
「あー、たぶん、そこの男の人と気持ちよいことしてたんだよ。ね、そうだよね?」
ギャシュリーに対しても、もちろん反応はない。お互いを求めて這いより、抱き合って震えている。そんな二人の男女のことは無視して、ギャシュリーとマーブルフェイスは会話を続けた。
「気持ちいいこと? それをするのに何で裸にならないといけないんですか?」
「マーブルは知らないのかぁ。まあ、私も見たことあるだけで経験はないから正直よく分からないんだよねぇ。⋯⋯あ、そうだ!! いいこと思いついた!!」
ぽんと手を叩いたギャシュリーは、男女の方に視線を向ける。その黒く染まった瞳に見つめられ、恐怖を感じる男女に対し、ギャシュリーは笑顔でこう告げた。
「お兄さんとお姉さん! 今から二人で、私たちの目の前で気持ちいいことしてみせてよ!!」
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どうして、こんなことになってしまったのか。男は、ベッドの上で裸になり、女と交わりながら、涙を流し続けていた。
「お兄さん、頑張ってよ。そんなんじゃ気持ちいいことできないでしょ? ほら、がんばれ、がんばれ!」
「ギャシュリー、この人の股の間にあるものは何ですか? ふにゃふにゃ揺れていてなんか気持ち悪いんですが」
「それを女の人にある穴の中に入れたら、お互い気持ちよくなれるんだよ。でも、こんなんじゃたぶんダメだね。この人、そういう病気なのかなぁ?」
そんなことを言われても、こんな状況で勃たせることができるわけがない。しかし、この二人の要望に応えられなければ、何をされるか分かったものじゃない。女もそのことを理解しているのか、泣きながら必死で男のソレを手で擦るが、まったく反応する気配はなかった。
「ねえ、お姉さん、何してるの? これ、擦ったらお兄さんが気持ちよくなれるの?」
性行為自体は知っていても、その詳細を理解しているわけではないギャシュリーは、無邪気な疑問と共に、男のソレを握ったまま手を動かした。魔法少女の力で引っ張られたソレは、無残にも根元から千切られ、真っ赤な血が股間から噴き出す。その鮮血を顔に浴び、女は絶叫した。
「何やってるんですかギャシュリー。そんな汚いもの触ったらダメじゃないですか。あとでちゃんと手を洗わないと」
「あちゃあ、失敗しちゃったなぁ。お兄さん、だいじょーぶ? あ、もう死んでるや」
男は、痛みのあまりショック死してしまっていた。そんな男の亡骸を抱えながら、女は狂ったように名前を叫び続けている。
「ギャシュリー、どうするんですか? 私、まだ何もわかっていないです」
「うーん、まあ、いっか! マーブルの相手ってどうせ私だし、今からお姉さんに直接教えてもらおう!!」
ギャシュリーは、まずはマーブルフェイスに学んでもらおうと、指示を送る。その指示に従い、マーブルフェイスは男の顔をするすると剥ぎ取り、それを仮面に貼り付けた。
「さあ、お姉さん! お兄さんはここに居るよ!! 気持ちいいことの続き、私たちに教えてね!!」
ギャシュリーとマーブルフェイスの一連の行為を全て見てしまった女は、もう正気を保っていられなかった。狂ったような笑みを浮かべると、男の顔を被ったマーブルフェイスと身体を重ねあった。
──数時間後。マーブルフェイスは、先ほど剥ぎ取ったばかりの仮面を眺めている。その顔は、狂気に歪んだ笑みを浮かべた、女の顔だ。一応これは笑顔の仮面になるのだろうか。⋯⋯たぶん、違うのだろう。それでも、気持ちいいことを教えてくれた親切なお姉さんに敬意を払い、丁寧に皮を剥いで仮面に貼り付けた。これは大事に保管しておこう。
「マーブル、どうだった? 気持ちよかった?」
ギャシュリーが、マーブルフェイスに顔を寄せて尋ねてくる。その問いかけに対し、マーブルフェイスは首を横に振った。
「いいえ、よく分かりませんでした。⋯⋯なので、今から、ギャシュリーと同じことをしたいです」
「あはは!! いいよ!! 私も、せっかくなら気持ちよくなってみたいしね!!」
ギャシュリーが笑顔で承諾してくれたので、マーブルフェイスはギャシュリーの手を引いて、血まみれのベッドへと向かう。ベッドの上にギャシュリーをやや乱暴に放り投げると、ギャシュリーは笑顔で両手を広げ、マーブルフェイスを迎え入れた。
「さあ、おいで!!」
広げられた両腕の中に飛び込む。そこからは一日中、二人でベッドの上で交じり合った。途中で飽きることがなかったのは、たぶん、お姉さんと練習した時よりも気持ちよかったからだろうと、マーブルフェイスは思った。でも、なんでギャシュリーとした方が気持ちよかったのかは、まだ理解することができなかったのであった。