魔法少女育成計画NoName   作:赤葉忍

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最近お仕事忙しくて平日の更新がなかなか難しいです。早く長期休暇にならないかなぁ


彗星に脳を焼かれた少女

♢ミルキーウェイ

 

 飛び交う銃弾に、カラフルな音符たち。その混沌とした状態の中でも、ひときわ目立つ、青い光を放つ彗星。

 

 絶体絶命のピンチから数多くの魔法少女を救い出したその彗星は、くるくると回転して見事に着地、両腕を開いてポーズを決める。

 

 魔法少女レインブリッジは、その一部始終を、瞬きすら忘れて見つめていた。彼女の脳内には、先ほどまであったテロリストへの恐怖はない。脳内に煌めく青い彗星によって、すっかり脳を焼かれて、取り返しのつかない領域まで至っていた。

 

 後に、その魔法少女がブルーコメットという名前で活動していたことを知ったレインブリッジは、少しでも憧れの魔法少女に近づくべく、人事部門所属の特権を活かして名前をレインブリッジから『ミルキーウェイ』へと変更。さらには、総収録時間百九十五時間もある魔王塾サバイバル演習DVDを購入し、計30回は視聴するほど、ブルーコメットという魔法少女に魅了されていた。

 

 最も、無駄にプレミアがついているそのDVDを保存用、観賞用、布教用で3セット購入した結果、それまで人事部門で働いてコツコツためてきた給料をすべて使うはめになってしまったが、推しへの愛の前には些細な問題であった。

 

 そして、あの事件のあった日から2年。ミルキーウェイは、少しでも憧れの彗星へとさらに近づくべく、ロビーの受付係から役職を変え、人事部門の警備班に所属。厳しい上司にしごかれる日々を送っていた。

 

「前! 右! 左! 上!! そのような動きで賊を止められると思っているのか!? 言語道断! 言語道断!! 言・語・道・断!!」

 

 魔法の国は公共サービスも充実している。映画館や食堂、スポーツ施設に温泉など、魔法少女としての生活の質を高めるための施設は、幅広く提供されている。

 

 そして、そのような施設のうちの一つ、戦闘をこよなく愛する魔法少女たちが頻繁に利用する訓練施設内で、魔法少女のハキハキとした叱咤の声が響き渡っていた。

 

「くっ! もう一回お願いします!! キラッ☆」

 

「なんだそのポーズの角度は!! 全然決まっていないし照れも抜け切れていないぞ!! そのような心意気で一人前の魔法少女になろうなど言語道断!! 動き以前の問題だ!!」

 

 ボロボロになりながらも立ち上がり、右手でピースサインを作り左手は前に伸ばし、やや前傾姿勢でポーズをビシッと決めたのは、魔法少女ミルキーウェイ。青い彗星によって脳を焼かれた魔法少女だ。

 

 対するは、ハートマークが所々に散りばめられた軍服のようなコスチュームが特徴的な魔法少女、”キューティー☆E”である。現在、訓練施設にいるのは、この二人の魔法少女と、二人の様子をベンチで座って見つめる、ラブリーバブリーという魔法の国で清掃員として働いている魔法少女の、3人だけであった。

 

「それでは行くぞ!! 私のキューティーな指導で貴様を一人前に導くまで、私は止まらぬ!! 全力で貴様に試練を与え続ける!! ⋯⋯ラブリー先輩、音楽お願いします!!」

 

「はぁ~い。ぽちっとな」

 

 ニコニコと穏やかな笑みを浮かべながら、ラブリーバブリーは手元に置いていたラジカセのスイッチを押す。流れ始めたポップなミュージックに合わせるように、キューティー☆Eは大きく腕を振り上げ、その指先をミルキーウェイに向けてビシッと振り下ろした。

 

「私の魔法、『動きを指示して強制させちゃうよ』は貴様の脳内に直接指示を送る!! その指示に一秒以内に対応できなければペナルティとして肉体にダメージを与える!! ただし貴様はまだノロマ!! なので!! 指示も音楽に合わせて出すし、ペナルティも最小限だ!! これをクリアできないようでは、一人前の魔法少女になろうなど、言・語・道・断!! いくぞ、レッツ、Q・T・E!!!」

 

 瞬間、ミルキーウェイの脳裏には、でかでかと矢印が表示される。ミルキーウェイは、その矢印が指し示す方向に体を動かしていく。

 

 キューティー☆Eの魔法の指示に従って体を動かしている間も、イメージするのは、あの時見た青い彗星のきらめきだ。ただ体を動かすだけではなく、見栄えのするメリハリのついた動きを心がけることで、少しでもあのきらめきへと自分自身を高めていく。

 

 ミルキーウェイの魔法は、『どんな素材でも丈夫な橋を建てることができるよ』というものだ。この魔法を使えば、石でも、木でも鉄でも、豆腐でもキャベツでも白滝でも、素材さえ用意できれば並大抵のことでは壊れない橋を一瞬で建築することができる。まあまあ便利な魔法ではあると、ミルキーウェイも自負している。

 

 しかし、この魔法では機動力を高めることはできないので、魔法の力を用いてあのきらめきを再現することは難しい。だからこそ、人事部1の肉体派であるキューティー☆Eに師事して、最近は特訓の日々を送っているのだ。

 

「──そこまで!! これでレベル4はクリアだ。次はもっと時間を伸ばし、テンポも速めたレベル5のQTE訓練に移行する!! が!! その前にいったん休憩だ!! いくら魔法少女の身体能力が優れているとはいえ、精神的な疲労は積み重なるもの!! 適度な休憩は取らなくては万全のパフォーマンスはできないからな!!」

 

「はい!!」

 

 キューティー☆Eはスパルタだし、言動が若干めんどくさいと感じることもあるが、理不尽な厳しさではないので、安心できる。ミルキーウェイは、自分の置かれている環境にかなり感謝していた。

 

 それに、キューティー☆Eだけではない。この環境が素晴らしい理由は、もう一つ存在する。

 

「はぁい、お疲れ様です、ミルキーウェイちゃん。頑張ったご褒美に、お姉さんが膝枕してあげますよぉ」

 

 ベンチに座ったままの姿勢で、ミルキーウェイを抱きとめるように伸ばされた、ラブリーバブリーの両腕。ミルキーウェイは、差し出されたその両腕に、吸い込まれるように飛びこんでいった。

 

 ふんわりとしたスポンジのような感触と、クリームのような甘い匂いがたちまちミルキーウェイの全身を包み込み、先ほどまでの訓練の疲労が一瞬で吹き飛ぶ。この一瞬だけは、ミルキーウェイは青い彗星ではなく、雄大な台地、母なる太もものことだけしか考えられなくなってしまう。

 

「ラブリー先輩、あんまりそいつを甘やかさないでやってください。先輩のソレは、魔法少女を堕落させる危険をはらんでいます」

 

「あらあら。うらやましいならキューティーちゃんもどうかしら? お姉さんの膝枕、まだ一人分は空いているわよ?」

 

 キューティー☆Eはだらしない表情を浮かべてとろけるミルキーウェイの様子を見て苦言を呈するが、ラブリーバブリーはニコニコとした笑みを崩さず、それどころか空いているもう片方の膝をポンポンと叩いてキューティー☆Eを誘惑する。

 

「⋯⋯魔法少女とは、基本的に年功序列であると認識しております。先輩の言うことには後輩は従うべきであり、それがルール。そしてルールとは、絶対に守らねばならないものです」

 

「つまり、どういう意味かしら~?」

 

「はっ! 不肖キューティー☆E、先輩の膝枕を傍受する覚悟を決めました!! それでは、さっそく失礼します!!」

 

 きりりとした表情で、ラブリーバブリーの元へ向かうキューティー☆E。しかし、その表情と言葉の勢いとは裏腹に、恐る恐るといった感じで歩みを進めていたが、手の届く範囲まで来たところで、ラブリーバブリーによって強制的に膝枕をされてしまう。

 

「くっ! これしきの柔らかさ、温かさと癒しオーラに負けるわけには⋯⋯ふにゃあ。いい匂い~」

 

 覚悟もむなしく、数秒でラブリーバブリーの膝枕の魅力に陥落したキューティー☆Eは、隣の弟子に負けず劣らずのだらしない表情で、されるがままになっている。そんな二人を、ラブリーバブリーは相変わらずニコニコ笑いながら、休憩時間を大幅に過ぎてもなお、優しく撫でまわし続けたのであった。

 

 余談だが、ラブリーバブリーの魔法は、『魔法のスポンジでなんでも吸収するよ』というものであり、膝枕には一切魔法の力は働いていない。ラブリーバブリーの太ももの魔性の魅力が、二人を魅了しただけなのであった。

 

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