私はまだ読めていませんが、これ自分を戒める意味でもこの物語を完結させるまで読まない縛りを付けた方がよいのではないかという気もしてきました。
我慢できずに読んじゃったら前書きで謝罪します。それまではこの縛りでこの作品を完結まで書きとおすぞ!!
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「お待たせ! 待った?」
「ううん、さっき来たとこだよ」
ビルの上をピョンピョンとウサギのように飛び跳ね、急ぎ待ち合わせ場所である廃ビルの屋上へと到着すると、既にそこには待ち合わせ相手であるアーカー・ペンシル子が居た。
初めてあったあの日、奈子はペンシル子と連絡先を交換し、たまに連絡を取り合っていた。奈子にとっては、初めて出会った魔法少女であり、名前の件に関しても教えてくれた、恩人でもあるペンシル子は、Re:Nameのメンバーと同じくらい大事な存在であった。
「それにしても、いったいどうしたの? 直接会って話がしたいなんて。あ、まさか、前言ってた組織の人たちにいじめられてるとか!?」
「ちがうちがう! メンバーは皆いい人だよ。一人ちょっと合わない人もいるけれど⋯⋯。いじめられてるとかはないから。そうじゃなくって、実は明日がメンバーの皆と、あたしにとっても大切な日なの。だから、その前に決意表明? みたいなことしておこうと思って」
奈子がむん!と胸の前でこぶしを握ってやる気を表したのとは裏腹に、ペンシル子はどこか浮かない表情をしていた。
「うーん、奈子ちゃんが納得しているんならいいんだけどさ。やっぱり私は心配だよ。だって、その組織がやろうとしていることって人事部門へのクーデターでしょ? 失敗したら捕まっちゃうし、成功したとしても、あまりいい未来が待ってるとは思えないけれどなぁ」
「じゃあ、赤ペン先輩はこのままあたしたちに我慢し続けろって言いたいわけ? あたしは、そんなの嫌だよ。名前って、とても大切なものなんだ。あたしたちに与えられた大切な宝なんだよ。あたしたちは、奪われたそれを、取り戻す。そのために、この一週間、頑張ってきたんだから⋯⋯!!」
奈子が思い返すのは、今日までの6日間の特訓の日々。日替わりでメンバー全員が、奈子のために魔法少女としての戦うすべを教えてくれた、かけがえない思い出の日々だ。
☆☆☆☆☆
「我らの決戦の日は一週間後だ。これは君が加わる前に既に決めていたことだから、変更するのは難しい。なので、この一週間で、私たちの力を総動員し、君を鍛えていきたいと思う」
「おお、あたし知ってるよ。こういうのって特訓っていうんだよね。図書館に置いてあった漫画で読んだことあるよ」
“ああああ”、もといRe:Nameの会長であるソイエ・グローリア(改名希望)は、奈子に対しそう告げると、一度アジトである桜の大木から出て、森の中腹にある訓練場へと奈子を連れていく。そこは、魔法のアイテムやらなんやらを駆使して訓練用に作り上げた設備などが色々おいてあり、奈子は、まさに漫画で見たような特訓場所を目の前にして、瞳をきらきらと輝かせていた。
「うおー!! なんかよく分からないけれどすごーい!!」
「ふふ、喜んでくれたようで何よりだ。ただ、この施設は見掛け倒しではないぞ。アイアイのやつがこだわって作った魔法のアイテムフル活用訓練設備だ。しかしまあ、今日は使わない。私が教えるのは、魔法の扱い方についてだからな」
ああああは、背負っていた旗を手に取ると、くるくると回転させた後、天高くその旗を掲げる。その一連の動きを見ているだけで、奈子は何故か胸の底から勇気が湧いてくるように感じた。
「うわ、なんかすごい!! 胸の奥からめっちゃ強いエネルギーが湧いてくるよ!!」
「私の魔法は、『魔法の旗でみんなを勇気づけるよ』だ。この旗を振るえば、皆の心を奮い立たせることができる。魔法少女の力は、思いの力。皆を勇気づけるこの魔法を、私は誇りに思っている」
「うん! めっちゃすごいよ!! さすが皆のリーダーって感じの魔法だね!!」
「ふふ、ありがとう。しかし、驚くのはまだ早いぞ。ただ振るうだけではなく、これに特別な動きと名前を与えることで、私の魔法はさらにその効力を増す!! 『
ああああが、旗を体に添わせるようにぐるりと大振りで回転させ、その動きに付けた特別な名前を口にする。すると、奈子の身体には先ほどとは比較にならないくらいのものすごい勇気のエネルギーが湧き上がってくる。
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!?」
エネルギーが溢れすぎて軽く脳みそがバグったことで奇声を発してしまった奈子だったが、そんなこと気にならないくらい全身に満ちるエネルギーを浴びて興奮していた。
「うおー!!? なんか頭おかしくなりそうなくらい膨大なエネルギーがあふれ出してくるぅぅ!! 今ならなんだってできそうだぜぇぇぇ!!!」
「とまあ、このように技に名前を付けることで効果が大幅に増大する。勿論、これがすべての魔法少女に当てはまるわけではないと思うが、名前というのは大きな意味を持つものだ。奈子、君は、アニメや漫画のキャラクターが技を出すときになぜ技名を叫ぶと思う?」
「んん? いや、わかんない。言われてみれば、なんでなんだろう。特に気にしたこともなかったかも」
奈子はアニメはほとんど見たことがないが、漫画は図書館でたくさん読んだ。それらの漫画の内容を思い返すと、確かに技名を叫ぶようなキャラクターがたくさんいた気がする。そこに関して疑問を抱いたことはなかったが、言われてみれば確かに理由はよく分からない。
「これは自論だがな。技に名前を与えることにより、その技に意味を与えるための行為だと、私は考えている。ただのパンチでも、そこに名前を付ければ、それはその人だけの技となるだろう? その名前を付けることで、ありふれた動作であっても名前に縛られ、一つの意味を持った存在になる。名前とは、とても強い力を持っているんだ。そして、その力は、祝福にも呪いにもなり得る。だからこそ、慎重に扱わなければならない。そうしないと、我々のような存在が産まれてしまうからな」
「ソイエは、”ああああ”って名前に呪われてるの?」
「ああ、呪われているよ。だから、この呪縛から解き放たれるために、私たちは戦うんだ。私は、誰よりも名前の持つ意味を、強さを知っている。だから、自分の技にこうして名前を付けるし、自分の理想の名前を手に入れるためならばなんだってする覚悟がある。⋯⋯すまん、少し話がそれてしまったな。折角だ。私のお気に入りの技を他にも見せてやろう」
そこから、ああああはいくつか自分の命名した技を奈子に披露してくれた。仲間の力をアップさせる『力鼓舞』に、運勢を上げる『LUCK・FLAG』、闘志を高める『
そんな様々な魔法に目を輝かせながら、奈子も自分の『魔法の消しゴムでなんでも消しちゃうよ』という魔法で何ができるかを考えてみたが、思いつかない。そのことをああああに相談すると、ゆっくり考えればいいと笑って頭を撫でてくれた。
「時間がないのは確かだが、名前は一生ものだ。適当に付けると後悔することになるからな」
自身の経験則を踏まえたうえで放たれたその助言は、とても説得力のあるものだった。
いつの間にか日も暮れ、特訓の時間も終わりに差し掛かったその時、ああああは奈子に一つとても素敵な贈り物をくれた。
「私の担当日は今日で最後だ。だから、君にあるものをプレゼントしたい。君の、魔法少女としての名前だ。魔法少女、『ジェーン・ドゥ』。私が考えた、君の名前候補だ」
「え、いいの!? すっごく嬉しいけれど⋯⋯候補ってどういうこと?」
「これから君には6日間、メンバーの全員で訓練を付けるという話はしたな? 我々はちょうど6人いるから、一人一日を担当する予定になっている。そして、その日の終わりに、君に魔法少女名を提案することになっているんだ。勿論、最後に決めるのは君。私たちはあくまで候補を贈るだけだ。気に入らなければ候補から選ぶ必要もない。なにせ、大切な魔法少女としての名前だからな。ゆっくり考えて決めてくれ」
ああああの言葉には、奈子に対する思いやりと愛情がたくさん含まれていて、奈子はとても幸せな気持ちになった。貰った名前、魔法少女『ジェーン・ドゥ』。その素敵な響きを胸に抱え、奈子はこれからの5日間に胸を躍らせるのであった。