♢六奈子
「えーっと、二日目ってことで、今日はうちが担当っすね。よろしくっす、奈子ちゃん」
「うん、よろしく!! えーっと、名前はアイアイの方がいいかな? それとも、『♰
「アイアイでよろしく頼むっす」
「かっこいいと思うんだけれどなぁ」
特訓2日目、奈子のことを鍛えてくれるのは、ケイオスアイ・ケイオスもとい、アイアイ(改名希望)である。以前初めて会った時はジャージ姿だったアイアイだが、今日は最初からコスチュームのゴスロリ衣装だ。
「うちが奈子ちゃんに教えるのは、主に魔法のアイテムの扱い方についてっすね。魔法の扱い方はキャプテンがある程度基礎を教えてくれたみたいっすし、戦闘訓練に関してはほかの子の方が適任っすから、うちは得意分野を教えることにするっす」
「魔法のアイテムってなんか素敵な響きだよね。どんなのがあるの?」
奈子が興味本位で尋ねると、ケイオスは眼帯に隠されていない方の蒼い瞳をきらりと輝かせて、スカートの中から大量の魔法のアイテムを取り出してみせる。
「ふっふっふ!! よくぞ聞いてくれたっすね、奈子ちゃん!! 魔法のアイテムにはそれこそいろんなモノがあるんすよ!! 空飛ぶ魔法の絨毯や、幸運を呼ぶウサギのしっぽ、なんでも入る魔法の袋に、やる気が出るマジカルキャンディー!! 魔法少女は固有の魔法アイテムを持った魔法少女以外は魔法のアイテムに興味を持たない子も多いんすが、うちに言わせりゃ、もったいない話っすよ。こんな魅力的でド級に便利な可愛い魔法のアイテムちゃん達、使わなきゃ損損って感じっす!!」
「うわ、すごい!! なんかいっぱい出てきた!? どうやってスカートの中にそんないっぱいアイテム入れてるの?」
「それは、さっき言った『なんでも入る魔法の袋』、あれをスカートの中に縫い付けているからっすね。この袋はなかなか便利っすよ。その分値段も高いっすけれど。魔法の国の魔法使いたちは魔法少女のこと嫌いな奴もいるっすから、そういう奴には足元見られて高い値段ふっかけられるんすよねぇ⋯⋯。ちっ、あいつらもいつかぶん殴ってやる」
ケイオスが取り出した魔法のアイテムを、奈子はきらきらと目を輝かせながら手に取っている。その様子を見ていたケイオスも、一瞬魔法の国への恨みでダークサイドに堕ちかけていた心を、ポジティブな方向へと戻すことができた。
「いやあ、そんなに喜んでくれると、なんかこっちも嬉しくなるっすねぇ。奈子ちゃんの魔法はその魔法の消しゴムを使う感じっぽいっすから、こういうのには親近感湧くんすかね?」
「うーん、それもあるかも! あんまり深く考えたことはなかったけれど、いつも持ってる分この消しゴムには何となく愛着?みたいなのあるし。あ、そういえば、アイアイの魔法ってどんなのだっけ? まだ教えてもらってないよね?」
「あー、そういやそうだったっすね。うちの魔法、無駄に威力高いから屋内で使うのにはむかないんすけれど⋯⋯ここなら大丈夫か。ちょっと離れててくれっす」
ケイオスに言われた通り素直に距離をとる奈子。そんな奈子の位置を確かめてから、ケイオスは眼帯を外すと、その中に隠されていた真っ赤な瞳を露わにして、なんかかっこいいポーズを決めた。
「『♰
そして、その直後、ケイオスの瞳から真っ赤な光線が放たれ、その直線状にあった木々が一瞬で黒炭と化した。あっけにとられる奈子に対し、ケイオスはどこか得意げに胸を張っている。
「これがうちの魔法、『あついまなざしで見つめちゃうよ』っす。ポーズを決めると目からビームが出せる、シンプルな魔法っす。鋼鉄でも一瞬で溶かす高温がチャームポイントっすね!!」
「ふおおお!! 凄い凄い凄い!! めちゃかっこいいじゃん!! あ、でも、ポーズすればビームが出るんなら、なんで眼帯してるの?」
「それは⋯⋯若さゆえの過ちってやつっすね」
「???」
なんだか遠い目をしたケイオスを、不思議そうに見つめる奈子。ケイオスの心の古傷が開く事件はあったものの、その後も魔法のアイテムを堪能し、自身の魔法のアイテムの扱い方も少しレクチャーしてもらった奈子は、終わり際にケイオスが考えた魔法少女名を受け取った。
「うーん、そうっすね。消しゴムだし、『モノ・ホワイト』とかどうっすかね?」
「『モノ・ホワイト』⋯⋯。うん、いい名前!! あ、でも、あたしてっきり、『♰混沌ノ魔眼♰』みたいなかっこいい名前かと思ってた」
「そういうのはぜったい後悔するからやめといた方がいいっすよ」
ケイオスが真顔で放ったそのアドバイスは、とても心に残るものであった。
☆☆☆☆☆
「はいはーい!! 奈子ちゃんの特訓3日目担当はこの私!! 奈子ちゃんの大親友こと桜を愛し、桜に愛された魔法少女、『松本さくら』!! 改名希望『散華桜花』でーす!!」
「よろしくね、桜花ちゃん!!」
訓練3日目。今日は、初日で奈子とかなり仲良くなったさくらが担当だ。さくらはあれからもちょくちょくと絡んでくれたので、メンバーの中では奈子も一番の仲良しだと思っていた。
「今日が桜花ちゃんってことは、明日はあのじめじめした人だったりする?」
「うーん、たぶん違うかな。今日からは直接戦闘訓練をする予定になっているから、メンバーの中での戦闘力順で順番決めてるの。あ、かいちょーとケイオス先輩は除いた順ね? 私は残りの面子の中じゃあんま戦闘得意な方じゃないから、一番手なんだぁ~」
「へぇ~。ま、細かいことはいっか!!」
細かい順番決めなどは奈子が関係できることじゃないから、実際どうでもいい。そんなことよりも、メンバーの皆が自分のために予定を開けて訓練に付き合ってくれることが奈子にとっては嬉しいことだった。
「ん~、とはいえ、私が教えられることって正直あんまないんだよなぁ。メンバーだとたぶん私が最年少だし、誰かと戦った経験はないし⋯⋯。うん、そうだ! 一回模擬選してみよう!! 私もそんな感じで教えられたし!!」
「え、模擬戦って、桜花ちゃんと戦うってこと? あたし戦ったこととかないんだけれど、怪我したりとかしないよね!?」
「うーん、大丈夫じゃない? 軽い怪我なら大体ケイオス先輩が魔法のアイテムで治してくれるし、結構やばい怪我でもさららちゃんがいれば大丈夫でしょ。てなわけで⋯⋯習うより慣れろ!! いくぞ~!!」
気の抜けた掛け声とともにさくらは地面に手をつく。すると、そこからたちまちにして大きな桜の木が生え、奈子の視界を塞いだ。
「うわぁ!?」
驚いて体勢を崩した奈子に、頭上からさくらのかかと落としが繰り出される。とっさに腕を交差させて頭への直撃は防いだが、高所からの落下のエネルギーも加わったかかと落としはなかなかに強力で、奈子の腕はこの一撃でしびれてしまった。
「私の魔法、『きれいな桜をいろんな場所に咲かせるよ』は、触れた場所に桜を咲かせることができる凄い魔法なの!! こうやって一瞬で高所を取るのにも便利だし、こんなことだってできるんだから!!」
そう言って、さくらは先ほど生やしたばかりの木に触れる。すると、その桜の木の側面から、新たに桜の木が生え、奈子に向かってその先端を伸ばしてきた。予想外の場所から生えてきた桜に対し今度は反応すらできず、反射的に目を瞑ってしまう。
しかし、その桜の木は奈子の顔に刺さる寸前で止まり、奈子が傷を負うことはなかった。だが、安堵と緊張からの緩和で腰が抜けてしまい、奈子はへろへろと座り込んでしまう。そんな奈子の様子を見て、さくらは慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ごめん、奈子ちゃん!! 大丈夫? 怪我とかしてない!?」
「う、うん。大丈夫。ちょっと驚いちゃっただけ。桜花ちゃん、凄いね。あたし、全然相手になってなかったよ。ねえ、これでホントに一番弱いの? あのさららとかいう人より?」
「うん! 私よりほかの皆の方が全然強いよ!! それに、さららちゃんは特に⋯⋯。あー、詳しいことは喋らない方が面白そうだし、まだ黙っていようかな。とりあえず、私は今日はこんな感じでランダムに桜の木を生やして攻撃しまくるから、それを回避する感じでやってみよー!!」
「わかった⋯⋯!! あたし、頑張るね!!」
さくらが右手を掲げるのに合わせ、奈子もやる気を込めて右手を掲げる。その後、何度かさくらとの戦闘訓練を繰り返したことで、最初のほうに比べればだいぶ動きはましになったが、魔法少女の体力をもってしても最後はかなり疲れてしまっていた。
「ふー、だいぶお疲れみたいだね、奈子ちゃん!! そんなあなたに、私からプレゼント!!」
「はぁ、はぁ⋯⋯。ぷ、プレゼントって、もしかして名前のこと?」
「ピンポンポンピーン!! 私が考えた名前は~『純白の乙女ジューン・ブライド』!! 無垢な奈子ちゃんの愛らしさと真っ白な恰好から着想を得た素敵ネーミングなのだ!!」
「うおお、なんかかっこいいかも!? ありがとう、桜花ちゃん!!」
三日目の訓練も無事終わり、また素敵な名前候補を一つもらえた。疲れはしたが、奈子は大変満足した気持ちで三日目の訓練を終えたのだった。