だがしかし眠り姫状態なので主人公なのに全く喋りません!
この話の終盤あたりですかね。
異世界へ
高度4000メートルから急降下する眠り姫。
真っ逆さまに湖へと。
彼女の自由落下を阻む物は何もなく、勢いそのままに湖へと吸い込まれるように落ちていった。
ドパーンッ!!
水爆実験でも行ったのかと思う程の強烈な音がして、岸にいた三つの人影が勢い良く振り返る。
物陰に潜んでいたウサ耳の影もびっくらこいて尻餅を付いていた。
振り返った三つの人影に、シャワーの如く降り注ぐ湖の水。
空に架かる七色の美しい虹。
それを見上げて「綺麗だなー」とうわ言を呟いた三人は―――蟀谷に青筋を立てて罵詈雑言を吐き捨てた。
「おいコラせっかく搾ったのにまたびしょ濡れになったじゃねえかクソッタレ!」
「全くだわ!どう落とし前付けてくれるかしら!?」
「この恨みはらさでおくべきか」
鬼の形相で湖を睨みつける三人。
だが返事は帰ってこない。
あるのは少女と思しき人物が、湖の真ん中で浮いている光景だった。
反応がない少女を見て、黒髪の少女が青ざめる。
「⋯⋯⋯⋯⋯、まさか、死んでるのかしら⋯⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯⋯どうなんだろう?」
彼女の隣で小首を傾げる茶髪の少女。
三毛猫も一緒になって小首を傾げている。
「いや。死んではねえだろ」
確信したように断言する金髪の少年。
彼の言葉に、黒髪の少女が問いただした。
「それはどうしてかしら十六夜君?」
「考えてもみろよお嬢様。もし俺達と同じ高度から落とされたら、人間はどうなると思う?」
十六夜と呼ばれた金髪の少年が、黒髪の少女をお嬢様呼ばわりして問い返す。
真剣に考え頭を悩ませるお嬢様。
代わりに彼女の隣にいた茶髪の少女が控え目に手を上げて応える。
「さっきの音からして、まず無事ではないと思う」
「ああ。その通りだ春日部。高度およそ4000メートルから自由落下したんだ。湖の上だからといって平気なわけがねえ。もしあいつが人間なら、湖に叩き付けられた時点で四肢はバラバラどころか肉片になって飛び散り、今頃湖の真ん中に血の池が出来上がってるだろうよ」
「ひっ!?」
短い悲鳴を洩らすお嬢様。
それとは対称的にグロテスクな光景を語っているとは思えない程、淡々と述べる十六夜。
「俺達の時のように水膜を幾重にも通って落下の勢いが衰えた状態で着水するなら兎も角、あいつの場合はそれなしで高度およそ4000メートルから紐無しバンジーをしたんだ。それで無傷とか明らかに常軌を逸してると思わねえか?」
ハッとして湖の真ん中で浮いている少女を見るお嬢様と春日部と呼ばれた茶髪の少女。
彼の言う通りだと二人は頷く。
あれ程強烈な音がしたのだから、彼の言う通り肉片になって飛び散っていてもおかしくはない。
だというのに全くの無傷である。
お嬢様は口の端をひくつかせながら問う。
「⋯⋯⋯では、彼女に反応が無いのはどうしてかしら?」
「俺の推測では、強い衝撃のあまり気を失っている、だな。肉片になってなくて無傷でも、気絶している可能性はあの状況からしてほぼ間違いねえだろうよ」
そう、と短く返すお嬢様。
それにしても彼はよく喋る男の子だと感想を抱く。
一方、物陰に潜んで彼らの様子を窺っていたウサ耳の少女は、十六夜を高く評価していた。
「(ただの問題児かと思いきや、頭の回転が早く聡明な方のようでございますね。それに召喚された位置を、落下しながら目測で割り出す冷静な分析力⋯⋯⋯これは上手く立ち回らなければ、彼に黒ウサギ達の秘密がバレてしまう恐れがあるのですよ⋯⋯⋯!)」
滝汗を掻く黒ウサギと自らを内心で名乗るウサ耳の少女。
これから彼らの前に出て行き説明をするのが彼女の役目なのだが、賢い人間がいることで全身に緊張が奔る。
「(⋯⋯⋯それに気絶している可能性を100%と言わずに〝ほぼ〟でございますか。もしや彼にも、あの子の左胸に突き刺さっているモノが見えているのでしょうか⋯⋯⋯?)」
だとしたら視力もかなりいいのだろう。
黒ウサギは益々彼を警戒しなければならないと、そう思った。
すると突然、春日部が目を細めて湖の真ん中で浮いている少女を見つめ、
「〝ほぼ〟ってことは、貴方にも見えてるんだ。あの子の胸に刺さってるアレ」
「え?」
「へえ?その言い方だと、春日部にも見えてるのか?」
「え?」
「うん」
軽薄な笑みで訊ねてくる十六夜に、さも当然のように肯定する春日部。
なんの事かさっぱりなのは、お嬢様だけのようだ。
「ちょっと二人とも!あの子の胸に何が刺さってると言うの!?」
「「銀製の杭」」
即答する十六夜と春日部。
目を丸くするお嬢様。
続けて十六夜は顎に手を当てながら言葉を紡ぐ。
「銀製の杭は左胸―――つまり心臓を穿っている」
「なっ!?」
「それなのに、あの子は生きてるの?」
「いや。それはまだ分からない。分からないが⋯⋯⋯あの杭を抜けば、もしかしたら生き返るかもしれない」
「「え?」」
生き返るかもしれない。
その言葉を聞いて目を瞬かせるお嬢様と春日部。
十六夜は更に続ける。
「人間より遥かな耐久力を持つが銀に弱くて、心臓に杭を打ち付けて殺す方法を取らなきゃいけない存在に俺は心当たりがある」
「⋯⋯⋯それは何なのかしら?」
お嬢様が恐る恐る訊ねると、十六夜はその存在の名を口にした。
「それは―――〝吸血鬼〟だ」
「「吸血鬼!?」」
ギョッと目を剥くお嬢様と春日部。
その反応に「お?」と十六夜が軽薄な笑みを浮かべて確認する。
「その反応は、お前らも知ってるみたいだな?」
「え、ええ。名前くらいなら」
「だけどたしか、吸血鬼って太陽の光は直接浴びられない種族じゃなかったっけ?」
「ああ。そこは俺も引っ掛かってる。だが銀製の杭で心臓を穿つ殺し方なんて、人間のような見た目をした奴なんて、吸血鬼くらいとしか思えない。だとしたら俺達の知る吸血鬼とは別種なんだろうな」
「「なるほど」」
十六夜の説明に納得するお嬢様と春日部。
別種というのなら、太陽光を浴びても平気な吸血鬼もいるのだろう。
だが物陰から彼らの様子を眺めていた黒ウサギが内心で否定する。
「(いえ。あの見た目で―――〝彼女〟を彷彿させるような容姿のあの子が、別種の吸血鬼⋯⋯⋯?そんな偶然があるというのですか?)」
そう思うが、黒ウサギの言う〝彼女〟は、春日部が述べたように『陽の光を直接浴びられない種族』で間違いない。
故に黒ウサギの頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
黒ウサギの知る〝彼女〟と同じプラチナブロンドの髪に、透き通るような白い肌。
瞳の色は閉じている為確認出来ないが、あの子が彼の言う通り吸血鬼ならば紅いだろう。
これだけ〝彼女〟に似ているのに、『陽の光を直接浴びられる種族』というのだからもう訳が分からない。
そんな黒ウサギの苦悩を知らない彼らの中で、お嬢様が湖の真ん中で浮いている少女を眺めながら、
「それで、いつあの子を助けに行ってあげるのかしら十六夜君?」
「あん?」
「私達は非力な女の子。男の人である貴方があの子を助けてあげるべき」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
お嬢様に続いて春日部も十六夜にその役目を押しつける。
非力がどうのはただの言い訳に違いない。
要約すると―――〝濡れたくない〟からだ。
十六夜は蟀谷に青筋を立てると、おもむろに落ちていた小石を拾い上げる。
彼の行動に意味が分からないという調子で小首を捻るお嬢様と春日部。
「そんなものを拾ってどうするつもりなの?」
「水切りでも始めるの?」
「そうだな。この小石は―――」
振りかぶった十六夜はヤハハと笑い、
「こうするんだよ!」
湖の真ん中で浮いている少女目掛けて、ぶん投げた。
「「は?」」
間の抜けた声を洩らすお嬢様と春日部。
十六夜の投げた小石は、第三宇宙速度という馬鹿げた速度を叩き出して少女のすぐ側の湖の水面を打ち付ける。
ドッパーンッ!!!
眠り姫が湖に落ちてきた時よりも強烈な音を出して特大の水柱を上げた。
「「は、」」
「はぁああああああああああッ!!?」
お嬢様と春日部が声を上げるよりも先に、隠れていることを忘れて絶叫する黒ウサギ。
なんというデタラメ加減か。
いやそんなことよりも、あの子の行方は何処に!?
十六夜はとっくに気付いていたが、顎を外しそうな程大口を開けている黒ウサギを横目で確認した後、足元を爆発させて超跳躍。
どういう原理かは不明だが、特大の水柱に打ち上げられた少女は、彼に吸い寄せられるように飛んでいき抱きかかえられた。
眠り姫をお姫様抱っこした十六夜は、華麗に着地を決める。
これで水に濡れることは―――バシャッ!
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯クソが」
水に濡れるのは彼の運命だったようだ。
いや、彼に向かって少女が飛んで来たのなら、湖の水も吸い寄せられるのは当然の摂理である。
十六夜は吐き捨てるように呟くが、ふと左手に柔らかい感触がある事に気が付く。
「ん?」
彼は少女の方に目を向けると―――彼女の豊かに発育した左胸を、左手で鷲掴みにしていた。
これこそ俗にいう―――〝ラッキースケベ〟である!
「⋯⋯⋯ほう。これは中々」
ラッキースケベをいいことに、一揉み二揉みしていると、
「―――って、それはもう不可抗力ではございませんよ!?こんの御馬鹿様ぁああああああああああッ!!!」
スパァーン!
軽快な音を立てて黒ウサギのハリセンが十六夜の頭に奔る。
そんな彼をお嬢様と春日部が生ゴミでも見るかのような冷ややかな目で見つめ、
「最低ね、死になさいこの変態!」
「うん、変態は死ねばいいよ」
辛辣な言葉を吐き捨てる。
十六夜は軽薄な笑みを浮かべるだけ。
「そういえば、物陰に隠れてこそこそ俺達のことを窺っていたよなお前」
「へ?⋯⋯⋯あ、」
黒ウサギは本能(?)のままにツッコミを入れに行ってしまった為、姿を見せるタイミングを誤ってしまったようだ。
滝汗を流す彼女の右斜め後ろにお嬢様が来て、
「あら、貴方も気付いていたの?」
「当然。隠れんぼじゃ負けなしだぜ?春日部も気付いてただろ?」
春日部も黒ウサギの左斜め後ろに来て、
「風上に立たれたら嫌でも分かる」
「⋯⋯⋯へえ?面白いなお前」
軽薄な笑みを浮かべる十六夜だが、目は笑っていない。
いつの間にか三人に包囲されていた黒ウサギは逃げ場を失い、滝汗が冷や汗に変わる。
黒ウサギに対して文句の一つでも言ってやりたい気分だったが、十六夜はお姫様抱っこしている少女に目を向けて一言。
「まずは眠り姫でも起こすとするか」
「「起こす?」」
「⋯⋯⋯⋯⋯その子に何をするおつもりですか?」
お嬢様と春日部は不思議そうに小首を捻る。
純粋な疑問を口にする黒ウサギ。
十六夜はニヤリと笑って答えた。
「そりゃ―――こうするに決まってるだろ!」
少女の左胸に突き刺さっている銀製の杭を掴むと、そのまま真っ直ぐ引き抜いた。
そんなことをすれば切れた血管から血液が溢れ出して、空いた左胸の穴から噴出してしまう。
だがそうはならずに、杭によって空いた左胸の穴は血液が溢れ出す前に瞬く間に細胞が再生し塞がった。
「「「え?」」」
デタラメな再生能力に目が点になる女性陣三人。
それだけでは終わらない。
死人のように冷たかった少女の体は、常人の体温と同等の温もりを取り戻していったのだ。
「は?」
これには流石の十六夜も素っ頓狂な声を洩らさずにはいられない。
彼らは知らないが、そもあの杭は少女の全身を巡る血液の流れを止めて仮死状態にさせることで、まるで永眠しているかのような状態にしていたのだ。
その杭を抜けば仮死状態だった少女の全身に再び血液が流れて体温を取り戻す、という絡繰である。
「⋯⋯⋯⋯⋯ん」
少女の小さな声が洩れ出ると、閉じていた瞼はゆっくり開かれて紅い瞳が露になる。
黒ウサギは、やはり〝彼女〟と同じ瞳の色!という調子で驚いていた。
その少女はキョトンとして固まっている。
見知らぬ男性に腕一本で支えられているのと、見知らぬ女性三人にまじまじと見つめられているのだからそうなるのも無理はない。
そしてその見知らぬ男性が持っている銀製の杭を見て、目を大きく見開いて驚く。
自分の胸元を確認すると、やはり刺さっていなかった。
少女は有り得ないものを見たかのような表情で、彼に問いただす。
「そ、そこの殿方!どうしてその杭を抜くことが出来たんですか!?」
「あん?そりゃどういう意味だ?」
「どうもこうもありません!その杭は私を永眠させる為に同族がお造りになったもの!その杭が私に刺さっている状態では、同族はその杭に触れることさえ出来ないはずです!だというのにどうして同族の貴方が触れるどころか抜くことが出来たのですか!?」
鬼気迫る顔で問いただす少女。
十六夜があの子の同族?と目を丸くする女性陣三人。
十六夜は聞き捨てならない言葉に、不快そうな表情になると少女を落とした。
「きゃっ」
地面に尻餅を付く少女。
レディの扱いとしては減点ものだが、十六夜は不愉快そうに少女を見下ろし、
「お前、幾ら寝ぼけてるからって俺をお前の同族だと?寝言は寝てから吐き捨てやがれお姫様。悪いが俺はお前の同族に―――吸血鬼になった覚えはねえよ。人間様だよクソッタレ」
怒りの籠った声音で吐き捨てる十六夜に、少女はビクッと肩を震わせた。
子供相手に大人気ないが、少女の言葉は彼をそれ程までに怒らせたのだ。
これにはお嬢様も春日部も、黒ウサギさえ庇い立て出来ない。
少女は悲しげな表情で十六夜を見つめ返し、
「そう、ですよね。私のような〝不老不死〟の怪物は、吸血鬼と見られてもしょうがないですよね⋯⋯⋯」
「「「え?」」」
「何?」
少女の呟きに反応する四人。
〝不老不死〟の怪物?
吸血鬼と見られてもしょうがない?
その発言はまるで―――私は吸血鬼ではないと否定するような台詞だ。
だが『陽の光を直接浴びられる種族』という点では、吸血鬼ではない可能性が出てくる。
〝不老不死〟という点は一旦置いておくとして。
十六夜の怒りは鎮火され、疑惑へと変わる。
「⋯⋯⋯吸血鬼ではないだと?ならお前は何者なんだお姫様?」
彼の問いに、少女は胸元に手を置いて答えた。
「私は〝
「「「「―――⋯⋯⋯は?」」」」
十六夜がかなりぶっ飛んだことやってますが大目に見てあげてください。
旧人類の何たらかんたら粒子体適合者=十六夜(と焔)
新人類の何たらかんたら粒子体適合者=主人公
という感じですね。
それにしても、三毛猫さんよお前はよく高度4000メートルから紐無しバンジーして生き残れたな⋯⋯⋯箱庭に召喚される猫はただの猫ではないということか()
お嬢様や春日部、主人公の(異世界に来て初めて)名前が記されるのは次回に持ち越しです。