ひきこまり吸血姫の執事   作:神無月 優

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投稿日時もだいぶ空いて今さらかよっていう水着回です。
原作に登場しないキャラの水着は皆さんの妄想力で脳裏に描いてください。




三章
夏だ、海だ、水着だ!


 

 招待状 テラコマリ・ガンデスブラッド様

     ムルナイト帝国軍の皆々様

 

 鉄飛沫(てつしぶき)も盛りを迎えた(こう) 皆様におかれましては益々(ますます)ご清栄のこととお(よろこ)び申し上げます。

 さて翦劉(せんりゅう)の流儀に(のっと)って直截簡明(ちょくせつかんめい)に申し上げますが我が国ゲラ=アルカと貴国は不幸な行き違いにより未曾有(みぞう)艱難(かんなん)を迎えつつあります。

 そこで両国の緊張緩和(きんちょうかんわ)を図るべく(ささ)やかながら茶会を催したくペンを()らせていただきました。

 核領域フララール州のリゾート〝夢想楽園(むそうらくえん)〟にてお待ちしております。

 万障(ばんしょう)()り合わせの上ご出席くださいませ。

 願わくは吸血鬼と翦劉の強い結束により六国泰平(りっこくたいへい)の悲願が成就(じょうじゅ)せんことを。

 

 ゲラ=アルカ八英将(はちえいしょう)

       ネリア・カニンガム

 

「休暇なのに海とか聞いてないよぉ……」

「同感です。陽射しが強すぎる……」

 

 パラソルの下でレジャーシートに腰掛けるコマリ様と俺は憂鬱(ゆううつ)な気分に見舞われている。

 眼前に漠々と広がる砂浜の上では、第七部隊の隊員たちがビーチバレーをしている。

 時折コマリ様へ視線を向けるのは何なのだろうか。

 

「お二人とも、アイスはいかがですか?」

 

 背後から声をかけられて振り向くと、そこには青髪の女が立っていた。

 今日は白の映えるメイド服ではなく、発育の良いボディーラインが強調される黒いビキニ姿。

 水着の青髪少女──ヴィルヘイズはコマリ様と俺にアイスキャンディーを手渡す。

 コマリ様の方は色合いからしてソーダ味だろう。

 俺のは妙に真っ赤だけど、何味だ?

 アイスの先端を少しだけ舐めてみる。

 

「…………ヴィルヘイズ中尉、これは何ですか?」

「期間限定のハバネロ味ですが、それが何か?」

「何か?じゃないですよ! よりによってこの蒸し暑い日になんて物を食べさせてくれるんですか!? ほら、見てください! 少し舐めただけで、舌が()れ上がってますよ」

「どうせすぐに治るのだからいいではないですか。それにここ最近は第七部隊としての活動も少なく、刺激の少ない日々が続いていました。なので少しスパイスを加えてみたかったのです」

「そんな刺激、誰も求めてませんから!」

 

 俺とヴィルヘイズが言い争っていると、白銀の少女が二人こちらへ近づいてきた。

 サクナ・メモワールとコマリ・メモワールの仲良し姉妹だ。

 二人はコマリ様へ真っ先に挨拶を済ませた後、俺の方へ向かう。

 

「こ、こんにちは、アルくん」

「やあ、今日は私たちも同行させてもらうからよろしくね」

 

 サクナは貝殻が目立つヒラヒラした飾り気のある水着。

 コマリは白い水着を基調(きちょう)に、腰の上から一枚布を巻き付けた着こなしをしている。

 どちらにも個性があってよく似合っていると思う。

 

「お二人とも水着がよくお似合いですね」

「そ、そうかな。えへへ……」

「よかったね、サクナ。まあ私も褒めてもらえたから嬉しいのだけどね」

「どうしてメモワール姉妹には水着の感想を述べて、私には何もないのですか?」

「感想を言う前にやらかしてくれたからですよ。……まあ、ヴィルヘイズ中尉もよくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます」

「むぅ……お前たちは恥ずかしくないのか? 水着なんて下着で出歩くのと何が違うんだ……」

 

 水着少女たちが和気藹々としている中、コマリ様はやや頬を赤らめて不貞腐れていた。

 そんなコマリ様は現在水着の上からラッシュガードを羽織っている。

 そんなコマリ様にサクナが近づいて言った。

 

「コマリさん。その……一緒に遊びませんか?」

「え」

「せっかく来たので海らしいことをしないのは、少しもったいないと思います」

「…………」

 

 コマリ様は泳げない。

 以前コマリ様は川で溺れかけたことがあり、それを通行人が偶然にも目撃していたらしい。

 なのでムルナイト中にこの事実は周知されている。

 

「コマリさんは泳ぐのが苦手でしたよね。よかったら泳ぎ方、お教えしましょうか?」

「むぅ……いつか泳げるようにはなりたいと思うけど……」

「ならちょっと海に入ってみましょう。無理しなくてもいいので」

「でも……」

「大丈夫ですよ。私がずっと見ててあげますから」

「……し、仕方ないな。何事も経験だ。よければ私と遊んでくれないか?」

「はい、是非! ──じゃあ、その上着を脱ぎましょう」

 

 コマリ様は躊躇(ちゅうちょ)しつつも決意を固めて、ゆっくりとファスナーを下ろしていった。

 ラッシュガードが砂浜に落ちた瞬間、離れた位置にいる第七部隊の連中から歓声があがった。

 コマリ様が歓声のした方を向くと、何事もなかったかのようにビーチバレーに興じる。

 つまりはそういうことだろう。

 そして、ヴィルヘイズは懐からカメラを取り出した。

 

「コマリさん。その水着とってもお似合いですよ」

 

 コマリ様の顔に熱が昇る。

 コマリ様は顔を俯かせながら俺の方へ寄ってきた。

 顔は隠れていても、耳は真っ赤になっている。

 

「どうだ……?」

「サクナ様に同意です。コマリ様には赤がよく似合いますね。まあコマリ様の可憐さであれば、寧ろ衣類の方がコマリ様に着せられていると言っても過言ではありません」

「か、過言だと思うけどな! でも、ありがとう……」

 

 コマリ様が水着姿になってから暫くの間パシャパシャと写真を撮り続けていたヴィルヘイズがコマリ様の手を引く。

 その先には海に足をつけたサクナがコマリ様に向かって手を振っている。

 

「コマリさ〜ん! 海、気持ちいいですよ〜!」

「メモワール殿とだけではなく、私とも遊んでくださいね」

 

 三人の少女が海に足を踏み入れて、水のかけ合いをして遊んでいる。

 そんな中、俺とコマリはパラソルの下で涼んでいた。

 

「コマリさんはあの中に加わらなくても良いんですか?」

「それを言うならきみもそうだろう? それに……生前は平気だった夏の日差しが、どうにも暑苦しく感じる。浴び続けていたら気分が悪くなるほどにね」

「あー、そういうことでしたか。眷属化したことによる弊害(へいがい)ですね。どうやら私が苦手なものは、あなたも同じように苦手に感じるようです」

「だからこの暑い中、君だけ執事服のままだったんだね。極力日の光に当たりたくなかったわけだ」

「一応克服する努力はしたんですけどね。流水とか、十字架とか、銀とか。でも、この時期の太陽だけはどうしても克服できませんでした。死にはしませんが、あなたも気をつけてくださいね」

 

 そんなやり取りをコマリとしていると、三人の少女が水のかけ合いからビーチボール弾き合いに切り替わっていた。

 ヴィルヘイズ一人に対して、コマリ様とサクナはチームを組んで対抗している。

 少し離れた位置にはいるが、ギリギリ声は聞こえるし、姿はハッキリと視認できる。

 

「コマリさん! パスです!」

「うん! わわ、と」

 

 コマリ様はサクナから受けたパスを、ヴィルヘイズに向けて弾き飛ばす。

 弾かれたビーチボールはヴィルヘイズの方へ飛んでいく。

 ヴィルヘイズはボールに駆け寄る寸前で足を滑らせ、顔面から勢いよく海中へ身を沈める。

 

「はいヴィルの負け〜! 罰ゲーム決定だな!」

「悔しいです……」

 

 ヴィルヘイズは海面からぬっと顔を出した。

 その顔は納得いかないといった表情だ。

 コマリ様も先程は(しぶ)っていたようだが、すっかり海を満喫しているようだった。

 

「コマリさん、罰ゲームって何するんですか?」

「え? うーん……そうだ、ジュース買ってきてよ。桃味がいいな」

「あ。じゃあ私は烏龍茶で……」

「承知しました。買ってきましょう」

 

 そう言ってヴィルヘイズは立ち上がった。

 上の水着が流されていたようで、胸が露出していた。

 横にいたコマリもそれに気づいたようで、素早く両手で俺の視界を(ふさ)ぐ。

 既に見えてしまったし、何度か目にしてはいるので今さらだと思う。

 それよりも目を覆っているコマリの手がひんやりして気持ちよかった。

 コマリ様とサクナの悲鳴が聞こえる。

 

「待てえええええ! 取れてる! 取れてるよ!」

「は、はやくつけてください! あっちには第七部隊の人たちもいるし、アルくんは……ハッキリとは見えませんが、お姉ちゃんが目隠ししてくれてるから大丈夫そうです」

「でも罰ゲームなので、ジュースを買ってこないわけには参りません」

「そんなの後でいいだろ! サクナ、水着を探してくれ!」

「はい!」

「おいやめろ! 恥ずかしいだろ──って止まれよ! 何やってんだよ!」

「止めないでください! 私にはジュースを買ってくるという大事な使命があるのです!」

「そんな使命捨てろ! 命令は変更だ、はやく隠せ!」

「命令を変更できるというルールはありません。どうしても変更したいなら私の命令を聞いてください」

「むちゃくちゃだな! いいよ、言ってみろよ!」

「今の負けをなかったことにしてもう一度勝負しましょう」

 

 声のみでしか状況把握ができないが、上半身裸のままヴィルヘイズは罰ゲームを遂行しようとして、コマリ様とサクナはそれを食い止めようとしているようだ。

 コマリの目隠しが外れないことから水着はまだ見つかっていないと思われる。

 そんな矢先にサクナの声があがった。

 

「ありました!! ヴィルヘイズさん、はやくこれを………………!」

「それをつけるには条件があります」

「わかったよ! もう一回勝負してやるから!」

「いえそれは隠すための条件であってつけるための条件ではありません」

「あああああああああめんどくさいな! 何がお望みなんだ!?!?」

「望みは簡単です。──コマリ様、そろそろ泳ぎの練習をしてみてはいかがでしょうか」

 

 は?──とコマリ様は言葉をつまらせてしまった。

 ヴィルはトップレスのまま淡々(たんたん)と語った。

 

「以前川で溺れてヘルデウス・ヘブン様に助けていただいたでしょう? 次に溺れたとき助けてくれる人がいるとは限りませんから、泳ぎの技術は身につけておいて損はないかと」

「泳ぐといっても………………私は水に顔をつけることもできないんだぞ?」

「大丈夫ですよコマリさん。私がお教えします。ずっと手を握っていますから」

「………………わかった。サクナ、よろしければ私に色々とレクチャーしてくれないか?」

「はい是非!」

「お待ちください!」

 

 ヴィルヘイズが口をはさんだ。

 口をはさむ前に水着を着てくれ。

 

「メモワール殿のお手を(わずら)わせるわけには参りません。コマリ様には私が教えます」

「で、でも私、教えるのに自信があります」

「私のほうが適任です。伊達(だて)に『コマリ様の浮き輪』を名乗ってません」

「じゃあ私は『コマリさんのシュノーケル』です!」

 

 ヴィルヘイズもサクナも言っている意味が分からない。

 

「浮き輪でもシュノーケルでもコマリ様が必要と思うものこそ必要なのです。さあコマリ様、私とメモワール殿、どちらから教わりたいですか?」

「サクナ」

「本当ですか!!」

「な、何故ですか……? 私に教われば一日でトビウオを凌駕する力を獲得できるのに……」

「そういう問題じゃない。私はサクナのほうがいいと思ったんだ。よろしくな、サクナ」

「はい、よろしくお願いします」

「考え直してくださいコマリ様! メモワール殿は危険人物です。泳ぎ方を教えるついでにコマリ様の身体を触りまくるどころか隙を見て水着を奪おうとするに決まっています! 現に私のは奪われました!」

「う、奪ってません! お返しします! あとコマリさんには私が教えますからっ! ヴィルヘイズさんのほうこそ怪しいです。どうせ変なこと考えてるんじゃないですか?」

「根拠もなしに疑うなんてどうかしています。ねえコマリ様」

「根拠もなしにサクナを疑ったのはお前だろ!っていうかさっさと放せ!」

「根拠はあります。メモワール殿はコマリ様のグッズを違法作成している危険人物ですから」

「ッ──わ、悪気はありません。最近はグッズ作るのも控えめにしてますし」

「でも未だに盗撮はしてますよね?」

「………………………………………………してないですよ?」

「え? サクナ? なにその間」

「私はよく知っています。メモワール殿は枕の下に盗撮した写真を仕込んでコマリ様とあんなことやこんなことをする夢を見ようと努力しているんですよね」

「どうしてそんなことまで………………!?!? いえ、でも、それはコマリさんが好きだからです! ヴィルヘイズさんに文句を言う 権利はないと思います!」

「もちろん文句を言う権利はありません。私もやってますからね。コマリ様が好きなので」

「やってるのかよ!!」

「それだけではありません。コマリ様の枕にも私の写真を仕込んで私の夢を見てもらう作戦を決行中です。さすがにこれはメモワール殿には真似できないでしょう?」

「最近お前が夢に出てくるのはそのせいかぁーっ!」

「ぐ・・・・・・そ、それがどうしたんですか? 私だって、魔法を使ってコマリさんを精神操作すれば確実に私の夢を見てもらうことができますし」

 

 二人ともよく本人を前にして包み隠さず痴態(ちたい)を晒せるなと逆に感心してしまう。

 コマリにサクナの発言が聞かれなくて良かった。

 

「ええい! もう! さっきから何を口論してるんだ! 私はサクナに教えてもらうって決めたんだよ! ヴィルは近くで見守ってくれていれば──」

「よ、よおテラコマリ! 調子はどうだ!!」

 

 唐突に男の声が耳に入った。

 この声は金髪男、ヨハン・ヘルダースものだ。

 彼の声が聞こえた瞬間、視界に光が差した。

 ヴィルヘイズがようやく水着を着けてくれたようだ。

 彼は緊張したような足取りでコマリ様に近づいていき、

 

「あれだな。今日はいい天気だな」

「まあそうだけど……なんかお前、挙動不審じゃないか?」

「べ、べつにそんなことないぜ。ところでテラコマリ」

「なに?」

「その水着、似合ってるな!」

 

「え? ありがと……」

 

 突如、パンッ!と何かが割れる爆音がした。

 ヴィルヘイズが持っていたビーチボールを素手で破裂させていた。

 それより、ヨハンはこんなにもコマリ様へ近づいて大丈夫なのだろうか。

 

「そうだ。せっかく海に来たんだし泳ぎの練習でもしろよ。もしよかったら僕が教えてあげてもいいけどヴゴェッ!!」

 

 ヨハンがコマリ様の手を取ろうとした瞬間、彼の全身は残像を棚引かせながら吹っ飛んでいった。

 まるで水切りのような具合で海面をバウンドすること計三回、ぼちゃん!と波の狭間に 沈んで見えなくなってしまう。   

 その後、まるで人食いザメのような 形相をした吸血鬼たちが沈んだヨハンのもとへと駆けていった。

 

「てめえゴラ何閣下に話しかけとるんじゃああああ!!」

「ふざけやがって……ふざけやがってえええええ!!」

「抜け駆け野郎には正義の鉄槌を!!」

「死ねオラ三回くらい死ね!!」

「『水着似合ってるな』だと…………? 当たり前じゃボケエエエエエエエ!!!」

 

 さらに超高速で餅つきをするかの如く斧だのハンマーだのを海面に叩きつけている。

 水着褒めたくらいでそこまでしなくてもいいんじゃ……。

 横ではコマリが笑いを堪えきれずに吹き出していた。

 

「おいお前ら! いくらなんでも唐突すぎるだろっ!!」

「閣下! お怪我はありませんでしたか!!」

 

 カオステルが焦ったような顔でコマリ様に話しかけるが、二人の距離は十メートルほどの開きがある。

 カオステルが海に来てからすぐに言っていたのはこのことだったのか。

 

「いや、べつに元気だけど。なんか遠くないか、お前」

「閣下の半径十メートルに入ってはならない。そういう(おきて)があるのです」

「な、なんでだよ。それじゃみんなで遊べないじゃん……」

「!?!?!?──い、いえ。それは非常にありがたいことですが………………しかし、まずは独断専行で変態行為を働いた不埒(ふらち)な野獣を死刑に(しょ)す必要があるのです!」

 

 カオステルが叫んだのとほぼ同時に、 どかあああん!と海面上に火柱があがった。

 火だるまになった吸血鬼どもが「あちいあちい」と言いながら海に沈んでいく。

 そしてその火柱の中心に立っているのは──

 

「──ってえなちくしょうがああああ! 殺されてぇのか、あァッ!!」

 

 ヨハン・ヘルダースだ。

 これに関してはヨハンに少し同情する。

 

「それはこちらの台詞ですよ。水着姿の閣下に無遠慮に話しかけるなど厚かましいにもほどがあります。あまつさえその小さく柔らかな御手に触れようとするなど言語道断ッ!」

「僕はテラコマリに泳ぎ方を教えようとしただけだ! それなのに人を変態みたいに扱いやがって………………むしろ変な掟を作って遠くから眺めてるほうがキモいだろ!」

「おい、お前たち………………」

「キモいからこそ距離を取るのです! 我々のような下賤の民が許可もなしに少女たちの(かた)らいに割り込めば絵画にとまったハエどころかゴキブリもいいところ! ねえベリウス」

「お前が言うのか?」

「とにかくヨハン、あなたは自分が汚物の一種であることを自覚するべきです! ほら、彼を見なさい。閣下たちに不埒な行為は絶対にしないと我々に誓い、レジャーシートの上で大人しくしているではないですか。あなたも彼を見習うべきです」

 

 おっと、カオステルの余計な一言でこちらに飛び火しそうだな。

 この状況で巻き込むのだけはやめてほしい。

 

「んだとコラァ!?!? 第七部隊はテラコマリの役に立つことが仕事だろ! テラコマリが泳げるようにサポートする! これのどこに間違ってる部分があるんだよ!」

「おい、私の話を──」

「ふん、脳みそ下半身が何を言っているのですか? 欲望が丸見えですよ? そもそも泳ぎのレクチャーをするなら他に適役がいるはずです。炎使いなどお呼びでない!」

「はっ、てめえみたいな変態に教えられるとでも? 絶対にさせねえぞ!」

「そこまで豪語するのでしたら殺し合いで白黒つけようではないですか。それがムルナイトの流儀ですからね……どうです? ここにいる者でバトルロイヤルを開催し、勝った者が閣下に泳ぎ方を教えて差し上げるというのは。もちろん閣下の許可を頂けたらの話ですが」

「おお」

「名案だ」

「それならば誰も文句はない」

「やってやろうじゃねえか!」

「あああああ滾ってきたあああああ!」

「まいったな。俺の右手が今にも暴れ出しそうだ」

 

 第七部隊の連中は武器が抜き、魔力を奔流(ほんりゅう)させる。

 殺意が辺りに充満する。

 流石に止めに入った方が良いかと立ち上がった時、

 

「……こ、……こらぁ──────────────っ!!」

 

 コマリ様は勇気を振り絞って大声をあげていた。

 隊員たちはきょとんとした表情でコマリ様に注目していた。

 コマリ様は深呼吸をしてから一気にまくし立てた。

 

「──なんで海まで来たのに仲良くできないんだよ! 物事を決めるのに毎回殺し合いをしていたら本当に困ったときに対応できないだろうが! 前回の七紅天闘争のときだってそうだったじゃないか! ここが核領域だってことを忘れてるわけじゃないだろうな!! いつ敵が攻めてくるかもわからないのに隊の人数減らすのはバカのすることだぞ!」

 

 しん、と場が静まり返った。

 その後、不安になったコマリ様を見てヴィルヘイズは開口した。

 

「正論お見事です。コマリ様も将軍として成長していらっしゃるようで安心しました。しかし第七部隊に関しては正論をぶつけると逆切れして下克上につながる可能性がありますね」

 

 ヴィルヘイズが言うような心配は無用だと思うけど、一応第七部隊の連中の動向は見張っているが、それは杞憂(きゆう)に終わる。

 隊員たちが「「「すみませんでした!!」」」と一斉に頭を下げた。

 さらにカオステルが申し訳なさそうに開口した。

 

「配慮が欠けておりました。すべてを武力で決めるのは野蛮でしたね。深く反省いたします」

「う、うむ。わかってくれたのなら嬉しい」

「おいテラコマリ! じゃあ誰がお前に泳ぎを教えるんだよ!」

「え? いや、それはサクナが──」

「閣下、こういうのはいかがでしょう。戦闘以外で何らかの競争を開催し、優勝した者が閣下に泳ぎ方をレクチャーするというのは」

 

 コマリ様の話を聞かずに話を進める隊員たち。

 一度ついた火はおさまらないようだ。

 コマリ様も観念したようで、

 

「……わかったよ。じゃあいちばん泳ぎが上手いやつが教えてくれ」

「え? まじで?」

「まずいな……俺泳げねえぞ」

「俺もだ……」

「右に同じく」

「これでは勝てない」

「これでは閣下に泳ぎ方を教えられない」

 

 あいつらはどうやってコマリ様に泳ぎを教えるつもりだったのか後で問い詰めてやりたい。

 

「ではビーチフラッグスなどはどうだ? ちょうど砂浜にいるのだからな」

 

 犬頭の獣人──ベリウスが腕を組みながら言う。

 ベリウスは最初から海に入るつもりは無いらしく、コマリ様の笑顔がプリントされた閣下Tシャツ第二弾を着ていた。

 着ているTシャツのせいで比較的まともな発言に違和感を覚える。

 

「名案ですねえ。しかし旗がありません。どこかによさそうなものは──」

 

 カオステルがきょろきょろと辺りを見渡して、

 

「──お。あれなんかはどうでしょう?」

 

 彼が人差し指で示したのは、海とは正反対の方向。

 山の向こうに巨大な塔らしきものが立っている。

 真夏の太陽を受けて黒々と照っている様子からは別次元の存在であるかのような印象を受ける。

 たしか宿泊予定の〝夢想楽園(むそうらくえん)〟っていうリゾートホテルだったような……。

 

「あそこに一早く辿り着いた者が優勝ということで構いませんね?」

「「「「つしゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」」

 

 隊員たちは砂煙をあげて走り去っていった。

 コマリ様は諦めたようにヴィルヘイズやサクナのほうへ振り向いて笑みを浮かべた。

 

「………………よし! 泳ぎの練習はとりあえずおいといて、まずはヴィルのお望み通り、もう一度勝負をしようじゃないか。まあ何度やっても私の勝ちだろうけどな!」

「はい。今度こそ負けませんよ────────いえお待ちください」

 

 ヴィルヘイズが右手を耳に当てた。

 ラッパーのメラコンシーから連絡を受けたようだ。

 しばらくして、ヴィルヘイズは「なるほど」と(うなず)いて通話を切った。

 

「コマリ様、遊びの時間は終わりです」

「えーっ!!! なんでだよ〜! もっと遊ぼうよ〜っ!」

「駄々をこねないでください。偵察中のメラコンシー大尉から連絡が入りました。どうやらネリア・カニンガムが起床したようです。そろそろ迎えの人間が来る頃でしょう」

「ど、どうしようヴィル! 心の準備ができてないよ!」

「ご安心ください。私の【パンドラポイズン】がありますから」

「おお…………………!」

「……ヴィル、私はこの後どうなるんだ?」

「すみません。遊びに夢中で発動させるのを忘れていました。これから視ます」

「ぐ………………仕方ないな。海、楽しかったもんな。ちょっと今から視てもらえるか?」

「はい。ですがお茶会の当事者の誰かに私の血を飲んでいただく必要があります。本来ならば相手側であるゲラ=アルカの人間に飲ませるのが望ましいのですが現状不可能です。もちろんコマリ様に飲んでいただくわけにもいきません」

「じゃあどうするんだよ」

「簡単です。ちょうどメモワール殿がいますので」

 

 ヴィルヘイズがサクナのほうを向いた。

 サクナは「え?」と首を傾げた。

 

「メモワール殿。私の血を吸ってください」

「え、……………え? ええええええ!! ヴィルヘイズさん……!?!?」

「何を恥ずかしがっているのですか? これはあくまで仕事です。コマリ様のためですよ」

「そ、そうですけど……でも吸血って………………ヴィルヘイズさんは、いいんですか……………?」

「大丈夫です。さあ、お願いします」

「うう・・・・・・でも、」

 

 ヴィルヘイズがサクナのほうに一歩近づいた。

 俺の横でコマリが何かを悟ったのか双眼鏡を取り出して、サクナの様子をじっと眺める。

 サクナはしばらく視線をきょろきょろさせて狼狽していたが、ヴィルヘイズの表情に冗談などないことを理解したらしい。

 小さな声で「失礼します」と断りを入れると、背後からヴィルヘイズを抱きしめるようにして彼女の首筋に歯を立てる。

 

 ──かぷ。

 

 ヴィルヘイズが短い声を漏らした。

 傷口からあふれた血液をサクナの舌がなめとるごとに彼女は身体をよじらせ息を荒らげる。

 一方でサクナは獲物を逃がすまいとがっちりヴィルヘイズの身体を抱きすくめ、頬を紅潮させながら一心不乱(いっしんふらん)に血液を貪っていた。

 吸血鬼とは本能的に血を欲する生き物──一度(いちど)血を吸い始めたら変なスイッチが入ってしまう。

 とはいえ、やや大袈裟(おおげさ)過ぎる反応だとは思う。

 あと何故か横でスイッチの入ったコマリがはあはあと息を荒くして少しうるさい。

 

「ふ、二人とも! そういうのは恋人同士とかでやることでしょ!?!?」

 

 コマリ様は両手の指の隙間から二人の行為を眺めつつ、辛うじて言葉を発した。

 しかし二人には声が聞こえていなかった。

 約十五秒ほどの時間が過ぎたとき、にわかにサクナが唇をヴィルヘイズの首筋からはなす。

 ヴィルヘイズは恨めしそうな目で背後のサクナを睨んだ。

 

「す、吸いすぎですよ………………」

「ごめんなさい! つい……」

「いえ。でも……お上手でした」

「は、はい。私も……美味しかったです」

 

 二人の行為を間近で見ていたコマリ様は呆けた表情を浮かべる。

 

「コマリ様、どうなされたのです? ──あ、コマリ様には刺激が強すぎましたね」

「は、はあ!? 私とお前は同い年だろ! むしろ私のほうが二月生まれでお姉さんだ!」

 

 ヴィルヘイズはくすくすと笑った。

 そして、ヴィルヘイズの両目が血のような紅色に輝いた。

 彼女の烈核解放【パンドラポイズン】が発動したのだろう。

 

 「視えました。ネリア・カニンガム──サクナ・メモワール 第七部隊──大丈夫です。コマリ様は死にません。今回に関しては工作をする必要もないでしょう」

 

 その後すぐにゲラ=アルカの案内人が迎えにやって来た。

 翦劉種の特徴である刀剣を腰に携えている。

 

「……コマリさん……鼻血、大丈夫ですか?」

「……大丈夫。しかし、少し私には刺激が強かったようだね」

 

 迎えに来た翦劉種の男は鼻血を垂れ流しながら息を荒くしているコマリの様子に若干(じゃっかん)引いていたのだった。

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