そしてもう一つ謝らなければいけない事が。前回からあれだけ言っておきながら、ココアちゃん出てこないです。
チノちゃんのエピソードが予想以上に長くなったのと、これ以上更新が遅れるのは不味いので分割した次第です。ココアちゃんファンの皆様申し訳ありません……!
しっかり布石も打っておいたので、次回にはどうあがいても彼女が登場します!させます!
さて、今回ちょっと退屈な部分もあるかなぁ、と感じました。私の力量不足ですね、ええ。もう少し展開を早目にできたらいいのですが、つい欲張って色々書き込むのどうにかした方がいいですかねぇ……。かといって端折ると不自然になったり。
と、ともかく、第五話です。感想とか評価もそうですが、誤字脱字文法的におかしい等ありましたら報告していただけると嬉しさで跳ね上がります。楽しんで頂けたら幸いです。
ではどうぞ。
コーヒー独特のほろ苦い香りが充満した室内──ラビットハウスの店内で、僕は女の子と対峙していた。
頭にうさぎ(ティッピーと言うらしい)を乗せたこの女の子、名前は香風 チノちゃん。ハウスオーナーのお孫さんらしく、学校に行く傍ら仕事のお手伝いをしているのだとか。これでまだ中学生だというのだから驚きである。
さて、そのチノちゃんと僕が面と向かい合って座っているのには理由がある。
「では、面接を開始します」
……そう、僕が働くに当たって、先ずは得手不得手を把握し、その情報を元に僕の担当箇所を決定する手筈になったのだ。
当然と言えば当然なのだが、採用の前段階ですべきことを今更行うのはどうなんだろう。必要な事なのは解るけど。
「特技はなんですか?」
「うさぎと仲良くなることです」
「合格です。ではシフトの話に──」
「待て待て待て待て!」
普通に面接を終了したかと思えば、唐突にリゼが口を挟んできた。
「もっと他に聞くことがあるだろう!? 料理の腕とか、接客業の経験とか!」
「なるほど……」
感心したように頷くチノちゃん。この子、もしかして素でやってたの?
……僕? 当然わざとボケた。
「では、他人より優れていると思う点を自己申告して下さい」
「うさぎと話せます」
「こちらが制服になります」
「あ、どうも」
「お前たち、わざとか? わざとやっているのか!?」
「リゼ、少し落ち着かんか……」
静かな店内にリゼの突っ込みが響き渡った。
……ていうか、最後の渋い声誰だ。
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「料理の経験はありますか?」
「あんまり凝ったものじゃなかったら作れると思うよ。あ、でもお菓子作りは趣味で結構やったかな」
「なるほど。佐藤さんは色々できるんですね」
「あはは、ありがとう。それでも大したものは作れないけどね」
「……では、コーヒーの識別はできますか?」
「いや、それはまだちょっと……」
「なんじゃ、最近の若い者はだらしないのう」
気を取り直して面接モドキを続ける僕とチノちゃん。思ったが、コーヒーの識別じゃなくて、要るのは作り方じゃないのか。決してだらしなくはない、筈だ。
「あ、それと佐藤じゃなくて上白って呼んでくれないかな。佐藤はちょっと、ね」
「えっと……上白さん、でいいですか?」
「うんうん、それでよし」
チノちゃんの反応に、僕は満足して何度も頷く。やはりこれから親しくしたい相手には、名前で呼んで貰ったほうが僕としても話しやすい。
するとどうかしたのか、リゼが若干目を見開いて僕達を見ていた。
「驚いたな。あのチノが初対面の男を名前で呼ぶなんて」
「上白さんは、どっちで呼んでも苗字みたいですから」
「ああ、確かに」
「甘そうな名前じゃな」
この子ら、人が気にしていることをよくもまあぬけぬけと言ってくれる。
「じゃあ、上白さんは基本的にウェイターとして働いて下さい」
「厨房はいいの?」
「うちはコーヒーがメインで、食事屋ではありませんので。有事には手伝って貰おうと思います」
「あまり騒がしいと、ワシが困る」
……。
……さて、そろそろいい頃合いだろうか。
「ねえ、チノちゃん」
「なんですか?」
「ティッピー、喋ってない?」
そう、時々ダンディーなボイスで茶々を入れてきた声の発生源は、チノちゃんの頭の上。つまりは、白く可愛いモコモコ。その名はアンゴラウサギのティッピー……なのだが、これは雲行きが怪しくなってきた。
「これは腹話術です」
──なるほど、そうきたか。
「明らかに声が違うよね?」
「腹話術ですから」
「……上から声が聞こえるんだけど」
「ティッピーの身体にマイクを仕込んであります」
「チノ!?」
あ、また喋った。
「いや、それは無理があ──「腹話術です」る……」
「腹話術です」
「……そうだね、腹話術すごいね」
僕が同意すると、明らかに安堵した様子を見せるチノちゃん。
もはや何も語るまい。人には知られたくない秘密の一つや二つあるのだ。僕の故郷とか親とか。
「いや、明らかにバレてるじゃろ」
ティッピー、それは君が言うべきじゃないと思う。
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「父です」
「はじめまして。君が上白君かい?」
「は、はじめまして」
あの後、騒ぎを聞きつけたのか店の奥から一人の男性がやってきた。紹介によれば、チノちゃんのお父さんなのだとか。
大人の男性を体現したような風貌に、僕は少し気後れしてしまう。
「父はバーを運営しています」
「え、ここってバーになるの?」
「夜はそうなりますね……それで、今日早速上白さんに手伝って欲しいそうです」
どうやら早速仕事の時間がやってきたようだ。折角雇って貰えるのだから、精一杯働いて貢献しなければ!
「よろしく頼むよ」
「はい!」
「私たちは先に上がりますね。頑張ってください」
「へんなミスするんじゃないぞ」
リゼ、君は僕の親か何かか。
「じゃあ、準備に取り掛かろう」
奥の部屋へ消えていく二人を見送って、僕はチノちゃんのお父さんと共に作業に取り掛かった。
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喫茶店をバーに模様替えし終わった後は、足りなくなった資材の調達と台拭き、洗い物を任された。初日ということで気を遣ってくれたのか、特に難しくない単純な仕事だ。
お客さんが帰った後のカウンターを布巾で拭いていると、タカヒロさん──チノちゃんのお父さんの名前だ──が声を掛けてきた。
「お疲れ様。そろそろ上がっていいよ」
「え……早くないですか?まだ二時間くらいしか経ってないと思うんですけど」
バーを開いてからは、体感だがそれくらいしか経っていない筈だ。初仕事とはいえ、あまりに短過ぎるのではないか。
そう主張すると、タカヒロさんは微笑み、口を開く。
「手伝って欲しい、というのは建前さ。本当は、君がどれくらい仕事が出来るかの確認だったんだ」
「な、なるほど。もう大丈夫なんですか?」
「働きぶりは申し分なかったよ。接客はまだわからないけど、噂通りならきっと大丈夫だろう」
「あ、ありがとうございます!」
恐縮して、つい頭を下げてしまった。まさかこんなに褒められるとは思っていなかったからだ。背中がむず痒い。
「そうだ、今日は泊まっていきなさい」
「はい……って、ええ!?」
待って、今この人とんでもないこと言わなかった?
「……あの、今なんと?」
「今日は泊まっていきなさい、と言ったんだ。夕飯も用意しよう」
「で、でも……」
「こんな遅くに子供一人を帰すのは、大人として認めるわけにはいかないさ」
そう言われ、僕は慌てて時計を探す。壁にかけてあったソレを見上げると、短針が丁度8時を指している。いや、別にそこまで遅くはないと思う。
反論しようとするが、先手をとって遮るようにタカヒロさんが言った。
「何、部屋は沢山ある。心配しなくていい」
そういう問題ではない。タカヒロさんだけならまだしも、この家にはチノちゃんも一緒に住んでいるのだ。知り合って間もない男性を家に泊めるとなると、誰だって抵抗感を持つ筈だ。
そう伝えると、タカヒロさんはもう一度微笑んだ。
「なら、チノに聞いてみよう。それでいいかい?」
「……わかりました」
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「──ということなんだけど」
「上白さんが、うちに……ですか?」
「うん。嫌だったら当然断ってもいいんだよ?」
タカヒロさんにチノちゃんを連れてきて貰って、事の詳細を告げる。
チノちゃんは言葉に詰まったようで、凍結している。そりゃあ、急遽そんなことを言われたら困るだろう。年頃なんだから、嫌悪感があっても不思議ではない。そうなるとちょっと傷付くが──。
「本当ですか!? 是非色々お話を聞かせてくださいっ」
最後の砦が無残に崩れ去る音が聞こえた。
「え、いいの? 問題ないの? 即答なの?」
「うさぎと仲良くなれる秘訣を、是非ご教授してほしいと思っていたんです!」
ああ、それが本音か。
「それに、うさぎ云々を別にしても、上白さんの近くに居るのは不思議と心地良いんです」
「そうなの?」
なんとも嬉しいことを言ってくれる。リゼが「チノは物怖じする」なんて前置きしてたにも関わらず、すぐに馴染んだのはこういうわけか。
「空き部屋にご案内します。荷物はありますか?」
「……あ、そういえば外に置きっ放しだったかも」
サーカス用の小道具等は公園に放置してある(一応隠し場所はつくってある)が、服や財布などの必需品はバッグに入れて持ち歩いているのだ。
「た、大変です!」
パタパタと走って外へ飛び出すチノちゃん。荷物が盗られてないか確認しに出てくれたらしい。治安がいいから大丈夫だとは思うが。
「た、たたたた大変です!!」
僕も後を追って歩いていると、外からチノちゃんの叫び声が響いてきた。まさか、盗まれていたのか?
慌てて僕も外へ。そこには、硬直したチノちゃんと──。
「あ、うさぎ」
僕の荷物にわらわらと群がっているうさぎたちがいた。
うさぎたちは僕に気が付くと『見つけたー』『置いてくなー』『おなかすいたー』などと次々に捲くし立てる。寂しがり屋なところも死ぬほど可愛い。けど野菜はちょっと待って。
「う、うさぎがこんなに沢山……!」
目をキラキラ輝かせてうさぎたちに熱い視線を送るチノちゃん。うさぎが懐かない体質とか言っていたが、果たしてその真相はどうなのか。非常に気になる。
「ちょっとこの子たちにチノちゃんのこと聞いてみるよ」
「え、いいんですか!?」
「任せて」
僕はうさぎたちの前でしゃがみ込み、問いかけた。
「ねえ、後ろの子どう思う?」
チノちゃんの息を飲む様子が伝わってくる。
うさぎたちは思いの外考え込んでいるようで、彼らの呟きが聞こえてきた。
『後ろの?』『人間?』『知らないうさぎの匂いがする』『なんだかうさぎっぽい』『確かに』『お仲間?』『敵?』『なわばり争い勃発?』
こそこそと相談しているうさぎたち。結論が出たのか、一斉に僕を見上げた。可愛い。
『『『侵略者』』』
いや、その結論はおかしい。
「ど、どうでした?」
「あー、なんか警戒されてるみたい。うさぎの、ティッピーの匂いが原因だと思うけど」
「失敬なっ! ワシはきちんと身体を洗っておるわい!」
そういう問題ではない。
「なんだか、うさぎの匂いがするからーって半分うさぎに間違えられてるみたいでさ。縄張りを荒らされるんじゃないかって警戒してたよ。あと、なんとなくうさぎっぽいって」
「そ、そんな……! 一体どうすれば……」
「うーん、ちょっと待ってね」
再びうさぎたちに向き直る。警戒されているなら、それを解いてしまえばいいだけの話だ。
「ねえ、この子はうさぎじゃないよ。だから、君たちに乱暴はしないし縄張りを奪ったりもしないよ」
『なんと』『そうだったのかー』『てっきり戦になるのかと』『食べられるのかと』『弱肉強食かと』
「……」
意外と物騒なことを考えていたようだ。
「だからさ、今日みたいに触られてもいいかな?」
『仕方あるまい』『さとーのお願いなら』『わかったから野菜はー?』『野菜はー?』
うさぎたちの野菜コールを無視して、僕は振り返った。
「触っていいってさ」
「本当ですかっ!?」
溢れんばかりの眩さに包まれいているチノちゃん。よだれが垂れているのは見なかったことにしよう。
「で、では早速……!」
膝を折り、しゃがむチノちゃん。
恐る恐る手を差し出しては引っ込める。そんな行為を幾度と繰り返し、ついに指先がうさぎの頭に触れ──。
「──っ!?」
バッと、驚愕したように手を引っ込め、指先を見つめた。
また手を伸ばす。今度は手のひら全体でうさぎの頭を撫でる。おっかなびっくりである様子が、ここからでも伝わった。
「……チノ。ついにやったか」
僕の隣で感慨深げに呟いたティッピー。色々突っ込みたいが、今は飲み込もう。その意見には僕も同意だ。
ついにうさぎの一匹を持ち上げ、抱き寄せることに成功する。その瞬間、チノちゃんの表情に笑顔が咲き誇った。表情の乏しい子だと思っていたが、そんなことはなかったみたいだ。年相応の可愛らしい姿を、惜しげも無く晒している。
「ふわふわです、もこもこです……! 夢みたい……!」
歓喜に染まるチノちゃんを見ていると、僕まで嬉しくなってくる。セッティングした甲斐があったというものだ。
うさぎを撫で、抱きかかえ、頭に乗せるチノちゃん。心の底から楽しそうに戯れる彼女を、僕とティッピーが見守っていた。
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「あの、ありがとうございました」
散々触れ合って満足したのか、チノちゃんが嬉しそうな余韻を残しながら僕に頭を下げてきた。
ちなみに、うさぎたちには帰ってもらった。変わりに今度大量の野菜を献上しなければならなくなったわけだが、必要経費というやつだ。
「僕は何もしてないよ」
「でも、上白さんが居なかったらこんな機会は二度と来なかったかも知れないです」
「ワシからも礼を言うぞ」
「あはは。まあ、どういたしまして」
チノちゃん(とティッピー)の、感謝の言葉が照れ臭くて頬が赤くなる。誤魔化すように、僕は口を開いた。
「それより、早く家に戻ろう。まだ春だけど、夜は冷えるよ」
「はい、今度こそお部屋に案内します」
ご機嫌な様子で玄関を潜り抜けるチノちゃん。その後を追って、中へ。
話し合いの結果、幾つかある部屋の中から二階の洋室を貸して貰うことになった。
「お風呂は湧いていますので、自由に入って下さい」
「チノちゃんは?」
「私はもう入りました」
「あー、うん。じゃあありがたく使わせて貰うよ」
家庭用のお風呂なんて随分久しぶりだ、なんて少し感動していると、一階からタカヒロさんが顔を出してきた。
「チノ。先方から電話があってね。明日には下宿しに来るそうだよ」
「そうですか、わかりました」
それだけ伝えると、タカヒロさんは職場に戻っていく。会話の中に気になるところがあったので、僕はチノちゃんに質問してみた。
「ねえ、明日誰か来るの?」
「遠方から、この街の学校に通う方が春からここへ下宿しに来るそうです。私より年上の女の人だって聞いてますけど」
「へえ、そうだったの」
春といえば入学シーズンだ、あり得ない話ではない。
「そういうの、なんか憧れるなぁ」
「上白さんは、高校はどちらに?」
──僕の動きが停止する。同時に、チノちゃんが首を傾げた。
「……あの?」
「あ、あはは。か、家庭の事情で今は行ってない、かな」
「そうなんですか?」
それで納得してくれたのか、それ以上の追求は無かった。危ない、油断した。
「そ、それよりチノちゃん。夕飯は僕が作るよ!」
「え、でもお客さんにそんなことは」
「いいから、泊めてもらうせめてものお礼だよ。それ以外何もできないしさ!」
「……じゃあ、お願いします」
「うん、是非任せて!」
これ以上僕の私生活に興味を持たれてはたまらない……!
強引な話題転換に成功し、安堵の息を漏らしながら、僕は台所へと急いだ。
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「息子よ」
「なんだ親父」
「あれが、お前の昔馴染みだとかが言っていた小僧か」
「ああ。まだ若いのに相当苦労しているらしい」
「ふん、ここは託児所ではないわ」
「とか言いながら、話を聞いた時は随分同情してたじゃねぇか」
「そ、そんなことないわいっ!! 心配なんぞしとらんわ!」
「親父、いくら容姿がソレだからといってもツンデレはやめとけ」
「だーれがツンデレじゃ!!」
読了有難うございます!
……ええ、わかります。チノちゃんは可愛い、天使。そうでしょう?(ウザい)
原作では笑顔がレアなチノちゃんが、拙作ではあっさり笑います。うさぎのちからってすげー。
さて、チノちゃんが最初から好感度高い理由は当然ありますので、ご安心を。勘のいい方は予想もついてるかもしれませんね。あ、ちなみに半分はリゼちゃんの前情報のせいですw
ここで皆様にご報告。
夏休み終わりますね。つまりは忌々しいアレが再開するということです、ええ。
何が言いたいかというと、確実に更新が遅れます。申し訳ないです。
できるだけ早目に仕上げようと思いますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。