「何があったか申してみぃ?」
「殴りました」
「殴られました」
千束に言われて、俺は顎をさすりながら、たきなを指さす。
そう、俺は何が何だかわからないままたきなに殴られたのだ。
脳を激しく振動させるその拳がクリーンヒットし、アクアのヒールでなんとか復活した俺だったが、加害者のたきなだけじゃなく被害者である俺まで正座。
「いや、どうして俺まで正座させられてんの!?」
「喧嘩両成敗じゃ」
「いやいやおかしいだろうが! 俺何にもしてないのにいきなり襲いかかられたんだが!? というか、たきなが座ってる場所は日光当たってない日陰だから何でもないかもしれないが、俺の場所は直射日光ガンガン当たっててあっちぃし!」
本当にわけわからん!
そももそ何も悪いことしてないのにたきなにいきなりぶん殴られた時点で意味わからん!
……もしかしてたきなさん、遅ればせながら反抗期か?
ほとんど家事育児をしている一家の主夫に反抗期を露わにしたのか!?
いままで止まっていた成長が一気に始まって、それが前面に出てきたってことだとしてもお父さん寂しい……
「んなぁ、昨日までの非暴力てきなに戻っておくれよぉ……下着を一緒に洗濯するのとか、勝手に部屋に入って掃除機かけるのとかもうしないから」
「てきなってなんですか! 私はたきなです! というか、そんなことで殴るとか、私のことをどんな野蛮人だと思ってるんですか……」
「あれよ、こっそり洗濯のついでに下着をかき集めてくんくんしたり、掃除機かけるのを理由に部屋の中に入ってニヤニヤしたりしてたから、今ここで懺悔しちゃおうって心づもりよ」
「違う!」
何言いやがるんだアクアてめぇ!
それは初期の頃の話だろうが、今はしっかり娘の面倒を見るがごとく、愛情を持って家事してるわ!
たきなと千束はそれを知ってるからアクアの言葉に惑わされたりしない……
……しないはずなんだが、心なしか距離を感じる。
「いいか、俺はお子ちゃま二人にときめいたりなんかしない。ただ、急に反抗期が到来して、そのストレスが一気に爆発したんじゃないかって思っただけで……」
「反抗期なんてもうとっくの昔に過ぎてますよ! ……たぶん」
「たぶん? もしかしてたきなは反抗期来なかった的な?」
「まあ、もう、そういうことでいいです」
たきなは忘れたか、来なかったのかはわからないが、俺は覚えてる。
思春期真っ盛りな少年時代、テストの点がやばくて隠そうとしてたそのときに、かーちゃんに部屋の中強行突破しようとドアの前で抵抗したとき、これが親に反抗してるってことかと自覚。
その後、お小遣いダウンの危機を乗り切るために、囮の薄い本を発掘させ、『これとーちゃんの。なんか面白くなーい』と言い放ち、いざこざをすべてを親父に丸投げしたのは懐かしい記憶だ。
「反抗期じゃないっていうんだったら一体何だって俺のこと殴ったんだよ。ジャ○アンでももう少し理不尽じゃないぞ?」
「……本当に言ってます?」
「何だよ」
「本当に、私が怒ってる理由について心当たりがないっていうんですか? ついさっきのことなのに」
「何だよ、さっきって。俺はただポリスメンに緊急連絡しようとしてたのを止めようとして、それでステイって言ってただけだが?」
俺のアクエリを飲んだたきなが、いきなり「9・1……」ってコールし始めたから「ステイ!」って取り上げようとして取り上げようとして手を伸ばして……
いや、わからん、一体俺のどこが悪かったのか、全くわからん。
「何で首をかしげてるんですか! アタナ、さっきスティールしようとしてましたよね!?」
「だって、それはたきなが悪いだろ! 警察なんて呼ぼうとするから、警察の人に余計な迷惑かけないように奪い取ろうとして……」
「駄目です! 普段の生活で私がその技を食らったときには大体剥ぎ取られてるんですよ! ぱっぱぱぱパンツが!」
「今日は水着だろ? パンツなんてとれるわけないじゃんか」
はいてないもんを盗めるわけないんだよなぁ。
そんなこともわからないってことは、きっとたきなは日本とハワイの寒暖差に頭がやられたに違いない。
そんなこと思っているとたきなと同じく顔を真っ赤にした千束が。
「水着なら余計だめじゃろ! 一つ間違えればどうなるか!」
「そうです、千束の言うとおり、あの露出狂認定される状況に追い込まれる凶悪技を使おうとしたのを見たら、反射で殴ってしまうのもしょうがないことです」
「私だって水着着てるときにその構えされたら飛び膝蹴りをうっかり繰り出しちゃうもん、職業病ってやつだししょうがないったらしょうがないね!」
「反射的に人を痛ぶるな! 職業柄危険察知能力が高いのはわかるが、だからって殴るって判断は脳みその信号だろ! 脊髄のせいにするな!」
膝に衝撃が加わったり、熱いものを触ったり、そう言う無意識的な動作にしてはしっかり俺の顎を捉えやがったんだぞ!
絶対殺すつもりで俺に向かってきたに違いない。
あの一撃を回避スキルが働いて避けることができてなかったら、今頃俺の顎の骨は無残に粉砕されていたことだろう。
「そもそも俺のスティールがそう言うものとったらとったで、すっぽんぽんになった上か下かを隠そうとした隙に携帯を奪い取ることだってできるんだからな! そんくらいで殴るな!」
「こ、これが噂に聞く逆ギレですか!? おおよそ私の水着を剥ぎ取ろうとした人の言動じゃないですよ!」
「お前もお前で人の顎を打ち砕こうとしたのに反省の一つもないんか!」
「別に打ち砕こうとまではしてませんから! た、確かにとっさに手が出たのは隠密を主とするリコリスとして相応しくないと反省はしましたが、カズマだってそれ相応のことをしましたよね!」
たきなの水着を盗む、所謂窃盗罪、もしくはセクハラ。
俺の顎が打ち砕かれる、所謂暴行罪、もしくは殺人未遂。
どっちが糾弾されるべきかなんてわかるだろ!
だが……
「カズマ、怒りを静めたまえー! 逆に考えるのだ、打ち砕かれちゃってもいいさ、と。むしろ美少女にビンタ以上のことをされるってことでご褒美だ、と」
「殴られて喜ぶのはドエムだけだわ」
「カズマは違うの? その界隈ではご褒美だって聞いたよ?」
「違うよ? どの界隈だよ?」
千束はご覧のように頼りにならない……ってかほとんど俺がスティールしようとしたことを聞いてたきな側に落ちている。
そんでたきなは、自らの罪と俺の行いを鑑みてプラスマイナスゼロだと言う。
俺が何を言っても一方通行な今、第三者視点で物事を俯瞰できる部外者、もとい俺の弁護人に公平にジャッチしてもらうしかない。
そこで俺はジャッチメントを呼び出した。
「もう千束は駄目だ、別のひとじゃないと……ミカさん! 召喚!」
「いや、なんでせんせ呼び出す?」
「お前らと違って大人な店長なら公平にどっちが悪かったかって言ってくれるんじゃないかって思ってな」
「私がいるじゃん! 両方ごめんなさいして仲直りすればいい話でしょうが!」
「でもおまえ、たきなの言い分に賛成してるじゃん。ってことでスタッフーっが呼んでるんで来てくださいてんちょー!」
「そんな変なかけ声で先生が呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんするわけないじゃん! 今頃フキの面倒を見に行って……」
「呼ばれた気がしたが、呼んだか?」
いつの間にかいなくなっていたアクアは、サクラに代わってフキさんの看病、もとい回復魔法による治療を行ってくれたのだろう。
頭に冷えピタを張り、顔は赤いフキさんがやってきた。
いつもよりお淑やかに見えるのはミカ店長がエスコートしてくれているからに違いない。
というわけでアクア、ミカさん、フキさん、サクラの4人がタイミングよく来てくれたのだ。
たまにのたまに、本当にたまたまだったがいい仕事をしてくれたアクアには後でいいお酒を酌してやろう。
ミカさんが来て「ほ、本当に来たぁ!?」と仰天する千束。
千束に甘い節があるミカ店長だが、それでも一番落ち着きがあってダンディーで、俺のことを公平に見てくれるだろう。
男同士だからこそわかることもある!
「というわけでミカさん! 俺とたきな、どっちが悪いと思います?」
「……とりあえず素直に謝った方がいいと思うぞ?」
「ミカさん!?」
「先生がそう言うんだったらそれが正しいだろ」
「フキさん!?」
「なんか面白いことになってるっすね! 話の流れは点で読めないっすが日本人たるもの長いものに巻かれるべきっすよね」
「サクラてめぇ!」
一瞬にして敵の勢力が拡大してしまった。
サクラは後で、砂浜で昼寝してるときに日焼け止めクリームを落として、サングラスかけさせて、目の周りだけ日焼けさせないように仕組み、逆パンダ状態にする報復をするとしよう。
しっかし、後俺のことを擁護してくれそうなやつは……
サイレントさん、私服がダサいし当てにならない。
ミズキさん、酔い潰れてるから論外。
クリス、真島さん、ロボ太、店にいて呼べない。
クルミ、諸悪の根源。
碌なやつがいないじゃねーか!
「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故、それから300件の怪我に至らない事故があると言われている。話を聞く限りじゃカズマがたきなをからかったのがそもそもの発端だろう?」
「うっ、そ、それは……」
「結果を見るとカズマが被害を被ったように見えるが、認識の違いが招いた、元々小さなことが大きく膨らんでいったせいで起こった軽微な事故だ」
「俺、顎かち割れそうになったんですが!? どこが軽微だよ!」
リコリスの連中は生死をかけた戦いをしてる奴らもいるし、この程度どうってことはないのかもれいないが、一般的に見てこのレベルの一撃は致命傷なんよ!
たまたま俺が高レベルじゃなきゃ死んでたね!
俺が反論していると千束が。
「まあまあ、カズマがたきなの水着をとる前に殴ってでも止めたおかげでクルミからの借金が増えなかったって。そう考えるようにした方が精神衛生が保たれるから、ね?」
「流石に怖すぎ! えっ? じゃあ俺ってたきなに感謝すべき立場なのか?」
「そうそう。『たきなが俺のこと殴ってくれたおかげで助かりました!』って言って……」
「言うかっ! というか他人事だからそういう風にいえるんだよ千束は! あのたきなの必殺顎骨壊死粉砕拳を食らってみてからもう一回さっきの言ってみろ! ほら、現場検証してやるから!」
「ええっ! 嫌だよ、わざわざあんな鈍くて痛そうな一撃に当たりにいくなんて、私ならひょいって思わず避けちゃうね」
「その界隈ではご褒美なんだろ?」
俺はたきなにあのときのポジションに立つように指示して、千束を俺のいた場所に誘導する。
二人とも乗り気じゃないが、俺のまくし立てるような言い方に押されて狼狽えながらも位置につく。
「よし! そしたらたきなはパンチ! 千束はライフで受けろ!」
「えっと、千束、行きますよ?」
「逝きたくない!」
「だ、大丈夫です! 流石に弱めますか」
「おっと、何手加減しようとしてるんだ? 手加減なんてさせないぜ!」
「カ、カズマ? 本気じゃないですよね? 私、本当に反射でさっきの一撃繰り出したんですよ?」
「ならいいじゃないか。さっきの再現、千束に体験させてやろうぜ?」
「ちょ、カズマ? 私すんごい嫌な予感するんだけど、一体ないしようとして……!?」
「『スティール』ッ!!」
千束の後ろの方からスキルを発動。
俺の手にはハラリと布の感触。
さっきお店で選んだたきなの水着と同じ質感だ。
それと同時に、目に宿る光を消したたきなが千束の方に拳を繰り出す。
しかし、残念かな、千束は宣言通りひょいと軽い身のこなしで避け……
俺の顔面に凶悪無慈悲な飛び膝蹴りが繰り出された。
反射的にやっちまうのは本当だって確かめられが、どうしてこの二人は水着状態でスティールすると俺の顔を狙うのだろうか。
徐々に近づいてくる千束の膝カブ。
避けられない。
いつもならお得意の回避スキルで避けられるのに今回ばかりは無理だ。
何故なら俺の頭は両手でがっちりホールドされてるから。
俺の思考がゆっくりと、走馬灯を見てるあのシーンのように流れる。
そして思い出した。
1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故、それから300件の怪我に至らない事故があるとミカさんの言葉を。
今まさに重大な事故が起きようとしてる真っ最中
多分俺の顔面は助からない。
この後ジャ○アンのパンチで顔面が陥没してる○び太が、リアルで見れることだろう。
まあ、アクアが怪我を治してくれるだろうしいっか。
俺は諦め、目を閉じ、片手に感じている布の感触を長く感じるのに集中することにした。
その後のことは言うまでもないだろう。
第60話、キリがいいですね!
キリがいいので毎週投稿はこの辺で。
というのも、生活スタイルの変化、深刻なネタ不足(ガチ)などが……
あとモチベーション的にはそろそろ千束たちをこのすば世界転生させたいなって。
完結っぽい雰囲気出しましたが、続いてほしい人いますか?
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