正義の味方は生徒の味方   作:久村夏樹

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プロローグ
始まりの日


地獄(理想)を見た。

 

地獄(未来)を見た。

 

地獄(末路)を見た。

 

いずれ辿る、地獄(理想)を見た。

 

 ■

 

「……私のミスでした」

 

 車窓から差し込む夜明けの光が正面に腰掛けた彼を照らす。

 

 ――穏やかに揺れる赤い外套に、見る影はなかった。

 

 外套は所々が裂け、その鎧もひび割れ、砕けている。

 右側腹部の銃創からは、血が流れ続けていた。

 そして項垂れる彼の体は――その足元から消え始めていた。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」

「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて」

 

 俯いたまま、語り掛ける。

 合わせる顔は持ち合わせていなかった。自ら救いを求めておきながら、自らの選択によって全てを壊してしまったのだから。

 

「……今更図々しいですが、お願いします。■■先生」

 

 彼の体がわずかに動く。消えかけて尚、(生徒)の願いに応えようとしている。

 拒まれないことを知っていた。呪いになることを知っていた。知りながら懇願した。

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

「何も思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから」

「ですから……大事なのは経験ではなく、選択」

「あなたにしか出来ない選択の数々」

 

 脳裏に浮かぶのは自らの選択()

 争いのない世界なんてものを夢見ていたわけではなかった。せめて自分の知りうる限りの世界では、だれにも涙してほしくなかっただけだった。

 連邦生徒会長に就任した時、その願いが都合の良い理想論であると悟った。キヴォトスを生かす為、より多くの願いの為、何かを犠牲にし続けてきた。

 

 アビドス高等学校は砂に沈んだ。

 ゲヘナ学園とトリニティ総合学園は互いにつぶしあった。

 アリウス分校は闇に消えた。

 ミレニアムサイエンススクールは名もなき神々の王女に滅ぼされた。

 キヴォトスは――赤く燃えた。

 

 その果てに残ったのは彼と私――数刻後には後悔だけだ。

 この結果を招いたのは他ならぬ自分自身。

 

「だから先生、どうか――」

 

 先生に託します。

 私の消えたキヴォトスを。

 今度こそ全ての生徒を幸せにしてあげてください。

 ――――正義の味方みたいに。

 

 ■

 

「……先生、起きて下さい」

 

 鋭い声が意識を覚醒させる。

 呼び声に応じてみれば、乱暴な召喚で意識を飛ばされた挙句、叩き起こされるとは……。()()貧乏くじを引いてしまったか。

 

「先生!」

 

 ――耳元で叫ぶのはやめてほしい。ゆっくりと立ち上がり、声の主を見下ろし観察する。妖精のような尖った耳に艶やかな黒髪を持つ女性。頭上には青いリング状の物体がふわふわと浮いている。初対面であるはずの私を()()と呼んだ彼女はこちらを見上げ、値踏みするような視線を向ける。

 

「……」

「少々待っていて下さいと云いましたのに、お疲れだったみたいですね、中々起きない程に熟睡されるとは」

 

 彼女の反応に違和感を覚えつつも、最初の確認事項を口にする。

 

「君が私を呼び出した――連邦生徒会長(マスター)か?」

「違います。」

 

 即答されてしまった。

 

「少し()()されているようですね。もう一度、あらためて今の状況をお伝えします」

「私は七神(なながみ)リン、学園都市「キヴォトス」の連邦生徒会の幹部――正確には主席行政官です」

 

 ――リン。その名を聞き、前回の召喚された時の記憶が喚起される。

 同じ名を持つ同年代の少女であるというのに、片や粛々と状況説明をし始めた少女、片や頭に血が上り考えなしに令呪を切った少女。よくあれであの戦争を切り抜けられたものだ。――フッ。かつての(マスター)との出会いを回想し、思わず表情を変えてしまった彼にリンは怪訝な顔を向けながらも説明を続ける。

 

「――そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが」

「ああ。確かに私は連邦生徒会長に呼び出されここへ来たのだが、その様子から察するに……」

「ご察しの通り、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないのです」

 

 リンは表情を曇らせたが、一瞬目線を外すとすぐに毅然とした態度で向き直る。

 

「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今は私についてきてください」

「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけないことがあります」

 

 その表情から、いかに情勢が逼迫(ひっぱく)しているか容易に窺い知れる。「こちらへ」と告げエレベーターへ向かうリンを呼び止めた。彼の服装は――黒い鎧に赤い外套、さすがにこのままというわけにはいかないだろう。

 

「すまないが目的地に向かう前に更衣室を借りてもよいだろうか。この服装はいささか目立ちすぎる」

 

 リンは要望を了承し、更衣室の場所を伝え、着替えの用意について質問する。彼は一言「問題ない」と答えると、早足でロビーを出ていった。

 

 ■

 

 ――ひどく動揺していた。()()()()()()の動揺の原因に確信を得るため、自身の解析を開始する。更衣室に移動した一番の理由はこのためだった。自身の肉体といえど、生物の解析には集中力と少々の時間を要する。

 

 ――解析、開始(トレース・オン)

 

 ――魔術回路二十七本確認――

 ――動作可能回路二十七本正常――

 ――魔力量正常――

 ――身体損傷個所確認デキズ――

 ――神経系、内臓損傷個所確認デキズ――

 ――身体機能ノ異常確認デキズ――

 

 感情を隠すことは得意分野だと思っていたのだが、初対面の女性に――混乱されているようですね――見抜かれるとはな。

 

 結果から言えば私は――()()()()()()

 

 この身は霊体から通常の人間と変わらない肉の体へと変わり、抑止力(アラヤ)からの干渉すらも消えている。霊長の守護者の任を解かれ、自身の体が人間の一個体として成り立っている。

 不可思議なことはそれだけではなかった。魔力パスの繋がりを感じない。私を召喚した(マスター)は間違いなく連邦生徒会長を名乗る少女であると確信していた――にも拘わらず主従契約が結ばれていないのだ。

 そのような驚愕の事実に倒れそうになる体を壁にもたれかかりながらも何とか支え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思考をまとめる。幸いリンについていけばすぐに会うことができるだろう。

 

 彼は鎧と外套を消し去り、先生という立場に馴染む衣装を投影した。革靴に黒いスーツ姿は、誰が見ても彼が()()であると納得させてくれるだろう。投影が終わると、更衣室を後にしてロビーへと急ぐ。その背中は()()()()()()を受け持ち、寺に()()し、()()()を操る何処かの()()()()にどこか似ていた。

 

 ■

 

「――問題ないようですね」

 

 リンは納得したような表情で軽く微笑むと、エレベータのボタンを押し込み、乗り込むように促す。ガラス張りのエレベーターから差し込む太陽光に目を細めながら乗り込み――息が漏れた。

 清潔感のある白を基調とした建造物が立ち並び、自然の緑が溶け込んだ街並みは、科学と自然環境の調和を実現している。

 後から乗り込んだリンがパネルを操作し、エレベーターが上層へと移動を始める。

 感激と驚愕が入り混じった表情で街並みを眺める彼をみて、リンは笑みを浮かべながら告げた。

 

「「キヴォトス」へようこそ」

 

 エレベータが上昇する間にリンはこの都市(キヴォトス)について簡潔に説明する。

 聞かされることのほぼ全ては自身の知りうる常識から大きく逸脱しており、気づけば首をひねり、困惑の表情を浮かべていた。説明を終えたリンは励ますように言葉を付け足す。

 

「きっと先生がいらっしゃったところとはいろいろなことが違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……」

「でも先生なら、それほど心配することもないでしょう」

「あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」

 

 少し遠くを見つめながら告げた最後の一言からは、リンが連邦生徒会長に多大な信頼を寄せていることが分かる。

 ドア上部のランプと、エレベーターの減速が間もなくの到着を教える。

 リンが少し慌てた様子で頭を下げる。

 

「――っ申し訳ありません。先生の名前をお聞きしていませんでした」

「いや、こちらこそ失念していた。私の名前は――」

 

 一瞬間が開いた。

 この名を名乗る資格が私にあるのかと、考えてしまったから。

 

 ――答えは得た。大丈夫だよ■■。オレも、これから頑張っていくから――

 

 いつだって前向きで、現実主義者で、とことん甘い少女との誓い。

 そうだったな。私はすでに答えを得ている。今の私ならこの名を名乗れるだろう。

 

「私の名前は――エミヤ――シロウだ」

 

 エミヤがキザな笑顔で告げると同時にエレベーターのドアが開く。エミヤとリンは騒がしいレセプションルームへと足を踏み出した。




英霊エミヤがキヴォトスで先生やってるSSを探したけど見つからなかったので自給自足。
文章へたくそだったり、引用多いのは許してほしい。これから練習していきたいと思ってるので温かく見守ってください。

――大丈夫だよ、読者。オレも、これから上達していくから――
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