正義の味方は生徒の味方   作:久村夏樹

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『連邦捜査部シャーレ』へ

 レセプションルームに足を踏み入れると、リンと似た白い制服の少女数人――連邦生徒会の行政官か――に対し、異なる服装をした四人の少女が怒りをあらわにしながら何かを要求していた。先頭に立つ青髪の少女が私たちに気づき、相対する行政官を無視し早足でリンに詰め寄る。他の三人もすぐにこちらの存在に気づきリンを取り囲むと、四人は怒りと苛立ちを含んだ声で口々に声を張り上げた。

 

「代行! 待っていたわよ! 今すぐ連邦生徒会長を呼んで来て!」

「主席行政官、お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました、風紀委員長が現在の状況について納得のいく回答を要求されています」

「トリニティ自警団です、連邦生徒会長に直談判をしに参りました」

 

 リンは露骨に表情を歪め、物凄い権幕で詰め寄る四人と突然の主席行政官(リン)の登場に怯えた表情で戸惑う行政官たちをハンドサインで下がらせると、あからさまに溜息を吐いた。

 主席行政官の立場でそのような態度はいかがなものかと思う。心底面倒くさそうな態度を見せるリンを放置するわけにもいかず、横から4人の少女に話しかける。

 

「四人とも少し落ち着きたまえ。あまり怒ると()()()顔が台無しになってしまうぞ」

 

 エミヤがにこりと微笑みながら告げると、四人の少女は朱を差したように顔を赤らめ戸惑いの表情を浮かべ、リンは何とも言えない表情をこちらに向けた。

 エミヤは白髪に褐色の肌という特徴的な容姿をしてはいるが、顔は整っており、190cm近い恵まれた体格を持ち、街を歩けば十人中九人の女性が振り返り、商店街を歩けばおばちゃん達におまけを貢がれて帰還する、そんな男性であった。そんなエミヤがスーツを着こなし、自然な笑顔を向ける。それは十代の少女達を鎮めるには十分すぎるほどだった。

 

「かっ……かわ……って、えっと?どっ……どちら様でしょう?」

「私はエミヤシロウ。此処(キヴォトス)()()をすることになった。よろしく頼む」

「えっ!!……先生、ですか!」

 

 少女たちが狼狽える様子を見てリンが補足する。

 

「先生の身元は主席行政官として私が保証します。エミヤ先生はキヴォトスの先生として連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

 

 リンの一言で少女たちは納得したようで落ち着きを取り戻す。

 ――先程の雰囲気から少しばかり不安だったが、思いのほかリンは信頼されているようだ。

 

「キヴォトス外から来られたのですか。私はトリニティ総合学園、正義実現委員会 副委員長の羽川ハスミです」

「同じくトリニティ総合学園、自警団の守月スズミです、よろしくお願いします」

「ゲヘナ学園、風紀委員会の火宮チナツです」

「こ、こんにちわ先生、私はミレニアムサイエンススクールの――「そのうるさい方は気にしなくていいです。それで連邦生徒会長ですが――」」

 

 リンが青髪の少女の自己紹介をあからさまに遮る。先程真っ先に詰め寄ってきたことを根に持っているのだろう――意外と腹黒いようだ。笑顔を貼り付けたまま会話を続けようとする。

 

「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!――というか連邦生徒会長の指名ってことはやっぱりいるんじゃない、何で何週間も姿を見せないのよ!?早く呼んで来て!数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!? この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

 自己紹介を済ませると青髪の少女――ユウカはリンに向き直り早口でまくし立てる。それを皮切りにチナツ、ハスミ、スズミもリンに現状を訴える。

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」

「不良たちが登校中の生徒を襲う頻度も、急激に高くなりました。これでは治安の維持が難しいです」

「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しています、これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 数週間留守になった程度でそこまで治安が悪化するとは――連邦生徒会長とやらはよほど優秀だったのか、中央集権が裏目に出たか。

 

「私も此処(キヴォトス)にきてから連邦生徒会長とは対面していない。私も、彼女に早急に確認をとらなければならないことがある。リン、彼女は今何処に――」

「連邦生徒会長は現在行方不明です」

 

 ――――何?

 

「結論から言うと、サンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなった為、現在の連邦生徒会は行政制御権を失っている状態です」

 

 私を含めた皆が混乱し、愕然とした表情をするなかリンは涼しい顔で淡々と現状を説明した。

 

 ――――――ではどのようにして私を召喚した。

 私を召喚したのが連邦生徒会長を名乗る少女だということは私自身が自覚している。術者が行方不明の中で召喚、ましてや受肉させるなど――――――

 

「――しかし、この先生こそがフィクサーになってくれるはずです」

「……私が?」

 

 リンの声に冷静さを取り戻す。そうだ、私は今唯一の()()であり、()()だ。()()に不安を抱かせるわけにはいかない。

 

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた部活――『連邦捜査部シャーレ』の担当顧問として、此方に来る事になりました」

「部活?顧問?いったい何の関係が――」

 

 質問を挟むユウカを無視してリンは続ける。

 

「便宜上部活と呼称しておりますが、一種の超法規的機関です、所属は連邦組織になりますのでキヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを、制限なく加入させる事が可能なものです、更に各学園の自治区で、制約なしで戦闘行動も許可されています」

「戦闘行動?……生徒会直下の組織が戦闘などすることがあるのか?」

「?エミヤ先生、キヴォトスで戦闘なんてにちじょ――」

「ああ、キヴォトス外から来た先生には馴染みがないと思いますが、実際に見ていただかないと理解いただけないと思いますので今は気にしないでください」

 

 またもやユウカの発言をさらりと遮り、リンは私の質問に答える。

 ――さすがに根に持ちすぎではないだろうか。ユウカは顔を真っ赤にし、涙目でリンをにらみつけ、他の三人はかわいそうなものを見る目でユウカを眺め黙っている。

 

「シャーレの部室はここから30㎞程離れた外殻地区にあります。連邦生徒会長の命令で、そこの地下に先生宛の荷物を持ち込んでいます」

「その荷物が行政制御権回復にかかわっている……ということですか?」

「はい、ですから先生をすぐにお連れしなければなりません」

 

 リンは、ハスミの質問に簡潔に答えながら手元の端末を操作する。

 ユウカはなぜか今度はハスミをにらみつけており、ハスミは気まずそうに視線を合わせないようにしている。そのような光景を見ていると、数度のコール音が鳴り、リンの端末から投影された立体映像(ホログラム)には、行政官の制服を着たピンク髪の少女が映った。

 少女は行儀悪く寝そべりながらポテトチップスを食べており、そのままの姿勢でリンと会話を始めた。リンが咎めないところを見るに、いつものことなのだろう――あれでは食べかすで床が汚れる、今度会ったならば注意しなくては――。

 

「モモカ、先日言っておいたヘリの件なんだけど……」

『ああ、外郭地区の……シャーレ?までってやつだっけ、あそこ今、大騒ぎだけど?』

「大騒ぎ?」

『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』

「……うん?」

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしているみたいなの。違法改造銃バンバン撃ってるみたいで、巡回中の生活安全局(ヴァルキューレ)も全滅寸前みたいだよ?』

「……」

『それで、連邦生徒会所有のシャーレ?の建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに大事なものがあるみたいな動きだけど?』

「……」

『まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな……あっ、先輩、お昼ごはんのウーバー来たから、また連絡するね!』

 

 ブツッ……ツー、ツー、ツー

 

「……」

 

 ――沈黙。リンが黙ったままわずかに震えており、表情を見なくても憤りが空間を介して伝わってくる。ユウカ達四人も顔を青くして、視線を合わせないように逸らしている。

 あれだ、学校から帰って来たら玄関で母親が明らか切れた状態で待機しているあれだ。――まあ、私にそのような経験はないが。決死の覚悟で問いかける。

 

「リン、その……大丈夫か?いろいろ物騒な言葉が聞こえたが……」

「……大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

 ――いや大したことだろう!戦場とか違法改造銃とか言ったぞあの子!

 リンは平静を装おうとしているがわずかに震えた声で返答すると、ユウカ達四人に視線を送り何かを考えているようだ。

 

「え……な、何?どうして私たちを見つめてるの?」

 

 ユウカがただならぬ雰囲気を感じ、不安げな表情を浮かべた。今回は遮られなかった。リンはにっこりと満面の笑みを向け一言。

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

「……え?」

「エミヤ先生、先程の戦闘の件に関してですが、思ったより早くお見せできそうです。ではキヴォトス正常化のために、行きましょうか、皆さん」

「ちょ、ちょっと待って――」

 

 他の三人はもう諦めているようだが、ユウカはまだ反論するつもりのようだ。

 

「まさかミレニアムサイレンススクールは危険な戦場に先生が赴くというのに、放置を決め込むような素敵な校風を持ってらっしゃるなんてことはありませんね?」

 

 またもや発言を遮られた上に一言で封殺される。

 すでにヘリが待機しているようで、促されヘリポートへ向かう。先程と変わらず張り付いたような笑顔でリンは告げる。

 

「では参りましょうか、『連邦捜査部シャーレ』へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ランキング、日間(加点式・透明)部門で1位になってました!
ありがとうございます!正直もっとぼろくそに叩かれるもんだと覚悟していたので本当に嬉しいです。

本当はもう少し先まで書きたいのですが、とりあえずここまでで投稿します。
次から戦闘に入って長くなると思うのでので今回は許してほしい、ごめんなさい。

追伸
 リンのcvはエミヤの義母であるアイリさんと同じだったりする。
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