正義の味方は生徒の味方   作:久村夏樹

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開幕の刻

 D.U.外殻地区、シャーレへと続く公道。爆発が咲き乱れ、銃弾が雨のように飛来する中、エミヤは横転した車両の陰から信じられない光景を目にする。

 

「――いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

「ユウカ、射線に入らないでください。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません」

 

 セーラー服に自動小銃を携えたニ十数名の不良少女――不良のレベルは優に超えているが――が撃ち続ける弾丸を、ユウカは文句を言いながらも前衛として、一身に受け続けている。痛みは感じているようだが、怪我と呼べるほどの外傷を負う気配はない。ハスミは狙撃銃を構えながら、ユウカの発言を訂正している。

 エミヤは数多くの戦場を経験してきた、だからこそ確信していた。

 不良達の自動小銃、ユウカの持つ短機関銃、ハスミが構える狙撃銃、頻繁に飛び交う手榴弾、それらによる銃撃、爆発に至るこの戦場の全てが本物であることを。

 

 ――半信半疑であったが……。

 

「彼女たちの言っていたことは、本当だったのか……」

 

 ■

 

「――彼女たちを戦場に出すつもりなのか!?」

「申し上げた通りです。彼女たち四人には別動隊(ヴァルキューレ)が到着するまでの時間稼ぎを担ってもらいます」

 

 シャーレへ向かうヘリの中で私は驚愕と困惑、そして少しの怒りを含んだ声色でリンを問いただす。リンは当然のことのように、顔色を変えないまま返答する。ユウカ、ハスミ、スズミ、チナツの四人も彼が()()()()()()()()()()()()()()()であるような表情で、取り出した銃火器の手入れを中断して反応する。

 

「私は風紀委員会として日々不良を相手取っていますので……、ハスミさん、スズミさんもトリニティの治安組織の方々ですし、戦力的にも時間稼ぎ程度なら問題ないかと」

「先生、ご安心を。不良生徒の制圧は仕事のようなものですから」

「私も慣れていますので、ハスミさんとは共闘したこともありますし大丈夫です」

「わ、私だって戦えますよ、先生!」

 

 四人が当然のように戦闘参加を受け入れている。心配する私を安心させるように声をかけてくれる生徒達――――いや、戦力が足りる足りないの問題ではないのだが……、何か認識のずれを感じる。

 リンは私に視線を合わせ、至極真剣な眼差しで、言い聞かせるように私に説明する。

 

「エミヤ先生はもうお気付きになられていると思いますが、私たちの頭上に浮かぶ円環、これは『ヘイロー』と呼ばれているものです。キヴォトスの生徒はそれぞれ独自の形状のヘイローを持っています。」

 

 確かにリンを含めてこの場にいる五人、視線を前方に向ければ、操縦をしている行政官の頭上にもそれぞれ異なる形状の円環が一定の距離を保って浮遊している。

 

「そしてヘイローは生徒にとって()、または()()に相当する存在でもあります。しかし裏を返せばヘイローがある限り私たちは()()()()()()()()()()

 

 ――――ヘイローがある限り死なない?しかし――

 

「――だが、ヘイローが破壊されたらどうする!頭上に浮いているのならば、弱点をさらしているようなものでは――」

「では、試しに私のヘイローに触れてみてください」

 

 リンは、早口でまくし立てる私の右腕を両手でつかむと、自らの頭上へと誘導し、有無を言わせずヘイローに触れさせ――触れられなかった。確かに手が触れているはずだが、ホログラムのようにすり抜ける。

 

「このようにヘイローは物理的実体がありません。痛覚がないわけではありませんので、銃撃を受ければ痛みは感じますが、肉体的にはほとんどダメージを負うことがありません。そのためキヴォトスでは銃火器を合法的にほぼすべての生徒が所有し、喧嘩にも銃火器を持ち出す為、戦闘が日常茶飯事なのです」

「先生、ご納得いただけましたか。そういうわけですので私たちにお任せください」

 

 説明が終わるとスズミが嫌な顔一つせず、安心させるように笑顔で告げる。

 キヴォトスの生徒達にとってそれが当たり前のことなのだろう。だが、痛みによって肉体が傷つかなくとも、精神は削られる。私は身をもってそれを知っている。ならば――

 

「――私も戦場へ行かせてもらおう」

 

 説明を聞いたうえでの衝撃の一言に、生徒たちは即座に否定する。

 

「エミヤ先生、それは許可できません」

「行政官の言うことはもっともでしょう。サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すのに先生が必要である以上行政官とともに別動隊(ヴァルキューレ)が来るのを待つべきです」

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……。私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる危険があります」

 

 エミヤは有無を言わせぬ鋭い眼差しでリンを見る。元英霊が放つ威圧感を前にリンは冷や汗をかきながらも一歩も引かずに視線を合わせ続ける。

 

「私も此処(キヴォトス)に来るまで多くの戦場を経験してきた。ゆえに自分の実力、立場は弁えているつもりだ。前線に立つつもりはない、後方からの戦術指揮に専念する。それでどうかね」

「――っ、どうしてそこまで……。私の説明では信用できないと――」

「長く生きている分、人を見る目は持ち合わせているつもりだ。君の言うことはおそらく本当なのだろうし、四人が手練れだということも理解している」

「では何故?」

()()たちが戦場へ赴くというのに、()()である私が安全圏で指をくわえて眺めているわけにはいかないだろう」

「……。」

 

 リンは無言でエミヤの申し出を受諾した。ユウカ達はリンの意向に従う様子を見せる。

 間もなくして、目的地から少し離れた場所にヘリが着陸する。

 ユウカ達が装備を整えヘリから降りていく。降りる寸前、エミヤが背を向けたまま視線のみを動かし、平然とした声で言う。

 

「リン、時間を稼ぐのはいいが―――――」

 

 声はエンジン音に遮られる。しかしリンは口元の動きで彼の衝撃的な発言を逃さなかった。

 

 ――――別に、全滅させてしまっても構わんのだろう?

 

 ■

 

『ユウカ、接敵してヘイトを稼げ』

「は、はい!」

『仕留めることは考えなくていい。向こうの銃撃が始まり次第シールドを展開しろ』

 

 インカムを通じてユウカに指示を送る。ユウカは建物の陰から飛び出すと不良達にサブマシンガンを乱射する。――食いついた。

 不良達は数舜痛みに身をよじらせるも、指揮官と思われるものの指示で体勢を立て直し迎撃を開始する。それと同時に「――計算、完了」ユウカの周囲に直径一メートル程度、青白い正六角形で構成された球体上の電磁シールドが形成される。シールドに触れた弾丸がユウカの後方へと弾かれる。

 

『銃撃を続けながら後退を開始、距離は五十メートルを維持』

『ハスミ、ポイント到達までにできる限り頭数を減らす。狙撃手を優先して射程に入り次第仕留めろ。位置は集団右後方の車両陰に二人、左後方の路地に一人』

「分かりました」

 

 ユウカが二丁のサブマシンガンを巧みに使いこなしながら後退し始めたのを、エミヤは一キロメートルほど後方から()()()確認した。

 エミヤは『鷹の目』とも呼ばれる視覚能力を持つ。これは高速で移動する相手でも、四キロメートル以内の距離であれば正確な狙撃を可能とする、つまり途轍もなく目が良い。この場においても能力を遺憾なく発揮して戦場の全てを文字通り見通し、あらゆる情報を収集している。

 

『想定通りだ、不良生徒二十四の牽引に成功。スズミ、チナツはそのまま待機、スズミは集団のポイント通過に合わせ閃光弾(スタングレネード)を投擲、チナツはドローンを展開しユウカを援護しろ』

「「了解」」

 

 加えて、エミヤが修行、鍛錬によって培った洞察力は、歴史に残る大英雄にも劣るものではなかった。心眼として昇華されたそれは、五倍以上の戦力差という窮地の中であっても最適解を導き出す。生徒達の装備、戦闘スタイル、地形、果ては不良達の装備、指揮系統に至るまで全てを利用し、――――戦場を支配する。

 

「敵狙撃手、射程圏内に入りました、狙撃を開始します」

 

 戦場の緊張感が漂う中、孤独な狙撃手(羽川ハスミ)は敵の位置を探し、狙いを定める。呼吸は静かで、心臓の鼓動だけが耳に響く。狙撃銃の銃口がわずかに上下左右に微調整され、瞬間的に爆発的な音が響き渡り、弾丸が高速で飛び出す。その弾丸は空中で曲がりながら目標に向かい、車両陰から覗く不良狙撃手の頭部へ――――

 

「命中、戦闘不能を確認。狙撃を継続します」

 

 不良生徒が一瞬、身を乗り出すようにしてから地面に倒れ込み、沈黙する。ハスミはそれを確認すると、銃口を動かし標的を別の不良狙撃手に変更する。二度三度、煙と火花が銃身から吹き出し、同様に不良の頭部を打ち抜いた。

 

「狙撃手三名の戦闘不能を確認しました」

『よし、よくやった。引き続き射程の長い者を優先して狙撃を継続しろ』

「了解です」

 

 これ程の狙撃手が副委員長だとは……正実(正義実現委員会)はよほどレベルの高い組織なのだろう。エミヤは芸術ともいえる鮮やかな狙撃を前にそのようなことを考えながらも、戦況を俯瞰し指示を飛ばす。

 

『ユウカ、シールドはあと何秒持つ?』

「計算上は……二十秒くらいです!」

『そのまま行けば十五秒でポイントを通過するはずだ、シールドが切れ次第物陰に退避。スズミは閃光弾(スタングレネード)のタイミングに注意しろ』

「「はい!」」

 

 ユウカがポイントを通過する。電磁シールドが崩れるようにして空間に霧散し、ユウカが転がり込むように物陰へと入った――『全員目と耳を塞いで、口を開け!』――瞬間、強烈な光と音が不良達を襲う。視界が白く染まったであろう不良達がパニックを起こし銃を乱射し、何人かが味方の弾丸によって倒れこむ。

 

『ユウカ、チナツ、スズミ、閃光が収まり次第、視覚が戻る前に強襲し仕留めろ』

『ハスミ、一人閃光弾(スタングレネード)に対処した不良がいる。おそらく指揮官だ、体勢を立て直される前に――』

「了解、こちらで仕留めます」

 

 ハスミがこちらの意図をくみ取り、言い終える前に返事を返す。

 閃光が収まると同時にユウカ、チナツ、スズミが三方向から銃撃を開始する。視覚が戻らない中での複数位置からの攻撃に、まともな反撃などできるはずもなく同士討ちは加速し、三人の銃撃によって脱落者は増加していく。

 

「馬鹿っ!射撃を止め――」

――ダンッ

 

 「命中」と小さな声でハスミはつぶやく。不良達をまとめようと声を張り上げた指揮官は、頭部に弾丸が命中し弾かれたように崩れ落ち、視覚が戻らない中でそのことを察した不良達はさらにパニックに陥り、あらぬ方向に弾丸を撃ちまくる。この様子ならあとは三人によって残党も殲滅されるはず――――!。

 

 「――っ」

 

 ハスミはビルの屋上を見て――狐と目が合った。

 ハスミに油断はなかった。ハスミは優秀な狙撃手だった、だからこそ気づいた。しかし、戦闘の才において(ワカモ)は群を抜いていた。

 世界が減速するようだった。既に銃口は自分の脳天をとらえている。思考は冴え渡っているのに体が動かなかった。火花とともに銃口から弾丸が飛び出すのが見える。その弾丸は、ゆっくりと、自分の脳天に、迫って――――――ガツンッ!

 

 ハスミの視界は、黒く染まった。

 




読んでいただきありがとうございます!遅くなって申し訳ないです。
ちょっといろいろ忙しくて今もtoeic受けた帰りの特急列車の中で書いています。
でも今週でひと段落ついたので、今後はもう少し早くなりそうです。

ちなみにブルアカコラボは爆死しました。130連★3一人だけはおかしいやろ
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