『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第5話

 

入学三日目、森崎は盛大に顔面を腫れさせて登校してきた。

クラスメイトの数名も昨日までの元気はどこへやら、一様に青い顔をしている。

相当に親から絞られたのだろう。人伝で事情を把握している他の生徒は触れずに目を逸らした。

 

無理もない。十師族の一つ、『正体不明(アンノウン)』六道家の当主が動いたのだから。

森崎達の保護者らは六道リンネから直接連絡を受け、事の顛末を知らされ子供の教育方針を全否定されガチで説教された。

子供を通じて噂の六道家と縁を繋ぎたいと考えていた彼らは、悪い意味で名前を憶えられてしまったのだ。

森崎家は魔法師の名家であるが『数字付き(ナンバーズ)』でもなく、多少名が知れている程度の比較的若い家系。

他の生徒らの家はそれ以下だ。六道家との力の差は圧倒的。

お家取り潰しすら容易い。物理的にも社会的にも完全に抹殺できてしまう。焦るのも当然だろう。

 

しかし子は親を見て育つもの。この親にしてこの子有りだ。

保護者らの大半もなぜ非難されたのかが理解できていない有様で、六道を怒らせたことを叱り六道を怒らせないように厳命するだけで、子供らに対して『何が悪いのか』を教えることができた者は少なかった。

故にその指示は『二科生とは徹底的に距離を置け』というものでしかなかった。

後日察した六道は頭を抱えたが、問題を起こさなくなっただけマシと思うしかなかった。

 

 

だがこれで達也と深雪はつつましい生活が送れるようになって順風満帆……とはいかなかった。

深雪は書記として生徒会に招かれることになった。これは例年の首席入学者に対する通例であり、理解できる。

問題は達也が風紀委員会に所属することになった方だ。

実技の成績が劣る二科生に、力づくで違反者を取り締まる治安維持を命じる。

六道のように達也の実力を察しているのでなければ明らかに人選ミスだ。

一科生からの反発も予想される。とにかく悪目立ちすることになるだろう。

 

原因はやはりというか、彼の妹である深雪だった。

シスコンの達也が『深雪が低く見られることが耐えられない』ように、ブラコンの深雪もまた『達也が周囲に認められていない現状が受け入れられない』らしい。

だから兄にも相応の地位に付き実力を示してほしいと望み『自分と一緒に生徒会入りを』と生徒会長の七草に懇願したが流石に通ることはなく。

しかし居合わせた風紀委員長の渡辺の助言で『生徒会推薦枠』として彼の風紀委員会入りが決まった。

決め手は昨日の事件、渡辺すらも怖れて動けない状況で堂々と六道と七草の間に割って入り、事態を収めたこと。

風紀委員の役目は揉め事の仲裁であるのだから、達也の胆力は是非とも欲しいと渡辺も内心で望んでいたらしい。

達也の風紀委員会入りを把握した六道は秘匿回線で達也に問い詰め、その経緯を聞いて素直に謝罪した。

 

 

そして数日が経過。

教師推薦枠で森崎も風紀委員会入りしたと聞いており、丁度達也が六道を訪ねて来たので問題が起きていないかを確認した。

彼が言うには、露骨に避けられているだけで衝突してくることはなかったとか。

それならばいい。それはいいのだが。

 

「なんでこう、面倒ごとばかり起きるかなぁ」

 

「今回ばかりは自分に非はないと思いますが」

 

自分自身もトラブル体質であることを自覚している六道はそれ以上達也に言い返すことができなくなった。

 

今日より『クラブ活動新入部員勧誘期間』となる。

デモンストレーションのためにCADの使用を許可されている在校生が有望な新入生を取り合って、例年通りに激しい争奪戦を繰り広げ始めていた。

達也は風紀委員としての仕事も兼ねてクラスメイトと共に校内を巡っていたらしいのだが、彼らの目の前で剣道部と剣術部が衝突。

剣術部の生徒が魔法を使い剣道部の生徒を攻撃しようとしたところを達也が風紀委員として取り押さえ、そのまま剣術部全てと大乱闘を繰り広げたとか。

 

「そいで、貴様は言い残すことはあるか?」

 

「…………」

 

六道はベッドの上に座る、件の剣術部の生徒である桐原を冷たく見下ろしながら問いただす。

そもそもここは医務室であり、達也が六道に会いに来たのは騒動で鎖骨を折った桐原を養護教諭である彼女に預けるためだ。

 

「……ありません。全面的に俺が悪いです。

 停学でも退学でも構いませんので、他の剣術部部員は見逃してはもらえないでしょうか」

 

「……後悔するなら最初からするなよ馬鹿者が」

 

魔法との併用が前提の剣術部に所属するのは一科生で、魔法不使用の剣道部は二科生だ。

厳密に基準が設けられているわけではないが結果としてそうなっている。よって剣術部は剣道部を見下している。

達也と剣術部の部員たちの大乱闘が始まったのは、二科生の風紀委員に一科生の仲間が拘束されたことを認められず達也に襲い掛かったのが発端だそうだ。

しかし目の前にいる桐原はどこまで殊勝で、本気で反省していることがうかがえた。自分を打ち倒した達也に対する悪感情も感じられない。

 

「司波……だったか?お前にも謝る。悪かった」

 

「いえ、これが仕事ですので」

 

「貴様はただの阿呆ではなさそうじゃな。

 だと言うのに、何故ここまで短絡的な行動に出た?」

 

「…………言えません」

 

「男の意地か。であれば無理に聞き出すのも野暮かの」

 

桐原は反省も覚悟もしている。しかしだからこそ対処に困る。

七草たちは何とか処分を軽くしようとするだろうが、六道としてはお咎めなしとはできない。

森崎と1年の一科生に対する六道の沙汰は既に校内の誰もが知るところであり、その噂も冷めやらぬ状況でまた仕出かしたのだ。

しかも今度は2年。入学したばかりの新入生よりも更に罪は重い。

ここで六道まで甘い対応を取れば一科生たちは一層つけあがるだろう。

 

「ふむ……達也。お主はこれから生徒会の方に顔を出すんじゃよな?」

 

「はい。十文字会頭にも同席していただき、事態の説明を」

 

「その場で一つ提言してもらいたい。儂の代理としてな」

 

「何をでしょうか?」

 

 

 

「剣術部および剣道部に対して、懲罰と指導を兼ねた模擬戦を行う。

 もちろん、相手は儂じゃ」

 

「「!?」」

 

「儂が想定していたより遥かに早いが見せてやろう。

 十師族が一つ、六道の力と恐ろしさをな」

 

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