『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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この世界で異質なものと映らないように、ヒノカミは己の能力にアレンジを加えてこの世界の魔法に寄せた形で使っています。
……ということにしておいてください。


第6話

 

魔法の臨時講師、六道リンネによる剣術部と剣道部への指導を兼ねた模擬戦。

当初は放課後に行う予定だったが新入生・在校生問わず多くの観戦希望者が現れると予想できていたため、部活動勧誘が滞らぬよう日中の授業の一画を使って行われることになった。

会場も校内最大規模の大きさと設備を誇る第一体育館を使用することとなり、二階の観客席を埋め尽くすほど大勢の人間が座っている。

生徒会も風紀委員会も、教師ですらもこの試合に注目していた。

 

実は六道リンネは、まだ魔法の臨時講師としての業務を一度も行っていない。

彼女自身が新任であり、学校側も新入生の入学から間もないため非常に慌ただしい。特に本年度は六道自身の赴任により例年以上の騒動になっている。

よって彼女が教鞭をとるのはある程度お互いの環境が落ち着いてからということになっていた。

何しろ彼女は『正体不明』。六道家の国家と国民への献身から人格者であることは疑っていないがどのような性格かもわからず、学校側も彼女との距離を測りかねていたのだ。

 

彼女が他者と会話する場合は全てサウンドオンリー。

医者として施術する場合でも患者が麻酔で寝ている間に一人で済ませてしまっていた。

よって彼女が他者の前で魔法を披露すること自体、これが初めてである。

唯一の例外は九島烈。他の十師族は当主ですら、彼女の魔法の概要しか伝えられていないらしい。

注目が集まって当たり前だった。

 

公開されているのは、六道リンネは『熱量制御魔法』と『治癒魔法』を得意としていること。

前者はともかく、後者を用いた戦闘というのは想像がつかない。

だと言うのに六道は前者の魔法は殺傷能力が高すぎるし被害も大きくなりがちだからと、後者寄りの魔法だけで戦うと宣言している。

しかも剣術部と剣道部全員を、まとめて一度に一人で相手するという。獲物も彼等に合わせて竹刀を持ち込んでいる。

 

 

 

「儂の魔法は『治癒魔法』ということになっておるが、より正確に言えば『生体強化魔法』でな」

 

身に着けているインカムを通じて、六道の言葉が会場全体に響く。

防具を身に着けた集団の前に立つ彼女は、養護教諭らしくいつもの白衣姿のままだった。

 

「自身や他者の生命体としての能力全体を底上げする魔法なんじゃ。

 治療行為では自己治癒力の向上に注力しているが、本来は筋力や思考速度、五感、抵抗力など人体の持つあらゆる能力が強化される。

 よって儂の基本戦闘スタイルは『魔法で強化した己の肉体で戦う格闘戦』となる」

 

「「「……!?」」」

 

六道の暴露に会場がどよめく。

加速や加重、移動魔法を使った肉弾戦を得意とする魔法師も、確かに存在する。

だが十師族を始めとした魔法師の名家の中では少数派だ。

近年の魔法戦闘において、魔法師に求められているのは火力である。

大出力で多数かつ広範囲の敵を一斉に薙ぎ払うのが役目であり、己の身を危険に晒しながら接近して一人一人を打ち倒していかねばならぬ近接戦闘は効率が悪い。

護衛や切り込み役ならともかく、いざ他国との戦争が始まれば誰よりも活躍を求められている十師族の当主にはふさわしくないように映るだろう。

 

「皆の考えていることはわかるが、割と妥当じゃぞ?

 仮に戦になった時、治癒魔法を使える者が務めるのは戦闘ではなく後方支援じゃ。

 敵を倒すことではなく味方を死なせず、己が死なぬことを何よりも優先せねばならぬ。

 己の生存率を上げ速やかに戦場を移動できる自己強化魔法はうってつけじゃろ?」

 

指摘されて納得の声が広がる。

そうだ、六道家は治療魔法の大家。

そもそも前線に駆り出されるべきではなく、当人の戦闘能力はさほど重要ではない。

 

「そう、儂は本来戦闘が得意ではない。だがそれでも十師族の当主。

 ……ケツの青いガキに後れを取るなど、天地がひっくり返ろうとありえんよ」

 

対戦相手、特に剣術部の生徒たちが怒りをあらわにする。

この模擬戦は六道一人に対し生徒数十人という人数差に加え、『生徒側は六道に一撃でも当てれば勝利』という破格の条件が設定されている。

魔法戦闘が苦手と断言する魔法師にここまで見下されて冷静でいられるほど、一科生の生徒らは大人ではなかった。

 

 

 

「それでは、用意……」

 

審判を務める風紀委員長の渡辺が右手を上げる。

六道は気だるげに竹刀を肩に乗せ、対する生徒側は殺気立つ剣術部の部員たちが前に出て彼女を取り囲む。

 

 

 

「はじめ!!」

 

生徒たちがCADを起動し、各々の魔法を発動。一斉に斬りかかる。

 

 

 

「「「!?」」」

 

だが彼らの眼前で六道の姿が消えた。

 

ズバババババババッ!

 

次の瞬間、生徒らが一斉に宙を舞い会場の壁に勢いよく叩きつけられる。

そして消えていた六道の姿が現れた。

 

 

「……六道教諭、今、何を……!?」

 

合図をしたと同時に突如生じた暴風にあおられ目を閉じてしまった渡辺が、再び目を開けると生徒側が全滅していた。

状況が理解できず、渡辺は震える声で傍に立つ六道に尋ねる。

 

 

「ささっと動いて全員叩いた。それだけじゃ」

 

「は、はぁ!?」

 

 

「嘘じゃないわ……!」

 

二階席から見ていた七草が声を上げる。彼女の他にも目の良い者はかろうじて六道の動きが見えていたようだ。

 

「六道教諭は試合開始直後に一度だけ魔法を発動していたわ!

 多分、本当に強化魔法だけ……そして目にも止まらない速さで舞台を走りまわって、全員を竹刀で攻撃したのよ!」

 

「「「なぁ……っ!?」」」

 

七草の隣に立っていた十文字も見えていた側で、彼には珍しく驚愕を隠しきれていない。

体術使いである達也も同様で、人知れず冷や汗を流している。

 

(魔法発動までの速度も一瞬……早過ぎる、そして速過ぎる!

 あの速度で動いて肉体が無事なはずが……いや、強度も含めての強化ということか!

 音速に迫る高機動戦闘、思考速度もどれほどの域に達している!?)

 

「……っ!勝者、六道リンネ!

 保健委員を呼び……いや担架だ!急げ!」

 

崩れ落ちたまま意識がない生徒たちに気付いた渡辺は慌てて宣言し、控えていた風紀委員の部下たちに指示を出す。

 

 

 

「何を寝ぼけたことを言っておる?」

 

六道は渡辺の肩を掴んで動きを止め、足元から白い炎を周囲にまき散らす。

倒れていた生徒らは炎を浴びて意識を取り戻し、困惑の表情で動き出す。

確かめるように自分の体を何度も触っていて、どうやら傷どころか痛みすらないようだ。

 

「馬鹿な……あれほどの衝撃、骨はもちろん臓器すら損傷していたはず……!」

 

「それを一瞬で、しかもあの人数を……これが六道家当主……!」

 

十文字と七草が思わず声を上げる。

白い炎を止めた六道が竹刀を突き出し生徒らを指す。

 

「立て。もう一度じゃ」

 

「!?何をおっしゃっているのです!もう勝負はつきました!」

 

「『儂に一撃当てたら生徒側の勝利』。

 それ以外の終了条件は設けていない」

 

「まさか……!?」

 

 

「貴様らが儂に一撃を加えるまで終わらんぞ。

 倒して癒して、倒して癒して、また倒してまた癒す。

 ……何度でも何度でも、何度でもな」

 

 

「「「!?」」」

 

「どれ、今度は少し猶予をやろう。

 今から1分間、儂はお主らを攻撃しない。

 1,2,3……」

 

「っ!?うわぁぁぁぁーーーっ!!」

 

突然カウントダウンが始まって、剣術部の生徒の一人が慌てて魔法を発動しようとする。

六道の足元に陣が現れた。近づきたくなかったのだろう。加重魔法での拘束を試みたようだ。

彼女の身体能力なら発動までのわずかな時間でその場を抜け出すなど容易。だが彼女は敢えて動かなかった。

 

間もなく、生徒が発動しようとしていた魔法は跡形もなく砕け散った。

 

「は……?」

 

「魔法とは『事象を改変する力』じゃ。

 同一物体に複数の魔法が発動した場合、干渉力が強い方が優先される」

 

六道の魔法は『生体強化魔法』。

彼女は常に己の肉体に魔法をかけ続けている。

あれほどの超人的な動きを可能にするほどの高出力の魔法を。

 

「儂の干渉力を上回る魔法師でなければ儂に魔法を届かせることはできぬ。

 そして儂の干渉力は五輪の全力でも遠く及ばぬ」

 

「五輪って……五輪澪!?」

「十師族で、戦略級魔法師の!?」

「十三使徒以上って……じゃあ……!」

 

狼狽する生徒らに、六道は改めて残酷な現実を突きつける。

 

 

「そうじゃ。『儂に魔法は効かぬ』。

 儂に直接作用するものはもちろん、魔法を込められた物体も儂に近づくだけでその効力を失う。

 どれほど優れた魔法師であろうと『魔法師』でしかないのなら儂には勝てぬ」

 

 

「そ、そんな……!」

「魔法が、効かない……!?」

「……んなモンどうやって倒せってんだ!!」

 

「儂が『魔法以外も学べ』と再三口にしていた理由がわかったか?

 魔法が全く通用せぬ存在、その実例がここにおる。

 そして儂以外にもおらぬとも限らぬ。

 貴様らがそんな敵を前にした時、戦うどころか逃げ出すことすらできなくなるからじゃよ。

 ……さて、1分経った。ではいくぞ」

 

「「「!?」」」

 

ズドォォォン!!

 

再び六道の姿が消え、轟音と共に生徒たちが吹き飛ばされた。

そして再び白い炎が戦場を包み込む。

 

 

「ほれ、もう一回。さっさと立て」

 

「っ!ひぃぃぃっ!?」

 

痛みと恐怖に負け、生徒の一人が竹刀を放り出して逃げ出そうとする。

しかし即座に回り込んだ六道がその胸倉を掴み持ち上げる。

 

「はっ、放し……っ!」

 

「敵前逃亡とはいい度胸じゃな。……歯ぁ喰いしばれ」

 

「!?」

 

六道は竹刀ではなく拳を振りぬいた。

防具を砕き腹に深々と突き刺さり、殴り飛ばされた生徒は血を吐いて壁に叩きつけられる。

 

「うっ、ごほっ、がぁぁぁ……っ」

 

「剣士が武器を捨て敵に背を向けるとは、士道不覚悟。本来なら切腹もんじゃよ。

 罰としてしばらく苦しめ。1分後に綺麗に治してやる。

 ……さぁどうした?貴様らもあぁなりたいか?」

 

 

「「「ぅぁぁああああああーーーっ!!」」」

 

 

生徒らは半ば錯乱しながら、恐怖に駆られて飛び込み、またも叩きのめされる。

逃げることは許されない。倒れることも許されない。

それはただの蹂躙だった。一科生も二科生も、等しく虫けらのように踏みにじられた。

 

 

 

(あの干渉力の前では、俺の『本来の』魔法すら……!)

 

何が『治療役』だ。何が『後方支援』だ。何が『戦闘は不得意』だ。

彼女の素性と能力が伏せられていた理由がはっきりわかった。

 

六道リンネは『魔法師殺し』だ。

現代の魔法社会における、全ての魔法師の天敵だ。

 

彼の特殊な瞳で観察する限りでは、あの強化魔法は『系統外魔法』。

四系統八種類に属しておらず、キャストジャミングによる強制魔法解除はおそらく通じない。仮に通用してもあの干渉力の前ではちょっとしたノイズにしかならない。

また彼女はCADを使用しないので武器破壊でも対処できない。

おまけにあれほどの動きと治癒魔法を乱発しても消耗した気配がまるでない。想子保有量も桁外れと見て間違いないだろう。

 

(『自分に勝てる魔法師はいない』……なるほど『嘘』ではなかったか。

 ……『術式解体』や『雲散霧消』は無理でも『質量爆散』なら、いや六道は熱量制御魔法が……)

 

あまりに凄惨な戦場に誰もが言葉を失う中で、達也だけはただ一人、六道を倒す方法を真剣に考えていた。

 




五輪澪もまた六道リンネにより治療されています。
万全の戦略級魔法師が一人いる時点で日本の国力はかなり強まっています。
六道の性格的にやりたくはなかったんですが、一応は十師族に名を連ねている者の責務と認識して引き受けました。
四葉と五輪からの恩、九島烈からの支持を受けていることが、六道家の地位を高める要因となっています。
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