「……?他は終わったようだな」
「ハァ、ハァ……そうねェ……」
櫓の屋根の上で周囲を見渡した綱手が呟き、大蛇丸がそれに同意した。
西口から攻め入った大蛇はしばらく前に口寄せが解除され消えた。
そのままヒルゼンが暗部の指揮を始め、里に潜入した砂の忍びは全て捕らえた。
東口の方も静かになったので外部からの突入部隊も取り押さえたのだろう。
音の忍びは軒並み撤退した。大蛇丸と密約を交わしていることは一部を除き味方にも秘密なので、木の葉の忍び達は連中が非常に消極的で逃げ腰であったことを訝しんでいることだろう。
そして遠方の巨大な反応、砂の守鶴も消えた。これで残る戦場は綱手と大蛇丸がいるここだけだ。
綱手を信じ任せた木の葉の忍び達も、手すきになったなら駆け付けてくるだろう。このままでは大蛇丸が捕まってしまう。
「時間切れ、だな」
「フン、その前にチャクラ切れよ。
息切れすらしないなんて、私なんかより今のアナタの方がよっぽど化け物じゃない」
綱手はとにかく頑強で、どれだけ攻撃しても全てねじ伏せて殴り掛かってきた。
大蛇丸は『殺す気で挑まねば勝負にすらならない』と草薙の剣も持ち出したというのに、綱手は骨どころか肉すら断たせてはくれない。
薄皮を割いてわずかな血を流させるくらいでそれもすぐに塞がってしまう。
なのに綱手は一方的にこちらの骨を叩き折ってくる。
特に体内の骨を操る血継限界を持つ君麻呂の骨が悉くへし折られていた。あと彼の心とプライドも少々。
そして他の部下は更に酷い。
次郎坊はチャクラを吸い込もうとして一緒に入ってきた炎に体の内側を焼かれチャーシューにされたし。
鬼童丸は糸で縛ろうとしたらこちらも引火して本体にまで飛び火していたし。
多由也の音の攻撃は綱手の咆哮に押し負け鼓膜が破られて昏倒しているし。
右近と左近が命懸けで呼び出した羅生門は拳の一振りで砕かれその余波に巻き込まれ薙ぎ払われた。
「それじゃあ、この辺でお暇するわ……行くわよ、お前たち」
「「「「「は、はい……」」」」」
「あぁ待て」
背を向けたところで呼び止められ彼らが一斉に振り向く。
大蛇丸は流石に堂々としていたが他の者たちは顔が引きつっていた。
「なぁ……音影としてウチと同盟を組むつもりはないか?」
「……ハァ?」
「いや、割と真剣に助けてほしい。お前自力で里を興したんだろ?
里長として運営のノウハウを学びたくてな……このままでは次に椅子を譲る前に私が病みそうなんだ」
綱手は五大国として存在する木の葉隠れの里を維持するだけで精一杯だ。
対して大蛇丸は小国とはいえ、群雄割拠の世界で一から音隠れの里を作り上げている。
どちらの難易度が高いかと言えば間違いなく後者だ。火影になった綱手はそれを十二分に理解している。
大蛇丸がもう少し善良で四代目火影に選ばれていたのなら、木の葉は今以上の発展を遂げていた可能性が高い。それほどまでに彼は指導者として有能なのだ。
「……特等席に座っている私を、役者として舞台に引きずり込むつもり?」
「まぁこの場ですぐにとは言わん。考えておいてくれ」
「フン…………また会いましょ」
今度こそ大蛇丸たちの姿が消え、綱手は周囲を見渡す。
里の内側に大きな被害はないがゼロとはいかず、損壊した家屋の修復や住民への補償が必要になる。
後腐れを無くすためには戦いで生じた犠牲者は敵も味方も蘇生しなければならない。
属国なんぞにするつもりはないが砂への責任追求は必要になる。隙を見せればつけあがるだろう。過酷な交渉に備えなければ。
後は観戦に来ていた諸国の大名たちへの説明。先んじて襲撃を察知していたのだから、その上で中忍試験を開き自分たちを危険に晒したことをどこまでも追求してくるはず。
「はぁ、頭が痛い……これだから火影なんてやりたくなかったんだ」
――――……
木の葉に侵攻してきた砂の忍びは全員捕らえられ、綱手と木の葉の忍び達に取り囲まれている。
彼等への沙汰が決まるのは風影と交渉し木の葉崩しの件をとことんまで追求し終えてになるだろうが……甘い判決が下されることはあるまい。
何しろ、同盟を裏切って一方的に侵略戦争を仕掛けたのだ。
不殺を貫く木の葉でなければ戦闘中に殺され、生き残った者も処刑されていて当然。
そして我愛羅には特に重い判決が下されるだろう。
何しろ彼は尾獣を抱えた人柱力。
九尾に里を滅ぼされかけた木の葉の民は、尾獣に対して非常に神経質だ。
だが未だ眠りにつく我愛羅を庇い、ナルトが綱手の前に立ちはだかる。
「もうコイツの中のヤツは封印した!暴走なんて絶対しねぇ!!
だから、コイツばっか責めんのはやめてくれってばよ!!」
7歳までだが、ナルトも我愛羅と同じく周囲から迫害されて育った身だ。
独りぼっちの寂しさと苦しさは痛いほどにわかる。
今の我愛羅の姿が、自分が辿ったかもしれないもう一つの未来だと思えば彼が我愛羅を守ろうとするのは理解できなくもない。
「あー、ワシからも補足させてもらおう。
砂の小僧には相当に強固な封印を施した……勝手に表に出てくるような事態は万に一つもあるまい」
自来也も隣に立ち、ナルトを援護する。
ナルトの素性も真実も知らずに追い詰めてしまった過去がある木の葉の忍び達は、ナルトに対して強く出られない。
だがやはり受け入れがたく、声を荒げはしないものの難色を示し綱手は沈黙を貫く。
綱手としては、ナルトたちの側に立ってやりたい。
だが火影として部下たちの感情を無視して命令するような真似もできない。
『どうやって周りを説得したものか』と考えているからこその綱手の沈黙を誤解したナルトが、我愛羅を守ろうと必死に頭を回して、叫んでしまった。
「だ、だったら!コイツの守鶴っての『も』取り出してもらって……!」
「おいナルト。お前今何と言った?」
「あ…………」
慌てて口をふさぐが、もう遅い。
綱手の鋭い視線がナルトに、そして隣で下手くそな口笛を吹く自来也に向く。
「言え」
「……あー……いやぁ……実はのォー……」
遂に自来也が観念し、白状する。
「ナルトの中の九尾はとっくの昔に、ヒノカミが持ってっちまってのォー」
「「「「「………………は?」」」」」
ヒノカミは忍びには関わらない。
しかし彼女と共に旅をしていたころのナルトは忍びの里の外に出ており、まだ忍びではない只の子供だった。
少し考えればわかるはずではないか。
『子供に甘いヒノカミが、子供の中に無理やり封じられている化け物をそのままにしておくはずがない』と。
人柱力から尾獣が剥がれるのは死ぬ時だ。無理やり剥がそうとすれば命を落とす。
だがヒノカミは綱手の師匠であり、綱手以上の蘇生術の使い手だ。
人柱力である人間に一切苦痛を与えずに尾獣だけ取り出すなんて神業を片手間でやってのける。
つまり五大国のパワーバランスを担う尾獣の一つはとうの昔に木の葉から失われ、今も世界を気ままに放浪している個人が所有している。
しかもその個人は忍び嫌いで尾獣すら遥かに凌駕する戦闘力を有している。
大陸を吹き飛ばすような爆弾が野放しにされているようなものだ。
そして人柱力は各国の忍びが狙う獲物でもある。
他の人柱力と同じつもりで何も知らぬ者が彼女に襲撃でも仕掛けようものなら、木の葉の里どころか世界の危機である。
「……全員聞けぇっ!!」
「「「「「!?」」」」」
「ヒノカミを連れてこいっ!草の根分けてでも探し出せぇぇっ!!!!」
「「「「「はっ、はいぃぃっ!!!!」」」」」
――――……
「……んあ?」
(どうした?)
「いや、綱手の奴がようやく貴様の不在に気付いたようでな」
(……くっくっくっはっはっは!ようやくか!!)
人気のない街道を一人のんびりと歩いていたヒノカミが呟き、彼女の内に居候している九尾……『
九喇嘛は今まで人間に封印され利用されてきた。
木の葉で彼を操ったという人間への恨みと憎しみもある。
だが生憎とヒノカミは人間ではないし忍びとも無関係だ。
というか、尾獣の中で最強を自負していた九喇嘛よりもけた外れに強い。歯向かう気は起きなかった。
『大人しくすると約束するなら外に出しても良い』という彼女の提案を断り今も彼女の内側にいるのは、『人間どもが余計なちょっかいをかけてくるのが面倒だから間借りさせろ』と彼自身が要求したからだ。
ちなみにミナトの魂を完全に現世に呼び戻す際に、彼が抱え込んでいた九喇嘛のチャクラの半分も回収済み。
というか封印を解いたからこそ、封印になっていたミナトとクシナを解放することができたわけなのだが。
「ともかく、これで『暁』とかいう奴らにも儂のとこに貴様がおると伝わるじゃろ。
後は返り討ちにするだけじゃな」
(おい、ちゃんとワシにも暴れさせてくれるんだろうなぁ?)
「無論じゃ。イタチ以外は八つ裂きにしても良い」
ヒノカミは忍びには『自分からは』関わらない。
だが『相手から』関わってきた場合は話が別だ。きっちりと処分する。
そして旅の最中に調査を続け、イタチが潜入捜査している組織の詳細を把握している。
暁が目的を達成するには『ヒノカミとの衝突が絶対に避けられない』。
彼らが十尾とやらを手に入れるには、十尾を更に上回る化け物を倒さなければならないのだ。
『詰み』である。
「これでイタチも里に帰れるじゃろうし、弟とのことは……丸く収まればいいがなぁ」
(フン、忍びのガキどものことなんざ気にする必要もねぇだろうに)
「あぁそれと、どうやらナルトは守鶴とやらも儂に預けたいようなんじゃが?」
(!?冗談じゃねぇ!あのクソダヌキと同居なんざ御免だぞ!?)
「ん、そうか。ちゃんと封印したようじゃし、そっちはしばらく放置としようか。
……さぁーて、連中が接触してくるまで何してようかの~~?」
(オーバーソウルだったか?動かせる体を用意しろ。
暴れる前に一度慣らしをしときてぇ)
「ふむ、えぇぞ。んじゃどっか人気のないところを探すかぁ」
少女はのんびりと歩き出す。
誰にも見えない霊体として傍にいる九喇嘛は彼女の背中を見つめる。
(……まさかコイツが『予言の子』ってワケはねぇだろうがなぁ)
「なんか言ったか?」
(なんでもねぇよ)
九喇嘛の幻影が少女の隣を並んで歩く。
彼と『六道』の名を持つ自称『仙人』との旅は、まだまだ当分続きそうだ。
『NARUTO』編、完結となります。
原作で言えば16巻と序盤も序盤に終わらせることになってしまいましたが、その理由はこの回で書いた通り。
原作では最終的に和解し相棒となりましたが、幼い頃のナルトにとって九尾は勝手に押しつけられた厄介者でしかないので、それを知ったヒノカミは確実に対処します。
無理やり封印されたり操られ暴れさせられたりと九尾も散々な目に会っているので処分まではしませんが、人間全体に恨みを持つ暴れ者の九尾をただ放逐するはずもなく。
よって事態が落ち着くまで『ヒノカミがナルトに代わって九尾の人柱力になる』。
ヒノカミが幼い頃のナルトに関わると、このルートが絶対に避けられません。
こうなってしまうと暁の野望は完全に潰えてしまいますので、この情報が公になった時点でその後の物語はただの蛇足となります。そこが本章でのエンディングになると定めました。
綱手だけでなく読者の皆さんにも気付かれぬようギリギリまで伸ばしつつ、物語としてまとめられるラインがどこか……その結果が『木の葉崩し』でした。
本章は『ヒノカミの出番と干渉が最低限の場合の物語』として選び書き始めたんですが、そのわずかな関わりでもう大惨事です。
最終的にヒノカミがいなくなった後で九尾がどうなるのかは……もう丸投げします。
完全に外に出て自由に暮らすのか、またナルトを宿主にするのか。
九尾側の恨みやら何やらは暁とのゴタゴタである程度晴らされるでしょうし、ナルト側も尾獣に対して敵意が少なく親身なので、彼らがまた一つになる可能性は十分にあるでしょう。
そして次の外伝。散々悩みましたが『これにしよう』というのが一応決まりました。
ですがこの作品……はっきり言って、面白い話にできる自信が全くない。
各外伝毎に『新しい展開の物語を描く』という作者の目的には沿っているんですが、結構出し尽くしてるので残るのは……。
まぁまだ頭に大筋があるだけで、一話目すら出力できていません。
面白くなることを未来の自分に期待したいと思いますので、皆さんは期待せずにお待ちください。