16日 正午
「慣らしが終わっただけならええんやけど、天元様が捕られてもうたらしいで」
直哉は連絡係として東京第一結界にいる虎杖と恵のもとに訪れていた。初めは恵を殺そうとしていたことを知っている虎杖に警戒されていたが、事情が変わったと説明し、納得はされなかったものの非常時ということでひとまずは受け入れられていた。
「脹相……九十九さんは!?」
天元を捕られたことを告げられた虎杖と恵に動揺が走り、虎杖が脹相と九十九由基を心配する声を上げた。
「知らんわボケ。あのクソアマとカスが負けたってのは確かやな。ほんま、役に立たんわ。まぁ、カスの方は生きとって、獄門疆「裏」やっけか、あれは無事だったらしいからよかったんちゃう?」
「……オマエ! 言い方ってもんがあるだろ!!」
「……やっぱこの人敵では?」
「落ち着け、言いたいことはわかるが今はそれどころじゃないだろ。それに、今は味方ならそれでいい」
直哉の言いように虎杖は怒りを露わにし、来栖華は顔を歪めて嫌悪を示していたが、恵が止めたことでこれ以上争いに発展することはなかった。
直哉はその様子を見ながら恵をいつ殺すかを考えていた。
「(なに睨んどんねん。今この生意気な女もろとも恵君殺してもええんやけど、さすがに露骨すぎやな。ええ感じに術師がいればそいつが殺ったことにすればええんやけど)」
「ククッ、恵君の言う通りやで。それで、とりあえず恵君のお姉ちゃんを連れてくればええんやろ? はよルール追加してくれや」
「……そうだな、今はとにかく伏黒の姉ちゃんだ」
直哉は興味がなかったため、虎杖の言葉を皮切りに追加するルールに関して虎杖、恵、華の3人で話を進めていく。そして、天使の術式でも死滅回遊の結界を消すことは困難なことがわかったとき、向かいの家の屋根から髙羽史彦の叫ぶ声が聞こえた。
「川本真琴の話してるー!?」
「いや、なんやねんあいつ」
「無視してくれ……」
さすがの直哉も素で困惑し、そんな直哉を見て、虎杖が思わず先ほどまでの怒りを忘れフォローに回った。
その後、ある程度経って話はまとまり、恵がルールを追加することとなった。
「コガネ総則追加だーーーーーー」
「泳者による死滅回遊への総則追加が行われました!! 〈総則〉11 泳者は身代わりとして新規泳者を結界外から招き100点を消費することで死滅回遊から離脱できる」
恵の宣言を受け、コガネからルール追加の報告が各プレイヤーへと告げられた。
「直哉さん、津美紀を
「ええで、でも俺は一緒に結界に入られへんから結界の外側までや。俺は結界入るときに転送されへんからな」
「はい、それで構いません」
直哉は伏黒津美紀のもとへ行くために投射呪法を用いて移動を開始した。
16日 15:00
直哉は津美紀と伊地知を連れて東京第一結界に訪れていた。
「ここを越えれば転送されるはずや。恵君たちがいるから入れば探してくれるやろ」
そして、津美紀が結界に侵入して直哉と伊地知の前から姿を消した。
「……直哉さん、協力していただきありがとうございます」
「まぁ、呪詛師に好き勝手されるのは気に食わんしな、気にせんでええわ」
伊地知が直哉に感謝の言葉を告げ、直哉はそれに羂索が気に食わないという嘘ではない理由で返した。そして、無言の微妙な空気に耐えかねた伊地知が冷や汗を流しながら津美紀が死滅回遊を離脱するのを待っていると、直哉のコガネがルールの追加を告げた。
「泳者による死滅回遊への総則追加が行われました!! 〈総則〉12 泳者は結界を自由に出入りすることができる」
「これは、どういうことでしょうか……」
不意のルール追加に直哉と伊地知は疑問を抱いたが、他の泳者が追加した可能性もあるためコガネを用いてプレイヤーの点数を確認した。すると、確かに伏黒恵の点数が100点減っていた。
「何かあったちゅうことやろ」
戸惑う伊地知に対し、直哉は早速恵を殺すチャンスが来たかもしれないと思いニヤリと笑みを浮かべた。
そして、結界に入ると近くのビルの上へと飛び上がって恵たちがいるであろうビルを確認し、背に羽を構築した万が飛び立つところが見えた。
「あ? どういう状況やねん。まぁええ、とりあえず……落ちろや!!」
直哉は術式反転である反射を利用し、脚を踏み下ろした力を反射することで空中を駆け抜けながら投射呪法で加速し瞬時に万の上を取ると、鋭い蹴りを放って万をビルへと叩き落した。
「丁度ええわ、オマエが恵君たち殺したことにすればええやん」
「ごめんなさい、初めては宿儺って決めてるの。その後なら遊んであげるわ」
液体金属で形成した板によって直哉の蹴りの直撃を避けていた万は平然と起き上がり、直哉を無視して去ろうとする。
「オマエの都合なんて関係ないねん……っ!?」
直哉が万へ再度攻撃を仕掛けようとした時、背後のビルから強烈な禍々しい圧が放たれ思わず振り返えった。その隙に万は飛び立っていた。
「なんやこの呪力量! まさか、宿儺か!!」
直哉が宿儺がいると思われるビルの屋上が見える位置に移動すると、そこには禍々しい圧を放つ伏黒恵と虎杖が立っており、次の瞬間虎杖が吹き飛ばされた。
「(これは……宿儺が恵君に受肉した? ってことは恵君は死んだも同然、殺す手間省けたやん)」
意図せず恵が実質的に死んだことで直哉がほくそ笑んでいると、宿儺が呼び出した巨大な鵺による雷撃が直哉と近くにいた髙羽へ降り注いだ。
直哉は自身に迫りくる雷撃に手をかざし、術式対象を拡張した投射呪法にて雷撃をフリーズさせることで無効化すると、二次元に押し込まれた雷撃を後方に放り投げたところで背後の建物に雷撃が突き刺さった。
鵺による雷撃を容易く凌いだ直哉だったが、上空で膨大な呪力の起こりを探知し一旦距離を取る。
直後、空中に文様が浮かび、空一面が暗闇に包まれると同時に巨大な光の柱が辺りを照らした。
「あの女、こんな術式持ってたんか」
直哉はこのまま宿儺ごと恵の肉体を消してくれればいいと思って見ていたが、華がまんまと術式を解き宿儺を仕留め損なったことで舌打ちをした。
そして、音速を超える速度を持って華の腕を嚙みちぎった直後の宿儺へ鋭い蹴りを放とうとするが、宿儺が華を直哉へ投げつけたことで蹴りは華へと当たり、華がひしゃげながらビルをぶち抜いて吹っ飛ぶ結果に終わった。
「ーーー5点が追加されました」
「チッ、仕留め損ねた上に邪魔すんなやカス」
コガネが無情にもポイント追加を告げる中、直哉は非常に楽しそうに宿儺を見ていた。
「(これが宿儺か、まだ指15本やけど現時点で俺の倍程度の呪力。恵君の肉体も破壊しときたかったんやけどそう簡単にはいかなそうやね)」
「……ほう、あの時の術師か。随分と変わったな」
虎杖の中で一度直哉を見ていた宿儺が直哉を値踏みするように観察していると、背後から虎杖が突っ込んできたことでビルが破壊され、直哉と宿儺は同時に飛びのいた。
「なんやあれ、宿儺の器にあそこまでの力あったんか?」
直哉は隣のビルに着地し、虎杖が異常なまでのパワーを発揮した上宿儺の放つ斬撃を耐えているところを見て疑問に思っていた。
「まぁ、どうでもええか。トロすぎて話にならんし」
虎杖が路上に吹き飛ばされてきたタイミングで、直哉は術式反転による反射を初動の加速にのみ使用して宿儺へと襲い掛かった。
しかし、宿儺は直哉が来るのを予想していたのか、上空からの蹴りを軽く屈んで回避し、カウンターの拳を放つ。
「それは想定済みやで!!」
それを想定して動きを作っていた直哉は着地と同時に回避しながら拳を放ち、宿儺を背後の建物へと吹き飛ばした。直哉はさらに加速し起き上がった宿儺へ正面から追撃を仕掛けるふりをして、瞬時に背後へ回って足をはらい体勢を崩した宿儺へと回し蹴りを放ったが、宿儺は回転しながら両腕に呪力を集中させ直哉の蹴りを防いでいた。
「なるほど、あの時より速いな」
直哉が即座に距離を取り、再び攻撃を仕掛けると同時に虎杖もまた宿儺に殴り掛かっていた。
虎杖の攻撃を軽く捌いていく宿儺だったが、直哉が想定以上の速度で攻撃を繰り出したため捌き切れず、直哉の蹴りにより吹き飛ばされた。
宿儺は空中でひらりと回転し衝撃殺して着地すると、追撃を仕掛けてきた直哉を見て地面へと手をついた。
「捌」
ーーー蜘蛛の糸
地面へ無数の斬撃が走り、全員の足場が崩壊した。
「(これはあかんな、動きが繋がらへん)」
宿儺に向けて駆けるよう動き出していた直哉は、崩壊した地面が進路を塞ぐ形となり、動きのトレースに失敗することを悟った。
「(なら、こうすればええ)」
直哉は投射呪法を用いて自身の前方の空気を瞬時に薄く固めた。そして、そこへ突っ込んだ瞬間、直哉の体は瓦礫に遮られ動きをトレース出来なかったことによりフリーズした。
しかし、固めた空気が爆ぜることで直哉の体に衝撃を与え、瞬時にフリーズを解除することに成功していた。
「チッ、使うてもうたわ!」
一瞬でフリーズを解いたものの、その瞬間宿儺の拳が目の前に迫っており、直哉は今は見せる気がなかった術式反転を反射的に使用して宿儺の拳を弾いていた。
「ハハッ、いいぞ!!」
自身の拳を弾かれた宿儺は目を見開いたが、直後に嬉しそうに顔を凶悪に歪めながら鋭い蹴りを放った。
「辞めすぎとったわ!」
宿儺の蹴りを避けようともせず、直哉は宿儺の顔面へ向けて殴りかかった。
直哉の拳が宿儺の顔面を捉えた瞬間、宿儺の蹴りは反射されることなく直哉に突き刺さり、互いに一撃喰らうこととなった。
「ぐっ! (なんや今のは! 術式が中和された!?)」
この時、宿儺は瞬時に領域展延を使用することで直哉の反射を中和していた。直哉にとって領域展延は未知の技術であったため、直哉は回避する選択肢が思い浮かばず攻撃を喰らってしまった。
しかし、直哉は宿儺に術式反転である反射の存在を知られた代わりに、肉弾戦で反射を突破する手段があることを知れたので結果的には良かったと判断して気持ちを切り替えた。
直後、宿儺によって崩壊した瓦礫が未だ空中に散乱している中、虎杖が宿儺へ向け高速で飛び込んでくる。そうして砕けて舞った地面を足場に戦闘しながら移動し三者が道路へと降り立ったとき、
ーーー出力最大 霜凪
直哉と虎杖へ向け、膨大な量の氷が襲い掛かった。
「差し出がましい真似を致しました。どうかお許し下さい」
辺り一帯を凍らせた裏梅が宿儺のもとへと馳せ参じ、宿儺が鵺を呼び出して飛び立った時、虎杖が氷を破壊し飛び出した。
「宿儺ぁ!!!」
虎杖の叫びも虚しく、宿儺と裏梅は虎杖を嘲笑いながら飛び去って行った。
一方で直哉は、氷が発生した瞬間に逆方向に投射呪法を用いて高速で移動し、氷の範囲外にある建物の屋上に降り立っていた。そこで、虎杖を嘲笑いながら鵺に乗って飛び去る宿儺と目が合うと、二人は不敵な笑みを交した。
「ククッ、勝てるかは半々ってとこやな」
直哉と宿儺にとって先ほどの戦闘は小手調べ程度の物であり、お互い本気を出してはいなかった。直哉はここで確実に殺せそうなら殺しておこうと考えていたが、その膨大な呪力量とそれにより強化された肉体、直哉の中ではまだ遅いとはいえ音速越えの速度にも対処してくる格闘センス、そして何より、反射を突破した手段等自身の知らない技術があることを踏まえて、自身が敗北する可能性もありうると冷静に判断していた。
「恵君は死んだも同然やし、十分やろ」
直哉は宿儺が受肉したことで恵は実質的に死亡し、恵が禪院家の当主となった問題は解決できたと判断して、無理にここで宿儺と戦う必要はないと考えていた。そして、悲嘆に暮れる虎杖と結界の外で待ちぼうけをくらっている伊地知を放置して結界を後にした。
ーーー
高専内にて、秤や乙骨、脹相、鹿紫雲など高専側の主だったメンバーがそろっている中、虎杖が悲痛な声を上げた。
「俺の、俺のせいです……。俺がもっと早く死んでいれば……」
宿儺による伏黒恵への受肉、そして五条悟復活のキーパーソンであった天使の死亡。天使の直接的な死因は直哉の蹴りによるものだったがそのことは直哉と宿儺以外は知らず、虎杖は宿儺を殺すと誓いながらもすべて自分の責任だと思い詰めていた。
重苦しい雰囲気が全体を包む中、乙骨が声を上げた。
「何度でも言うよ、君は悪くない。起こってしまったことは仕方ない。先のことを考えよう。伏黒君を助けることに関していくつか案はあるんだけど……」
「どのみち宿儺を戦闘不能にまで追い込む必要があるわけだな?」
乙骨の言葉に脹相が付け加え、乙骨はそれを肯定した。
「そうだね。だから、出来れば五条先生を何とかしたいんだけど、他に手段がね……」
乙骨はそう言ってテーブルに置かれた獄門疆「裏」を見て嘆息した。再び全体を重たい雰囲気を包む中で、髙羽史彦が獄門疆「裏」へと歩みよった。
「よくわからんが、この裏門が開かなくて困っているんだろう? 俺は、どんな扉も開くことが出来る魔法の呪文を知っている!!」
髙羽は獄門疆「裏」の前でポーズを取ると、その場の全員へ向けてどや顔で高らかと宣言した。
「いや、ふざけてる場合じゃ……」
「そもそもオマエ誰なんだよ」
皆が口々に白けた視線を向けながら戸惑ったり悪態をつく中、髙羽はいつの間にか手に持っていた○リー・ポッ○ーに登場するような杖を獄門疆「裏」へ向けて振りかざしながら全力で叫んだ。
「開けぇ~~、ゴマッ!!!!!!」
その瞬間、辺り一帯を静寂が包み込んだ。周りからのあまりに冷たい視線に思わず髙羽が冷や汗を流したその瞬間、獄門疆「裏」の縫い付けられるように閉じられていた瞳が開き、眩い光が放たれた。
その光が収まった時、誰もが状況を理解できず呆然としていた。
ーーーゴゴゴゴゴゴ
突如として巨大な揺れが起こり、さらに皆は困惑を深めていく。
「地震!?」
「このタイミングって偶然じゃないよな」
「……え? 五条先生本当に復活したの? 今ので?」
「……獄門疆、開いてるっぽい見た目になったな」
混乱が更なる混乱を呼び、何とも締まらない状況の中で五条悟の封印が解かれた。
ーーー
五条悟が復活し、宿儺と12月24日に戦闘する約束を交わして高専に帰還してから数日たったある日、直哉が高専の中を歩いていると背後から乙骨に声を掛けられた。
「……直哉さん。少し、外へ行きませんか」
乙骨は隠すことなく敵意を滲ませていた。そして、その身から溢れる呪力に直哉はかつて味わった屈辱を思い出し、不快感を露わにしながら答えた。
「……ええで、前から気に食わなかったんや」
15本宿儺でも本気でバトルしたら神業領域とマコーラと受肉エリクサー強すぎて五条悟でもワンチャン負けそう。ってことで宿儺はやっぱり五条悟に削ってもらわんと……