参考:作者様Twitterより、「闇の性癖 サンラク編」

若人は成長する。かつての思い出に囚われることもなく。
だが、それは果たして、「変化」と何が違うのだろうか?
「思い出じゃ、ダメなんだ。鯖癌を、俺たちを、『かつて』なんて言葉で括らないでくれ────」


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注: 原作ネタバレあります。サバイバアル、鯖癌という言葉がわからない方は読むのをおやめください。



食べたものがあなたの血肉となり、元の細胞は淘汰されるのだ

 

 

 サバイバアルは、ずっと疑問を抱えていた。

 確かめたくて、しかし「そう」だとわかってしまったら、二度と立ち直れないから口に出すことはできない────そんな疑問。

 

 かつて、バイバアルであった時代に電子の世界で出会った怨敵(ライバル)がいた。

 最近、孤島から遠く離れた(しかし奇しくもその創造者は全く近しい)星で再開した戦友であり、誰よりも強烈に、何よりも鮮烈に、まるで澄み渡った(sky)のように純粋な暴力を振り回す幼女。

 

 記憶の奥底、DNAの原子ひとつ一つにまで刻み込まれたその下劣な(・・・)笑みは、今なおサバイバアルに凍える様な殺気を幻視させる。

 

 

 ……だが、しかし、だからこそ。

 

 

 彼には、払拭できない、一つの疑問があった。

 

 

 確かに「彼」はサンラクだ。その名に偽りはなく、その在り方に矛盾はない。

 あらゆるデータと記憶と行動が、それを肯定してくれている。

 

 けれど、覚えたのは違和感。

 それは、「どこに」という渇望の心。

 

 即ち────

 

 

「お前は、本当にそこにいる(・・・・・・・・)のか? サンラク」

 

「は? どうした突然???」

 

 気づけば、言葉は漏れていた。

 

 

 あ、

 

 と言ってももう遅い。

 既に喉から出た振動は目の前の鳥頭の鼓膜を揺らし、その目力の迸る双眸がこちらの様子を伺っている。

 

 先程まで共に歩いていた薄暗い路地裏と、傾き出した太陽の暮色が齎す独特の雰囲気も相まって、サバイバアルは言葉に詰まってしまった。今の発言を何とか誤魔化せないだろうか、と必死に頭を回転させる。

 だが口から出てきたのは、あー、いや、えっと、だなんて、十年ぶりに森から出てきた、人に不慣れな原始人の言葉らしきモノばかり。やはり野人はどこまでいっても野人なのか。何の意味も持たない声が、煉瓦の壁の隙間に空回る。

 

 結局、彼は元来そこまで頭が良くないので、まだるっこしい思考は放棄して、いっそ全て伝える方が楽か、と考えた。

 

 

「……なあ、お前はサンラク、なんだよな? 孤島で俺と殺し合った、あのμ-sky(サンラク)であってるんだよな?」

 

「え、だからなんなのそれ。 自己斉一性(アイデンティティ)の話? それともスワンプマン的な?」

 

 

 半裸の変態は意味のわからない質問に対して狼狽えた様子を見せる。

 見りゃわかんだろ俺だよ俺、乗っ取りとかされてねぇよ。とPN表示のある頭付近を指差した。

 

 それに対しサバイバアルはそういうことじゃない、と言うと、何と言えば一番コイツに要旨を伝えられるだろうかと一度俯き押し黙った。

 

 一瞬、気まずい沈黙の時間が流れる。

 サバイバアルは考え込んだまま片手で自分の首筋を撫でているし、もう片割れは一人謎の間隙に取り残されたことに対しはてなマークを浮かべていた。

 

 

 だが、それはやはりほんの一瞬で。サバイバアルは改めて顔を上げると、目の前に立ち尽くす、その名の如く凝視の視線を貫く男に語りかけた。

 

 

「──なんつーか、お前、変わった……よな? プレイスタイルは名残があるが、そういうんじゃなくて……性格が。あの頃みたいにイキらなくなったし、こう………見敵必殺! って感じじゃなくなった。これじゃまるで────」

 

 

 ──まるで、あの頃を忘れたみたいだ。

 

 とは、彼には言い切ることができなかった。

 そう口にして仕舞えば、目の前の男は簡単に肯定してしまうんじゃないか。そんな疑念が、拭えなかったから。

 

 

 だが、肝心の変態は相も変わらず間抜け面で。

 そして、彼の言いたいことを理解した上で、しかしそれを全く興味がないとでも言うかの様に言い放った。

 

「変わった、ってんならまあそうなんじゃないか。そもそもゲームが違うのあるけど、あの頃の俺はまだ中坊のガキだったし……あれから色んなゲームをやって、ちょっと大人になったのかもな。人は変わるもんだから、何もかも同じ、ってわけにはいかないだろ」

 

 ────だけど、と。

 今の言葉に顔を顰めたサバイバアルに、一瞬だけ彼は仮面を外して、ニカっと笑う。

 

「それでも、俺は俺だってことを俺が一番知ってるから、やっぱり俺は(サンラク)だよ。だから心配すんな!」

 

 

 ────その顔に、サバイバアルは息を呑んだ。

 瞳は揺れ、体は震え、気付かぬうちに不可視の拳に殴られたのかとすら思える様な反応を示すくせに、その視線だけは決して目の前の男から逸らすことはなく、その映像を永遠に網膜に焼き付けんばかりに、見開いた目で彼の顔の隅から隅までを凝視する。

 

 

 ────なぜって。

 

 その、彼の笑顔が、あまりにも。

 

 

 あまりにも、キレイ(・・・)だったから。

 

 

 

 ああ、やはりそうか、と思って、サバイバアルは彼に笑い返す。

 

 その目がまるで泣いている様に見えるのは、きっと向こうに輝く嫌に眩しい仮想の夕日のせい。

 

 

 そうしてサンラクの体は、背後の沈む太陽と重なって、幻の様に溶けていった。

 

 


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