そこらじゅうの無機物から声が聞こえてきて、かつ会話が成立しちゃう少女の日常です。

練習で書いたものなのでたぶん続きません。

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朝、なんでもない一日の始まり

 無機物と会話のできる少女がいた。

 日常を取り囲むありとあらゆる無機物から話しかけられ、少女は時に言葉を交わし、時に共感し、時に無視する。

 

「おはよう、寝覚めはどう?」

 

 ベットから話しかけられる。「悪くはない」と答え、近くに投げ出してあるスリッパを履く。

 

「むぎゅ」

「寝てたのか。履くよ」

「うにゅ…………あと五分」

 

 少女はスリッパの寝言を無視して両足をそれぞれ突っ込み、パタパタと音を立てながらキッチンへと向かった。

 別にスリッパが寝ていてもスリッパとしての機能は損なわれない。少女にとってスリッパに意識があるかないかはどうでもよかった。

 

 キッチンに着いてまな板と包丁を取り出す。

 

「ぐっもーにんぐ! ご主人今日は何を切るんだい! 今日も俺はキレッキレ!」

「うるさいよ」

「そうさ包丁くん。朝は広く静かに平らな心であるべきだ。僕やご主人の胸のように」

「しばくぞ」

 

 冷蔵庫からハムを取り出そうとすると、冷蔵庫が忠告した。

 

「牛肉がそろそろやばいよ」

「あとどのくらい持つ?」

「明日の朝食べたらしばらく便器の世話になると思う」

「夜ならセーフってわけだ。そんじゃ頑張って冷やしといて」

「今夜は牛丼?」

「そうする。米を仕入れに行かないとね」

「たまねぎもね」

 

 少女はこぶし大のハムを取り出して、まな板の上に置いた。薄くスライスする。

 包丁が怪訝そうな声で聞いた。

 

「レタスは切らないのかい?」

「今ないんだよ。ハムだけのサンドイッチにする」

 

 少女の声に感情はあまり現れていなかったが、ハムのサンドイッチにはレタスがあったほうが美味いんだろうなと包丁とまな板と冷蔵庫は思った。

 手際よく切ったハムを、手際よく切ったパンに挟んで、冷蔵庫からマヨネーズを取り出して上に載せた。

 マヨの容器が「美味そうだろ? 美味そうだろ?」としつこく聞いてきていたが少女は一言も返さなかった。

 

 出来上がったハムサンドを皿に盛り付け、冷蔵庫から冷えたハーブティーを取り出した。

 

「残り少ないね」

 

 冷蔵庫の言葉に、

 

「出発前に作るよ」

 

 少女は扉を閉めながら答えた。

 

 テーブルについて手を合わせた少女がハムサンドを持った時、窓の外から声がした。

 そして窓から声がする。

 

「あの声量は防げんわ」

「二重窓じゃないからね」

「二重窓でも無理だよ」

「前はもうちょっと静かだったのにね」

「それは僕が悪いんじゃない。外の連中が悪いんだ」

 

 少女は手早くサンドイッチを食べて、ハーブティーの入ったコップを傾けたあと、空になった皿に視線を落としながら両手を合わせた。

 皿から、

 

「マヨが付いてて気持ち悪いんだけど」

 

 との抗議の声がしたので、少女は流し台に皿を置いて水をぶっかけて黙らせた。

 それからやかんにお湯を沸かして、髪を整えてから二つ括りにした。やかんから「沸いちゃううううううう!!!」との絶叫が聞こえてきたので、火を弱めてから数種類のハーブを落とす。軽く混ぜて火を落とし、タイマーをセットした。

 タイマーが、

 

「今日はどのくらい大きな声で教えよっかぁ?」

 

 と聞いてきたので、

 

「すぐそこの部屋にいるから、あまり大きくなくていいよ」

 

 と少女が答える。タイマーは「り」と言って黙った。

 

 少女がキッチンからリビングへ、そしてその奥の小部屋へと移動する。

 出かける準備を整える。少女が荷物や持ち物を持つたびに周囲から、

 

「あれ忘れてる」

「あっちは持った?」

「今日はどこ行くの?」

「あそこに行くなら俺を連れて行け」

「寝かせて」

 

 などの声がひっきりなしに漏れる。少女は時々声に応じて、大部分は無視していた。

 そうこうしているとタイマーから、

 

「時間来たっぽいよー。知らんけど」

 

 と声をかけられたので、少女はやかんの中のハーブを取り出して、新鮮なハーブティーを耐熱容器に移した。

 

「熱いっす」

「我慢して」

「ういっす」

 

 その耐熱容器を指差しながら冷蔵庫に視線を投げて、

 

「これ今入れちゃダメ?」

「何度も言うけどダメ。牛肉が今夜には毒物に変わるのが許せるなら入れて」

「わかったやめとく」

 

 少女は耐熱容器に蓋をして、そのままキッチンに放置した。

 

 それから少女は持ち物をもう一度確認して、持ち物たちにも出かける用意ができているかを尋ねた。各々、持ち物たちも準備が良いことを返事する。

 

「じゃ、今日もよろしく」

「おう、相棒。任せとけ」

 

 少女は大型のショットガンを握りながら玄関から出た。

 家の前にたむろしている歩く死体たちを、片端からその頭を吹き飛ばしていく。

 

「こいつらの声は聞こえないんだよね」

「俺たちの仲間じゃないからな」

「そっか。まぁそりゃそうだ」

 

 少女は頷き、街の方へと歩いていった。

 牛丼の食材を集めるために。

 

 


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