停滞を望むか、進展を望むか

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一つ星

晴天の霹靂、アドマイヤベガとトレーナーであるボク以外あまり入用のないこの部屋に、備え付けの電話が音を響かせた。

 

「トレーナーさん?理事長がご入用のようなので呼び出させて頂きました。」

 

「嗚呼、何も心当たりがない故に、余計に不安が胸を締め付けています。ボクは何かしてしまったでしょうか。」

 

「...?ああ!何も処分を下すためだけの理事長室ではありません。胸を躍らせ、こちらまで足を運んでください。」

 

杞憂だったようだ。とはいえ、上司からのお達しなので気を引き締めて理事長室へ向かうことにする。

 

────────────────────

 

「賞賛!!キミとアドマイヤベガはレースで良い結果を出してくれた!!おかげで見よ、我が校のスポンサーは大変喜ばれ、多く出資を提案してくれた。よって、朗報!!キミを敏腕トレーナーとして認め、担当を増やす許可を出す。これからもウマ娘達の夢のため、励んでくれ!!」

 

多人数の担当は認められた一部のトレーナーにしか許されないもの。よってボクはトレーナー室への帰り道、そのまま空を飛び、そのまま霧散してしまいそうなほど浮かれていた。

 

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「あら、トレーナー。遅かったわね。私はこのまま、昨日買ったばかりのこの本を読破してしまうのかと思ったわ。」

 

「いや、いや、申し訳ない。しかし、今ボクは大変に浮かれているのはキミのおかげでもあるので、今にでもその本を取り上げキミを抱きしめたいくらいだ。」

 

「...ッ///////// ...あまり年頃の娘をからかうのは感心しないわ。それで、何があったというのかしら。」

 

「嗚呼、よくぞ聞いてくれた。この紙は、ついにボクが一人前のトレーナーとして認められた証拠でもあり、キミの姿は多くの人を魅了したという証拠になり得る。見てくれ。」

 

複数担当許可証

 

「......は???」

 

「驚くのも無理はない。なぜなら、キミを不安にさせた半人前トレーナーの姿はこれにより、跡形もなく消え去ったのだから。」

 

「...まさかとは思うけれど、あなたは他の娘も担当するつもりなのかしら。」

 

「もちろん、ボクの夢は多くのウマ娘の夢のために身を粉にして働くことであり、それはボクの夢を大きく後押しするだろう。」

 

「......そう、良かったわね。」

 

「もちろん、キミを蔑ろにするつもりは到底無い。もう1人の娘も、キミと相性良く、切磋琢磨できる娘を探そうと思っている。もしキミが候補の娘を知っているのなら、遠慮なくボクに伝えるように。」

 

「...考えておくわ。」

 

その日のトレーニング、何やらアドマイヤベガは調子を悪そうにしていた。わけを聞いてもまともな答えを返したがらないので、明日彼女の友人に気にかけるように伝えておこう。

 

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「はぁぁぁぁ...」

 

「ええ、ええ、もちろんカレンはトレーニングで疲れていますが、慕う先輩のそのような姿を気にしないほど薄情でカワイくないカレンなどいませんので、なんなりと相談してください。」

 

あまりに思い悩んだ私のため息は思いのほか音を立てるので、カレンさんに心配をかけてしまった。

 

「...ごめんなさいカレンさん。けれど、私の心は私の知らぬ間に大穴を開けているので、あなたに打ち明けさせて頂こうと思うの。少し時間をいただくわね。」

 

あらましを全て話したところ、何やらカレンさんは含み笑いで私に意地悪を言う。

 

「なるほど、なるほど、しかしアヤべさんはやけに口数を多く飾られますが、カレンなりに要約させて貰うならば、トレーナーさんが私のものではなくなってしまうのではと不安、或いは、新しい娘にトレーナーを取られるのではと焦られているのですね。」

 

彼女は聡く鋭い、特にことこういう話題では。隠しても無駄なので大人しく頷く。

 

「まぁ、それではカレンから言わせていたいただきますと、アヤべさんは今の環境に妥協し、そのツケが今日来たのだと思いますよ。」

 

妥協、まさに言葉通りだわ。彼へ想いを打ち明けることも出来ないまま幾重にも星が流れるのを見逃し、今日になってしまった。

こんなことなら、少しはカレンさんの冷やかしを真に受けるべきだったと後悔した。

 

「認めるわ。私は妥協していた。あなたや他の娘達がいくら気ぶろうと受け流し続けた結果が今。それで、私はどうしたらいいのかもう一度、あなたの口から聞かせてくれないかしら。」

 

恥を忍んで頼むと彼女は私の頭を優しく撫でた。

 

「ごめんなさい。いじめるつもりはなかったのですが。それで、ええ、ここからどうすればいいかなのですが、それはもう、今までと変わりないのです。あなたの気持ちを伝えるのみ、それしか方法はないのです。アヤべさん。」

 

「それでも、私怖いの、彼に拒絶されるのが。」

 

「嗚呼、可哀想なアヤべさん。私たちは本能が人より強くあります。ですが理性というのは堅固なもので、物怖じひとつでなすすべがなくなってしまうんですよ。なすべきことをなしたあとの後悔か、何も出来ずにした後悔か、どちらが苦しいかなどあなたが知らないはずがないとカレンは思いますよ。」

 

こんな時、あなたの言葉はいつもの軽薄さや冷やかしの気持ちなど一切なく。私に勇気をくれるのね。

けれども告白の経験のない私に言葉は微塵も出てこない。

 

「アヤべさん。いいですか、感情とは本能です。言葉は理性です。理性のは嘘つきなので、平気で嘘をつくし、それは時に自分を騙します。ですが本能はあなたのなすがまま。どうかご参考までに。」

 

布団に入り考える。言葉は理性。理性は嘘つき。でも私の本当の気持ちをつたえるなら。

 

────────────────────

 

「おはようアヤべさん。嗚呼、君に会えるのはとても嬉しいが、今日は朝練はなかったはず。もし何か、思い悩むことがあるならなんなりと話して欲しい。なぜならボクはキミのトレーナーで...」

 

後ろ手に鍵をしめたアヤべさんは何か剣呑な雰囲気を放っていた。

 

「それじゃあたっぷり聞いてもらうわね?私の正直なところ...」


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