転生して魔法少女になったけど汚れ仕事ばかりです 作:タメガイ連盟員
陽向ちゃんは犯人捜しをしていたようだけど、エマさんから説明を受けてようやく止めたらしい。でも、陽向ちゃんには〈協会〉への不信感が生まれたんじゃないだろうか。エマさんもそれを承知で話したんだと思うけど。
エマさんは、実は元魔法少女だ。それもあの第Ⅺ区で戦った魔法少女の1人だ。それに、彼女は魔人となってしまったストレンジ・ロンズデーライトの友人で、それを倒したのも彼女だった。魔法少女に関わるシステムの問題点を理解している1人だと言える。だからこそ、魔法小女引退後、こんな汚れ仕事に関わっているのだろう。
僕以外にも汚れ仕事をしている魔法少女はいるらしいんだけと、それらを管轄しているのがエマさんだ。だから、僕を殺す判断をするのもエマさん。
彼女が僕に優しくしてくれることに嘘はない、僕を危険な存在として殺す判断をすることも嘘はない。もし僕が魔人になったら、止められる魔法小女はいない。彼女たちが人間だから。人を殺すことだけに特化した僕のギフト。なぜ、こんな力を持ったのだろう。わからない、前世の僕は平凡な人間のはずだったのに。一度死んだことが原因だろうか。いや、考えても仕方がない。
でも、これからどうしよう。仕事を続けることは変わらないけど、陽向ちゃんと顔を会わせることはできそうにない。陽向ちゃんや陽介くんと会うことが、僕にとって数少ない、救いだったのに。
こんなこと、僕が求めていいものじゃないのに。だから、こんなことに、陽介くんを殺すことになった? 誰とも関わらずに朽ち果てていけばよかったのかな。
いつもみたくネガティブな思考を繰り返していると、家の外で警報が鳴り響く。マモノの出現じゃない、警報が鳴るのは魔人が出現したときだ。魔人警報を聞く機会は今までになかった、僕がそうなる前に殺してきた、それだけではないにしろ、影響はあったと思う。でも、つい先日陽介くんが魔人になりかけて、そして今。協会の警戒網になにか問題があったのか、それとも、マモノの行動が変わったのか。何にせよ、近隣の魔法小女には緊急呼集がかかる。僕は例外だけど、日向ちゃんはそうではない。大丈夫だろうか、陽向ちゃんは魔人と戦ったことはない。僕にできることはない、けれど。
気がつけば変身し、隠蔽装備を付けてた。何をしているのだろう。こんなことをしても、何にもならないのに。けど、そうした。姿を隠したまま、魔人の出現地点に向かう。
そこでは既に陽向ちゃん―サンシャイン・ペリドットを始め、数名の魔法小女が魔人との戦闘に入っていた。状況はあまりよくないらしい、既に何人かが変身解除に追い込まれている。魔人は通常のマモノより遥かに強い、魔法小女のようにギフトまで持っている。マモノにとっての最終形態、破壊と殺戮の権化。だからこそ協会はその出現を未然に防ごうとしてきた。そして、今回は。
え。
「こっ、のお!」
サンシャイン・ペリドットの変身が、解除された? 彼女のギフトは太陽を司る性質がある、つまり、マモノにとって天敵とすら言える。対象がマモノか人間か、と言う違いはあるけど、僕のギフトと似ている、と言える。その彼女が撃破された? いや魔人も消耗している、ように見える。だけど、戦える魔法小女がいない。このままでは全滅……陽向ちゃんも死んでしまう。
ダメだ、そんなのダメだ! でも、どうすればいい? もう魔石だって残って。
ある、一つだけ、ここに、僕の中に。
魔石があればサンシャイン・ペリドットならあの魔人相手でも押しきれる。でも、魔石を取り出したら、僕は死ぬ。
いやだ、死にたくない、また、死ぬなんてイヤダ。でも、陽向ちゃんに死んで欲しくない。陽介くんを殺した僕がこんなことを考えているのはおかしいと思う。でも、陽向ちゃんは、陽向ちゃんは! こんな僕に笑い掛けてくれた、偽物の僕の名前を呼んでくれた。たくさんのものを、くれた。
だから、だから
「もう、いやだ」
なにも考えたくない。
「ハンティング」
ハントレス・オニキス。魔法小女としての僕、でも、これで最後だ。
鍵束から必要な道具を作り出し、変身が解除されても消えないように、別の鍵束から維持の魔法薬を作って道具に振りかける、そして、変身を解除。道具は消えない、魔石は僕の体内に戻っている。
「何をする気!?」
エマさんの声が聞こえる。ああ、あの人にも謝っておけばよかったな。
槍、あるいは銛に似たそれを胸に突き立てる。
先端が胸を穿ち、生き物のように開いた先端が魔石を捉える。
これを引き抜けば魔石を回収できる。そして、魔石は心臓や肺に深く絡み付いているから、そうすれば僕は死ぬ。
ごめんね、陽向ちゃん。陽介くんを殺して、ちゃんとお別れを言えなくて。
ごめんなさい、おばさん、エマさん。たくさんお世話になったのに、何も返せなくて。
ごめんなさい、これまで殺してきた人達。
ごめんなさい、お父さん、お母さん。
ごめんね、吉郷零柰。あなたの人生を無駄にしてしまって。
ごめんなさい
さようなら
エマは零柰が体内から魔石を引きずり出すのを見ているしかなかった。彼女の意図はわかってる。あの魔石を太田陽向に与えるためだ。そのために、零柰が自害も同然の行動をしたことも。
「太田さん!」
べったりとついた血を上着でぬぐい、その魔石を陽向に投げ渡す。
「これって!?」
「急いで! それが最後の一つ!」
「……!」
陽向はその魔石を強く握りしめ、頭上高く掲げる。
「ムーンライズ!」
かくして、サンシャイン・ペリドット、否、ムーンライト・オニキスによって魔人は倒された。
直接的な被害はともかく、協会の損失は小さくない。今後の魔法小女体制に問題が生じることは避けられないだろう。それでも、この体制を続けるしかない。終わりの見えない、マモノとの戦いを。
勝利の中、変身を解除した陽向は手中にある魔石を見つめる。前の魔石からはただ冷たい感じしかしなかったのに、なぜこの魔石から懐かしさを感じるのだろう。
わからなかった。しかし、これからはこの魔石が相棒になることが、ほのかに嬉しかった。
彼女はまだ気づいていない。血の海に沈む小女に。
彼女はまだ知らない。小女の真実と、その喪失に。
全てを知った翌朝、彼女は鏡に写る自分の姿が昨日と違うことに気づいた。もう、それまでの自分には戻れないのだと。
陽向は決意する。戻れないなら、振り返らない、引き返さない。進む、ただ進み続ける。摩りきれるまで。
全てが終わり、空っぽの部屋で、陽向はようやく泣けたことに安堵した。
埋めようのない喪失に、すっかりぼやけてしまった、困ったような曖昧なあの笑顔に、涙し続けた。
これにて完結になります。投稿の遅い作品でしたがお付き合い頂き、ありがとうございました。
また、陰鬱曇らせ杯を主催したTE残党勢さんにもお礼申し上げます。ドストレートなテーマで書ききれたのは良い経験になりました。
あっ、私は「自分の手で大切なものを葬ってしまう」がへけっ!
余談
ハントレス・オニキスが魔人になったらやばくない? というのはマジで魔法小女は誰も勝てないので人類が滅びかねません。対処法としては、いそう場所に雨霰と砲撃をすることです。もしくはダーティーボム。狙うとギフトの影響で狙いが逸れてしまうので。防御面は脆いので、そうしていればそのうち倒せます。周辺の被害を気にしなければ、ですが。