『曇らせ』創作が大流行した!
しかし、その色は十人十色!
互いの『曇らせ』でバトルする『曇らせバトル』は究極のホビーとして普及した!
『曇らせバトル』!
それは熱き『曇らせバトラー』達の魂のぶつかり合い!
今日もまた、どこかで『曇らせバトル』が行われている!
それは今、この街でも!
20XX年!
『曇らせ』創作が大流行した!
しかし、その色は十人十色!
互いの『曇らせ』でバトルする『曇らせバトル』は究極のホビーとして普及した!
『曇らせバトル』!
それは熱き『曇らせバトラー』達の魂のぶつかり合い!
今日もまた、どこかで『曇らせバトル』が行われている!
それは今、この街でも!
★☆★
「ギョーギョギョギョッ!俺様に負けた罰だ!お前の『曇らせ』を粉々に砕かせてもらうぜー!」
「うわー!やめてくれ!僕の『シャイニング・恋人未満友達以上の男女が、時間が経つにつれて想いがすれ違い女側に恋人が出来てBSSされる男・ペガサス』が!」
一人の少年が手にしていた『曇らせ』が、踏み砕かれてしまった。
『曇らせ』は光の粒子となり、散っていく。
「あぁ……恋仲だった事もないのに、情けない未練引きずってる男が……」
「ギョーギョギョギョッ!」
踏み砕いたのは『曇天』と文字が書かれた黒い服を着た男だ。
少年とは違い、いい歳をしたオッサンだ。
「見つけたぞ!『曇天団』!」
「ギョ?」
オッサンが振り返ると、そこには……真っ赤な髪を尖らせた少年がいた。
少年の目は……文字通り燃えていた。
「『曇らせ』で人を傷付けるなんて、このオレが許さない!」
「何だ?お前は?」
「オレの名前は『
逝太と自称した少年に、太った少年と少女が走り寄ってきた。
「ちょ、ちょっと逝太くん!早いよ!」
「そうでやんす!」
「
三人の少年少女が、オッサンの前に立ちはだかる。
「ギョーギョギョギョッ……何を言い出すかと思えば……『曇らせバトル』で勝ったものは敗者の『曇らせ』を好きにしていいのだ!より優れた『曇らせ』だけ残ればいい!」
オッサンがそう口にした瞬間、逝太の目が見開かれた。
「違う!『曇らせ』は創作者の数だけ存在していいんだ!他人の『曇らせ』を否定するのは間違っている!『曇らせ』は他人を傷つけるための道具じゃない!」
「ギョーギョギョギョッ、綺麗事を!」
互いに相容れない信念、逝太がその手に『曇らせ』を掴んだ。
「こうなったらオレと『曇らせバトル』をしろ!お前が負けたら二度と他人の『曇らせ』を否定するんじゃない!」
「ギョーギョギョギョッ、えらい自信だな……良いだろう!俺様がお前のちっぽけな『曇らせ』を破壊してやる!」
オッサンの手にも『曇らせ』が握られた。
勝負が、始まる!
「レギュレーション・
「いくぞ!」
「「『曇らせバトル』、レディ……ファイト!!」」
二人を中心にイマジナリー・フィールドが展開される。
互いの間に『曇らせエナジー』が充満し、読者が空気に満ちる!
逝太が手に持っていた『曇らせ』を構えた!
「いっけー!オレの『ヴィクトリー・巨悪の下で無理矢理悪事を働かされている少女と、それに気付かなかった後悔と無力感で流した少年の涙・ドラグーン』!」
「迎え撃て!『ダーク・好きな相手の曇り顔がみたいが故に、善良なフリをしているが内心がドス黒い少女・ファンタジスタ』!」
二つの曇らせが衝突した!
パワーは互角……薄暗い、どんよりとした気分の悪い空気がフィールドに充満する!
「死蔵くん!これは……」
「根鳥ちゃん、これはタイプの違う『曇らせ』が衝突したでやんすよ」
「タイプの違う?」
「そうでやんす!逝太の『曇らせ』は唐突に繰り出される悲劇をテーマにした『受動的曇らせ』、相手の『曇らせ』は曇らされてる推しの顔が見たいという『能動的曇らせ』でやんす」
「どっちが強いの?」
「使い手の力量次第になってしまうでやんすよ!タイプの違う『曇らせ』……読者の好みを超越した面白さで、相手側のファンを引き寄せた方が有利になるでやんす!」
二人が会話している中も、『曇らせバトル』は進んでいく。
「いくぜ!まずは『恋人未満友人以上の少年少女』を描写するぜ!甘酸っぱい日常に、薄暗い影を描写する事で落差を得るぜ!」
「何?落差だとぉ……?」
「そうだ!『曇らせ』はジェットコースターだ!楽しい日々と悲劇、急降下する事でエネルギーを生み出すんだ!」
ぎゃあああぁっ!?
読者の悲鳴と聞き間違える程に、逝太の『曇らせ』が音を響かせた。
しかし、オッサンは余裕の笑みを浮かべていた。
「ギョーギョギョギョッ、逝太!お前の『曇らせ』には弱点がある!」
「何だって!?」
オッサンが逝太を指差した。
「明るい日常パートと、悲劇パート……どちらにもボリュームが必要だって事だ!必然的に物語が長くなる!つまり、チャージが長いって事だ!」
「チャージが、長い!?」
「そうだ!本筋に入るまでが長けりゃ長いほど、読者の脱落率は高まる!いかに良い作品だろうが、キャッチが弱けりゃ読んでくれねーって訳よ!」
「くっ!?」
「その点!オレの『曇らせ』は目的がハッキリしてる!推しの歪んだ表情を見たいという目的!それさえあれば長ったるい日常パートもショートカットできるって訳よ!」
オッサンの『曇らせ』が巨大化し、逝太の『曇らせ』を弾き飛ばした。
「うわっ!?」
「ずばり!速攻!読者に『作品の題材』をダイレクトに提示する事で、性癖とマッチした読者を素早くキャッチする!速攻型の『曇らせ』なのだ!」
二つの『曇らせ』が衝突し、曇らせエネルギーが頭上へと突き上がる。
「死蔵くん!」
「まずいでやんす!あのオッサン、只者じゃないでやんすよ!読者の心理をよく理解してるでやんす!」
観客が戸惑っている最中──
「何……?」
逝太は『笑って』いた。
「オッサン、おもしれー『曇らせ』を書くんだな」
「く、ギョーギョギョギョッ敗北宣言か?」
「……いいや、オレの『曇らせ』だって負けてねーぜ!」
逝太が小さな封筒を手に持った。
「ギョ?なんだアレは……?」
その封筒の正体が分からないオッサンとは対照的に、死蔵と根鳥が反応した。
「出るでやんす!逝太くんの『必殺コンボ』が!」
「ええ!」
逝太はそのまま、封筒を自身の『曇らせ』に投げ込んだ!
瞬間、逝太の『曇らせエナジー』が爆発的に増加した!
「なんだ……!?何が──
「これは『ヒロインの遺書』だ!」
「ヒロインの……遺書!?」
そう!
逝太が投げ込んだのはヒロインの遺書!
彼の『ヴィクトリー・巨悪の下で無理矢理悪事を働かされている少女と、それに気付かなかった後悔と無力感で流した少年の涙・ドラグーン』にヒロインの遺書が合体した!
少女の死!
少女の遺書!
少年の涙!
即ち……ベストマッチ!
指数関数的に上昇していく『曇らせエナジー』が読者を包み込み、デケェ声の悲鳴を叫ばせた。
まるで
怨嗟と驚嘆、涙とニチャつく笑みが広がっていく!
圧倒的な曇らせパワーにオッサンは──
笑みを浮かべていた。
「ギョーッ!甘い甘い!」
「何!?」
「追加要素による
瞬間、オッサンの『曇らせ』、『ダーク・好きな相手の曇り顔がみたいが故に、善良なフリをしているが内心がドス黒い少女・ファンタジスタ』が邪悪な光を放った。
観客達も思わず目を逸らす。
「な、なんて邪悪な光……」
「陰欝すぎるでやんす……」
ただ、逝太だけは真剣に目を向けていた。
「オッサン!今のは何を!?」
「ギョーギョギョギョッ!教えてやろう!今、肉体の欠損描写を追加した!」
「肉体の……欠損!?」
「そうだ!推しキャラと仲が良くなった少女の身体を欠損させる事で、強烈な無力感と後悔を与えたァ!」
刹那、逝太はオッサンの思惑を理解した。
オッサンの『曇らせ』は曇らされるキャラクターがハッキリしている。
そして、その曇らされる推しキャラに……安易に肉体的なダメージを与えなかった。
精神的なダメージを与えるために、敢えて主人公の少女に肉体的なダメージを与えたのだ!
何も悪い事をしていない推しキャラを直接虐待すれば読者にダメージが入るが……性格の悪い少女というクッションを挟む事で、読者は納得する!
ずばり!
説得力!
それは全ての創作にて優先させる!
無論、『曇らせ』というジャンルにおいても!
「くぅっ!?」
衝撃と衝撃がぶつかる!
鳴り響く読者の悲鳴の中、『曇らせ』は互角となっていた!
だが、しかし。
逝太は苦悶の表情を浮かべていた!
その表情に根鳥と死蔵は困惑している。
「どうして……まだ互角なのに、逝太くんはあんなに辛そうなの?」
「逝太はヒロインを殺したでやんす……つまり、既に打ち止め。これ以上、衝撃的なシーンで読者を惹きつける事は難しいでやんす!対して──
視線がオッサンに集まった。
「甘すぎる!俺はまだ、進化を残している!何故ならまだ、性格の悪い女主人公が生きているからだ!」
「くっ……だがオレも負けてねーぜ!ヒロインの死亡後描写を追加する!」
逝太の追撃は……ヒロインの死亡後、その心理描写を書く事だった。
ヒロインを死なせっぱなしにするのは三流の『曇らせ』バトラー……しかし、逝太は違う!
「死なせる事を目的とせず、死による『曇らせ』を描写する!これがオレの『曇らせ道』だ!」
「ギョーギョギョギョッ!もう遅い!叩き潰せ!『ダーク・好きな相手の曇り顔がみたいが故に、善良なフリをしているが内心がドス黒い少女・ファンタジスタ』!」
宣言通り、オッサンの『曇らせ』が爆発しそうな程に輝いた。
「今、俺は更に『曇らせ』描写を追加した!更なる肉体欠損描写!更なる精神の破壊!尊厳の陵辱!存在の否定!」
「ぐわぁーっ!?」
「陰鬱力こそ全て!全てを蹴散らせ!!」
『曇らせ』に続く、更なる『曇らせ』。
臨界点を突破した読者の声が、感想欄を加速させていく!
鬱描写が積み重なり、ついには闇のエネルギーが柱のように立ち上った!
「ギョーギョギョギョッ!お前の負けだ!」
オッサンの高笑いが響く中──
「……ギョ?」
オッサンの『曇らせ』、『ダーク・好きな相手の曇り顔がみたいが故に、善良なフリをしているが内心がドス黒い少女・ファンタジスタ』のエネルギーが減少していく。
「な、何!?」
確かに、『曇らせ』としては描写を重ねられた筈……!
これ以上もないほどに陰鬱!
逝太の『曇らせ』よりも、強烈な負のエネルギーがある筈!
それでも読者が……減っている!
「何故だ!?何故、俺の曇らせが……!」
「分からないのか?オッサン」
気付けば、逝太の顔には……オッサンを憐れむような表情が浮かんでいた。
「何故、お前がそんな顔を……!」
「アンタは……やり過ぎたんだ」
「やり過ぎ、だと?」
「あぁ、そうさ」
逝太の『曇らせ』が爆発的にエネルギーを増加させていく。
これは即ち……物語の完結による
ヒロインを殺し、遺書を読ませ、明日に向かって少年が涙を流した。
それを読者が評価してくれていたのだ。
「オッサンの『ダーク・好きな相手の曇り顔がみたいが故に、善良なフリをしているが内心がドス黒い少女・ファンタジスタ』には……所謂、好きなキャラの悲しむ顔が見たいという『愉悦』要素が含まれている」
「あぁ、そうだ!それが何故っ──
「オッサンは……内心がドス黒い少女を虐め過ぎたんだ。読者は推しキャラの悲しむ顔がみたいだけなのに……残虐で陰鬱なシーンを描写し続けた」
オッサンが目を見開いた。
「まさかっ──
「そうだ!オッサンは自創作を陰鬱にしたいがあまり、読者のことを考えず独りよがりな『曇らせ』をしてしまった!」
「ギョーッ!?」
オッサンの『曇らせ』が燃えていく。
曇らせエネルギーを炎に変えて、感想欄が炎上しているのだ。
「ぐ、ぐぅっ!陰鬱なだけじゃあ……読者の人気も出ないって訳か!?」
「そういう事だ!行け!『【完結済】ヴィクトリー・巨悪の下で無理矢理悪事を働かされている少女と、それに気付かなかった後悔と無力感で流した少年の涙・ドラグーン』!」
「ギョ、ギョォーッ!?!?」
瞬間、爆発した。
「逝太くん!?」
「逝太!」
逝太の『曇らせ』が、オッサンの『曇らせ』を叩き潰したのだ。
二人を中心としたイマジナリー・フィールドが消滅し……街並みが戻ってくる。
オッサンが膝を折り、地面に手をついた。
「ギョ、ギョギョ……お、俺は、目先の読者に囚われ刺激的な描写を繰り返し……自分の創作を見失ってしまっていたと、言うのか……?」
「いや、それは違う」
逝太が、オッサンの肩に手を置いた。
慰めるような手に、オッサンは顔を上げた。
「『曇らせ』に正解なんてない。ただ読者が付いてこれなかっただけなんだ……それだけで……オレは、オッサンの『曇らせ』、好きだったぜ」
「お前……」
「特に推しキャラを庇って、犬型のバケモノに腕を食い千切られて涙を流しながら叫び……それを見た『強い』筈の推しキャラが弱々しく不特定の誰かに『助けて』と弱々しく漏らすシーン……オレは好きだぜ」
熱いオタク語りに、オッサンの胸が暖かくなった。
誰かの『曇らせ』創作を否定し、叩き潰し、優越感に浸るだけだった彼には……暖かい光だった。
そう、彼も昔は純粋に『曇らせ』を愛した『曇らせバトラー』だったのだ。
いつしか、己の『曇らせ』が全てだと信じて、他人の創作を否定するようになってしまっただけの……ただ、一人の『曇らせバトラー』だった。
「逝太、オマエは……」
「そうさ。本当は『曇らせ』に優越なんかない。自分が満足できれば良いんだ……『曇らせバトル』は互いに研鑽するためのバトル。他人を否定するためのバトルなんかじゃあない」
その言葉に、オッサンは涙を流しながら頷いた。
『曇らせバトル』は、逝太が勝者となった。
「なぁ、逝太……俺も、またお前とバトルしてぇ」
「いいぜ、いつでも来いよ。オレもオッサンの『曇らせ』楽しみにしてるからよ」
「あぁ、ありがとうな……」
立ち上がり、手を握った。
年齢も違う。
性癖も違う。
だが『曇らせ』という一つの創作ジャンルにかける願いは同じだった。
そして、それだけで十分だった。
そうだ。
『曇らせバトル』は、互いを高め合うための究極のバトル。
戦う相手は敵じゃなくて……ライバルなんだ。
今日もまた、どこかで『曇らせバトル』が行われている。
今も、どこかで……もしかしたら、君の街でも。
☆★☆
「修がやられたか……」
暗い部屋、円卓を囲む五つの席。
そこに、四人の男女が居た。
筋肉質な男が空席に目を向けた。
「アイツは『曇天団』の中でも最弱だァ……軟弱な『曇らせ』を見る度に吐き気がしてたぜ」
それに、化粧の濃い女が頷いた。
「えぇ、そうよ。読者に想定されるストーリーをなぞるだけの『曇らせ』なんて二流よ。曇天団の恥晒しね」
身長の高い細身の男が笑った。
「ヒョヒョヒョ、情けない男でござるな」
そして……威圧感のあるオーラを纏った少年が、机に手を付いた。
「だが、それでも修は曇天団のメンバーだった。アイツはどうでも良いが……チームに牙を突き立てた報いは受けさせるべきだ」
その少年は、メンバーの中で最も若かった。
だが、他のメンバーの誰もが彼を恐れていた。
究極の曇らせバトラー……
彼の『曇らせ』は読者の脳を破壊し、日常生活に支障をきたす程の『曇らせ』を行う。
彼の歯牙が自分へ向かないよう、メンバーは焦っていた。
がたり、と細身の男が立ち上がった。
「ヒョヒョヒョ!ここは俺の『エボリューション・長命種人外ヒロインとイケおじの死に別れ・レックス』の出番でござるな!」
「あぁ。頼んだぞ、
「し、心配は不要でござる!その辺の餓鬼に俺が負ける訳ないでござるよ!」
細身の男が焦りながら椅子から離れ……暗室を後にした。
それと同時に他のメンバーも部屋を後にしていく。
残ったのは少年、
「見送 逝太か……」
手元には一枚の写真。
逝太の写真だ。
だが、今よりも……数年若かった。
「君は僕に、敗北を教えてくれるのかい?」
暗室で呟いた声は、静かに響いていた。