なお、天然たらし=宵宮であるものとする。

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続かない。反響があって天地がひっくり返ったら続く。


主人公vs天然たらしvsダークライ

 人たらし、という人種がいる。彼らは異性同性見境なく、その人の良さにより仲間を作っていく。場合によってはそれが大きな問題を呼ぶこともなくはないのだが、人たらしは八方美人でなく、「誰にでも優しく接せて誰かと仲良くなるのが早い」といういい意味で使われることが多い。

 

 中でも、枕詞に「天然」と付く人種がいる。彼らは先述したように仲間づくりに長けているわけだが、これが無自覚ともなると良い意味だったものが悪い意味を持ち始める。勝手に勘違いさせて、勝手に諦めさせる。

 

 希望を持たせるという意味では本当に悪質とも言えよう。

 

 だからこそ僕は自分の初恋を奪った少女に言ってやりたい。

 

「そない憂鬱な顔してどしたん?折角の綺麗な顔が台無しや」

 

 この天然人たらしめ。

 

「…なんでもないよ」

 

「ならええねんけど、ウチは春の笑顔好きやねん。笑ってくれとると嬉しいわ!」

 

 顔が熱くなる。こんなの慣れるわけがないし、慣れちゃいけない。それ言いながら笑うのはズルじゃない?あまりに日常的にこんな言葉を言ってくるのだから、僕の情緒はおかしくなる。

 

「そっかあ」

 

 なんだか自由に操られてるみたいで、最早呆れる。つい僕も笑ってしまう。自覚ないんだろうなあ…とか思いつつ、そういうことを言われるだけで嬉しくなってしまうのが人の性。

 

「ありがとう、宵宮のおかげで元気出たよ。行ってくるね」

 

「もうちょっといてくれとってもええんけどなー…ええんけどなー…」

 

 胡座をかいた状態で体を横に振りながら言い訳をする宵宮。かわいい。

 

「そのくだり昨日もやったでしょ。僕にも都合ってものがあるんです」

 

 宵宮が花火を作るように、僕もやることがある。いくらここでゴネられたところで優遇には限界があるのだ。僕は後ろを向いて歩き出した。

 

「冗談やって!ほんなら夜一緒にご飯でも食べようなー」

 

 僕の去り際に、次会う約束をナチュラルに入れてくるのだから、筋金入りだ。しっかりしている。

 

「はいはーい」

 

 パタン、と横開きの扉を閉め、僕は早歩きで場所を変える。

 

 誰もいない日陰の場所を見つけ出し、しゃがむ形でうずくまる。

 

「ああもう…!」

 

 ずるい、あれは。いつも宵宮と喋った後はこうなってる気がする。顔が熱い。湯気が出るとはこういうことか、とよく分かる。

 

 顔を下にむけ、つい呟く。

 

「……やっぱり好きだなぁ…」

 

 懐かしい話だ。僕らは昔から友達だった。そこに恋心なんかあったわけがなく、今までもこれからも、親友として付き合っていけるものだと当たり前のように感じていた。

 

 きっと宵宮の方は今もそうだ。態度だって昔から変わらない。記憶が曖昧だから、あそこまで筋金入りの天然タラシだったかは微妙なところだけど。

 

 でも僕は変わった。否、変えられた。

 

 きっかけは分かりやすかった。その時まで僕はなんとなくで宵宮の性格を批評していたと言ってもいい。とりあえず、

 

「優しい」

「明るい」

「面倒見がいい」

「情熱に溢れてる」

 

 だいたいこんな感じの印象だった。あながち間違ってはいない。「宵宮の性格を概略せよ」なんて問題があったら僕はこう書くだろう。

だけど、人の性格というのは紐のように交差的につながっていることを宵宮を通して僕は知った。

 

 何故そう理解できたのか?それがきっかけの部分と言える。

 

 

 宵宮のお父さんについて知っているだろうか?気前がよく、宵宮に似て明るい。花火に対する情熱は人一倍。なるほどいい人だ。

 この人が、数年ほど前から耳を悪くした。

 

 耳が悪いというのは当然ながら老いの象徴とも言える。こんな分かりやすい症状が出れば、誰だって「その時」が刻一刻と近づいていることに気づく。咳も増えたし、認知症も増えた。

 

 僕ですら脳裏に「死」の一文字がよぎったくらいだ。当時の僕は、宵宮はこれが原因でショックを受けていたりしないだろうかと宵宮を見に行った。

 

 ここがターニングポイントだった。宵宮の父親に対する態度は僕の人生観に恐ろしいほど巨大な影響を与えた。

 

「もう!何回言ったらわかんねん!これで5回目やで!」

 

 以前と一切変わらない声色。以前と一切変わらない顔色。まるでこれが普通のことであるかのように、気高く、朗らかに。

 

 僕は絶句した。耳が悪くなっていることを隠すでもなく、かと言ってソレを心配する様子もない。この態度を取るのにどれほどの精神力がいるだろうか。

 

 誰だって心配するだろう。誰だって自分の父にはゆっくりしておいてほしいものだろう。なんで、一切態度を変えることなく接することが…

 

 宵宮の精神の源泉とは一体なんなのか?僕はそれについて、こう結論づけた。

「誰かのために夢を見せる」。

 

 ある時は花火によって、思い出に浸るような夢を。

 ある時は嘘をついてでも、誰かの大切な夢を守る。

 ある時はそれを正直伝えてでも、本人の夢の通りに。

 

 これは僕の勝手な予想だ。合ってるなんて言うつもりは一切ない。

 

 でも。

 

 僕はそんな宵宮の優しさに、心の底から惚れてしまったのだ。

 

 

 ではここでクイズ。僕の職業はなんでしょうか。シンキングタイムは1フレーム。…正解は、教師兼医師。後者が本職だ。

 

 なんでまた医師なのか、って?決まってるじゃないか。

 

 宵宮はたまに危なっかしいところがあるだろ?

 

 

 

 

「せんせー!そんなの神の目を持ってる人達に直して貰えばいいんじゃないんですかー?」

 

 鋭い質問と共に、僕は黒板に文字を書くのをやめた。目の前にいる、純粋な目をした少年の問い。

 

「せっかくあるんだから、使ってもいいんじゃないの?」

 

「うん。その考えは間違ってないよ。僕だって危なくなったら神の目使っちゃうしね」

 

 そうそう、言ってなかったけど、僕は神の目を持ってる。情報は伏せるけどね。

 

「えー、じゃあなんで?」

 

 「なんで」と言うのは、僕のやってる治療のやり方についての問いだ。僕の治療は神の目を使わない。強烈な痛みが伴う上に、直せないものばかり。今のところ、ある一点を除いて神の目による治療の完全下位互換と言える。

 

「神の目を持ってる人がいない時とか、神の目が使えない時のためだね」

 

 ある一点、それは、誰でも使えるところにある。神の目に頼らない治療。これが発達すれば、いつの日か、神に頼ることなく人間が生活していける日が来るんじゃないだろうか。

 

「あ、そっか!」

 

 理解が早くて助かるが、少年の後ろにいるお前。そろそろ拍手をやめてくれない?

 

「やはり春殿は素晴らしい考えの持ち主だ。拙者も神の目に頼らず生きたいものだ」

 

 楓原万葉。たまーにウチの授業にきては勝手に褒め称えてくるやつだ。

 

「ところで」

 

「宵宮殿との恋路はうまく行っているのか?」

 

 静粛。

 

「………ふぁっ!?」

 

 待って待ってちょっとおい待ってって、いつ言った!?いつ知った!?少年も先生の恋に関する話が始まって事態を飲み込めてないじゃん!!

 

「どこで知ったお前!?」

 

 僕のその言葉に、万葉は口をぽかんと開ける。

 

「…まさか図星とは思わなんだ」

 

再び静粛。僕は頭を抱えた。

 

「ブラフなの……!?」

 

 やられた。完全に騙された。僕はため息をつきながら観念する。

 

「いやでもどっちにしろ、宵宮はあれ天然でやってるからさ。僕に恋心の芽生えすらしてないよ、多分」

 

 宵宮にとっちゃ僕は仲のいい友達。恋愛対象にすらなっていない。

 

「いや、春殿。それは少し違……」

 

 万葉が何かを言いかけた時、教室の扉が開く。

 

「春さん、急患対応お願いします!」

 

 どうやら僕の患者がいるらしい。今報告してくれた彼女は一応僕の助手をやってくれているのが、紹介はまた追々。

 僕の本職は医者だし、行かない理由はない。道具だけ持って、少年に「また後でね!!」と声だけかけて教室を急いで出ていく。

 

「症状は!?」

 

「呼吸はあるんですが熱がひどくて、咳が止まらず、顔色が悪いです…!」

 

「普通の風邪だといいんだけどねぇ…!」

 

 

「全く、春殿はいつも忙しそうでござるな」

 

 万葉は出ていった背中を目で追いながらそう呟く。

 

「ねね、万葉さん」

 

 少年が話しかける。

 

「?」

 

「宵宮姉ちゃんと先生って、まだ付き合ってなかったの!?」

 

「…そうでござる」

 

 楓原万葉は知っている。宵宮があんな言葉を言うのは春にだけだと言うことを。

 楓原万葉は知っている。両者とも、その事実に無自覚であると言うことを。




主人公、相当宵宮に脳焼かれてますね。まあ、その逆も然りですけど。無意識で誰か一人にだけあんなセリフ言っちゃうくらいですし。
関西弁が終わってたら指摘よろしくお願いします。

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