これ違うというのがあれば報告お願い致します
即修正します
ため息一つ。
俺は着慣れない式典用の豪奢なコートを羽織り、左腰には儀礼用の剣を、そして右手に自分の身長を超えるほどの杖を携え、王様に頭を下げる。
そうして王様が前に進めば斜め後ろに配置し、同様前へと進む。
さて、今の俺が何をしているのか分かるだろうか。
正解は宮廷魔法使いとして王様の演説の護衛だ。
なんでこうなったか、思い出すだけでも苦虫を噛む思いだが、端的に言えばクソジジイのダンケルが俺を推薦したせいだ。
あの野郎王様に『俺を超える魔法戦士』だの『千年に一人の天才』だの、『金輪際現れない魔法というものの生まれ変わり』だのどこのアイドルだと言わんばかりの評価を王様に吹き込みやがったせいで俺はここにいる。
俺はやりたいことがあるというのに、なんでこんな無駄な時間を取られなければならないのか。
(とは言っても給金は目茶苦茶高いんだよな……未来への投資だと思えばありと言えばありなのだが……)
休みもそこそこ、前の環境に比べれば時間は有り余っている。
だが、クソみたいな環境ではあったが魔法開発漬けの日々を考えれば前の環境のほうが未来へと進んでいる感はあった。
ジジイ本人には言いたくないが、前の環境の方が俺の目的に合致していたのだ。
どうせ畑に帰れないならクソジジイの下へと帰りたいとさえ今は思っている。
そもそも給金が高いと言っても、かの天下人秀吉のごとく市場を調べて安いものを高いところで売る手段を使えばそこそこに儲かる。
まあやりすぎると、利権絡みで問題が起きそうだが、それでも金を稼ぐ方法など手段を問わねばいくらでもあるのだ。
あー……そう考えると早くも逃げたくなってきた。
まあ逃げれば家の方に害が行くだろうし、俺を打算込みとはいえ魔法使いの下まで送り出してくれた親への恩を考えるとその手は使えない。
クソジジイ面倒な立場に押し込みやがって……覚えてやがれ!
宮廷魔法使いとは前の世界では宮廷魔術士とも言われるエリート魔法使いの代名詞みたいなものだ。
この世界の宮廷魔法使いの仕事は基本的にはお偉いさんの護衛だったり、どこそこで出た冒険者が倒せない魔物の退治だったり、戦争のメイン火力だったり魔族相手にぶつける主戦力だったりと様々だ。
基本は戦闘職であるが、戦闘がない日などは文官のまねごとなどしたりするエリートの皮を被った社畜だ。
俺の知っている宮廷魔術師と言えばアーサー王物語に出てくる魔術師マーリンなのだが彼もまた社畜だったと思う。
聖なる予言者として絶大な魔法の力を持つマーリンは、宮廷一の賢者として政にも、戦にも、色事にも手出し、口出しをして、アーサーの治世を繁栄に導くなどという、なんだこの役職つけられまくった中間管理職はやること多すぎだろ! と学生時代に思わされたものだが……まさかその中間管理職になるとは思いもしなかった。
一般的にこの王都の宮廷魔法使いは貴族の子息を除けば功績を積み上げ、王に認められ、実力試験を突破してやっとなれるものである。
そんなきついノルマを無視して俺は王都一の魔法使いである師匠の推薦で一足飛びにその役職につくことになったのである。
貴族でもないのに。
それはもうやっかみに嫉妬、陰口など酷いものであった。
前の世界で言えばコネ入社の幹部職、ゴマ擦りの宴会部長と言ったものが適当だろう。
俺は間違いなくそれに近い目で見られていた。
まあそもそも宮廷魔法使いになったばかりで実績もなし、魔物を何体も退治しているとはいえ公式の記録には載っていない、その上未だ魔族との交戦経験もないとくれば当然であろう。
俺は普通に同僚に嫌われていた。
辛い。
そんな辛い日々を送りつつ数日後、雪がしんしんと降る真冬。
俺は王に呼ばれ、玉座の前で跪いていた。
初の任務らしい。
どうにも王都の近く、小さな村が鍛冶師のドワーフを残して全滅したらしい。
まずは生き残りのドワーフへ聞き込みをし、現地の調査、魔物及び魔族がいれば殲滅、無理そうなら情報をもって撤退をしてこいとのことである。
どうやら王様は俺に実績を作りたいらしい。
王が言うに無理に宮廷魔法使いにしたので各所で不満が出たとのこと、その不満を実績で晴らしてこいとのこと。
いや、その歪みはアンタと師匠のせいでしょ……とは流石に言えなかった。
王も凄く申し訳なさそうな表情だったのでたぶんこの国の英雄である師匠の言葉を無下にできなかったのであろう、苦労してますね……。
しかし現地調査なんてやったこともないことをいきなり任されてもどうしろってんだ?
せめて経験者とかつけて欲しいと頼むも、そいつの実績になる恐れがあるせいか拒否された。
ならマニュアルとかないですかね! 入社初日の新卒にいきなり営業行ってこいとかいうレベルで無茶振りだぞ!
マニュアル? なにそれ? みたいな顔をされた。
やっぱりない? クソ! これだから文明の発達してない時代は困る!
俺は半ば自棄になりながら王に場所を聞き、しぶしぶ現地へと向かうことにした。
……ああ胃が痛い。
なんで俺はこんな時代でノルマを達成していないサラリーマンのような気持ちにならなければいけないんだ……。
現地までは普通に行けば三日ほどかかる距離、雪が降っているのでもう少しかかるかもしれない。
もし村の壊滅が魔族の仕業なのだとしたら喉元まで接近を許していることになる。
うーん……もしかしなくても俺一人であたっていい任務じゃないのでは?
「それともうちの師匠基準ではイケルと思ってらっしゃる? 俺ある意味新卒生ぞ?」
俺は愚痴を言いつつ、街道を全力で走る。
王には馬を使えとは言われたものの正直俺のが馬より早い。
そもそも走れば一日だ。
馬には乗ったことがないので余計に時間がかかりそうだし……。
そもそも雪の中で走る馬ってどれくらいの速度なんだ?
そう言えば王の好意を遠回しに断るとなんか「あーこいつアイツの弟子だもんな」見たいな目で納得していたのを思い出した。
なに? 師匠も同じことしたの? でも走ったほうが速いし……。
飯も現地調達で魔物とか狩るから包丁くらいしか荷物ないしな。
「とっ、そろそろ見えてくる頃か」
走り続けておそらく太陽が頂点に上がったころ、村が見えてくる。
ドワーフは壊滅した村の隣村にいるとのことでその村へと来た。
ドワーフの見た目は髭面で背が低く、筋肉質。
前の世界でのイメージ通りの見た目であり、元の世界で日本人が外国人の見た目を見分けれないように大体皆似通って見える。
正直マジで見分けづらいのでこの村に他のドワーフがいるのだとしたら間違える自信がある。
……とりあえずそこまで広い村ではないので、この村唯一の酒場へと行ってみることにする。
こういうのは人の集まる場所で聞き込みをするものだと前世の漫画知識に頼っているのだが、内心マジでこれで大丈夫? と不安でならない。
俺はそんな不安を抱えながら酒場のドアを開ける。
そう言えば大体のドワーフは酒好きするらしいので「もしかしたらいるかも」くらいの淡い期待で聞き込みをしようとすると、髭面の低身長筋肉ダルマが木の大ジョッキで酒を煽っていた。
……どう見てもあれだよな。
「少し聞きたいのですが、貴方が村の生き残りのドワーフでしょうか。私は王都から派遣された宮廷魔法使いです。申し訳ないのですが、そうであれば当時の状況をお聞きしたいのですが」
自分に近いしいものが死んだ人間の気持ちなんて薄っぺらな人生経験しかない俺には分からない。
前の世界を含めて大事な人間を亡くした経験なんてないのだから当然だが、一応……察することくらいはできる。
なのでできるだけ丁寧に、できるだけ誠意を込めて、単刀直入にドワーフへと聞き込みをすると、ドワーフは木のジョッキに入った酒を一気に飲み干し、強く机の上にたたきつけ、泣き始める。
「お~うおうおうおう……村の奴らがよ! 皆死んじまってよ! あいつ等がなんで死ななきゃならないんだよ!! お~うおうおう」
「ああ、やはり……」
間違いない。
このドワーフが本人であろう。
やけ酒とでも言うのだろうか、真昼だというのに大量の酒を飲み、今にも酒に飲まれて潰れそうになっている。
もしかしたら今日聞き出すのは無理かもしれないな……なんて思いつつも仕事は仕事と言い聞かせとりあえず当時のことを聞いてみることにした。
「申し訳ないが村の状況をきかせて……」
「お~うおうおうおう!!! 悲しいな悲しいな!!」
話を聞かねえ!!
しかし身近の人物がいきなり皆亡くなってしまったんだ。
このようになってしまうのも仕方がないのだろう。
やはり今日は無理かも……なんて半ば諦めようとしていたら。
「お~うおうおう~あんた何か勘違いしてるようだがワシはドワーフじゃなくてただのムキムキのジジイじゃ! 生き残りのドワーフは村の端で鍛冶をしておる、あいつは復讐のために武器を作っているんだお~うおうおう」
「あんたじゃないんかい!!」
というか泣き声の癖が強いなこのジジイ!!
俺はこの一瞬でどっと疲れたものの、貴重な情報に感謝し、謝礼としてジジイに酒を一杯奢ってから移動した。
……なんだろうジジイの呪いでもかかってるのだろうか。
出会うジジイ、出会うジジイ王様含めて大体が俺の時間を無駄に消費しやがる。
……教会で呪いでもかかってないか見てもらったほうがいいだろうか。
頭を抱えそうになるが、俺はさっきのムキムキ爺さんに教えてもらった場所へと向かうとカーンカーンと槌を振る音が聞こえる。
見れば炉であろうか。
見た目は低シャフト炉のように見えるが高温の火が噴出しており、その高温に耐えうる炉が前の世界の知識が役に立たないことを教えてくれる。
つまり魔法か他の要因により耐熱と送り込む風を確保しているのだろう。
あそこまで高温の炉があるのに人力ハンマーによる鉄の鍛造とか意味わからん。
文明が進んでいるのか進んでいないのかよく分からんな。
魔法があるせいで文明が意味の分からん進化のしかたをしている。
まあ、もしかしなくてもこの世界の基準ではこれが正当な進化なのかもしれんが。
でもそれ本当に足踏み送風で出る火力? もしかしてドワーフのムキムキパワーによる力業?
うん、あんまり考えても仕方ない、人間は未知を未知として使える度量があるのだ。
普段使ってるものがどうやってできてるかなんて普通は考えない。
ならそれでいいじゃないか
「申し訳ない。私は王都から派遣された宮廷魔法使いなのだが、村の生き残りのドワーフとは貴方の事だろうか」
思考を放棄した俺はそう言ってドワーフへと声をかけると、こちらをちらりと見て槌を叩き続ける。
うん、無視だね!
復讐に燃えてるとか言っていたからもしかしたら心を閉ざしている可能性もあると思っていたが、案の定だな。
どうしようかな、なにも聞ける感じじゃねえぞこれ。
うーむ……と一人考え込んでいると俺の後ろから声がした。
「トニックさん、あたしの包丁はもうできそうかい?」
おばさんが俺の後から現れたかと思うと、そう言ってドワーフへと近づいていく。
仕事はしてるんだ……と思っているとドワーフはにやりと笑う。
「おう、そこに完成したやつを置いてる、勝手にもってけ!」
「あらーいいわねこれ、これなら堅い野菜でもなんでも斬れそうだわ。代金置いてくわね」
「おう毎度あり!」
普通に話せるんかい!
ということは俺が相手にされてないだけか。
ただたんに怪しまれてるのかそれとも見下されているのか。
「トニックさんでよろしかったでしょうか、申し訳ないが話を聞いていただけませんか」
俺は膝をつき、同じ目線でそう伝える。
会話とは同じ目線で、かつ対等ではなくてはならないと思っている。
立場で言えば王様からの派遣魔法使いなので、どうしたって同じ立場になることは無理だが誠意の問題だ。
目線だけでもと、煤で汚れることもいとわず目で分かる誠意を示した。
まあどうせ戦闘があるなら汚れるし、なんなら洗濯魔法もあるから汚れなんてそもそも気にもならないけどね。
すると、ドワーフのトニックさんはこちらをもう一度見て、ため息をついた。
「王都の宮廷魔法使いが庶民のドワーフに膝をつくなぞ一大事だな。お前本当に王都から来たのか?」
「ああ、えっと……一応なってから日が浅いもんでして……」
「だとしてもお前みたいな高慢な態度じゃない宮廷魔法使いなんてみたことねーな。お前、同僚から嫌われてるだろ」
「うぐぅ……」
その通りである。
そもそも宮廷魔法使いとはプライドが高く、自身の才能に絶対の自信を持ち、我が師匠のように基本的に自分の言うことは正しいと思っている。
だがそれも間違っているとは思わない
なにせ超トップダウン式の社会である。
自分が正しいと思わないとそもそも指示なんて飛ばせやしない。
その上滅茶苦茶厳しい実績を上げ続け試験に合格しないと宮廷法使いになれないのだ。
識字率も学問も全く世に普及していない世界では、そりゃ高慢にもなるし傲慢にもなるし鼻につく人間にも性格ねじ曲がった人間にもなるだろう。
うちの師匠なんて肉体的にはパーフェクトゴリラだから暴力がきつかったが、時代で考えれば自分の弟子に手を上げない人間なんてまずいないだろうし、死ぬ目なんて一回や二回じゃすまないだろう。
そんな地獄を潜り抜けて厳しい競争を勝ち抜きやっと上の役職に就いたと思ったら俺みたいなやつが用意された椅子に座っている、しかも庶民。
そりゃ嫌われるよね。
「やっぱボンボンのお坊ちゃまに見えます?」
態度だけで言うなら下手にいつでもでれる商人だろうか。
どこかの豪商の息子が役職を金で買ったと思われてる可能性もある。
だが、ドワーフは鼻で笑うと否定した。
「貴族ならまず膝はつかない、金持ちのボンボンが金で宮廷魔法使いの役職を買ったとしたなら一人では来ねえ。コネでなったとしても同様だ。お前あの説明下手のダンケルのとこの弟子だろ。あのバカ強引にねじ込みやがったな」
「なんでそれを」
「分かるさ、おりゃあいつの元相棒だよ。金で雇われた元冒険者だけどな」
世間ってのが狭いことを思い知らされる。
なんで壊滅した村の生き残りに会いに行けばあのジジイの元仲間に出会うんだ。
やっぱジジイ関連の呪いにでもかかってんだろ。
「ダンケルの野郎、後継者を見つけたって自慢しに来てたからな」
わざわざ会いに行ってまで自慢するとか暇人かあのジジイ。
「仲いいんですね」
「いや、仲は良くねえぞ。あいつ俺よりも近接戦闘が強かったからよく見下してきたし」
「クソですね」
「まあ他の宮廷魔法使いに比べりゃ冒険者を肉盾にしないだけマシだな」
……倫理観よ。
いや鎌倉武士みたいなやつが溢れる世界じゃなくてよかったと思うべきだろうか……。
でも鎌倉武士でも身内には優しいとは思うんだよね、うちの師匠は優しくなかったけど。
「なんでトニックさんはあのジジイと一緒に組んでたんです?」
「魔族狩りだよ。あのアホが現役のころ王都によく魔族のクソ共が攻め込んできててな。あの野郎単独でアホみたいに強い上に愛国心に溢れてやがるから王に自由に動く遊撃隊みたいのを任されててな。それで後衛の魔法使いばかりで組んでも意味ないってんで俺達みたいな前衛でやれる冒険者に声をかけてきたんだよ。散々引っ張りまわされて毎日死ぬかと思うくらい各地で戦った」
「なんでそんなに合理主義……合理主義? なのにあんなに説明が下手なんだ……」
「天才の唯一の欠点だよな。性格はまだマシだから目をつむってやれるがあの説明下手は度を越してやがる」
ああ、すぐ手が出るのもあの性格もこの人からしたら許容範囲なんだ……そういえばドワーフって頑丈って聞いてたしちょっと痛い程度の問題だったんだろうか。
もしかしてあのありえないくらい手が早いのもこのドワーフ殴り続けてたせいじゃないだろうな……。
俺は嫌な予感がしたものの考えないように頭を振ってあのジジイのせいで脱線した話を元に戻す。
「すみません話を戻します。村の生き残りである貴方は、あの村で何を見たんですか?」
そう聞くと、師匠トークで花を咲かせたことが効いたのか、トニックさんは頭を指で掻くと、「あいつの弟子だしな……仕方ない……」と呟き、微妙な表情で居住まいをただした。
変なところで役立つ師匠だ。
王国一の魔法使いは伊達ではないということか。
悪名なのか勇名なのかはしらんが。
「俺を雇うってんなら話をしてやる。あの魔族には俺の斧を叩き込まねえと気が済まねえ」
そういうトニックさんは拳を強く握り、怒りで手に持った槌の柄を握りつぶす。
正直、前衛の戦闘経験豊富なドワーフとはありがたい。
一人で戦うのは正直しんどいのだ。
「雇う分には大丈夫ですが……魔物ではなく、魔族ですか……ちなみに何体ほどいて、どのような魔法を使いましたか?」
「数で言えば二体だ。片方は大したことねえ、見た目は少年。鏡のようなもので熱を出す魔法を使っていたが毛が焼ける程度だ。だがもう片方はシャレになれねえやつだった」
「というと?」
「片方は大魔族だ。少女のような見た目で、しかも聞いたこともねえやつだ。見たことねえ魔法を使ってきやがる。だから俺は逃げることしかできなかった」
「……名前のない大魔族ですか。厄介ですね」
「それにな、今だって滅んだ村に帰ってないのがその理由だ。俺一人戻ってそれでまだやつらが待っていたら、武器も何もねえ俺は一矢報いることもできず殺されちまう。遺体の埋葬も何もできてねえ……それが悔しい……」
トニックさんはそう言って悔しそうに目を閉じる。
交戦経験がないから人伝(師匠)に聞いた話だが魔族もピンキリらしい。
そう、昔師匠が言っていた。
『経験が浅く、自分を強いと思っているやつは雑魚だ。頭が悪い。だが、大魔族は別だ。たった一体で国を落とす力を持ち頭もキレる。俺も若い時魔族の領域に馬鹿みたいに突っ込んで死にかけた。まあ今なら小指で倒せるがな! ガッハッハ!』
『そして名前のない大魔族には気をつけろ。やつらは出会うもの全てを殺したからこそ名を知られていない。そんなやつは俺でもキツイ可能性があるあの時の大魔族の魔法はドカーンとやってドガガガ!! って感じでないつのまにか腹をぶち抜かれてた』
『だから俺は逃げるために超最強魔法でダーンとやってな、グイングイン逃げたのよ』
なんて師匠は真剣な顔で言っていた。後半は何言ってたか分らんかったが。
俺は田舎に帰る気満々だったから戦うことはないだろうと思っていたんだがな……。
前に魔族関連の本に魔法の練度や効果、特異性は人類の魔法をはるかに凌ぎ、魔族の魔法には人類の魔法技術では「呪い」と呼ばれ解析できないものも多く存在すると書いてあった。
果たしてその大魔族は「呪い」を使ってくるのか……やっぱ俺一人でやる任務じゃなくない?
でも殲滅するか無理そうなら情報持って帰ってこいって言われたしな……一度ぶつかっとけってことでしょ? 大丈夫そ?
トニックさん強そうだけど逃げるしかなかったって言うし、マジでやばいんじゃない?
「……あーそのー、あいつらの目的とか分かったりします?」
俺は眉間を親指で掻きながら、どうにか戦う手札を増やせないか、ダメもとで聞いてみると。
トニックさんはとても言い辛そうに、そして困った表情をした。
「あいつらの目的は元ダンケルパーティーの殲滅だ。それで最終目標はあのアホだ。俺たちは魔族を殺しすぎた。あいつらにとって相当目障りなんだろうよ。まああいつ引退したから王都から出て来やしないが」
「またクソジジイ関連か……」
あいつどんだけ敵視されてるんだ?
そしてどんだけ暴れたんだ……。
大魔族がわざわざ元パーティー殺しまわってるって大分警戒されてるな。
そんだけ偉大なのになんであんなに説明下手なんだ。
「まあそれなら、一応手はありますよ。卑怯で、その上割と人でなしな方法ですが」
「魔族相手に卑怯もクソもねえよ、あいつらは喋る獣だ。獣に罠を仕掛けるのは当たり前だろう」
「まあそうですね、では、できるだけ綺麗な死体を一つ、回収しましょうか」
「お前なにするつもりだ……?」
トニックさんとの心の距離が離れた気がする。
でも俺の作戦を聞くともっと心の距離が離れる気がするんだよな……。
正直俺も胸糞悪いが、死ぬよりマシだよな。
この際倫理観は端に置いておこう。
俺とトニックさんは滅びた村へと向かい、調査のついでに死体の回収に向かった。
滅びた村へは俺がトニックさんを背負い、向かった。
トニックさんの速度に合わせると一日はかかりそうだったからだ。
「おまえやっぱあいつの弟子だな……」
「嬉しくないです」
半日もかからず村へとつくと、村は確かに滅びていた。
鏡の魔族のせいかあらゆる建物が焼け落ち、殆ど更地と化していた。
俺はそんな現状に絶句する。
死体を回収しようと動こうとするも、足が動かない。
大半は酷く死体が損壊しているか、もはや人かどうかも分からないほどに黒く焼けた死体だった。
冬であったのが幸いしたのだろうか、腐り、腐乱した人間がいないだけまだマシな状況ではあるが。
「う、おえぇえええええ」
俺は腹の中のものを全部吐き出した。
こんな人が人じゃなくなっているものを、見たことが無かった。
死体、死体、死体。
どこを見ても人が死んでいる。
魔物を殺した時とは違う、魔物の時は命がかかっていた。
それもどうしようもなく、殺さなければ殺される絶体絶命の状況だった。
だから命を奪うことに躊躇は無かった。
だが、これは違う、同じ人だ。
人が死んでいる。
俺が殺したんじゃない。
だが、それでも……これは……。
「おい坊主、顔が青白いぞ。魔族に殺された死体は初めてか?」
初めてだった。
王都では、まず魔族や魔物に殺された死体は見ない。
何故なら食われるからだ。
死体なんて残らない。
……王都では毎日人が死んでいるが、この低い技術水準だ。
病気などで死んでいく人間を見たことはある。
だけどこんなの人の死に方じゃない……。
「ダンケルの野郎、一番大事なものを見せてねえとか正気か? おい! 坊主! しっかりしろ!!」
「いっっっっ!!!」
俺はトニックさんに強く背中をはたかれると、頭にかかっていた靄が一瞬晴れる。
くぅ~……痛すぎる……本気で叩きやがったなこいつ……だけどいい気つけではあったか……。
「あー……すみません。もう大丈夫です。目が覚めました。綺麗な死体を探しましょう」
「あんまり無理すんな。誰でもこれを最初に見るとそうなる。俺もそうだった」
「……ありがとうございます。ちょっと無理してました…………トニックさんはどうやって克服したんですか?」
少し余裕がない。
人の死体。
災害で亡くなった人は見たことがあるが、明確に悪意によって殺された人を見るのは初めてだ。
さっきまで余裕を持っていた自分は現実に打ちのめされて背中を丸めている。
たぶん現実を見てなかったせいだ。
これを克服しなけれとてもじゃないが戦えない。
トニックさんは俺の言葉に優しく微笑むと
「克服なんざしてねえさ。俺はこれを見るたびに魔族をぶっ殺すって怒りに変えてきただけだ。殺さなきゃ殺されるってんなら殺されねえようにぶっ殺すだけだ」
「強いっすね」
「強かねえ。現実逃避だ。だが、現実逃避も悪かねえぞ? 辛い現実より遥かにマシだ」
「うっす。自分頑張るっす」
「くはは、現実逃避は頑張るもんじゃねえだろ!」
どこか漫画の世界にいる気分だったのだろう。
死にそうな修行も、クソみたいな師匠も、魔法も、王様も、魔族も。
どれもこれも漫画みたいだった。
こうして現実を見るまで、死体を見るまで主人公みたいな気分だった。
笑えねえ。
全然笑えねえ。
何が俺の生活水準を上げるついでに人が救われればいいよねだ。
誰も知り合いじゃないのに、誰も見たことない人達なのに、凄く腹が立つ。
腹が立って仕方がない。
「トニックさん、俺、ムカつきます」
「おう」
「トニックさん俺魔族がムカつきます」
「そうだな」
「トニックさん、俺、魔族をぶっ殺したいです」
「ああ、なら、ぶっ殺せ。なんでも使ってぶっ殺せ。お前の師匠がそうしたようにな」
「はい!」
クソジジイはムカつくが、あいつがやってきたことは偉大だということがよく分かった。
魔族はぶっ殺すべきだ。
存在してはいけない。
友達も誰もいない世界だけど、魔族は非常に不快の一言に尽きる。
だが
「同じ人間の姿の魔族……殺せるかな……」
「ガハハ!! そこはぶっ殺すっていっとけ!!」
「うす! ぶっ殺す!」
「その意気だ!」
トニックさんはそう言ってもう一度俺の背を叩いた。
死体は回収した。
井戸に身投げしたのだろうか、人が折り重なり、圧死していた人もいれば、恐らく魔族に上から攻撃されたのだろう、焼けて黒くなった死体があった。
だが、圧死した死体は綺麗に体が残っており、トニックさんの言う通り、鏡の魔族の魔法は大した威力が無いように見える。
俺は、死体を回収すると、俺なりに手を合わせ、祈る。
「すみませんが使わせていただきます」
暫く黙とうをし、俺は魔法をかけた。
そして魔法をかけた死体を袋に入れ、ひもで縛り、背負う。
「お前、質の悪いことするな……一応俺の友人も死んでんだが……」
トニックさんドン引きした顔で俺にそう言った。
いやーうん……。
「いや、俺もどうかと思ったんすけどね? 結局これが一番不意を打てると思いまして……」
「まあ間違いなく面食らうだろうよ……やっぱアイツの弟子だなお前」
「嬉しくないです」
トニックさんは俺が背負っている死体を見て何とも言えない顔をしているが仕方ないでしょ!
初めての交戦なんだから持てる手札は持っておきたいんだよ!
慣れれば二度と使いたくない手だけどさ!!
「死んだ奴らは無に帰る。お前らの言う天国ってのは信じちゃいねえのがドワーフの価値観だが、流石に死んだ人間をどうこうするのはやばいぞ? まあ死んだアイツらも魔族ぶっ殺せるなら文句はいいやしねえだろうがよ」
「わかってますよ。でも魔族との戦闘の経験の浅い俺からしたら取れる手段は全て使いたいんです。師匠の修行で何回も死にかけたせいでそこら辺躊躇はないです」
「良い死に方できねえぞ?」
「それは……まあ……はい……」
苦悩がないわけではないが、俺とトニックさんが死なないためなら手段は選ばない。
そうじゃないと、そもそもあの修行で生きてはいけなかった。
だから手段は問わない。
そんな俺を見て、トニックさんは頭を掻くと、俺の肩をポンポンと叩き、懐からあるものを取り出した。
「とりあえず、魔族の痕跡はあった。少女の見た目をした魔族の羽だ。これが向こうの森方向に落ちていた」
「なるほど、一度身を隠したんですかね?」
「あいつらは狡猾だからな、それもあり得る」
俺はトニックさんから羽を受け取ると、そこら辺の木の枝を拾い、魔法を発動させる。
「『魔力追跡の魔法』」
そうやって棒を倒すと、棒は森へと倒れた。
昔蔵書で見た追跡の魔法だ。
棒の倒れた方向にお目当てがいるという至極単純な便利魔法。
なるほど、森の方みたいだ。
「ほう、昔見たことあるが便利だなその魔法」
「それって師匠のですか?」
「あいつはそんなせせこましいことしねえよ。魔力追跡と同時にその方向に魔法打ち込んでた」
「デストロイヤー過ぎません?」
「森を無意味に吹っ飛ばして禿山にしたせいで王に怒られてたな」
そりゃ国の戦略資源を無意味に吹っ飛ばしたらキレるでしょうよ。
特に燃料でもなんでも木材必須の文明でしょうに。
まあとりあえず。
「向かいましょうか、いつまでも森で待機してるものでもないでしょうし」
「ああ、ビビるなよ」
「ビビッてないけど緊張はしてます!」
「ならよし!」
俺達は追跡魔法を何度も使い、森を歩いていくと、声が聞こえてきた。
俺とトニックさんは身をかがめ、息をひそめる。
男の声だ。
「あのドワーフを殺せなかったのは誤算ですが、随分衰えていました。逃げるしかなかったのを見ると、恐らく戦場を離れて結構経つんでしょう」
その言葉に女の声が抑揚のない声で返す。
「あまり甘く見ないことだ。元勇者パーティーのダンケルの仲間だ。なにか隠し玉を持っていてもおかしくない」
「警戒しすぎでは?」
「し過ぎても問題はない。結局殺せれば同じこと」
「それもそうですね」
俺はバっとトニックさんをみる。
え? マジで?
(あの人元勇者パーティーってマジすか!?)
(いや俺も初耳だ!)
俺とトニックさんに顔を見合わせ、驚愕する。
そりゃ強いわけだ!
でも元勇者パーティーにしては性格終わってない!?
それとも勇者が終わってるの!?
(と、とりあえず俺、準備しますんで! トニックさんも奇襲する準備しておいてください!)
(わ、わかった。お前は準備を急げ! いつ気づかれてもおかしくはない!)
(はい!)
そうして俺は慎重に袋から死体を取り出すと、そこにはダンケルの顔をした死体が現れる。
俺は整形の魔法で顔を変えた死体を取り出すと、魔法を発動させる。
(『人形の魔法』)
薄く伸ばした糸が死体にまとわりつく。
すると、死体が目を開け、首を起こす。
マリオネットの魔法。
本来は生者に対し使用し、身動きを阻害する魔法だが死体に使えばネクロマンサーのモノマネができる俺の開発した魔法だ。
これの良いところは魔力の反応が少ないのでバレづらいという奇襲性を持ち、魔力を流し込むことで魔力が見える魔法使いの目を誤認させることもできる。
(いきます……トニックさんは魔族が攻撃した瞬間鏡の魔族を一気に殺してください)
(大魔族はその程度じゃ死なんからな……それがいいな)
俺は死体を操り、あえて物音を立てて、死体を歩かせた。
魔族はすぐさま反応し、目を見開く。
「ダンケルだと!? なぜこんな所に!!」
「ダンケル……聞いていたのより魔力が少ないみたいだけど、衰え?」
魔族は案の定驚いていた。
まあ今話していた本命がいきなり現れたんだそりゃそうもなる。
「衰えたとしてもこいつは魔法以外も強いです。油断できません」
「分かっている」
「いきます! 『熱を放つ魔――――――ぐぁあああああああ!!!」
鏡の魔族が魔法を放とうとした瞬間、どこから飛んできた魔力弾に撃ち抜かれて吹き飛んだ。
(ちょ! トニックさん魔法使えたんですか!?)
(違う! 俺じゃねえ!! 俺は魔法使えねえ!!)
じゃあ誰が……と視線を魔力弾の飛んできた方向に向けると、顔見知りである美しい白髪の女の子が悠々と歩いてきた。
「フリーレンさん?」
「あの時の気持ち悪い人」
うん、ちょっとへこむ。