本当に悪いのだーれだ?

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一回百円

黒板とチョークが打ち合される音、ノートにペンが走る音。

授業中の教室に相応しい教師の声とそれらの雑音の中、乱雑に椅子を引く音が響いた。

 

「便所行ってきます」

 

「わ、わかった」

 

両耳に所狭しとピアスが開けられた金髪の男がそういうと、教師は引きつったような笑みと共に返す。

男は決して目を合わせないようにとノートに齧りつくクラスメイト達をつまらなそうに見ながら教室をあとにする。

廊下を歩きながらトイレを無視して屋上への階段を上がろうとして…男子トイレがやけにうるさい事に気付くと、ため息混じりに向かう。

 

「おい、何してんだ」

 

「へ…?あっ、えっと……」

 

狭い男子トイレの中に六人も男子生徒が居るのを見て、男は眉間にシワを寄せながら一番近くに居た男の肩を掴んで問い掛ける。

視線の先には、生徒達に囲まれる一人の女子生徒。

精液と尿に塗れ、虚ろな目で座り込んでいる女を見付け、男はもう一度大きくため息をつく。

肩を掴んでいる生徒がいまだに歯切れ悪く口籠っているのに無性に腹が立ち、思い切り殴り飛ばす。

パチンコ玉のように吹っ飛んだ生徒が他の生徒を巻き込んで派手に壁へと激突した。

 

「痛っ…!なんだ……よ…」

 

巻き込まれた生徒が苛立ちと共に声を荒げるも、男の顔を見た瞬間に尻すぼみに声が小さくなる。

 

「おい、コレ借りてくぞ」

 

「あっ、はい!勿論…」

 

座り込んでいる女を軽々と抱き上げると男は改めて屋上に向かった。

 

 

 

「おい、起きろ一回百円女」

 

屋上の扉を蹴り開けると、抱き上げていた女生徒を屋上の防護フェンスにもたれるように座らせて自販機で買った水を頭からぶっかける。

 

「ぶわっ!?なにすんだよ!!」

 

女は跳ねるように頭を上げると、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

「えーっと、助けてくれてたり…?」

 

「今度は誰にやられたんだ」

 

若干の苛立ちと共に問い掛ける男に女は目をさっと逸らしながら口笛を吹く。

 

「ひゅ、ひゃひゅ…ひょー…し、知りませんなぁ」

 

「口笛下手くそ過ぎるだろ、いいから言え」

 

「今日のパンツは赤色だよ!」

 

「聞いてねぇよ…あと、お前今パンツ履いてねぇからな」

 

嘘ぉ!?とスカートを捲り上げて確認する女に後ろを向きながら男は続ける。

 

「そこまでやられて何庇ってんだ?

それとも…顔も見てねぇか?」

 

「あー…えーっとですね…」

 

男は大きくため息をつく。

言わない、という事は知っている。

ただ、俺に信用が無いか…脅されてるのか。

 

「別に、服弁償して貰うだけだ…それとも、お前がすんのか?」

 

汚い手だと我ながら思うが、こうでもしないと絶対に口を割らないだろう…こいつはそういう奴だ。

男は女に向き直ると精液や尿がべったりと付いたシャツを見せる。

 

「うーわっ……」

 

「なにがうーわっだ、お前のが酷いだろ一回百円女」

 

「さっきからそのあだ名なんですか!?」

 

「お前の股に書いてんだよ」

 

「んな訳…ホントだ…!…しかも油性だし!!」

 

中々消えないじゃん!と嫌そうな顔をする女に、水の入ったペットボトルを2本手渡す。

 

「なんですか…?夏場だから水分しっかり摂れって事です?」

 

「ちげーよ、臭ぇから流しとけ」

 

あと喉渇いてんなら何か他に買ってやるよ、と言いながら男は屋上の出入り口へ歩いて行く。

 

「どこ行くんですか?」

 

「ジャージ取ってくんだよ、俺のだからデケーけどお前が今着てるのよかマシだろ」

 

「えー、悪いですよ〜私カルピスがいいです」

 

「はいはい」

 

階段を降りて、さっきのトイレを覗くとまだたむろしてた生徒の一人を捕まえる。

 

「おい、誰がやった?」

 

「し、知らな…」

 

しらばっくれようとした馬鹿の髪の毛を掴んで思い切り壁に叩きつける。

 

「げぇっ!!」

 

何度も、何度も、何度も…

鼻が折れ曲がって、歯が二、三本へし折れたところで男が泣きながら喋り出した。

 

「や、やめ…喋ります!〇〇の奴が良い玩具見付けたって…!」

 

聞いたことのない名前だったのでもう一度壁に叩きつけてクラスと顔を教えて貰う。

 

「も、やめて……お、俺が何したんすか…」

 

「あ゛?」

 

奪い盗った携帯で相手の顔の写真を見ていると手元からそんなお花畑な声が聞こえたので髪を掴んだまま廊下の窓まで引きずって、そこから投げ落とす。

どうせ2階だ、死にはしない。

 

「さて…」

 

相手の顔とクラスはわかったから、とっとと教室に戻ってジャージ持って屋上に戻らないとな。

これ以上遅くなると、あいつが心配するだろう。

 

 

 

「うわ、ホントに買ってきてくれるとは…へへ、すんませんねぇ〜」

 

「いいからとっとと着替えろ、後ろ向いとくからよ」

 

缶ジュースとジャージを渡して後ろを向いて座る。

 

「先輩は優しいですよねー、あんなとこから助けておいて着替えシーンを覗かないのは…優しい通り越して童貞感ありますよ」

 

「張っ倒すぞ」

 

照れてんすか〜?と着替え中の女が男の背に抱き着く。

 

「なんならこの美少女が卒業させてあげましょうか?

なーんて……ごめんなさい」

 

後ろから覗き込んだ男の不機嫌そうな顔にシュンとしながら三角座りする女にガシガシと頭を掻きながら何度目かもわからないため息をつく。

 

「お前さ…妊娠とか大丈夫か?

ピルとか買いヅレーなら俺が代わりに…」

 

「あっ、そこら辺は大丈夫ですよ!

一年前ぐらいに中で電球破裂させられてダメになっちゃいましたからね〜なんとこの美少女ちゃんが今ならゴム無しで…痛い痛い痛い!!!」

 

馬鹿な事を言い出した女にアイアンクローをかけながら眉間を抑える。

 

「………強いもんだな、俺ならとっくに飛んでるよ」

 

「あっはっは!先輩なら飛ぶんじゃなくて飛ばしてるんじゃないですか?」

 

「違いねぇな…ま、どっちにしても俺よか強いよお前は」

 

「う〜ん……でも、私には先輩が居ますからねぇ」

 

「俺が居てどーするよ、今回だって偶々助けられただけで…いや、助けられても無ぇか」

 

時々、勘違いしそうになる…

俺は、全然こいつの助けになんてなっちゃいない。

いっつも全部終わった後から騒いで、何人か殴り飛ばして…そんだけだ。

俺が殴り飛ばす相手が変わるだけで、こいつが何かされる前に助けられた事なんて一度もない。

ただ、後始末だけが手慣れていく。

 

「そんなことありませんよ!私、滅茶苦茶先輩に助けて貰ってます!」

 

「世辞は要らねーよ」

 

「……むぅ、ホントですぅ〜!先輩が居なかったら毎日お風呂場で落書き消してる時に虚無りますからね!」

 

「………そこはマジで俺が居ても居なくても変わんねぇだろ」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎながらもようやくジャージに着替え終わったので向き直る。

 

「誰にされたかはもう聞かねぇ…けど、なんで黙ってるのかだけ教えろ」

 

相手はもう知ってるが…それを隠した理由はわかってない。

事と次第によっては、面倒になるかもしれないからな。

 

「………本当に聞きません?」

 

「しつこい」

 

「………その、先輩にバラしたら…今まで撮ってた動画をばら撒くって…」

 

……脅されてたのか。

………しかし、本当にばら撒くなんてするか?

もしこいつ個人だと特定できればまず間違いなく警察が絡むだろ…そんなもん、よっぽどバレない自信があるかよっぽど馬鹿じゃない限りはしねぇと思うんだがな。

…………いや、違うな。

ばら撒くかばら撒かないかじゃない、ばら撒かれるかもしれないってだけで…ダメだろ。

ネットに公開なんてされちまえば、どんだけ手を尽くしても消しきれないだろう。

自分のそんな姿が、一生何処の誰とも知らねぇ野郎に見られる…そんなもん、ダメだろ。

 

「悪かったな…聞いちまって」

 

「いえいえ、先輩もラブラブゾッコンの私の身を案じての事だとわかってますので!」

 

そう言って笑う。

………なんでこいつは笑えるんだろうな。

俺なんて、なんにも出来ねぇくせに…なんにも関係ねぇくせに…

全然──笑えねぇっての。

 

「先輩!!」

 

立ち上がって出入り口へ向かう俺を、やけに真剣な声色で呼び止めてくる。

 

「ダメですからね…?暴力で解決なんてしたら──私を玩具にした奴らと変わんないですからね…!

そんな事したら……嫌いになっちゃいますからね!!」

 

「……うっせぇよ、一回百円女」

 

 

 


 

三年三組…まさか俺と同い年とはな。

聞き出したクラスに向かい、ドアを開けて教室を見渡す…居た。

 

「おい、ちょっと面貸せや」

 

胸ぐらを掴んで持ち上げると、教師がおっかなびっくり近付いてくる。

ああ、そういや今は授業中か…

 

「退け」

 

一言で教師はすごすごと引き下がる。

はなから止める気も無ぇくせにポーズだけとるようなカスに時間を使いたくない。

 

「なんだよ…っ!授業中にいきなり入ってきやがって!」

 

手元で騒がしいから、屑の耳元で言う。

 

「良い玩具があんだってなぁ…俺も(あやか)りてぇモンだ」

 

露骨に顔が変わる。

舌打ち一つ、観念したようなのでそのまま教室を出ていく。

 

「離せよ!!…っ!何処行く気だ…?」

 

襟を掴んだまま廊下を歩いていると、手を無理矢理に払い除けられる。

 

「…体育用具倉庫だ、お互い…人目が無い方が良いだろ?」

 

逃げても無駄と思ったのか、大人しく俺の後ろをついてくる。

道中、誰が俺の名前を出したんだとか正義の味方気取りがとかよくもまぁ色々と喋るもんだと思った。

数分かけてようやく倉庫について…気付いた。

なんで呑気に俺の後ろ歩いてんだと思ったら…そういう事ね。

 

用具倉庫の鍵が開いていた…勿論、俺は開けてないし普段は施錠されてる筈だ。

 

「どうした…?早く入れよ」

 

後ろでニヤニヤと気持ち悪ぃツラで笑う屑。

扉を開けると…中には十人以上が待ち構えていた。

 

「バーカ!お前みたいに脳味噌使わねーゴミと違って俺はちゃんと保険掛けてんだよ!」

 

バットやら竹刀やらを手にニヤニヤとこっちを見るお仲間達…中には俺が二階から投げ捨てた馬鹿面まで居た。

 

「なるほどな…屑の博覧会って訳だ」

 

「テメェ!いつまでも調子コイてんじゃねぇよ!!」

 

ガン、と頭を金属バットで殴られる。

その一発を皮切りに、次々に俺を殴り始める。

舐めやがって、こんな程度でどうにかなる程…甘ったれた鍛え方して無ぇんだよ……!

殴り返そうと拳を握り締めて──

『嫌いになっちゃいますからね!!』

──やめた。

あーあ…何してんのかね、俺は。

金属バットやら竹刀やら…流石にこんだけ景気よくパカスカ殴られてちゃ数分ももたねぇ。

今度こそ助けてやるって飛び出して…いいように殴られて。

仕方ねぇだろ、俺は学が無ぇし…俺は、お前みたいに強くねぇんだよ。

好きな女が困ってたら、助けてーし…好きな女に嫌われたくねーから……こうなる。

 

「はぁ、はぁ…!化け物かよ、この人数でフクロにされてまだ立ってんのかよ!!」

 

痛ってぇなぁ…頭割れたか、血が目に入って気持ち悪ぃ。

口ん中切ったな、あー…しばらく水だけしか飲めねぇかも。

 

「あんな女の為に一人で喧嘩売ってきたと思ったらサンドバッグかよ…ダッセェ奴!」

 

おー、そうだろうそうだろう…ダッセェからあいつを助けてやれねぇんだ。

 

「あいつが何回輪姦されたか教えてやろうか?

もうガバカバで援交(エンコー)させても客もつかねぇぜ!」

 

クソ…そんなんまでさせられてたのかよ、聞いてねぇぞ…

言えよ……あの馬鹿。

 

「だから優しい俺が書いてやったんだよ…一回百円ってな!

中古の馬鹿女にピッタリだろ?」

 

……………そうか、その手があったか…

 

「……んだよ、そんな簡単な事だったんかよ…」

 

「ああ?」

 

男はポケットに手を突っ込むと財布を取り出し、中から紙幣を取り出して目の前の生徒に渡す。

 

「一回百円なんだろ…?これで、買わせてくれよ」

 

「…………ぷっ!ハッハッハ!!バッカじゃねぇの!?

所詮ヒーローごっこしてても性欲(セーヨク)には勝てましぇーんってか!クックックッ…!最高だよお前…!」

 

ゲラゲラと男を嘲笑いながら紙幣を受け取ると、ペラペラとめくりながれ枚数を確認する。

 

「十万て…ムラムラし過ぎたろ!頭に精液(セーエキ)詰まってんじゃねーの!?」

 

ぺちぺちと紙幣の束で男の頬を叩きながら嗤う。

 

「で…?買えんのか?」

 

「いいぜぇ?でも…残念ながら値上げしてね

一回一万だ…それでいいなら売ってやるよ」

 

ニヤニヤと、下卑た笑みを浮かべる。

 

「ふざけんな…んな価値あるワケねーだろ

一回百円でも高ぇんだよ」

 

「ギャハハハ!言うねぇ〜!そりゃそうだ!

一回百円で良いぜ?でも…全部(ぜぇんぶ)撮らせてもらう

良いよなぁ?十万で千発分、キッチリカメラに収めてやるよ…!」

 

どうせ、俺が千回分買ってるから他には売らせねーとか言う気だったんだろ?とニヤつく男子生徒。

しかし…

 

「おー、悪いな…なら──しっかり撮っててくれや」

 

「……へ?」

 

瞬間、バットを握っていた男の一人が()()()()()

 

「一回百円ね…郷に入っては郷に従え、ちゃあーんと払ってやるよ」

 

「て、テメェ…!何してんのかわかってんのか!?」

 

すぐさま竹刀を持った男が殴り掛かるも、持っていた竹刀ごと蹴り抜かれる。

 

()()なら暴力じゃねぇよなぁ?なんてったって、俺がお前らから買ったんだからよぉ!!」

 

バットを振りかぶってきた相手の顎をアッパーカットでカチ上げると天井の蛍光灯にまで軽々と吹っ飛び、割れたガラスが雪のようにキラキラと宙を舞う。

瞬く間に、二人を除いて全員が血塗れで倒れ伏した。

 

「ばっ…化け物……!!」

 

「ひぃふぅみぃ…お前入れて十三人か、一人一発しか殴ってねぇから千引く十二で…

あと、たった988回ぽっちしかぶん殴れねぇのかよ」

 

腰が抜けて立てなくなった屑の胸ぐらを掴んで無理矢理に立たせる。

 

「きゅうひゃ……!い、良いのか……!お、俺を殴ったら、ど、動画を…」

 

「オモシレー冗談だな…俺に九百回殴られて──楽しく携帯(ケータイ)触る指が、残ると思ってんのか?」

 

顎を狙って、思い切り殴り飛ばす。

骨が砕ける感触が手に伝わってくる。

 

「あひゃ…!!いぎゃひゃぁぁあおおおお!??」

 

だらんと口を開けながら声にもならねー叫びをあげる屑。

 

「顎を最初に砕くとよ…気付けになって良いんだ

どんだけ痛くても気絶なんてできねーからよぉ…安心しろな?」

 

床を這って逃げようとする屑の右肩を踏みつける。

思い切り踏むんじゃなくて、徐々に力を入れて…ゆっくりと踏み潰す。

 

「いひゃぁぁああああ!!!?はひゅひぃひぇ!!はひゅへひぇぇぇえええ!!!」

 

こうすると、周りの肉やら筋ごと骨が潰れて後遺症が残りやすい…らしい。

 

「おい…まだたったの二回だぞ?立てや!!!」

 

「はひゅ…はひゅっ、はひぃ…」

 

泣いて、糞尿を撒き散らしながら虫みてーにのたうって立ち上がる。

なに泣いてんだ…?テメェらがやったのはもっと卑怯で、もっと痛くて──もっと取り返しがつかねぇだろうが!!

 

「泣いてんじゃねぇよこの屑が!!」

 

「先輩!!!」

 

屑の目の前で拳が止まる。

屑は気持ち悪ぃ声と一緒にぺたんと座り込んだ。

 

「………なんで居んだよ」

 

「先輩いる所に私あり…ってやつですよ!」

 

「意味ワカンネー…」

 

「先輩こそ…なにやってんですか!!」

 

「なにって……遊んでんだよ、一回百円で」

 

なぁ?と屑を睨むと赤べこみてーに首を振る。

 

「…………むぅ…なら!私が代わりに遊んであげますよ!」

 

少し、少しだけ頭に昇ってた血が降りてくる。

 

「ふざけたこと言ってんじゃねーよ…」

 

「先輩こそですよ!その人…それ以上やったら死んじゃいますよ!?」

 

……まぁ、多分そうだろうな。

九百回殴るより先に屑が死ぬ方が先だろうよ。

でもな…俺はお前の復讐だので──お前に責任おっ被せて殴ったワケじゃねーんだよ。

俺の意思で、俺が気に食わねーから殴るんだ。

少年院(ネンショー)入る覚悟も…死刑になる覚悟だってある。

こいつらと違ってな。

 

「………嫌ですからね…?私は!今までされたどんな事より…先輩が居なくなる方が──嫌なんです!!」

 

そう言って、女は泣いた。

……初めて、泣いてるところを見た。

何されても受け流してたこいつが泣いてるのなんて…初めてだった。

 

「………行け」

 

顎をしゃくって足元の屑に伝える。

 

「行けっつってんだよ屑!!殺されてぇか!!」

 

「あひゅう!!?」

 

弾かれたようにつんのめって走り出す屑から視界をきる。

全部、俺の意思でやった……けど、好きな女泣かしてまでやる事じゃねぇわな。

 

「先輩は……なんでこんなにしてくれるんですか…」

 

まだ、涙声の女が俺のシャツを掴んでもたれ掛かる。

 

「…………さぁな、忘れちまった」

 

嘘だ。

教師(センコー)も、クラスメイトも、不良仲間も…みんな俺のご機嫌取りだった。

俺にビビって、碌に目も合わせねーで注意するポーズだけの大人。

俺のオコボレ狙いで付き纏ってくる屑共。

俺の周りには…誰も居なかった。俺は、世界で一人ぼっちだったんだ。

そういうと…大袈裟に聞こえるかも知んねーケド、俺にとっちゃあそうだった。

 

お前だけだったんだ。目を合わせて笑ってくれたのは。

お前だけだったんだ。俺を心配して怒ってくれたのは。

お前だけたったんだ。俺の世界で側に居てくれたのは。

 

だから───お前を好きになったんだ。

 

男は、泣きじゃくる女の頭を…いつまでもずっと撫で続けた。 

 

 

 

fin

 

 

 

 

 

〇〇県の〇〇高校にて起こった集団暴行についてのレポート

 

当初被害者とされていた男子生徒(以下甲)は取材を進める内に同校に通う女子生徒(以下乙)への性的暴行を加えていた事実が発覚した。

甲は乙を脅迫し、仲間達十数名と共に暴行を加え時には援助交際を強要し金品を貢がせていた事がわかっている。

しかし、取材を進める内に奇妙な出来事が起こった。

乙へと暴行を加えた甲を含む十数名の男子生徒全員がその事実を認めながらも暴行へ至った経緯を誰一人として説明出来なかったのである。

乙の家族と甲達加害者家族とで示談交渉も成立しており、この事件は公にはなされていないものの主犯格であった甲は取材を重ねる毎に目に見えて衰弱していた。

報道に携わる者として、情報に主観を交えるべきではない事など百も承知だがそれでも──この一件には()()がある気がしてならない。

今でも、甲が取材の最後に発した言葉が耳に残って消えないのだ。

 

 

信じて下さい、俺…本当は虫だって殺せないような、そんな奴なんです

罪から逃げようなんて思ってません…あんな事までしてしまって、償いたいです

でも…教えて下さい

なんで、俺はあんな事をしてしまったんでしょうか



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