フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない   作:ノシ棒

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番外編、おまけという位置付けでここは一つ・・・!


ごっどいーたー:5噛

降り注ぐ雨を……あふれだした贖罪の泉を止めることなどできん。

 

――――――ヨハネス・フォン・シックザール。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

今日もまた、赤い雨がふる。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

加賀美リョウタロウ。(以下、甲と記す)

元、フェンリル傘下ではない非合法の運び屋。

アナグラに搬入されるアラガミ防壁修繕のための余剰資源を横流しし、外壁に点在する居住区へと運び日銭を稼いでいた。

仕事の達成率は120%超である。(アラガミに食われた同僚の資材をも請け負い、納入を完遂させているため100%以上の達成率)

運び屋団体と共に、限りなく生存率の低い地区に何度も足を踏み入れてなお、その度に一人だけ生き残っている。(この時期に、死神というあだ名がつく)

アナグラから各地に点在する居住区へと、単独での資材搬入の最中にアラガミの群に襲われ、負傷。

全身火傷、脊椎損傷、頭蓋陥没、大腿骨複雑骨折等、その他大小無数の傷を負うも完治。(闇医者による治療であったため医療記録が残されていない。甲のバイタル分析の結果から、短期間で治癒したと推測される)

患者から無断で血や臓器を抜き取り売買していた闇医者の手により、血液および血管と筋繊維が採取され、フェンリルへと流れ着く。

フェンリル内ビッグデータ、適合候補者リストへと登録。

旧型神機への適合率が高い偏食因子が発見され、新型神機適合実験の被検体として選定される。

新型神機の拒絶反応実験に失敗。

実験機となった新型神機に、極めて高次元での適合を果たす。

適合後のバイタルチェックにより、新型神機使い特有の感応現象に適した脳構造であったことが判明。

神機との間に、オラクル細胞が発するオラクルエネルギーを解した何らかの相互干渉が確立している模様。詳細不明。(神機使いには、神機の精の夢をみた、等の報告例がある。神機に人格はあるはずもないが、恐らくはこれに類似した現象であると推測される)

以降、フェンリル本社から極東支部に『新型使いの任務失敗による栄誉の死があったのではないか』と幾度となく確認が入るも、全て誤報として報告される。(本社からの歪曲な抹殺指令を、ペイラー・榊が情報操作を行い抹消していた模様)

その後、新型機の実働データ採集という名目の、本部からの前線での全戦闘参加に任を続行。(現在まで続く120%以上の達成率。前線だけでなく後方の戦闘任務もこなしているため)

 

甲が極東支部に配属されてからの略歴は以下。

 

手違いにより初等訓練が施されず、そのまま出撃。

初出撃では、ベテランの神機使いが死亡する程の激戦を切り抜ける。

壁外任務においては、ゴッドイーター以前の経歴を活かし、フェンリルに隔意を持つ住民達との軋轢を緩和。

甲、軽度の栄養失調に。(甲の職場改善アンケートには、調理師の配属を願う旨が毎回書き込まれている。栄養失調となった原因は、給与の9割を孤児院へと寄付し金欠に陥ったため。甲はこの寄付を初回任務が終了してから現在に至るまで続けている)

以降着実に戦果を重ねていくも、大型アラガミ討伐の任を受けた際、手違いにより他神機使いと任務のバッティングが発生する。(同エリアに同時にミッションが入ることはありえない。ミッション受注システムのエラーであると推測される)

ミッション中、隊長に同行していたもう一人の新型使いが錯乱し、銃弾を暴発。(新型使い、ロシア支部から派遣されたアリサ・イリーニチナ・アミエーラ。隊長、雨宮リンドウ)

隊長が侵入していた建造物の天井が崩落し、追い掛けていた接触禁忌種と隊長とを単独で閉じ込めてしまった末での結果である。

この戦闘により、所属部隊の隊長がMIA判定。

アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、精神に変調をきたし一時戦線離脱。

甲はアリサ・イリーニチナ・アミエーラの回復に尽力す。(アリサ・イリーニチナ・アミエーラは甲を依存対象とすることで錯乱から回復)

雨宮リンドウMIA判定により、甲に第一部隊隊長を後任する命が下る。(前隊長の捜索打ち切りによる。神機と腕輪の捜索すらされないことに、甲の不満は目に見えて蓄積されていった)

甲、第一部隊隊長就任。

同時に、フェンリル本社からの強制出撃命令は撤回され、極東支部長ヨハネス・フォン・シックザール直属の特務執行員となる。

 

この時期より甲の戦闘における奇行が目立つようになる。(単一のアラガミを執拗に付け狙う。何もない空間に向けて武器を振り回す。あらゆる武器種の持ち込み。ショートソードを振った慣性だけで地面を滑り移動する。など)

甲によりジーンマップのように複雑であったオラクルバレットの調整が、ある程度の体系に分けられる。(本来オラクルバレットの調整は、アメーバや絵の具のようにフィジカルなものである。甲はこれを、各属性、レーザー、装飾弾丸、制御、など体系付け分析し、分類した)

偉業であるが、特務執行員という秘匿性の高い立場である故に、本社からの表彰が取り下げられる。

同時期にゴッドイーター連続出撃記録更新、スコアランカーになる。(同上の理由のため、非公式)

甲の隊長就任パーティに本人がハブられる。その事をミッション前のブリーフィングで知る。一週間寝込み、アナグラの全任務に支障をきたす。(パーティの一件は甲の単独任務癖を、仲間達が気遣った模様)

人的被害はなかったものの、甲の戦闘力をあてにした作戦が全中止となり、『エイジス計画』に莫大な遅れと補償が重なる。

ヨハネス・フォン・シックザール、後送の危機。一ゴッドイーターの行動が、支部長クラスの進退を左右する初の事態に。(ヨハネス・フォン・シックザールがペイラー・榊の情報操作に抵抗もせず欧州へ一時飛ばされていたのは、この釈明のためであると推測される)

一時的にペイラー・榊の指揮下へ。

部隊単位での任務に復帰。

 

任務遂行中、ひとりの少女を保護。

アラガミの死骸を食おうとしていたその少女もまた、アラガミであった。

アラガミは捕食したものの特性を取り込み、姿を変えていく。進化の過程で人間に似たモノの姿となっていた。

脳に位置する部分も確認され、さらには偏食因子がそうさせるのか、その少女は人間に食性を向けることはなかった。

捕食の危険がないとされ、ペイラー・榊の要望により、甲ら第一部隊によって支部内にあるペイラーの研究室に匿うことに。

どんどんと知能を身に付けていく少女。自らの名を『シオ』と口にする。(ソーマ・シックザール命名)

シオの食料、つまりはアラガミの死骸を補給するため、連日連夜出撃を繰り返す。(甲の単独行動癖が手が付けられないレベルになる)

甲の書類処理能力がある種のブレイクスルーを迎え、専門オペレーター並みとなる。(この時期から書類の内容にも余裕が見られ、部隊員のコードネームを、ハダカエプロン、ロシアノコロシヤ、ムッツリロリコン、バカラリー、などに隊長権限で改名しようとするジョークが散見される)

 

ヨハネス・フォン・シックザール、極東支部へと帰還。(何らかのトラウマがあったのか、甲による二人だけの帰還祝いパーティが行われた模様)

ペイラー・榊の厳命により、支部長にさえシオの存在は秘匿される。

特務再開。『特異点』の捜索が命じられる。

極東支部内の一般居住区にさえ、アラガミの襲撃を許すことが頻繁に発生。

出撃回数が激化する。(甲にとって一度の出撃で5つ以上のミッションをこなすことが普通。前線任務、特務、防衛任務、調査斥侯、間引き等あらゆる任務を同時に請け負っていた。極東支部内においてもこのスコアは異常である)

任務中、雨宮リンドウの腕輪から発せられる位置ビーコンを受信。捜索再開。

雨宮リンドウの神機と腕輪が、アラガミの体内より発見される。(これにより雨宮リンドウKIA判定。神機は保管所にて新たな適合者を待つことに)

第一部隊所属の橘サクヤ、腕輪を鍵とした、雨宮リンドウの個人データベース内を捜索。

エイジス計画の裏に何らかの陰謀を見出すも、これを甲へ報告せず。(甲を気遣ってのことであったが、甲曰くそんなに前隊長がいいのか、と後に一週間程寝込む遠因となる)

シオ、特異点として覚醒。

 

サクヤ、アリサ両名の単身独断でのエイジス島潜入調査により、『アーク計画』が判明。

『終末捕食』へのカウントダウンが始まる。(アラガミ同士が喰い合い、進化し続けることにより、最終的に地球そのものまで捕食してしまうとされる現象)

アーク計画首謀者であるヨハネス・フォン・シックザールの、終末捕食を利用し、破壊された地球環境を一度リセット、再生しようとする目論見が暴かれる。

ヨハネスは、エイジス島で育成していた巨大アラガミ「ノヴァ」を終末捕食の引き金とし、強制的に終末捕食を発動、ゴッドイーターや技術者、科学者等、選ばれた人類を一時的に宇宙へと避難させ、地球がリセットされるのを待つ。

これがアーク計画の全貌であると語る。(ノヴァ起動のキーとして、特異点であるシオのコアを必要としていた)

 

アーク計画、アナグラ内にて公表。

極東支部、内部分裂寸前となる。

人類の大半を見捨てる計画に、甲は一定の理解を示すも、反対の立場を貫く。(搭乗チケットを同部隊員、藤木コウタの家族に譲り、搭乗者リストの改竄も行っている)

 

第一部隊によるノヴァ破壊作戦強行。

アナグラ所属の全ゴッドイーター全職員に秘匿されての独断作戦であった。(しかし竹田ヒバリ、雨宮ツバキらは事前に甲より作戦内容を知らされ、職員の混乱を収めるよう尽力した)

シオ、コアを摘出され、ノヴァに捕食される。

ヨハネス・フォン・シックザール、アルダノーヴァと一体化。

第一部隊、交戦開始。

壊滅寸前まで追い込まれるも、甲による、人型神機とも言えるアルダノーヴァ女神・男神に感応波ジャック。「相互関係」を結合崩壊。

暴走状態に陥ったアルダノーヴァを、甲が単独撃破。

ヨハネス・フォン・シックザール、人類の未来と希望を託し、オラクルの輝きに散る。

亡き妻と、地獄を歩み続ける息子への愛情を、友と信頼する直属の部下へ託して。

 

アルダノーヴァを撃破するも、終末捕食は止まらず。

崩壊するエイジス島の中、シオの声が響く。

コアを捕食されても、その意思がノヴァ内部で生き続けていたのだ。

シオは、地球を内部から捕食しかけているノヴァを表層から強制的に引き剥がし、地球から遠ざけるために月に向かうと甲らへと告げる。

そのために、枷となったその“抜け殻”を断ち切らねばならない、と。

神機によって、自らを捕食せよと、ソーマへと懇願する。

ソーマ、震える声にて了承す。

シオを捕食し終えたその神機は、純白の色に染まっていた。

「ありがとう みんな」とシオは、月へと旅立って行った。

 

こうして終末捕食の危機は去った。

だが、アラガミの脅威は依然続いている。

ヨハネスはエイジス島内にて作業中に不慮の事故で死亡したと処理され、既に宇宙船に乗り込んでいた人々も元の生活に戻っていった。

人類の絶滅を恐れるあまり、一部の人間だけでも生き延びさせることを選んだヨハネス。

同じく、人類が滅ぶことを恐れたが、アラガミと人類は共存できるという希望をシオに見出した、第一部隊の面々。そして甲。

どちらが正しいかはわからぬまま。

ゴッドイーター達は今日もまた、アラガミと戦い続ける。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「あらすじはこんな感じでどうだろう?」

 

いや、あの長すぎませんかね、ここまで。

 

「もちろんヨハンやシオちゃんのくだりは削除するとして。どうだい、我ながら良い出来だと思うんだけど、どうかな?」

 

どうかな言われましても。

この原稿なんなんですか。

これ見せるためにわざわざ俺を欧州から呼び戻したんですか。

 

「おや、お気に召さない? 確かに、全体的に君の影が薄くなってしまったのがどうかなと思っているんだが。これじゃソーマ君が主人公だね、ははは」

 

いや、ははは、って。

そもそも、誰ですかねこの甲とかいう頭がパーンしてる奴。

箇条書きにされたの改めてみると、本当どうかしてると思うこいつ。

ええと、なになに。

任務評価SSS+を20回以上達成。

1種のアラガミにつき討伐数100体以上。

任務コード『鬼神竜帝』、評価SSS+、無補給無傷での達成。

開発可能な全近接武器、全銃身、全シールド、その他を独力により取得。(合計150種類以上所持)

など。

ハハッ、ワロス。

 

「これでも削ったほうなんだけどね。だからいまいち、凄いんだけれどこう、目立たなくなってしまったんだ」

 

いやそりゃこんなに盛ったら……えっ?

削……っ……た?

えっ? あれっ……あっ!

ああぁー……。

 

「本当のことを書いてしまうと、あまりにも現実味が無くなってしまって……」

 

本当の事書くと逆にうそ臭くなるとか一体……。

あの、榊さん? なんで眼鏡とるんですか? なんで目頭揉んでるんですか?

俺、榊さんが眼鏡とったとこ初めて見たんですけど。

なんでそんな、どうしようもないなこいつ、みたいなリアクションしてるんですか?

ねえ、ちょっと。

 

「いや、でも、ねえ? 君、報告サボっていたり、ヒバリ君と共謀して討伐スコアを他人に譲り渡したりしていたでしょう?

 いい機会だから私の方で一度君の戦績を洗い出したんだが、うん……」

 

ちょっと!

何で最後の方の言葉濁すんですか?

わかってるでしょ? みたいな目しないでくれませんかね!

それヒバリさん一人でやってるやつですからね!?

「わかってますから」って何かカウンターで毎回カチャカチャやって……俺からどんだけ搾り取ろうと……。

コウタにチケット上げたくだりとかも、あいつがトイレから帰ってきてハンカチ持ってないって言うから渡そうとしたら、間違えて搭乗パス渡しちゃっただけですから!

なんかツバキさんがそれ見てたみたいで、悪ノリして、搭乗者リストまで書き換えちゃったしさぁ……。

しかも俺の部屋まで来て、俺の端末使って。

足が付くじゃん! それバレたら首吹っ飛ぶの俺ですよねぇ!?

その後掃除したり洗濯したりご飯作ってくれたりしたけども、そんなんで俺騙されないからね!?

でも添い寝はまたしてくださいお願いします!

 

「まさか私も、アナグラ内に流れている君の噂が、ほぼ事実であったとは知らなかったんだよ……ディアウス・ピターとプリティヴィ・マータを同時に相手する? 複数の接触禁忌種を同時に? 理由がお小遣い稼ぎ?

 何を言っているのかわからなかったし、何を言われているのかわからなかった……なんだか、その、ごめんね?」

 

やめて!

泣けてくるから! やめて!

 

「いくらミッション受注が任意制といっても、第一種接触禁忌種を単独で何度も狩りに行っていたとは、私もさすがに予想外だったよ……。

 君が食堂でジャイアントとうもろこしを頬張っていた姿はよく見かけていたが、まさかノヴァの亜種を狩った帰りでした、なんて誰も思うわけないじゃないか。

 困るよ、そういう時は一声かけてくれないと。アリサ君やツバキ君たちが怒る理由もわかるね、まったく」

 

え、なんでこれ、俺が怒られる流れに。

 

「ごめんなさい、は?」

 

ご、ごめんなさい……。

 

「はい、よろしい。では渡した原稿に目を通しておいてくれたまえ。特に甲の項目のところを頼むよ」

 

うわー、これはひどい。

ざっと見ただけでもこの甲とかいうのひどい。

甲って誰なんでしょうね、ほんと。

俺だよ……これ……俺のことだよ、これ……。

ワーカーホリックを超えた何かになりつつある俺だよ……。

神機様がかってに動いてミッション上から下まで連続ポチポチするからぁ……。

 

「うん、次回作はちゃんと君を中心にした一連の大活躍を、相応しい描写で描いていくことにしよう。任せてくれたまえ!」

 

やめて!

お願いだから、やめて!

 

「そういえば欧州でも大活躍だったそうじゃないか」

 

ええ、まあ。

活躍したっていうか、楽勝だったんですよ、ええ。楽勝でしたとも……。

だって相手が、ハガンコンゴウとかだけだったし。

 

「そこで“だけ”なんて言葉が出てくる時点で、君も極東に染まっているね。いや、この流れを作ったのは君か。

 他の支部じゃあ普通、第二種接触禁忌種なんて現れたら、絶望的事態だからね。私も他国の支部に行った時に感覚のズレをいつも指摘されるよ。君たちを見てるとどうもね」

 

なんかその辺、俺全くわかってなくて。

欧州で第二の接触禁忌が出てきたときに、みんな「もうお終いだ!」って取り乱してたのを横に、俺だけ今日のランチメニューとか食堂で聞いてたりして。

そしたら俺、何かすごい怖がられちゃって……。

極東支部がおかしいんだって、そこで初めて知りましたよ。

いやあ、向こうは平穏だった……。

ミッションも数日に一回だし、接触禁忌種とか探してもいないし、ヴァジュラの群とかもないし……。

 

「極東は地獄の釜の底の底、そこにこびり付いたコゲ付きよりもなお黒い者共が住まう地だ。そう言われているらしいね。“極東上がり”が一種のステータスだとか」

 

もうやだ極東。

 

「おそらく君が極東一有名なゴッドイーターなんじゃないかな。地獄の獄卒長として。第一部隊は精鋭を集めるものだからね」

 

もうやだ極東!

 

「ゴッドイーターの情報は秘匿されるものだし、君は立場が特殊なものになってしまったから、個人情報がもれることはないさ。

 第一部隊隊長という立場が目立つだけで、君の名前や顔を知っている者は少ないだろう。第一部隊隊長という名が、一人歩きしている状態だ。

 君も、本社の登録データに私がすこし手を加えて、たまに別人になってもらったりしているしね」

 

新しい戸籍がなんかいきなり出来てたりしたのは……。

いや、もう深く考えないようにしよう。

欧州じゃあ、極東支部の第一部隊隊長ってどんな奴か?って質問山ほどうけましたよ。

お前よりイカレてる奴とかいるの?とか、お前よりヤバイ奴がいるとか嘘だろ?って。

泣きたい。

 

「ところでソレの着心地はどうだい?」

 

ハハハははハ。

言わなくても解るでしょう?

 

「そうか、それはよかった! 気に入ってくれたようで嬉しいよ」

 

んなわけあるかぁ!

何か勘違いされる前に言いますけどね。

俺が離れてる間、職員さんも結構増えましたよね。

 

「そうだね。アーク計画の影響で、人員が大きく入れ替わったからね」

 

後ろ暗い奴全部飛ばした人が何をしれっと……まあ、だからこう、離れてた間に人が増えたおかげで初対面の人が一杯いるわけなんですよ。

 

「それの一体何が不都合なんだい? だから皆が君を受け入れてくれるよう、君のために筆をとったというのに」

 

それのせいですよ! やめてくれませんかね!

何か俺が、アラガミ殺すことだけが生きがいの殺戮マシーンになっちゃってるから! やめてくれませんかね!?

最近アナグラの中で、新しい職員さんとすれ違うと、ヒッ、て悲鳴上げられちゃってるんですけど知ってます!?

これ確実にあんたが装着するように厳命してきたコレと、自費出版してるアナグラ広報のせいでしょ!

なんなんだよ『連続ノンフィクション小説:ゴッドイーター~神狩人~』って!

誰だよここに出てる加賀美リョウタロウ君って!

ドン引きするくらいの出撃回数に任務達成率に戦闘内容じゃん! 最近はずっと無傷で任務達成とかって……事実だけど!

こんなん本当にいたら化け物でしょ、化け物! 誰だよこいつ!

あぁぁ……だから俺だってばよぉぉ……。

神機様がやれって言うからぁぁ……俺を無理矢理引き摺るからぁぁ……。

 

「いやあ、すごく人気があるように見えるんだけどねえ」

 

ソーマが俺のことすごい不憫な目で見てくるんですよ。

肩ぽんって。ジュースまでおごってくれましたよ!

「何かあったら相談しろ」って。

そんなんする奴じゃなかったけどものすごい気遣いしてくれるんですよ!

なんかもう、なんか!

心が痛い……!

 

「そうか……ソーマ君もまるくなったね。君のおかげかな」

 

そうだけど違うでしょうが!

 

「いったい何が問題なんだい。似合っているし、いいじゃないか」

 

似合う似合わないの問題じゃないでしょうが……!

 

「そのキグルミ」

 

はいきた!

さっきの理由に加えて、これで俺の地位が不動になりましたよ!

言い訳不可能のキワモノ枠だよ!

ファンシーカワイー!

ピンクのウサちゃんは今日もアラガミをぶっ殺すよ!

ホラーだよ!!

キグルミがアラガミ返り血塗れで細切れにしてるとか、ホラーだよ!!

 

欧州での任務一発目からこれ着てやってましたからね。

向こうでの評価もそらおかしい奴ってなりますよ!

なんでこんなん送りつけてきたし!

一職員が権力に逆らえるわけないでしょうがもぉぉ……!

 

「でも、そういうの、好きなんだろう?」

 

支部長権限での命令されたら断れないでしょうが!

決して! 断じて! ちょっとクセになってきたからとかそういうのじゃないんだからねっ!

ていうかこれ普通のキグルミじゃないでしょ。中身異様にメカメカしいですし。

機械の塊にガワ着せただけじゃないですかこれ。

俺だってヒーロースーツとかならまだ許せたのに。

何なんですこれ?

 

「ヨハンの遺したもの……正確には、私が欧州に飛ばした時に譲渡されたものなんだがね。『神機兵』という人型兵器の雛形さ」

 

ああ、確かそれ、欧州遠征中に色々聞きましたよ。

なんだっけ、無人化目指してるんだっけ。

制御が甘くて、まだろくに使えないとかなんとか。

そういうのが配備されたら俺達も楽になるのになあ。

 

「いずれ公開されるとしても、現時点ではまだ極秘情報のはずなんだけどね、それ」

 

やぶ蛇だった……。

 

「せっかくだし、こちらで無人制御のためのデータ取りや、機体の問題点等を改善してあげようかなと。そうしてくれと、頼まれた気がしたんだ。ヨハンが遺した仕事に紛れこんでいたのを見てね……」

 

榊さん……。

 

「それに有人操作はかなり負担がかかるそうだからね。対アラガミとの実地データを取るのは、極東が一番さ!」

 

え、これ、このキグルミ危ないやつなん?

 

「大丈夫さ、ただの無人機用のデータを取るための機具だよ。今はまだ」

 

今はまだ!?

 

「見た目が悪いから、私が外見をかわいくしてみたんだ」

 

スルーするのやめてくれません!?

 

「もうしばらく戦闘データを蓄積してくれたら、脱いでもいいからね。いずれは君の戦闘データを反映し、キグルミ型の無人神機兵を私は作ってみせるよ!」

 

嫌な予感しかしない……!

でも、本当に完成したら嬉しいな。

アーク計画の影響でアラガミがやたらめったら極東には寄ってくるし。

それに合わせて優秀なゴッドイーターや研究者も呼び寄せるものだから、生活基準が上がって、アラガミがいても良い生活ができるって人が増えて。

それを狙ってアラガミが増えて。

堂々巡りですよ。

 

「少し、疲れた様子だね」

 

ええ、ちょっと。

欧州でこなした最後の任務、引きずってまして。

 

「何かあったのかい?」

 

このキグルミ着て、居住区回ってる時に……ちょっと。

ピンクのウサちゃんだーって、女の子が抱きついてきてくれて。

 

「いいことじゃないか。やはり私のセンスは世界一だね」

 

俺の……ピンクのウサギがアラガミを倒す絵を描いてて、ウサちゃん達が戦ってくれるから私たちは安心ですって。

ありがとうって。

手紙、書いてくれてて。

 

「小さな子からのファンレター、いいじゃないか」

 

それが、アラガミの腹の中から出てきました。

俺は間に合わなかった。

それだけです。

 

「……そうかい」

 

生き残った人が、言ってました。

助けてウサちゃんって。

最後まであの子は、俺を呼んでたって。

 

「リョウタロウ君」

 

あの子だけが死んだんです。

アラガミから助かりたいために、周りの大人たちが、アラガミの目の前に放り投げたから。

あの子が食われてる間に、皆逃げたんだ。

犠牲者が一人でよかったって、ミッションリザルトの数字を見て、事務処理の職員さんは言ったけど。

俺は……なんなんだろう。

いつも考えてしまう。

考えちゃだめなのに、嫌な考えが頭の中に浮かんでくる。

 

命の重さは同じでも、価値は同じじゃあないんだ。

クズと無垢な子供の命が等しいなんて思えない。

あんなのを守るために、ゴッドイーターは命をかけなきゃいけないのか。

ヨハネス前支部長の意思は正しかった。

でも俺は、ゴッドイーターの使命……全ての人を等しく守る、そのためだけに。

人類のために英断を下した、本物の英雄を手にかけて……。

 

「長旅から帰ってきてすぐに呼び出して悪かったね。疲れたろう? 下がってよろしい。キグルミも脱いでいいよ。あとはこちらでやっておくから、ゆっくり休みなさい」

 

失礼します……。

その、次の任地はどこですか?

 

「女神の森……ネモス・ディアナ。対アラガミ装甲壁に囲まれた、ミニエイジスとも呼べる場所さ。君には新たな任が下るまで、そこで要人警護や、資材搬入の護衛をしてもらうことになる」

 

了解しました。

 

「クレイドルの皆とすれ違いになるね。だが、忘れないでほしい。リョウタロウ君。どれだけの悲劇が訪れようと、君は決して一人ではない。いいね」

 

ええ、大丈夫です。

少しこたえただけですから。

一眠りすればすっかり、元通りですよ。

 

「微力ながら私もいる。そのことも忘れないでくれたまえ。もしよければ、一緒にお茶なんてどうだろう。ちょうどここに新たな味に改良した初恋ジュースが」

 

失礼しました!

上司のパワハラも茶飯インシデント。

部隊長クラスも陰険なイジメを受けるよ! サツバツ!

フェンリル極東支部はあなたの参加を待っています!

俺の代わりに……! 誰か……誰か……!

 

でも、冗談抜きにして。

そろそろ、本当に限界だ。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「あっ、リョウタロウ君? リョウタロウくーん? ……あらら、フラれてしまったね」

 

榊は苦笑しながら、デスクに並ぶ幾重ものモニターへと向かう。

眼鏡に青いモニタの反射光が映り込み、その奥にある、細長い目を照らす。

 

「ヨハン……君のしたことの是非を問うには、人類はまだ若すぎる。彼を見ているとね、そう思うんだ。

 大いに悩み、悔やみ、答えが出ぬままに、ただ生きる。

 人は自立して生きていくことになった。神に頼らず、自らの手で。

 地獄だよ。ここは、地獄だ。

 だが彼は、地獄のままであれと。死んだ方がマシだという世界で、全ての人間に、死なせないことを強要した。その傲慢。死ぬことを許さない、その懺悔。

 いかほどのものか……スターゲイザー【傍観者】である私が、何かを言う資格などないことは、解っているんだけれどね」

 

数分、何がしかのコードを打ち込んでいた榊だったが、身が入らなかったのか、細く息を吐き出すと椅子に深く背を預けた。

 

「寡黙で、微笑みを絶やさず、鋼の精神を持ち……完璧なゴッドイーターだ。

 でもそれは、作られた仮面だよ。

 きっと、胸の内では叫んでいるはずだ。理不尽に悶え苦しんでいるはずだ。私に対する愚痴だって、それはもう盛大に吐き出しているかもしれない」

 

榊のモニターには、ドーム状に防壁に覆われた居住区。ネモス・ディアナの画像が。

その遠方の空には、赤い雲が。

不吉な予感を見る者に与える……視界に入るだけで背筋を逆撫でされるような、赤い雲が写されていた。

 

「赤乱雲……赤い雨……ネモス・ディアナは、ヨハンの政策によって極東支部から追いやられた人々が暮らす場所だ。みなフェンリルを憎悪している。

 クレイドルの皆も、理解を得られたのは一部だけ。受け入れられたのではない。事実上の撤退だ。そんな場所に、私は君を追い込むんだ。

 P73偏食因子の、後天的投与……ヨハン、あの時と同じ、嫌な予感がするよ。終末捕食が、また起きるかもしれない。それも、誰も望まない形で。

 だから私は、科学者にあるまじき、勘に頼った行いをしよう。そう……あの時と同じように。賭けに出よう」

 

榊の組まれた両手に、額が乗せられる。

まるで祈るように。

 

「ヨハン……君が言う通り、彼が何をしても決して死なない、異能の運命を持った生存体ならば。きっと、きっと神の見ている暗い夢を打ち砕いてくれる。私もそう信じることに決めた。

 彼が、私達が追い求めた、救いの凶星……現人神【アラヒトガミ】なのだと」

 

その祈りは何に向けてのものなのか。

 

「赤い雨の謎は解明されなくてはならない。解決の糸口さえ見えない不治の病など、あってはならない。これは試練だ……リョウタロウ君。私を恨んでくれ」

 

赤乱雲から降る、赤い雨。

赤い雨にうたれれば、不治の病に羅患する。

致死率は100%。

雨が当った箇所を中心に、黒い蜘蛛状の痣が浮かびあがり、激痛を発し……そして、死亡する。

今はまだ極致的な現象に過ぎないが、榊の予測では、いずれ世界規模で発生する、未曾有の自然災害となるだろう。

アラガミに加え、赤乱雲だ。人類にはこの二つの脅威を耐え抜く力は、残されていない。

 

もし、である。

もし、自身に打たれた毒、劇薬……与えられた死の運命を全て捻じ曲げ、生き抜く存在があったとしたら。

赤い雨にうたれれば、どうなるだろう。

自身の体内で何らかの変化を無理矢理引き起こし、無害なものへと変えてしまうのではないだろうか。

未だあの雨の何が作用しているのかすらわからない状態だ。

彼の体を調べることによって、その毒性を解明するための、手がかりとなるのではないだろうか。

機神兵のデータとりなど、ただの建前だ。

彼の全身いたるところのデータをモニタリングするためのものだ。健康時と、雨にうたれてからのデータ、両者の比較が必要だ。

そのデータが、無人機にも搭載可能なものとなると、それだけのこと。

 

それだけのことに、たった一人の男に、多大な負担を背負わせる。

本人にそうとは知らせず、世界の命運を背負わせて。

悲劇のるつぼに放り込むのだ。

これは試練だ必要なことであるのだと、自分に嘘をついて。

 

「ヨハン……君も、こんな気持ちだったのかい」

 

返答はない。

かつてこの椅子に腰掛けていた男ならば、どう答えただろうか。

榊は無性に、あの時ヨハネスと一緒に飲んだワインを、もう一度飲みたいと思った。

 




前回とりあえず完結と言ったな。
とりあえず、と!
うん……うん……!
とりあえず、ちょっぴり、2にはいるくらいまでは!
続けてみようかなと思います。

出切るだけ漫画版や小説版のネタバレを避けるため、時系列はずらしておく努力。
2に移行させるため、前作キャラとはすれ違いさせておく努力。
キグルミ関連の努力。
汲み取ってほしい!
なので次回はものすごい短くなるかと思います。
そのあたりカットしたら、短くなってしまうのはもう・・・!
現在連載中の漫画や売れてる最中の漫画の最新ネタバレはホント気をつかいます。

しかしやっぱりというか。
なんやこれすごい書くの難しい……勘違いものってどうやって書けばいいのん?


ううーん、じゃあまず……ここを勘違いさせておこうかな。
勘違いもののストーリーには救いがあふれているという、これを呼んでいる人達の思い込みをな!

GE世界観でおきらくムードとかありえへんありえへん!
ハッハー!
主人公に地獄を見せてやるぜぇー!

次回へ続く!


※1ヶ月に1回更新くらいで……い、いいよねっ?ねっ?

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