新檀クロト、彼女は天才である
並々ならぬ努力を積み重ね、数々の発明をした
そして表面上は奢り高ぶっているが、裏では自分の実力を過信せず常に磨き続ける努力を忘れていない
彼女は天才である、しかし秀才タイプでなく、努力型の天才だ
そんな彼女が今、何処にいるのかと言うと…
「…また移転してる」
『便利屋68』の事務所の前だった
事務所の扉をノックすると、『はーい』という声と共に扉が開く
「どちら様ー…ってクロトじゃーん!さ、入って入って!」
「失礼するぞぉ」
そう言う新檀クロトの手を取るのは、浅黄ムツキ
『便利屋68』の社員であり、同時にトラブルを楽しむ厄介児でもある
なお、彼女に『新檀クロト』と呼ばせることは無理に決まっている為、新檀クロトも諦めている
「…あ、来たんだ、いらっしゃい」
猫に猫じゃらしを振りながらそう言うのは鬼方カヨコ
『便利屋68』の社員の一人であり、課長でもある
なお、顔のせいで怖がられているが、根っこは優しい
そして、その奥で如何にも悪そうな顔で手を組んで座っているのが、『便利屋68』の社長
「久しぶりねクロ『新檀クロトだぁ!』うぇ!?」
「あ、アル様!?」
あまりの大声でソファーからひっくり返りかける社長ー陸八魔アル
そしてそんな社長をおどおどしながら支える少女ー伊草ハルカ
「び、びっくりしたじゃないの!というか『新檀クロト』って何よ!?」
驚きながら新檀クロトに対しそう言うアル
一方のハルカはというと、アルがひっくり返ったときに支えることができなかったため自分を責めている
これが新檀クロトと『便利屋68』のいつものやり取りである
…なお、アルが如何にも悪そうな顔で手を組んでいたのは、『アウトローっぽい』からだとか
「紆余曲折あって檀クロトという名はもう捨てたのだぁ、『新檀クロト』と呼びたまえ」
「紆余曲折って何があったのよ…」
呆れるアルを余所にソファーに座る新檀クロト
それを見たアルも座り直す、もちろん普通にである
「で、今日は何か用かしら?」
「用ということのほどでもない、ただぁ、また移転したのかと思っただけだぁ」
「し、失礼ね!またって何よまたって!」
言葉通りである
「しかしなんでまた移転したぁ?…あぁ、成程なぁ」
「な、何よ!まだ何も言ってないわよ!」
「後ろにいるムツキの愉しそうな笑顔で大体察しがついたぁ、また何かやらかしたのだろぅ?」
ぐうの音も出ないアル、因みに何をやらかしたのかは…ご想像にお任せしよう
そんな光景を余所に、高笑いしながら手に持っていた袋からいろいろと取り出す新檀クロト
サプレッサー、特殊弾、マガジン、スコープ…銃に着けられるアタッチメントである
「私から君たちにプレゼントを用意したぁ、存分に使いたまぇぇ!」
「…見返りは、このアタッチメントを使った時のデータを送ればいいの?」
「その通りだぁ!神からの恵みを有難く受け取れ!」
アルの言葉にそう返す新檀クロト、そしてその言葉に悪乗りして崇めるふりをするムツキ
便利屋に『ゲンムコーポレーション』で開発したアタッチメントなどを送り、見返りとしてそれらを使った際のデータを纏めて新檀クロトに送る…それが、『便利屋68』と『ゲンムコーポレーション』が結んだ業務提携である
『便利屋68』は自称とは言えアウトロー集団を名乗っており、何回もやらかしその度に出る凶悪な被害で実態を知らない企業などからは凶悪な集団と噂されている
実態はどうあれ、当然そんな集団を放っておくはずがなく傘下にするなり色々な仕掛けを使って吊り上げようとしたが、『真のアウトロー』を目指すアルはそれらに釣られることはなかった…いや何回か釣られ掛けたがその相手がカイザーだと知るとすぐさま拒否していた、どれだけ信用がないのだろうか
そしたら当然次の手段は潰そう、ということで最近はカイザーPMCなどが便利屋の最近の相手である
実態を知っている関係者からしたら、何をやってるんだこのPMCや企業共はといったところだが
因みに新檀クロトはカイザーPMCについては、「いい実験材料」とのこと
その為最近は『風紀委員会』と呼ばれるゲヘナの警察ともいえる委員会との揉め事も少ない
なお、大体何かをやらかすせいで評価はあまり変わっていない…全然ではないことを褒めるべきだろう
「あぁそれとぉ、今金欠だろうぅ、これでも使うといいぃ」
そう言うとアルに向けて何かを放り投げる新檀クロト
落としそうになりながらも難なくキャッチしたアルだったが、手元にある物と紙を見て驚愕する
「こ、これって私の通帳じゃないの!え、凍結解除!?しかも何この金額!?」
自分の口座の通帳を何故新檀クロトが持っていたのかはともかく、凍結されて何もできない筈のその口座に入っている見たこともない金額に驚くアル
覗き込んでいた他のメンバーもあまりの額に唖然としていた
「何故君の口座が凍結解除をされ、そんな金額が入っているのか…すぅべてを、知りたいかぁぁ…陸八魔ぁ、アルぅぅぅぅぅぅ…!」
その言葉に頷くアルを見て、新檀クロトはソファーから立ち上がる
「君達がぁ、私の試作品を使ってぇ、戦うことによってぇ、ギヴォトス全域のぉ、治安がほんの少しだけまともになったぁ…それをぉ、私と先生がぁ、それぞれヒナに説明したことによってぇ、君の口座のぉ、凍結解除がぁ、認められたのだぁ!!フハハハハハ!!」
「いちいち区切らなくてもいいじゃん…」
カヨコのツッコミはもっともである
あとさらりとゲヘナの最高戦力とも知り合いだということが語られた
「そ、そうなの…え、じゃあこのお金は…」
「君たちがぁ、今までにぃ、私の試作品を使ってぇ、データを採集してくれたぁお礼だぁぁぁ、感謝するが良いぃ!!」
フハハハハハ!と笑いながらソファーに座る新檀クロト
一方のアル達便利屋メンバーは、情報量の多さに頭がパンクしかけていた
「で、でも!頼まれる時ちゃんと現金で貰ってたわよ!?」
いち早く混乱から復帰したアルが新檀クロトにそう言う
「確かにそうだぁ…そうだ、これはぁ君の口座凍結解除のお祝いとしてぇ、受け取るが良いぃ」
「にしても多すぎるわよ…」
根が善人のアルは躊躇いがちだったが、目の前で高笑いをする少女が一度言ったことは変えないということを知っているので、深く感謝しつつ受け取ることにした
「それはともかく、貴女最近ちゃんと寝てる?」
「寝る…?何だそれは?」
「噓でしょ!?」
「冗談だぁ」
そう言うと安心した表情をするアル
新檀クロトが反応が面白くて揶揄うのが楽しいという理由でやられていることに気付いていない
それはそうと、アルが心配するのも無理はないだろう、何せ新檀クロトの目の下には深い隈が浮かんでいるのだから
「心配するなぁ、ちゃんと寝ているさぁ」
「本当に…?」
嘘はついていない
ただ、そこに『永遠の』がつくだけだが
そんな会話をした後、ソファーから立ち上がる新檀クロト
「さてぇ、私はこれで失礼するぅ、データの件は頼むぞぉ」
「あ、ちょっと待ちなさい、送っていくわ」
「必要ないぃ、私はぁ、天才だからなぁぁぁぁ!!」
「そ、そう…本当に気をつけなさいよ…?」
「心配し過ぎだぁ!フハハハハハ!」
そう言って事務所から出ていく新檀クロト
それを心配しながらハラハラしながら見詰めるアルであった
「ふぅ…」
事務所から離れたことを確認して息を吐く
あそこにいるとキャラが保ててるかどうか不安になる
便利屋の皆さんはいい人すぎる、だから信用も出来る
もし私の残機が無くなって、本当にゲームオーバーになってしまっても、あの人たちと先生になら、サオリ達を任せられる
…そして今、この場でまた一つ減ろうとしている
だって目の前に戦車が居て、砲口をこちらに向けt
「…見つけたら即抹殺、だったな」
目標がいた場所を見つめるカイザーPMCの隊長
彼らが命令されていたことはただ一つ、とある生徒を見つけ次第抹消せよということだけだった
当然彼女の事なんて写真でしか知らない、しかし興味もない
自分たちは、ただ命令されたことを遂行するのみ
そして、砲煙が晴れると、そこには大量の血液と共に体の一部が転がっていた
上の人間から渡された砲弾の威力は絶大なものだと感心する
とはいえ長居は無用と判断し、撤収しようかと思ったその時だった
「ぬぅん!!」
「がっ!?」
突如響く声と何かを蹴る音、そして吹っ飛ぶ自分の部下
何事かと視線をそちらに向けた指揮官だったが、そこには目を疑う光景があった
「残りライフ…69…私の貴重なライフをよくもぉ!かいざぁぁ、PMCぃぃぃぃ!」
跡形もなく吹き飛ばしたはずの対象が、目の前で自分の部下を踏みながらそう言っていたのだから
「まぁいいだろうぅ、仕返しとしてぇ、新しいガシャットの実験台にぃ、なってもらおうぅぅぅぅ!!」
狂気的な笑みを浮かべながら片手に何かを持つ対象
そこでいち早く驚きから復帰を果たした隊長が射撃命令を下すが、部下たちはまだ唖然としていた
まぁ死んだと思っていたらいきなり目の前に現れて混乱するなというのが無理な話である
そして
『デンジャラスゾンビ!』
そんな音声が響き渡ると同時に、辺りが一面暗くなる
そして、対象になにか黒いものがまとわりついている
それが、カイザーPMCの部隊全員が見た、最後の光景だった
その後、砲声で駆け付けた便利屋が見たのは、蹂躙されたような戦場跡と、その中心でいつも通りの高笑いをしている新檀クロトだった
そして、会社がある廃ビル近くまで便利屋が送っていったとか
…そして、それを、とある生徒が目撃していた
「あの時の事…聞かないでくれ、思い出しくない」
後に元・カイザーPMCの兵士はそう語ったとか
「部長!部長!」
「何?また何かやらかしたんじゃないでしょうね…」
「それはともかく!ちょっとこれ聞いて!」
「ともかくじゃないわよ…全く…」
「…この声、この笑い方…嘘…」
「ね!?そうだよね!?やっぱり先輩だよね!?」
「…いや、まだ分からない、声が似てるだけの別人かも…」
「部長!ちょっとこれ見て!今ミレニアムのサイトに載ってる!ほら!」
「…いい?エンジニア部がこれを見ないように、写真も早く削除して」
「え、何で!?ウタハ先輩喜ぶよ!?」
「いいから!今回ばかりは私が主導したってことで見逃してあげるから!早く!」
「は、はい!」
「…生きてるなら、ウタハに連絡くらい入れなさいよ…」
「…ははは、やっぱり、生きてたんだね、クロト」
「待ってて」
「スグ二、ムカエニイクカラ」
残りライフ 69
何回も死んでるからまぁ作れるよね