黒龍ノ唄   作:黒龍伝説

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黒龍ノ焔

 

――――長い長い時を生きる黒龍の日々は、常に静かなものではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類も魔族も、等しく足を踏み入れる事のない森は、しかしその豊かな植生と資源の宝庫であった。

 そんな土地を誰もが放っておくことは無い。その地にどれだけ恐ろしい存在が居たとしても、人間もそして魔族も欲の深さはどっこいどっこいであるから。

 

『…………』

 

 いつもの定位置である岩山の頂上で目を閉じていた黒龍は、来訪者に瞼を上げる。

 首を持ち上げ半ば睨みつける様にして見つめるのは、眼下に広がる森の入り口辺り。

 大魔法使いフランメの死より、凡そ二百年といった所か。黒龍の下を訪れる人間は、彼女を境にめっきりと居なくなった。

 しかし、あくまでも黒龍の下に来ないだけで豊富な資源をちょろまかそうとする者達は居る。

 必要以上の行為でなければ、例えばその日の飢えを凌ぐために獣を数頭狩猟するだとか、一籠程度の草本を収集するだとか自然の摂理の範疇ならば、黒龍も咎める事は余りない。

 伝説とは、そういうものだ。囃し立てるのは、いつだって周囲より更に遠い人々である。

 

 そして、いつの時代も不届きモノは現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、本当に黒龍なんて居る訳?」

 

「ああ、勿論だとも。この森をよく見てみよ。古い時代の植生を保っている」

 

 黒龍の領域を訪れたのは、一組の男女。

 側頭部より刀の切っ先のような角の生えた二メートルはある仮面を付けた男と、微妙に空へと浮かんだ額より一本の角が生えた女。

 魔族。フランメが名付け、人間を喰らう人語を介する魔物。

 女はけだるげに森を見た。

 

「くだらないわね。伝説が何だって言うの?カビの生えた伝承でしかないじゃない」

 

「伝承とは、そういうものだ。誇張され、肥大化し、やがて原形すらも忘れられ形骸化した畏怖だけがそこに残る」

 

 言いながら、男はその背に負った体格相応の長槍を手に掛けた。鉈のような穂先と、三日月を模した石突を持つ両頭だ。

 魔族というのは、本来魔法に傾倒し長い生涯の全てを一つの魔法の研鑽に充てるという変わった性質を持っている。

 無論、彼らにとって特別ではない魔法、例えば飛行魔法などはその対象にはならず。言うなれば自身の持つ特別な魔法の研鑽にのみ執着する。

 この特徴から、彼らは膨大な魔力をあけっぴろげにする。それだけではなく、魔力の多さ=実力であり、彼らにとって魔力というのは誇示して何ぼ、という実力主義の社会を形成していた。

 この二人も例には漏れない。

 男の方は、“断崖”のゴロル。女の方は、“事大”のキュラス。

 彼らの目的は豊富な資源――――ではない。

 

「では、始めるとしよう」

 

 槍が引き抜かれる。振り回されるそれは、暴風を伴ってゴロルの周りの空気を一気にかきまぜた。

 そして、跳躍。巨体とも言える体は、一瞬の内に数十メートルにまで跳び上がった。

 ゴロルの魔法は、その槍より放たれる。そして同時に、二つ名の由来でもあった。

 

 “割断する魔法”

 

 その効果は、槍を振るった射線上凡そ百メートルを文字通り、相手の材質、性質問わずに割断してしまうというもの。

 この割断によって発生する、()()。ゴロルの暴れた後には、幾つもの谷が出来上がるのだ。

 彼は森を割断する、その勢いで槍を振るい――――

 

「なっ!?」

 

 放たれた魔法は、突如として遠距離より飛来した極太の青白い光線に飲み込まれ一欠けらも効力を発揮する事無く消滅。

 言葉を失うゴロル。今まで、彼の魔法を防げた者など魔族にも居なかった。

 

「面倒をしてくれるな。戻せるといっても、そう易々と命を削り取られては、我の気分が悪い」

 

「ッ!?」

 

 いつ現れたのか。ゴロルの数メートル先に、いつの間にやら一人の青年が()()()()()

 比喩ではない。浮くのではなく、その素足は確かに空中に足場を確立し、その上に立っている。

 

 毛量の多い黒髪に、褐色の肌。紺色の腰巻一丁で一応局部を隠しているものの、防寒性その他を一切考慮しない格好で腕を組む青年は、慌てて浮遊魔法で浮かんだゴロルと睥睨する。

 

「疾く、去るが良い。そこの女と共にな。我の縄張りに手を出した事も、今ならば不問に付す」

 

 あまりにも上から目線のその言葉は、ゴロルだけでなく地表近くのキュラスにも届いていた。

 そして、二人の魔族は――――嘲笑う。

 

「ハッ!ハーっハッハッハッハ!!確かに驚いたが、()()()()の貴様のようなモノに何が出来る?」

 

「…………」

 

「どういうタネかは分からんが、貴様からは()()()()()()()()()()()。であるのなら、そんな貴様にいったい何が出来る?」

 

 心底馬鹿にするように大笑いするゴロル。

 魔族にとって、魔力の量はそのまま地位や名誉に直結する。故に、それらが低い者には払う敬意など無い。寧ろ、羽虫が一匹紛れ込んだようなもの。

 ゴロルの斜め後方の高さまで上がってきたキュラスも同意見なのか心底馬鹿にした様子でニヤニヤと青年を見ている。

 

「せめてもの手向けよ。苦しまずに、逝かせてやろう」

 

 振り上げ、掲げられる槍。

 この体勢から放たれる横一閃は、阻む事など不可能の一撃。

 ゴロルの懸念は先ほど、自身の魔法を消し飛ばした一発が再び遠距離から放たれ自身に命中する事だが、それはソレ。対策として、目の前の意味の分からない青年を盾兼目隠しとできる位置をキープしていた。

 そして、

 

「――――命が要らない、という返答で良いのだな?」

 

「…………は?」

 

 槍は役目を果たすことなく砕け散った。

 ゴロルは、槍の射線のみならず、槍そのものを叩きつける様にして目の前の青年を割断しようとした。というか、人間一人など水にでもその刃を通したかのように真っ二つに出来ただろう。

 だが、彼の思惑に反して青年へと当たった槍の穂先は、まるでガラス細工で出来ていたかのように儚い音共に砕け散った。当然発動した魔法も青年の皮膚、その薄皮一枚の一つも切れてはいない。

 何が起きたのか、何が起きているのか。空白となったゴロルの頭は何一つ思考をする事も出来ず、当然答えも出てこない。

 その一方で、キュラスは反射的にその場を逃げようとしていた。

 馬鹿にはしたが得体の知れない相手。自身の魔法ならばどうにかなるかもしれないが、彼女の魔法は少々射程距離に難がある。

 とりあえずその場から落ちる様にして逃げ出そうとし、

 

「えっ………」(う、動けない!?)

 

 体は指の先一つも動かなかった。そしてそれは、ゴロルも同じく。

 二人の魔族は、空中に固定されていた。何故動けないのかも、これから何が起きるのかも分からない恐怖だけがそこに在る。

 

「我は既に、貴様らに慈悲を与えた。そして、貴様らはソレを蹴った。――――覚悟は良いな?』

 

「あ、ああ…………」

 

 ガラスの砕けるような音共に、青年の姿は消え、代わりにそこに現れたのは巨大な黒龍。

 大柄なゴロルすら一飲みに出来てしまう程の大きな口が、二人の魔族を直線状に捉えるようにして開かれた。

 その喉の奥がよく見える。そのよく見える喉の奥に青白い光が輝いた。

 

 ここで漸く、ゴロルは理解する。

 自分達が先程まで相対していた青年は、魔力が無かった訳では無い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と

 

 同時に悟る。黒龍伝説は本物で、そして自分たちのような身の程知らずが龍の機嫌を損ねた結果、長い年月を経ても風化する事のない伝説としてその地に伝えられている、という事を。

 

 果たして、熱線は放たれた。その温度は太陽の表面温度すらも凌駕する。

 二人の魔族を飲み込んでも余りある太さの熱線は、そのまま一直線に突き進み、大陸を横断し、海の上を駆け抜けて、()()()()()()()()

 十秒ほどの熱線の放射が止んで、その後に残るのは遠く離れた山頂の焦げた山と熱線によって断ち切られ消滅した積乱雲。

 魔族の遺体は残っていない。元々、彼らは死すればその死体は消滅するが、黒龍の熱線はそもそも如何なる存在が受けたとしても、文字通り()()()()()()()()()。存在は愚か、魂すらも焼き尽す熱線だった。

 

 一つ鼻を鳴らして、黒龍は大きな欠伸を零す。

 

 伝承伝説に偽り無し。そして、触らぬ神に祟りなし、である











因みに、今回出てきた魔族二人の実力は七崩賢クラスです
“事大”のキュラスの魔法は、隷属させる魔法。首輪をつけた対象を問答無用で操り、自在に力を付与し強化する事も出来るというもの
対象を絞る事でその効果を増大させており、そこらの龍に着ければそれだけで腕利きの冒険者パーティを壊滅させる事が可能な力を発揮する事も出来ました

 黒龍には通用しませんが
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