冥冥さんのATMになりたい   作:あっぷるぱい提督

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どうも筆者です。また続きました。
評価や感想を頂けたのが嬉しくて文字数が増えました(ちょろい)
今後もお付き合いください。


第3話

 

 

「君達には今から任務という名の殺し合いをもらいます」

 

 朝、教室に入ってくるなり神妙な顔で教師はそう言った。

 あ、こいつバトルでロワイヤルな映画見たな。

 台詞を弄ったせいで元ネタが分かりにくいが間違いない。

 なんで分かるのかって? 昨日の地上波でやってたし、言った後に自分でウケてツボってるからだよ。

 どこが面白かったのかが全然わからん。

 こういう所が彼女にフラれた原因なのかもしれんな。知らんけど。

 

 こんなのでも1級術師だって言うんだから、呪術界ってマジで頭おかしいのしか居ないんだなって思っちまうね。

 

 ちなみに俺があの映画と同じ状況に陥っても余裕で勝ち残れる。

 いや、別にイキッてはないぞ? ただの事実だ。

 

 それはそうと、昨日見た映画のセリフを早速取り入れる教師のお茶目具合に愛想で半笑いを浮かべながら、なんとなく隣の歌姫を見た。きっとお前も呆れている事だろう。

 

 だが俺の予想に反して歌姫は不安そうな顔をしている…。

 まるでこれから本当に命を賭けた戦いでも始まるのかと危惧しているような……。

 

 …はっ! これはもしやノリツッコミの前フリか!

 歌姫め、高度なテクを見せつけやがって。

 認めよう。安易なリアクションを取ってしまった俺の負けだ。

 さあ、大して面白くもないネタにツボってる間抜けな教師にお前の華麗なツッコミをお見舞いしてやれ!

 

「初任務…」

 

 ……ん?

 

「私に出来るかしら…」

 

 ……ツッコミは?

 

 浅く俯いて、何やら消え入りそうな声で不安を吐露する歌姫。

 

 まさかとは思うが映画ネタが通じていない?

「……」

「……」

 

 さっきまで馬鹿みたいに笑いに肩を震わせていた教師と顔を見合せる。

 

 ネタが通じないのはおろか、ガチ反応を返されるとは思っていなかったのだろう。

 教師の目は俺にフォローを求めていた。

 恋愛マウント(勘違い)を取るようなやつとアイコンタクトをするなんてゴメンだが、不安がっている同期をそのままにするのは流石にかわいそうだ。

 仕方がない。ここはひと肌脱ごうじゃないですか。

 あ、先生。お礼はジュースでいいっすよ。俺ってばやさしいね。

 

「俺達2人だけで行くんですか?」

「いや、僕もついていくよ。2人の実力を見る必要があるからね」

 

 横目で歌姫を見ると、俺達のやり取りを見て安心したように肩の力を抜いていた。

 

 とりあえずこれで良しだな。

 いや待て。教師が来る事に安堵したという事は、俺と2人だと不安だって事だよな?

 お前訓練であれだけコテンパンに転がされておいて俺に対してそんな評価なの?

 

 腹が立ったので明日以降の訓練はもっと激しく転がしてやろう。

 

 

 補助監督の運転する車に乗って到着したのは都内の雑居ビル。

 

 見た感じは普通の廃ビルって感じだな。いかにも近所の大学生とかが肝試しに使ってそうなやつ――大学生が被害に遭って呪霊の存在が発覚したらしいからそのまんまだな。

 

「肝試し中に友人が死んだと警察に通報があり、現着した警察官も原因不明の重傷。以上のことから我々が派遣されました。等級は推定で3級呪霊です」

 

 道中でも資料付きで補助監督の説明を受けたが現場に入る前に再度の説明を受ける。

 

 やけに念の入った補助監督だなと思ったが、原因は俺の隣で呪力がブレブレになって俯いている歌姫だった。

 車内でも緊張してたから説明が耳に入ってなかった可能性を考慮したんだろう。

 この補助監督さん仕事出来るなぁ…。

 

「おーい、歌姫聞いてるかー?」

「あ、は、はい! 聞いてます!」

 

 だめだこりゃ。話は聞いてたっぽいが俺相手に敬語を使ってやがる。

 

 黙って教師に視線を送る。

 こういうのは先生の役目でしょ? ってね。

 

「庵、緊張しなくても大丈夫だ。今回は別行動はしないし、危なくなったら僕が助けに入る」

「はい!」

 

 返事だけはいいね歌姫。

 そしてやはり全く当てにされていない俺。

 そろそろ悲しくなってきちゃうね。

 

 それにしてもお前緊張しすぎだろ。

 

「つーか気になってたんだけど歌姫のその恰好なに? コスプレ?」

「コ、コスプレ言うな! 術式に関係あんだよ!」

 

 あ、そうなの? 趣味で巫女服着てるんだと思ってたわ。

 そういえばこいつの術式知らないな。

 巫女服が関係してる術式ってどんなだ?

 弾幕とか張るのかな? あのゲーム結構好きだよ俺。

 

 それはそうといつまでも入り口でグダグダやられるのはめんどくせーな。

 

「へぇ、そうなん? んじゃあ期待してるわ!」

 

 そう言って俺は雑居ビルに向かって駆けだした。

まだ短い付き合いだがお前はきっと――

 

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

 案の定、慌てて追いかけてくる歌姫。

 いくら怖くても仲間を一人には出来ないだろう。お前はそういうやつだ。

 

 ビルの中に入ってから歌姫は一言も喋らない。

 呪霊の気配を探るのに集中しているらしい。

 

「…なあ」

「ぴぃ!」

 

 え、なに、鳥なのお前…。

 

「……」

「……」

 

 いくら歌姫を弄って遊ぶのがマイブームな俺でも、いっぱいいっぱいになっているであろうこいつに追撃をかけるのは憚られた。

 

 ちなみに後ろからついてきている教師は歌姫には聞こえない程度の声量で笑っている。

 人の心とかないんか? やはり呪術師は頭が以下略。

 

 沈黙が続くにつれて羞恥で赤くなっていく歌姫。

 

 面白いからもう少し黙っていようかと思ったけど、そろそろ呪霊と出くわしそうなので打ち合わせしとこ。

 

「呪霊と接敵したらどうするよ」

「どうするって?」

「どっちが戦うのかって話」

「え、二人で戦うんじゃないの?」

 

 …まじで言ってる? 三級呪霊相手に二人がかりとか一瞬過ぎてやることないだろ。

 どうしたものかと思案していると、歌姫を笑う以外なにもしていなかった先生から指示が入った。

 

鐘推(かねおし)、まずは庵に戦わせなさい」

「ういっす」

「私だけですか!?」

 

 なにをビックリしてんだこいつ。術師は基本的に一人で戦うもんだろ?

 

「…分かりました。やります!」

 

 そう言って掌印を組んで何やら唱えだした。詳しくはわからんが神主さんとかが言う祝詞的なやつ。あ、呪詩っていうんだ。

 で、次はガラケーを取り出してメロディを流しながら舞を踊りだした。

 

 正直何やってんだコイツ状態だが、綺麗な舞なのでとりあえず黙って見ておく。

……ちょっと見惚れてしまった。歌姫のくせにやるじゃん。

 

 歌姫が舞を終えた瞬間に自身の纏う呪力に違和感を感じた。

 普段よりも呪力のめぐりが早くなった上に呪力総量も上がっている。

 それに歌姫から感じる呪力の総量も増えた。

 つまりこいつの術式は――

 

「バッファーか」

「そうよ。見直した?」

「いや、正直微妙」

「張っ倒すぞ!」

 

 ゲームならばバフの恩恵は大きいだろう。

 だがここは現実。普段と呪力操作の感覚が変わるのは困る。

 

「普通の術師と組むなら庵の術式は有用だぞ」 

 

 ここで教師からフォローが入る。ちゃんと教師してて偉いね先生。

 

「俺にとってはノイズっす」

「お前には二度と掛けてやらないからな!」

 

 ぜひそうしてくれ。あ、でも舞はまた見たいぞ。綺麗だったからな。

 それとな――

 

「歌姫」

「なによ!」

「来てるぞ」

「へ?」

 

 間抜けな声と共に振り返る歌姫。視線の先にはこちらに駆け寄ってくる呪霊。

 

 『ポ…テト…マタ…セ…コーラ…ノオキャク…シツレ…イ…シマァァァ!!!!!!』

 

 この雑居ビルってカラオケ屋が入ってたのね。

 なんて呑気に考えながら歌姫が動きやすいように少し距離をとる俺に反して、身構える歌姫。

 

 人型からは大きく逸脱はしていなさそうなので普段の訓練が生かせそうだ。

 転がされまくった成果を見せろ歌姫!

 

『カイインショウハオモチデスカァァッァァァ!』

「きゃ!」

 

 呪霊の大ぶりのパンチを腕で受けて大きく体勢を崩される歌姫。

 

 って、たった一合で押し負けてんじゃねぇよ!!

 ビビッて呪力の纏い方が半端になったせいでバフした分を生かせてねぇじゃん!

 

 大して広くもない廊下での遭遇戦となったので後ろにいる教師は俺たちが邪魔で満足に援護できないだろう。

 

 つまり俺がフォローしなきゃならんって事だ。

 なんなら先生ってば腕組みしたままで動く気配がない。

 最初から俺にフォローさせる気だったらしいと今気付いた。

 

 体勢を崩した歌姫の脇を抜けて呪霊の前に出る。

 

 「鐘推!?」

 

 驚く歌姫の声は無視して呪霊に蹴りをくれてやる。

 そしていつもどおり空間が歪み

 

 ――呪力が黒く光った――

 

 追撃するまでもなく一撃で弾け飛ぶ呪霊。

 

 まぁ、3級ならこんなもんだな。さて…

 

「鐘推! 今のってもしかして黒閃!? 私初めて見た!」

 

 俺にとっては見慣れた現象だが歌姫は初めて見たらしい。

 まるでテレビで見た有名人を街中で偶然見かけた女子高生みたいにテンションが上がっている。

 そういや、こいつも女子高生だからある意味正しいリアクションなのか。

 そう考えると珍しいものを見て興奮する気持ちは分からんでもないが、いつまでも座り込まれるのは困る。

 

「はいはい、お喋りはあとにしてさっさと立とうな」

「なによ、急かさなくてもいいでしょ。もう倒したんだし…」

 

 なーにを言ってんでしょうかねこの女子高生は。

 

「呪霊がアレ一匹とは限らないだろ。完全に探索を終えるまで気を抜くなよ」

「む…。それもそうね」

 

 一瞬だけ不服そうな顔をしたが、すぐに思い直して俺の差し出した手を掴んで立ち上がる歌姫。

 

 お前のそういう素直なところは好感が持てるよ。

まとも過ぎて呪術師に向いてる性格とは思えないけど。

 

 その後、ビル内をくまなく歩き回って他の呪霊が居ないことを確認して任務は終了。

 

 ビルの外に出て軽く反省会。と言っても歌姫がまだ力不足なのは先生も承知していたようで、その事については特に触れなかった。

 俺が呪霊を祓ったのを見て気を抜いた事を念入りに注意していた。

 

 俺?俺は完璧な仕事をしたのでむしろ褒められました。えっへん。

 

 手短に済まされた反省会のあと。

 先生と補助監督はこのまま別の任務に向かうとのことなので、俺と歌姫は現地解散となった。

 

 せめて駅までは乗っけて行ってくれませんかね?

 

 

「それじゃあ帰りましょっか」

「え、一緒に帰んの?」

「同じ場所に帰るのにわざわざ別れる必要ないでしょ」

「それもそうか。んじゃあ行くか」

「ん」

 

 ん、ってなんだよ。ちょっと可愛いのやめろ。

 

 さてさて、ここから駅まではわりかし近いが、高専までの電車での総移動時間は二時間弱はかかるかな。

 だが、テキトーに話を振っていればコイツ相手なら退屈しないだろう。

 

「あんたはどうして高専に来たの?」

 

 ここからだと2時間くらいかかるかしらねー。なんて言いながら話を振ってくる歌姫。

 

 こういう気を回せるところがコイツのいいところだな。弱っちいけど。

 

 そういえば、出会って1週間以上経つが、身の上話とかはしたこと無かったな。

 

「ガキの頃から呪霊祓ってたら中3の春頃にスカウトされた」

「あんた野良で呪術師やってたの?」

「一般家庭の出で伝手もなんもなかったからな。呪術師の存在もその時初めて知った」

「じゃあ呪力の使い方とかは独学なんだ」

「そうだな。子供の頃に呪力の存在に気付いて、漫画の主人公みたいな修行して遊んでるうちに覚えた」

 

 そういうと歌姫は小さく笑って。

 

「子供ねぇ」

「子供だったからね」

 

 改札前で切符を買うために一旦話は途切れた。

 

 ホームで電車を待っている間に今度は歌姫の入学経緯を粗方聞いたあと、さっきのオレの話に倣ってか子供の頃の話になった。

 

 へぇ、お前たまごっち派か。ちなみに俺はデジモン派だ。

 

 ちょうど話のキリの良い所でやってきた電車に乗り込む。

 

「そういえばあんたの名前ってどう書くの?」

「下の名前か? こう書いて(たかし)だ」

 

 書くものがなかったので、歌姫の手を取って掌に指文字で書いてやったら数秒のあいだ歌姫が動かなくなった。

 

 なんだ? と思っていたら無言で脛を蹴られた。

 呪力は纏っていなかったが普通に痛い。

 その蹴りは呪霊に食らわせてやれ。そうすりゃ勝ててたよ。

 

「乙女の手に勝手に触れるな」

 

 乙女て…。いや、まぁ乙女か。なんか釈然としないけど。

 

「さっきも握ったが?」

「さっき?」

「お前が黒閃見てはしゃいだあと」

「はしゃいでない。それにあれは立つのを手伝ってもらっただけ」

 

 さいですか。

 

「そうだ、黒閃。あれ凄かったわね。何回目?」

「何回目もなにも数えたことねぇよ。別に珍しくもねぇのに」

「は?珍しくない?何言ってんの?」

 

 あー、そういえば俺をスカウトした人と先生が言ってたな。

 

「黒閃なんて一生打てない人もざらにいるのに」

 

 黒閃って難しいらしい。

 俺からすればコーラを飲んだらゲップが出るってくらいには当たり前の現象なんだが。

 例えが汚い?すまんな。育ちが悪いもんで。

 

「練習すれば出来るだろ。俺も最初から出来た訳じゃないし」

「ホントにー?じゃあ今度練習付き合いなさいよ」

「あいよ」

 

 その後も話題は尽きず、乗り換えを経て高専の最寄り駅まで帰ってきた。

 

 思ったとおりコイツと喋っていたらあっという間だったな。

 打てば響くといえばいいのか、キャッチボールをするつもりでボールを投げたらバットで打ち返してくると言えばいいのか、とにかく退屈しない奴だ。

 

 

 

 歌姫と高専内の寮の前で別れたあと。

 シャワーを浴びて部屋着に着替えて早々に、自室のベッドにうつ伏せでダイブする。

 

 そうして俺は帰り道に歌姫に対して芽生えた気持ちをようやく処理するに至った。

 

 すぐには気付かなかった。

 自覚したのは電車に乗ってしばらくしてからだ。

 そこから俺は歌姫の前では平静を装っていたがもう目の前に歌姫はいない。

 そろそろ俺の素直な気持ちを表に出してもいいだろう。

 

 

 巫女服のコスプレしてる女と並んで歩くとか強制羞恥プレイすぎる!

 

 

 というか、あいつなんで平気なんだ?

 めっちゃ注目されてたし、なんなら指さしてくる奴もいたぞ。

 それなのに平然としてるどころか注目されている事に気付きすらしないのは控えめに言って頭がおかしい!

 

 前言を撤回するわ歌姫。お前呪術師向いてるよ。

 

 

 そして、これから先現地解散する度に羞恥に耐える事になるのかと思うと、俺は目の前が真っ暗になった。

 

 




え、冥冥さんが出てきてないじゃないかって?
対価が無いのに会えるわけないじゃないですか。

次回で報酬を貢ぐので冥冥推しの同志諸君はお待ちください。

実は今回の話、最初は任務の後で歌姫と映画を見る展開で書いていたのですが、どう書いても歌姫がヒロインにしか見えなかったので書き直して時間がかかりました。
バトルでロワイヤルな映画の振りはその名残です。
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