なぜソネットがいないのか、を補完しようとした内容です。
そっと手を添えてその頬を撫でると、ふわり、ふわりとしずくが浮き上がった。
瞼を遡るようにして天へ、それは流れ出る。
赤く透き通った脳漿が。
「ヴェルティ?」
そこまでのことを、ソネットはよく覚えていない。
ただ、雨粒のない屋根の下、ひとり、またひとりと消えていく中で、ふとヴェルティに視線を向けたとき。
彼女からなにかが宙へ立ち昇っていくのをみたとき。
駆け寄って、声をかけて……
ソネットは瞳孔と瞳が別々となって、白目からこぼれるのをみた。
頭蓋が輪切りになって浮かんでいく。
手を伸ばして、それに指先で触れると、まるで水に手を差し込んだように崩れる。
眼窩から、涙のように脳漿があふれ、浮かんでいく。
「ヴェルティ?」
気がついた時、ソネットは旧友のミスメル・Jrとともに病室にいた。
自分がどうしてここにいるのか尋ねたそのとき、彼女が酷く驚いた顔になって、それから……
1920年代、ストームは世界を終わらせることもなく終息した。
だが、時代の替わりに、一人の少女の記憶を消し去っていたのは、聖パブロフ財団でも一部の人間しか知らない事実であった。
ソネットはそのひとりとなった。
ヴェルティ。
穏やかで責任感が強く、計画性があって行動力もあり、そのうえで優しくて、凛としていて……
目の前に、見覚えのある少女が座っているのを、ソネットはみた。
彼女が、「あなたは?」と問いかけている。
誰に?
「わたし?」
不思議そうな表情に、ソネットは自らも、不思議そうな声をこぼした。
なぜ問いかけるのか。
いや、それよりも。
「あなたは」
世界が遠ざかっていく。
視界が急に狭くなって、頭が冷たくて、おかしいから触れようと思った。
なぜかお尻が痛い。
どうしてか遠ざかったヴェルティが驚いた様子で、心配そうな顔になって。
大丈夫ですよ、そう返そうと思って。
ふと息が苦しいことに気づいた。
彼女が近づく。
その顔をみた。
穏やかで責任感が強く、計画性があって行動力もあり、そのうえで優しくて、凛としていて……
まさに美そのもの。
あなたを知っている。
肺を振り絞り、声を出そうとして、耳がきぃんと鳴っていることに気が付いた。
なぜ?
何をいっているのか、聞き取れない。
ヴェルティ。
彼女が私に触れている。
言葉は伝わらないけれど、確かにその心が……
心。
私は遠ざかる視界の中で、彼女の顔をみた。
無垢で不安げな表情をみた。
「だれ?」
気がついた時、ソネットは旧友のミスメル・Jrとともに病室にいた。
自分がどうしてここにいるのか尋ねたそのとき、彼女が寂しそうな顔になって、それから……