ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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そういう癖

「一人足りないがよく来てくれた。七紅天全員による殺し合いをしてもらう。皇帝陛下の許可も得ている。仲良く殺し合おうじゃないか。弱い七紅天なんていらん。なあ? テラコマリ・ガンデスブラッド?」

「……は? なんて?」

 

 あまりにも唐突な殺伐としたスウェアの宣言に、後方に控えているヴィルヘイズに目線を送っても何も反応がなく、テラコマリは思わず聞き返した。

 

「七紅天闘争だ。フレーテから新入りの七紅天にはその資質がない。という話を聞いてな。良い機会だ、皇帝陛下の了承も得て七紅天の力を計ろうって話だ」

「なんと! 敬虔な信徒であるメモワール殿とガンデスブラッド殿が相応しくないと! 皇帝陛下のご子息と言えど聞き捨てなりませんぞ!」

 

 一番に異を唱えたのはヘルデウスで、スウェアからしたら少し予想外だったが、サクナはこういうことで反論出来るような性格ではなく俯いていて、テラコマリは困惑とショックで硬直しているだけだったので、都合が良い。

 

「七紅天とは武の象徴! 己の肉体を鍛え上げ、敵を滅ぼすことこそ宿命! それが戦果も上げない雑魚というのは話にならん!」

 

 第五部隊のオディロン・メタルが叫ぶ。どちらかと言うと否定派であるらしい。一番早く血濡れの間に来ていたのに、先程から何故かぐったりしていて一言も喋らない第四部隊のデルピュネーが不可解だが、開かない口を開かせるのも面倒だったスウェアはそのまま続ける。

 

「……その通り。ラッキーで七紅天に就任して、例のテロリストに暗殺された七紅天なんて、ムルナイトには必要ないだろ。もう片方に関しては……──」

 

  待っていましたと言わんばかりにフレーテが立ち上がる。

 

「自身の部下を制御出来ていないどころか、戦果を何一つ挙げない七紅天など、聞いたことがありませんわ」

 

 フレーテの言うことも尤もである。

 七紅天は戦功を立て、それが評価されて成る者だが、テラコマリはそうではない。

 父親のアルマンがカレンに多額の賄賂を渡して就任したため、それより前の三年間で何も活動していないのだから、事情を知らない者からすればテラコマリという存在は謎である。

 

「そ、それがどうした。私が……私が最強であることには変わりあるまい?」

 

 様子が普段と違い過ぎる故にスウェアにも事情があることはテラコマリも理解出来る。

 それでも、理想を押し付けるのは身勝手であるけれど、長い間自分の隣に居てくれた彼から否定されると胸が苦しくなる。

 

「その証拠がないという話をしているのです。逆に、貴女が帝立学院を中退していて、当時の成績も最低評価だったと、七紅天に相応しくない物的証拠はありますわね」

 

 七紅天達とカレンが囲んでいる円卓の中心にフレーテが一枚の紙を投げられた。

 当時のテラコマリの成績表。三年前のテラコマリの顔写真と各教科が最低値であることが記載されているそれを見れば、誰もが彼女は七紅天に相応しくないと思うだろう。

 

「──っ」

 

 テラコマリが息を飲む。

 自分がクソ雑魚吸血鬼であることがバレてしまえば、七紅天解任は免れない。そうなれば待っているのは爆死である。

 

「まぁ、ガンデスブラッド卿は大貴族ですものね。賄賂を積んで人気者にでもなりたかったのでしょうが……浅ましいことこの上ないですわね」

「違う……」

「下品なグッズを大量生産してアイドルの真似事までしていますものね。人気者になってちやほやされたかっただけの小娘が──」

「そのくらいにしておけ」

 

 弱々しく否定するテラコマリをよそにフレーテの詰りが続くがそれを止めたのは、欠席している第一部隊の七紅天の席に座っているカレンだった。

 

「か、カレン様……」

「コマリがどうあれ、今回の七紅天闘争は決定事項だ。今さらごちゃごちゃと詰るよりか君も実力で示してみたらどうだ? 全員それで良いな? 今日は解散だ」

 

 カレンがそう言えば拒否する者は出て来ず、お開きとなった。

 

「……デル、行きますわよ」

「……」

「デル……?」

 

 各々解散する中、フレーテがデルピュネーに声を掛けても返事がなく、不審に思って肩を揺すって見ると、岩の様に固くなっていた。

 

「し、死んでる……!?」

 

 多数決になった場合、一人でも頭数を減らしておくためにヴィルヘイズが毒殺したのだが、多数決にならなかったので結果的に無意味に殺されたことになる。遺体は安置所に運ばれることになったが、その後誰が殺したかという話で二時間程揉めることになったが、それはまた別の話である。

 

「疲れた……」

 

 血濡れの間に残ったスウェアはテラコマリが座っていた椅子に座って項垂れていた。

 

「いやぁ、滑稽だったな。好いている娘を目の前でバカにされて我慢している姿は実に滑稽だった。どんな気分だったか朕にだけ教えてくれないか?」

「……黙ってろ」

「釣れんなぁ。まぁ、良い。で、お前は参加するんだろう? 誰が黒だと思っているんだ?」

 

 会議中最後にテラコマリを庇った以外にカレンが黙っていたのは、スウェアの様子が余りにもおかしくて、笑いそうになったのを抑えていたからである。

 

「分からない。分からないから、全員ぶっ殺す」

 

 七紅天闘争の目的はサクナ以外に七紅天に逆さ月が居るかどうかを炙り出すことが目的で、会議そのものにあまり意味はない。

 確定で白と言えるのは、テラコマリとカレンに対して忠誠心の高いフレーテくらいで、他の七紅天は何とも言えなかった。

 

「朕の息子とは言え乱暴だな……因みに朕の下着も今日は黒だ」

「知らねぇよ! 義理とは言え母親の下着の色なんてどうでもいい! てか、知りたくねぇ!」

「ちょっとしたムルナイトジョークさ」

 

 好みではない女の下着の色など知っても、何も嬉しくはない。

 逆に好みの相手だからと言って嬉しいかと言うとそうでもない。

 

「それはそうと、一つ伝えておくことがあったな」

「わざわざなんだよ。くだらないことじゃないだろうな?」

「君の妹が神聖教の教会のシスターになったそうだ」

「は? 妹?」

 

 幼い頃に養子に取られたスウェアは自分の妹の存在は知らなかった。

 カレンが男を作る気もなく、同性同士で子供を作る技術があるとも聞いたことがなく、また別の養子でも作ったかあるいは、と思ってしまう。

 

「え、何? ホムンクルスとかそういうタイプの禁忌……?」

「馬鹿か。君の実親の子だ」

「いや……妹とか初耳なんだが」

 

 三年間妹みたいな存在の世話をしていたことは確かだが、実の妹は知らない存在過ぎた。

 実の両親とは会わないようにしていて、平穏に暮らしているという話だけは耳に入れていた。

 

「そろそろ学院にも入れる年齢だが、生まれつき目が見えないらしくてな。色々あって神聖教の信者になったそうだ」

「……それで俺にどうしろと」

「会ってやったらどうだ? 向こうは君のことを知らせてはいないらしいが、会う分には自由にしていいとのことだ」

 

 今さら兄妹とか、家族とか、そんなものに執着はしない。

 ただでさえ、今現在の養母と互いに利用し合うビジネス家族をしている状態で家族というものに興味は持てなかった。

 

「会ったってしょうがないだろ」

「そうか。君がそう言うなら朕もとやかく言わんよ」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(……何か乗っかられてる……?)

 

 その日の夜。スウェアが自宅で寝ていると重たい物に乗っかられている感触がして目が覚めた。

 

「……起きましたね。ちょっとお話しませんか?」

 

 目を開けると、目を紅く染めて烈核解放を発動させた状態で抜き手を構えているサクナの姿があった。

 その姿を認識して、美少女に夜這いされていると錯覚したり、色々思うところが無いわけではなかったが、冷静に命の危機を感じた。

 

「脅しにしては不法侵入と恐喝とかえげつないことするな……」

「早くしてください。本当に殺しちゃい(お兄さんにし)ますよ」

 

 理屈は理解出来るが殺害宣告としては、真顔のサクナが物凄いルビの振り方をしていた。

 サクナにマウントポジションから退いてもらい、明かりをともして、二人でテーブルを囲う。

 

「……で、話って何?」

「七紅天闘争のことです。どうするつもりなんですか?」

「サクナ。本当に今のままで良いと思ってるか?」

 

 質問に質問を返してしまったが、サクナがどうしたいかで、どうするつもりなのかも変わってくるため、問わなければならなかった。

 

「……私はもう家族を失いたくありません。それだけは絶対に変わりません」

「そっか……」

「だから、七紅天闘争でコマリさんをお姉ちゃんにします」

 

 サクナにも考える時間はあった。それでも、考えは変わらないと、それならそれでスウェアもやることは決まった。

 

「じゃあ、やっぱり俺も全力でサクナにそういうことをやらせようとする奴を殴りに行く。そんだけ」

「……どうして、そう思えるんですか?」

「……俺さ。妹が居るらしいんだ。らしいっていうのも今日知ったばっかりで、向こうも知らないらしいんだけどさ。兄としての自覚もないし、会っても分からないんだろうけどさ。

 それでも会った時に、向こうが俺が兄だって知った時に胸張れるようにしておきたいじゃん」

 

 家族という定義は人によって違う。

 妹という存在が今のスウェアからして、誰が一番近しい存在かと考えた時に思い浮かべたのが、テラコマリだった。

 別に妹に恋愛感情を持っている訳ではない。

 だけど、世話を焼いて、健やか生きていてほしいと思うものが、妹だと言うのなら、そう思った。

 

「……カッコつけたくて私を助けるって言うんですか?」

「カッコいい方が良いじゃん。ていうのは置いといて、前も言ったけど、困ってる子が居るんだから助けるよ」

 

 何か複雑そうな表情をしているサクナが最後に試しておきたいことがあった。

 

「……立って、後ろ向いてください」

「え、あ、うん」

 

 全く警戒していない訳でもないが、無防備に背中を向けるスウェアに、サクナは一種の呆れのような感情湧いてきたのと同時に、少しだけヴィルヘイズが言っていたバカな人と言う意味が分かった気がして、頭をスウェアの背中につけて寄りかかる。

 

「……サクナ?」

 

 背中から蒼玉種特有の低体温を感じたスウェアはサクナに何をしでかされるのか不安になる。

 

「……その妹さん会ってあげてください。きっと喜ぶ筈です」

「それは──」 

 

 どういう意味? と聞こうとしたスウェアが振り返るとそこにはサクナの姿はなかった。




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