主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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やりやがった!!マジかよあの野郎ッ やりやがったッ!!

 

「怪我は治ったみたいだな、シド」

「そういうヒロも、もう大丈夫なんだ」

「魔剣士だからな」

「魔剣士だからか」

「いや魔剣士をなんだと思ってるんですか二人は」

 

 

なんてやりとりも、もう昨日の出来事。

ギプスや包帯とお別れした俺達は、いつも通り変わらぬ日々を送っていた。

 

いや、一つ訂正。今日は生徒会選挙関係のイベントがあるから授業が早めに終わって、束の間の自由時間を謳歌していた。

手の中でスライムを動かし、望む形、色、質感にする鍛錬を密かに行いながら、シド達の雑談を聞く。

 

「そういや、今日は三年生がどこにもいなかったな」

「なんでも課外授業があるらしいですよ」

「ふーん」

 

三年生が居ない、か。

ま、どうでも良いな。

 

……あ、ローズ生徒会長が入ってきた。

多分一緒にいる女子が生徒会の役員に立候補した子かな?

 

俺も生徒会でラブコメやら頭脳戦やらを繰り広げる系主人公になるべく、生徒会長になった事がある身。応援するぜ、女子A!

 

 

 

「あれ?」

「ん?」

 

女子Aの話を聞いて幾ばくか、突如俺の手の中のスライムがドロリと崩れた。

同時に俺が常に制御訓練として体内で圧縮と爆発を繰り返している魔力も、動きが阻害される。というか吸われる。

シドも同じ感覚を覚えたようで、こちらに視線を向けてきた。

 

俺達以外に気づいている人は居ない、か。

―――ッ、気配!

 

「「来る……ッ!」」

 

シドと俺が同時に呟く。

そして、次の瞬間。

 

ドゴシャァ!!

 

ドアが破壊され、黒一色の衣装に身を包んだ男が姿を現す。手には抜き身の剣。

気の狂った生徒、というには少々年を取り過ぎていると思われるが………まさか!?

 

「全員動くなッ!我らはシャドウガーデン、この学園は我々が占拠する!」

「無駄な抵抗はせず、両手を頭の後ろで組め!」

 

 

 

きっ………キターッ!!!!

 

こ、こここっ、これは!俺が、全宇宙の男達が一度は夢想した()()だッ!!!

 

 

学校がテロリストに占拠されるヤツだァアアア!!!!

 

 

俺とシドが外人4コマが如きポーズで喜ぶ中、生徒達は突然のテロリストに大騒ぎし始め、ローズ会長が険しい表情で冷静に剣を抜いた。

 

「ここがどういう場所かわかっていないようですね」

「わかっていないのはお前だ。大人しく武器を捨てろ」

「お断りします。それに、ここは魔剣士学園。そう易々と占拠できると思わない事です」

 

会長が武器を構え、魔力を放出する―――が、すぐに霧散する。

魔力が奪われたような感覚にローズ会長が驚愕と困惑に叫んだ。

 

「な、何故魔力が……!?」

「今頃気づいても遅い。ここで一人、見せしめだ……!」

 

黒服の男が上段に構える。そしてすぐさま刃が振り下ろされるが、彼女が斬られるよりも前に、必死の形相で駆け出したシドが割って入る。

 

「やめろォオオオ!!!」

 

ローズ会長を押し飛ばし、凶刃をその身に受ける。

飛び散る鮮血が、致命傷であることを視覚的に伝えてくる。

 

……そうだよな。最初に殺されるのはモブAの役目。お前はシド・カゲノーとしてやるべきことを成したんだ。

 

 

じゃあ次は俺の番だろ!

 

 

「―――ッ!!テメェ、良くもシドを!!」

 

怒りで前が見えなくなったように見せかけて、シドを斬った男へ接近。

また一人バカが来たと言わんばかりに構えるその男に、俺は流れるような動作で武装解除を行う。

 

銃を奪い取るのと同じ要領だ。人体の構造上どうしても力が込めにくい向きを狙って手から剣を落とさせる。

 

「何!?」

 

驚き後ずさった黒服を、ヤツ自身の剣を顎下から頭頂部にかけて貫通させて殺す。

死体を突き飛ばして背後の仲間を怯ませると同時、シドを案ずるようにしゃがみ込む。

 

「おいっ、シド!しっかりしろ!おい!」

「……彼は、もう……っ」

 

ローズ会長が涙ながらに俺の肩を掴む。

俺は受け入れがたい現実に唇を噛み締め、俯いた。

 

 

………そして。

 

 

「ガキが、調子に乗りやがって!

「っ、会長、下がって!」

 

涙を拭い立ち上がり、会長を突き飛ばして()()()()()()()()()()()()構える。

きっと何も知らない生徒達やテロリスト達には、シドという友人を失った悲しみで動きが鈍ったように見えた事だろう。

 

当然、振り下ろされる刃に対応することはできない。

奇しくもシドと同じように、肩口から脇腹下辺りにかけて袈裟斬りにされる。

 

「がっ!?……ぐふっ」

 

受け身も取らずに倒れ、目を開いたまま意識を落とす。

 

周りの音が遠くなっていく中、俺はいつになく満ち足りた気持ちを味わっていた。

 

『友人を殺された怒りで暴走し一時は敵を追いつめるも、我を失った状態ではやはり太刀打ちできずやられ、悔しさに打ち震える』という王道中の王道なイベント。

 

あぁ、やれて良かった……ッ!!

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

教室から人の気配が消えたところで、俺はノソノソと体を起こす。

傷口は、うん、致命傷だな。まぁこの程度魔力があればすぐにでも……あっ、魔力使えないんだっけ。

 

「吸われてる感じだけど―――よし。細く加工すれば問題なさそうだな」

 

魔力を糸のように細くして傷口を縫い、一先ず止血を行う。

完全な治癒をするには、普段通り魔力が使えるようにならないと難しいが……多分この感覚的に、魔力が吸われないくらい強固に練れば大丈夫そうだ。

 

「見た感じ俺達死亡組を除く全校生徒が講堂に集められてるな。制圧の仕方から何まで手慣れてる……俺らの名前を勝手に使ってたし、教団で間違いなさそうだな」

「ぶはぁっ!!」

「あ、起きた?」

 

マジで心停止していたシドが自力で復活する。

魔力で血流操作してたっぽいし下手に触る方が不味いかと思って放置してたが、正解だったようだ。

 

俺と同じように魔力を加工して傷口を塞いだシドは、俺の隣に立って窓の外を見る。

 

「うーん、良いねこの手慣れてる感じ。こういうイベントでテロリスト側を楽しむなんて中々の玄人だ」

「文句があるとすりゃあの格好だな」

「全くだ。動きとか台詞回しは文句なしなのに、あの格好―――」

 

「「美的センスに欠ける!」」

 

「TPOを弁えないクソダサファッション、これはいただけないなぁ」

「昼間に行動しなきゃいけない理由があるなら、それに合った服を着ろって話だよな」

「ほんとだよ。仕方ない、これは夜までじっくり作戦だな」

「シャドウが登場するには明るすぎるしな。俺も『瀕死の重傷から復活して反撃するムーブ』をするには時間が必要だし」

「復活までの()が大事なんだよね」

「そうそう」

 

そんな話をしながら、俺達の足は自然と屋上に向かう。

 

なぜって?そりゃこんな状況、屋上から意味ありげに大局を俯瞰するムーブをするしか無いからさ!

……暇だしね。

 

 

道中巡回するテロリスト達を殺しながら屋上に到着した俺達は、風に制服の裾をなびかせながら学園を見下ろす。

そこそこの人数殺したはずだが、テロリストの数はさほど減ったように見えない。

 

「いいね、この感じ」

「だな。暇だし、()()()()()()()()()()でもやりながらこの後のシナリオ談義でもするか」

「そうだね。あ、そうだ。意見が分かれたら点数高かった方に従うって事でどうかな?」

「良いな。ただ生憎、負ける気はねぇぜ」

「いいや、勝つのは僕だよ」

 

互いに手の中でスライムを整形し、簡易的な銃(というよりもパチンコとか弓矢のイメージ)にして、テロリストを狙い撃つ。

傷は移動中に治しておいたので、魔力も使い放題だ。

 

「おっ、ヘッドショット成功。追加10点な」

「後からルール追加はズルくない?」

「はははっ、ほらコレで30点!」

「あ、じゃあ一発で複数人倒したら人数に応じて追加10点ね」

「お前今ラッキーでダブルキルしたからってそれはずるいだろ!」

「お、まさかのクアッドキル。40点ゲットだ」

「はぁっ!?」

 

スライム弾が屋内、屋外を問わずテロリストを射殺し、俺達はその都度点数を声高に宣言する。

俺もシドも負けず嫌いなのだ。だからこうしてミニゲームやら何やらで競い合う時、毎回こうなる。

 

しばらくそうやって遊んでいると、屋内にテロリストとは違う、ピンク色の影が見えた。

俺もシドも同時に手を止め、そちらを凝視する。

 

「あれ、シェリーだね」

「なんでグレン副団長とかマルコさんとかと一緒に居ないんだろ」

「死んだんじゃ無いの?」

「いやぁ…………まぁ、魔力が使えなきゃそんなモンか」

 

テロリストは仮にもディアボロス教団。もしかしたらチルドレン1stなんかがいるかもしれない。

仮に居たとしたらシェリーみたいなネームドを襲うはずだし……副団長達、貧乏くじを引かされたな。

 

「テロリストに襲撃された学園で、一人奔走するネームド……メインシナリオってやつだね」

「確かあの子、アーティファクトが云々って言ってたよな……多分この魔力が使えない状況もアーティファクトのせいだろうし、もしかしなくてもあの子が物語の鍵を握る……」

 

俺の頭の中で状況が整理され、主人公的直感が最適解を導き出す。

 

「……コレ、劇場版ストーリーってヤツだ」

「劇場版?」

「そう。本編ストーリーの主人公ではなく、劇場版限定のキャラがメインの活躍をする……ほら、あの子って要介護ヒロインだろ?」

「今まさに僕達の狙撃で助けられたね」

「あれは本編主人公が協力する事で話が進む何よりの証拠だ。そしてあの子がメインになってこの異常事態を解決し、最後には主人公と劇場版ボスの派手な一騎打ち……」

「なるほど……!でも、そしたら陰の実力者の出番が無いんじゃない?」

「そこはほら、ラスボスよりも強いかも知れない強敵を前に足踏みしちゃう主人公の前に颯爽と現れてさ」

「陰の実力者は劇場版でも圧倒的な実力を見せつける……!」

「専用BGMと一緒にな。ただ……」

 

劇場版限定のキーパーソンが女の場合、劇場版ストーリーにおけるヒロイン枠という事になる。

が、シェリーは確か、シドとの間に分かりやすくフラグが建っていたはず………。

 

「だぁっ、またかよ畜生!!」

「え、なにどうしたの?」

 

シドお前、俺より主人公しすぎだろ!!

 

怒りと悲しみとが入り混じり、俺は崩れ落ちるように地面に手と膝をついた。

 

落ち着け。紅の騎士団に入るなんて主人公ムーブをしたんだぞ、俺。アレクシアの時とは違う。一度主人公ムーブを決めた、心の余裕を見せてやれ。

 

必死のアンガーマネジメントにより素早く冷静さを取り戻した俺は、大きく息を吐きだして立ち上がる。

何事も無かったかのように、クールにな。

 

「……よし、取り敢えずシェリーと合流しよう。ストーリーに参入しない限り何も始まらない」

「それは良いけど……どうしたの?」

 

うるさい、何も聞かずテメェもついてきやがれ。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

「色々と言いたい事がある」

 

珍しくイライラした様子のシドが、床に座って俯いているシェリーに向かって人差し指を立てる。

俺も同意するように頷いて、ため息交じりに口を開いた。

 

「考え事をしながら歩くのは止めましょうとか」

「隠密行動中の独り言はしないようにしましょうとか」

「足元に注意しましょうとか」

「碌に安全確認しないでズンズン前に進むのは止めましょうとか」

 

「「そして何よりも、そのペタペタうるさいスリッパ、脱ごうか」」

 

「……は、はい……」

 

 

シューティングゲーム中もそうだったが、彼女はなんというか、酷かった。

具体的に何が酷かったのかは今俺達が言った通りなのだが、ほんっと……うん。もう何も言うまい。

 

顔を真っ赤にして縮こまったシェリーは、いそいそとスリッパを脱いで立ち上がる。

 

「あ、あの。お二人とも、怪我は……」

「あー、大丈夫」

「治ってるから」

「えぇっ、そんな血塗れなのに!?」

 

声を荒げるシェリー。敵はシューティングゲームでかなり狩ったつもりだったがまだ居たらしい。こちらへ誰かが向かってくる音が聞えてきた。

 

俺とシドはもはやシェリーを半眼で睨むとか溜息を吐くとかの域を通り越して、顔を見合わせた。

 

(ここはどうぞ)

(介護は任せた)

 

「ほら、行くよ」

「あっ、はい。―――え、ヒロ君は?」

「少し時間稼ぎでもしようかなって。すぐ追いつくから大丈夫。因みにどこに向かう予定なの?」

「副学長室ですけど……だ、ダメですよ、一緒に逃げなきゃ」

「大丈夫。ヒロは強いから」

「シド君……?」

 

引きずられるようにして遠くへ去って行くシェリーに、俺はにこやかに手を振る。

こういう安心させるパフォーマンスも、主人公ポイントだ。

 

 

―――普通、こういうのって俺がシェリーと一緒に逃げるものなんじゃないかって?

 

本当ならその予定だったけど、シェリーのハートも例の如くシドが射止めてしまっている以上、彼女を俺のヒロインとして扱う事は不可能だ。

だから逆転の発想。シドも劇場版限定キャラ枠として考える事にした。

劇場版限定キャラ同士の恋愛なら本編主人公たる俺が蚊帳の外でも問題無いし、こういうシーンも寧ろ主人公らしい。

 

限定キャラ二人が逃げる時間をかっこよく稼ぎ、逃げた二人は死んだと思いつつも余裕の生還。当然視聴者は「コイツがこの程度で死ぬわけないじゃん」と後方腕組み保護者面。

 

これだ、これがベストアンサー。

 

 

当然、シドにそのままこれを言ってしまえば「モブじゃ無いじゃん」とか言われてごねられるのは確実。

アイツにはそれっぽく「シェリーと一緒に行動しておかないと細かいストーリーが決めにくい」とか「逃げる方がモブらしい」とか言って言う事を聞かせている。

 

普段はもう少しアイツの意見も尊重するんだけどな。今回は、うん。

 

―――またしても俺から主人公らしい要素奪ってくれやがったからなァ!!

 

 

「探したぜ、アーティファク……あん?誰だテメェ」

 

曲がり角から姿を現したのは、目つきの悪い、バンダナを付けた男。

テロリストの仲間だろうが、腰に二本武器を携えていたり服装が目立つような赤色だったりと、有象無象のテロリストとはどうも違うようだ。

 

……まさかボスキャラ?いやいや、ボスキャラが出歩くワケ―――まさか、これ本編の陰の実力者が颯爽と解決する系イベント!?

 

「確かにあのガキの声が聞えて来たはずなんだがなァ。なんで血塗れのガキがこんな所に………アァ、なるほど。テメェ報告にあった、魔力も無しに一人殺したガキか。殺したって聞いたんだが、生きてたか」

「……だとしたら?」

「別にそれについてどうこう言うつもりはねェな。―――だがテメェをひっ捕らえて色々聞く必要があンだよ。悪ィが捕まってくれや」

 

魔力を纏いつつ飛び掛かって来る男。

剣とも何とも言えない武器を使っているが、太刀筋はまぁまぁ綺麗だ。

 

ただ乱暴だな、あまり褒められたモンでもねー……ってかそんな場合じゃねぇ。コイツをどうするか決めねば。

 

手で攻撃をするりと逸らし、鳩尾あたりを蹴り飛ばす。

魔力なんて無くても大人の男一人くらい、十数メートルは吹っ飛ばせる。

 

 

その間に……うーん、やっぱりシドに譲るのがベストか?いやいや、反撃フェーズでわざわざ逃げるのは主人公としてちょっと情けないというか……シドが運よくここに来てくれるとかだったらカッコよく譲れるのに、呼びに行かなきゃアイツがここまで戻ってこなさそうなのがなぁ。

 

仕方ないし俺が倒すか?―――っと、元気良いなあの人、すぐ戻って来た。

 

「ぐっ、がぁっ、クッソッ!なんで当たんねぇんだよォッ!!」

「大振りだしフェイント全く無いし、殺気も全然隠せてなくってわかりやすいからかな」

「舐めんなァアアアアアアッ!!!」

 

相手は二刀流(?)だが、俺は左手だけで難なく対応できている。この男、剣の振るい方までは結構良い所行ってるのに他がダメダメ過ぎるな。

 

……この程度ならアイツの為に取っておく必要も無さげだし、やっぱ俺が殺すか。

 

微かに力の込め方を変える事で膠着状態を崩し、男の体を仰け反らせる。

無防備になる時間は最大で一秒程度だろう。だがそれで充分だ。

 

「この一撃、ただ心の臓を穿つのみ―――!!」

 

一秒未満で決め台詞を告げ、男の無防備な心臓部を狙って拳を振るう。

ただ殴りつけるだけではない。衝撃を内側へ伝える一撃―――発勁をメインに、その他様々な技術を組み込んだ、内臓を的確に破壊する()()()()()()()()()()

 

抉り穿つような一撃に、男は激しく吐血して吹っ飛ぶ。

心臓を穿つのみとか言ったが内臓のほぼ全部が破裂したはずなのでじきに死ぬだろう。一応死体を確認して、俺も副学長室に向かうとするかな。

 

のんびりと男が吹っ飛んで行った方へ向かい、そしてすぐに副学長室へ向かうルートを歩き出す。

 

 

……あの技、人に使うの初めてだったけど、エグいな。

正統派主人公的には封印一択だな、と思うくらいには酷い死に様だった。

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