主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
「おかえりー」
「たでーま」
副学長室に入ると、シドが呑気に片手を上げて挨拶してくる。
仮にもテロリスト襲撃事件発生中なんだから緊張感……無理だな。俺もさほど緊張感無いし、シェリーも癒しオーラ振り撒いてるし。
「ヒロ君!無事だったんですね!」
「あんまり強い相手でも無かったから。ほら、魔力を封じなきゃ子供も捕まえられない連中だし」
「で、でも……あの、私を最初に襲ってきた人が、凄く強かったんです。私の護衛をしてくださっていた騎士団の方も、殺されて……」
「グレン副団長達なら生きてるよ?」
「えぇっ!?」
副学長室へ向かう道中、思い出したのでグレン副団長達の死体を確認しに行った。そしたらなんと、二人ともギリギリ生きていたのだ。
グレン副団長の方はもう数分遅れれば間に合わなかっただろうが、傷も塞いで血液も補充してあげたから今はすっかり元気(と言っても気絶しっぱなしだけど)だ。
まだその場に寝かせて放置してあるけど、後で学園前に来ている騎士団の人達に渡してきちんとした治療を受けてもらうつもりだ。
「応急処置が間に合ったから。今はその場に放置しちゃってるけど……まぁ、この後
「ついで、って……」
「ソレ。今君が持ってるアーティファクトが重要なんでしょ?大事そうに持ち歩いてたし。多分それの調整かなんかやってるんじゃ無いかって思って」
物語の展開的に。
「副学長室に調整用の道具が揃ってるとも思えないし、君が持ち歩いてる様子もないし、取りに行くイベ―――んんっ。取りに行く事になるだろうなって思ったんだけど。違った?」
「……す、すごいです!その通りです!ヒロ君、アーティファクトの造詣が深いんですか!?」
「え、いやぁ?」
あくまで物語的に捉えたらコレがあるあるかなぁと思っただけなんだけど。まさかここまで綺麗にシナリオを言い当ててしまうとは……未来予知系主人公、ありかもな。
「ヒロ君の言う通り、このアーティファクトがこの状況を変える手段なんです。……今、この学園で魔力が使えないのは強欲の瞳というアーティファクトのせいで間違いありません。強欲の瞳には魔力を吸収して、溜め込む性質があるんです。その影響で魔力の使用が阻害されているんだと思います」
「テロリスト達は普通に魔力を使えてたけど」
「あらかじめ波長を覚えさせた魔力は吸収しない性質があるんです」
「それって対処法とかあるの?」
「恐らく、感知できない微細な魔力や吸い上げられない程強固に錬成された魔力……勿論、許容量を超えた魔力も吸われないでしょうけど……この時代にそんな事ができる人間がいるはずもありません。ここは、やはり強欲の瞳を無力化する方向で行かないと」
……まぁ、今回は必要な時以外は魔力を縛って行動する予定だし良いけどね。
せっかく相手が用意したギミックをガン無視は、無粋だし。
「強欲の瞳は魔力を一定量吸収すると、溜め込んだ魔力を解放してしまいます。魔力を長期保存することが出来ないんです」
「爆発するってことか」
「はい。ですが、その欠陥もこのアーティファクトと組み合わせる事で無くすことができます」
「ははぁ、制御装置ってヤツ?」
「その通りです。強欲の瞳とこのアーティファクトは二つ一組……組み合わせれば魔力の安定した長期保存も、魔力吸収の効果停止も可能なはず」
「じゃあ僕達のミッションは、強欲の瞳が爆発するまでに制御装置を完成させて、魔力を使える状態を取り戻す……って事ね」
某探偵漫画も劇場版だと爆弾の話が定番だし、やっぱりコレは劇場版ストーリーという体で進めるのが最適解だな。
俺達が改めて目的を確認すると、シェリーは俺の方を向いて、
「解読自体は既に終わっているので、ヒロ君には最終調整に必要な道具を取ってきて貰いたいのですが……」
「任せといて。これでも紅の騎士団の一員だし。腕には自信あるんだ。あぁ、ただ色々やる事あるから、到着は遅れるかも」
「ひ、ヒロ君も騎士団の!?だからお強いんですね……はい。多少の遅れくらいなら問題ありません。私も道具が揃い次第すぐに調整できるように、資料の再確認をして待っていますので!」
むん!と拳を握るシェリー。なんだこのかわいいいきもの。
「シドはどうする?」
「ついてこうかな」
「し、シド君は危険なんじゃ……」
「大丈夫大丈夫、トイレ行きたかったしついでだよついで」
「……なら、良いですけど……」
その説明で良いの?マジで?
いってらっしゃいと手を振るシェリーに手を振り返し、俺達は部屋を出る。
……さ、クライマックスへ向けて、俺も最終調整だ。
★★★★★
まずは保健室で包帯を巻く。自力で手当てしました感を出す事で、復活のご都合主義感を無くすのだ。
だが制服は着替えない。血塗れで斬り裂かれている服を着ている方が「ぽい」からだ。
「悪いな、俺一人で運べば良いものを」
「いえ、お気になさらず」
シドに道具探しを任せ、俺は何故か研究室にいたニューと一緒に、二人を運んでいた。
俺がマルコさんを持ち、ニューがグレン副団長を担いでいる。
副団長の方が重そうなのになぜ彼女にそちらを任せているのかというと、マルコさんと彼女に因縁があるからだ。
なんでも魔力暴走……悪魔憑きになる前は、マルコさんとニューが許嫁の関係にあったという話。
そりゃニューに運ばせるわけにはいかないよねって事で、最初は二人とも俺が担ぐ予定だったのだが、そういうわけにはいかないという彼女の必死の頼みにより、この形に落ち着いた。
「遅くなりましたがご報告を。現在、シャドウガーデンは学園を包囲中。指示があればすぐにでも突入可能です」
「魔力も使えないのに?スーツの維持だけで精一杯だと思うけど」
「恐らく本来の半分程度動ければ良い方でしょう。普段通り動けるとすれば七陰の皆様でしょうが……現在王都に居るのはガンマ様のみで、その……」
「あの運動音痴を戦わせるのは気が引ける、か」
「う………わ、私も良くて六割程度、出せて半分程度しか動けませんので」
「別に無理にカバーしてやる必要は無いよ。適材適所だ。ガンマに戦闘を期待するつもりは無いけど、頭脳はアイツが一番だし」
黙り込むニュー。
彼女の直接の上司はガンマらしいし、色々思うところがあるのだろう。
「っていうか自信ないなら全員
相手は仮にもディアボロス教団。俺たち基準だと雑魚しかいないイメージだが、ニュー達、それも普段通りの実力が発揮できない彼女達では最悪殺される危険性すらある。
しかしニューは何を勘違いしたのか、妙に慌てた様子で声を荒げた。
「っ、も、問題ありません!!我ら一同、御二方の足を引っ張るような真似は絶対に致しません!」
「今までの
本物の教団と遭遇しても戦えたのは、彼女達にシド式の魔力操作やスライムスーツがあったからだ。それを封じられた今、彼女達に出来ることは数を活かす事くらいだろう。それも何人いるのかわからんけど。
俺の教えた戦闘技能が完璧なら魔力無しでも全然活躍できるはずなんだけど、生憎七陰含め合格基準を満たしているヤツは居ない。
なんか別枠みたいな扱いをされているアルファを除いた場合、デルタが一番強い時点でお察しなのだ。
あんな暴れるだけの戦い方に、前世のあらゆる戦闘術を組み合わせて完成させた『俺の技』が負ける筈がないし。
いや、人それぞれ自分に合った戦い方とかあるし、無理に強要するつもりも無いんだけどね?やっぱり単純な暴力に一歩劣る程度じゃ話にならないかなって。
ニューの足が止まり、グレン副団長がドサッと落とされる。
副団長ォオオオ!!
「……確かに、私達では力不足かもしれません。ですがあの日言った通り、私は、私達は大義の為、御二方の為であればいつでも命を差し出す覚悟があります!ですのでどうか、どうか私達に、挽回のチャンスを……!!」
冷静さを装おうとしているが、震えも縋るような瞳も隠せていない。
いや、そういう
……これ、何言ってもダメなヤツだ。ディアボロス教団は実在しますよ〜、与太話じゃありませんよ〜と教えても、話を聞いてくれなさそうな匂いがする。
仕方ない。万が一の時は俺が守ってやりゃ良いか。最悪、自己責任って事で。
「……はぁ。好きにしなよ」
「っ、ありがとうございます!!」
「それより、副団長大丈夫?死んだらアイリス王女の面目に関わるんだけど」
なんでもグレン副団長は名のある騎士だったようで、無理に引き抜いた事に対してお貴族様だのなんだのがアイリス王女に陰口悪口のオンパレードらしい。
そんな折にみすみす死なせましたなんて話を出したら、きっと連中は水を得た魚のようにアイリス王女を非難するだろう。
その結果、万が一にも騎士団の存続が危うくなったら。俺のせっかくの主人公感が薄れてしまう。
ただでさえ最近のアイリス王女はお疲れ気味なのに、ここでさらに上乗せして仲間の死、更なる非難なんて浴びたら……おぉ~、恐ろしっ。
「脈も呼吸も問題ありません」
「そう?なら良いけど」
★★★★★
(……まさか、あんなミスを犯してしまうなんて)
アイリスと話しているヒロをひっそりと見つめながら、ニューは胸中で呟く。
グレンをニューから受け取り、自分一人で連れて来ましたと言うように門の外へ出ていったヒロは、瀕死の彼らをなんとか救出した事、現在人質は講堂に集められている事、敵はシャドウガーデンと名乗っていたが、
そして血塗れの彼を案ずるアイリスに、自分はまだ大丈夫なのでもう一度学園に戻るつもりだと報告し、それが原因で言い争いのような状況に陥っていた。
「認められません!!そんな傷だらけの貴方を、魔力も使えないのに一人で突入させるなんて……!!」
「ですが、このまま外で待っていてもどうしようもありません。先程報告した通り、シェリー・バーネットが魔力阻害を解消するアーティファクトの調整を行なっています。彼女一人では厳しいとの事ですし、俺が協力しなければなりません」
「ですがっ……それでしたら、私達も突入すれば良い!」
「いえ。魔力が使えない今、人数を増やそうと何も変わりません。隠れて行動する必要がある以上、寧ろ人数が増える方がマイナスです」
「なら貴方の代わりに私が」
「仮に姿を見られた場合、『偶々生き残った学生』と『侵入できないはずのアイリス王女』なら後者の方が確実に敵の警戒度を引き上げます、最悪の場合、焦りから人質の殺傷を行う可能性もあります」
「……私が侵入できている時点で、騎士団の侵入も確定したものだと相手は考える。それは他の騎士団員でも同じ事……」
「ですので、俺が再度学園に戻り、魔力が使える状態にまで戻す……これが最適解です。どうか、ご理解ください」
淡々と語るヒロに、アイリスは複雑そうな表情をして、しかし何も言えずに黙り込む。
周りの騎士団員達も似たような様子で、ヒロの意見を受け入れるしか無いのかと、苦々しげな顔をしていた。
そんな中、馬車からアレクシアが降りてくる。
唯一普段と変わらない表情でヒロの前に立った彼女は、ただ尋ねた。
「死ぬ気なの?」
「別に」
「そんなざっくり斬られてるのに?」
「ちょっと油断しただけだし、真正面から戦わなきゃ生存率も上がるよ」
「私が無理矢理にでもついていくって言ったら?」
「王女を傷つけるのがどんな罪になるかわからないけど、全力で阻止するね」
ヒロは揺るがない。しばらく見つめ合うと、アレクシアの方から目を逸らし、ヒロに背を向けた。
「……死んだら私が殺すわ」
「王女様を殺人犯にしないように頑張るよ」
そのやりとりを最後に、ヒロは学園へと戻っていく。
騎士団員達の視線を感じなくなった所で、ニューの名前を呼んだ。
「ニュー、ガンマに伝えろ。シャドウが動く時が合図だ。それ以外のタイミングは大局の俯瞰に努め、
「はっ」
返事をしてすぐに、ニューはその場を立ち去る。
既に多くの失態を晒してきた……と思っている彼女は、これ以上ヴォイドに失望されない為に、全速力で駆けた。
(
一瞬己の至らなさに苦笑しつつ、しかし速度を緩めるような真似はしない。
これ以上の失態は、いくら『慈悲』の二つ名で呼ばれるヴォイドであっても許さないだろうと理解しているからだ。
夜は近い。陰の実力者と主人公の思い描く物語は佳境へと一直線に向かっていた。
ヴォイドの二つ名は本人もシドも知りません。
勝手に皆がそう言っているだけです。
ヒロが居る影響でアルファが弱体化しているという設定で書き進めていたのですが、そうすると後々整合性が取れなくなるので修正しました。
この作品でのシャドウとヴォイドを除いた時の【シャドウガーデン】最強も、アルファです。