主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
10分を一時間と考えれば一日は144時間まで増える、という言葉がある。
一見するとネタみたいな言葉だが、俺はその考え方に可能性を見た。
一分を一時間として過ごす。考え方だけでなく、実際に一分間の密度を一時間相当に引き上げる。
そうする事で、俺は主人公になるという夢に辿り着けると思ったのだ。
そして俺はその生き方を確立する事に成功した。
嘘では無い。少なくとも前世の俺は、一日を1440時間として過ごしていた。
勿論、周囲との時間感覚のズレには苦労した。ま、それを表に出さないようにする努力が今の演技力につながっていると思えば無駄では無かったと言えるが、にしても当時は大変だった。
………よし。せっかくだから、今日は前世の俺の話をしよう。
そうだな……面白い事件のあったあの日をピックアップしよう。
あの日は、確か―――
★★★★★
朝五時。俺、主人公太郎はぴったりその時間に目を覚ます。
微睡を感じる間も無く体を起こし、勉強机へ向かう。
同時にパソコンやゲーム機、テレビを起動して、ゲームをプレイできる状況でとめておく。
ここから60時間。俺はゲーマー系主人公と頭脳バトル系主人公の修行を行う。
修行風景を写しても面白味は無いので説明だけさせてもらうと、勉強しながら6個ほどゲームをプレイする、それだけだ。
FPSと音ゲーを同時にやれるようになるまでは大変だったが、慣れればなんということは無い。あぁ、ただ全部の情報を頭に入れるには思考分割がマストだから気をつけるように。
六時になれば体の方も目を覚ますので、運動の方にシフト。
さらに60時間かけて筋トレと反射神経などの運動技能の強化を測り、飯時(基本的に七時ちょっと)に階下へ降りて、軽くシャワーを浴びて汗を流して学校に行く準備をする。
登校中はハンドグリップを握って握力の強化、英単語と和訳を交互に読み上げる音声を聞いて英語力の強化、制服の下で大量の錘を身につける事で体幹と行動速度の強化を行う。もちろん歩くスピードは普通の人と同じだ。
確かこの日くらいになると、タイヤ4個分くらいの重さの錘をつけて行動していたはず。バレないように装着するのが中々大変だった思い出があるな。
「おはよう、主人君」
「おはよう、西野さん」
学校まで無駄に時間をかけて向かうようにしていた俺は、基本的に遅刻ギリギリの時間に到着していた。
おかげで人混みに悩むことは無かったし、運良くネームドキャラクター……物語のキーパーソンとなり得る人物と接点を持てた。
俺が挨拶を交わした女子。クラスメイトの西野アカネは、多分この学校の中で一、二を争うネームドだ。
なんせ顔が良い。女優として絶賛活躍中なくらい、彼女は美人だった。
ヒロイン適正は勿論、途中途中で良い活躍をするサブキャラとしての適正もある。彼女と関わりを持てたのは、中々喜ばしい事だった。
「……おはよう、影野君」
微かに間をおいて、彼女は俺の隣に立っていた男子、影野実へ挨拶した。
一見すると、どこにでも居そうなモブ。だがボクシングジム、空手の道場、ヨガの体験会まで、俺が行く先々で彼を見かけた。
そして注意深く彼を見れば、その無気力にも見える瞳の奥に、常になんらかの情熱が……それこそ俺が主人公に焦がれているような、それに等しい熱が感じられた。
ネームドというわけでも無いが、チェックしている男だ。
無論、なんらかの目的に向かって努力しているという事を察している以上、俺から下手に声をかけて邪魔するようなことは避けている。
……が、こうして西野さんが律儀にも挨拶してしまったのだ。それで俺が無視するというのは主人公的によろしくない。
「おはよう、影野」
「……あぁ、おはよう。
西野の笑顔が引き攣る。
この影野という男、毎日
最初こそ西野も訂正していたが、諦めたのかニコニコと(奥に怒りを滲ませながら)流している。
因みに俺の名前は何故かちゃんと覚えている。珍しい苗字だからだろうか?
それとも、俺が西野をネームドとして特に記憶しているように、影野の中で俺というキャラクターがなんらかの重要な立ち位置にいるのか……考えても仕方ないし、適当な結論も出さずにそのまま放置しているわけだが。
さて、俺の学校生活についてだが、はっきり言ってザ・普通だった。バレないように筋トレとか色々やってはいるが、自宅で本格的にやるソレとは比べるべくも無い。合計したら……まぁ、大体360時間前後か。中身が薄いから、あまり関係ない。
……で、本題はここからだ。
いつもならすぐに帰宅する俺だが、この日は違った。クラス委員として担任の手伝いをすべく、居残りする事になったのだ。
で、その手伝いの過程でいろんなところをたらい回しにさせられ待たされて、なんやかんやで外は真っ暗。
人目もないし逆立ちして帰ろっかなとか考えつつ歩いていると、先程話したネームドキャラクター西野が、車に連れ込まれていたのだ。
気絶している様子だったし、男達も手慣れた様子だったから、誘拐で間違い無いだろう。
つまりコレは、攫われたヒロインを助け出す王道の主人公ムーブ実演の時という事だ。
俺は誰にも見られていないことを確認し、その場で服を脱いで錘を全て外し、ジャージに着替えて俺の
屋根から屋根へ飛び移りつつ、尾行している事がバレないように追った果てに、無人の倉庫へたどり着いた。
男達は俺に気づいた様子もなく、猿轡を噛ませた西野を連れ込んだ。
目的は身代金か、或いは体か……両方の線もある。
が、動機なんざ俺には関係ない。俺はただ俺のやりたいようにやる………ここらのチンピラもヤクザも狩り尽くしたし、目出し帽のバーサーカーとか呼ばれている何者かに暴走族を取られちまって、最近は家族旅行中にこっそりギャングやマフィアとやりあうくらいしか実戦の機会が無かったんだ。
鍛えた成果、確認させてもらおう!
「そこまでだッ!!」
★★★★★
西野アカネは混乱していた。
今日は仕事の影響で足りない出席日数を補う為の補修など、色々な用事が重なった結果帰りが遅くなり、迎えを呼ぼうにもスマホの充電が切れていた為徒歩で帰ろうとし……そして誘拐された。
誘拐犯曰く、身代金目当て。だが男の一人が彼女を金としてだけでなく、
男がいやらしい手つきで体を撫で、そして無理やり服を脱がせようとしてきたところで、彼女を混乱させた原因が現れた。
「そこまでだッ!!」
声を荒げ、堂々と立つ指定ジャージ姿の同級生。
毎朝玄関で会う男子の一人、主人公太郎が、スコップを片手に立っていた。
「なんだテメェは」
「俺はアルティメット・ガイ。誘拐に加え……強姦か。その罪、贖わせてやる」
「アルティメット・ガイだァ!?馬鹿にしてんのか!」
「……いや待て、聞いたことがある。そこらのチンピラから大規模な麻薬カルテルまで関係なしに襲撃を仕掛け、一切痕跡を残さず去っていく謎の男……唯一出回っている情報は、男だという事と武器がスコップだという事だけ……なるほど、テメェが!」
棒術のようにスコップを回転させ、槍のように構える。
あまりに唐突すぎる展開に、西野は呆然とするしか出来なかった。
男の一人、先程西野を襲おうとしていた方がナイフを手に駆け出す。
主人は半歩後ろに下がって位置を調整し、顎下から打ち上げるようにスコップを跳ね上げた。
強烈な打撃を食らった男が、おぼつかない足取りで後退し、すっ転ぶ。
もう一人はそれを一瞥すると鼻で嗤い、拳を握った。
「今のやりとりだけでわかったよ。テメェは強い。どうも噂は尾鰭がついただけじゃ無かったらしい。だが俺は元軍人だ。そう易々とやられるつもりはねぇ」
「軍人ごとき、カルテル狩りで何度も相手したさ。……で?アンタは銃は使わないのか?」
「必要ねぇ。ははっ。俺はテメェみたいなヤツと戦う、このヒリつく感じを待ってたんだよ!!」
男が駆け出す。先程と違うのは、練度の差。踏み込みからして桁違い……単なるチンピラ崩れとは比べるべくも無い。
だが主人は振るわれた拳をスコップの柄で受け流すと、そのまま肉薄して、膝で金的を食らわせた。
たまらず体を硬直させた男を、スコップの先端で突き刺す。
肩口を抉るように刺された男は、苦しげな声と共に全力で後退した。
「はぁっ、はぁっ……クソッ、スコップで戦うなんざ悪ふざけかと思ったが……」
「元軍人ならコイツの凄さは良くわかってるだろ?殴って良し、刺して良し、攻撃の受け流しも可能だし、何より職質されても誤魔化せるかも知れない」
「………だが、お前と俺のフィジカル差ならまだまだわからねぇだろ。お前は俺の攻撃をボディに一発食らうだけでKOだが、俺はチクチク刺されようがぶん殴られようが耐えられる」
「体格差、体重差、か。なるほど道理だが………」
スコップを投げ、拳を構える。
そして次の瞬間には、まるで瞬間移動でもしたかのように男へ肉薄していた。
「速ッ!?」
防御する間もなく拳が男の鳩尾を抉る。
明らかに異常な音と共に叩き込まれた拳に、男は膝から崩れ落ちた。
「歩法、呼吸法、構え方、拳の振るい方………色々意識すりゃ、俺みたいな子供でも大人を一発KOすることだってできる。本気でやれば車だって壊せる」
「ぐっ……おぇっ!ゲホッゲホッ!く、くそっ、ガキが……!」
胃液を逆流させつつも、男は何とか立ち上がる。
だが今の一撃がかなり響いているようで、何とか立っている、と言った様子だった。
「終わりにしようか」
「オイ、アルティメット・ガイ!こっちを見やがれ!」
「ぅぅっ!?」
脳震盪を起こし倒れていたはずの男がいつの間にか復帰し、西野を掴み、首にナイフをあてがっていた。
主人はソレを見ると、ゆっくりと拳を下ろした。
「人質か、古典的だな」
「うるせぇっ。へへっ、この女が殺されたくなかったら、大人しくするんだな」
余裕を感じさせる態度を見せてはいるが、主人は動かない。
怯える西野を一瞥して以降、男二人の様子を観察するのみに徹している。
「オイ、アンタもいつまでもダウンしてねぇで、さっさとそのガキやっちまえよ」
「………はぁ。ま、こういう決着でも文句は言えねぇな。悪いが死んでもらうぜ。なんせお前にゃ日本円にして一兆の価値がある」
「えっ、一兆!?そのガキが!?」
「知らねぇのかよ。どこの大手もコイツに煮え湯飲まさせられてんだ。前に噂で聞いた時でも一兆だったんだ。今頃もっと跳ね上がってるだろうな」
「海老で鯛を釣るたぁこのことだな!」
勝利を確信し、笑う男二人。
主人は気づかれないように拳を握り、機を待つ。
だがその時、突然倉庫の天井―――ガラス張りになっていた部分が破壊され、ガラス片と共に黒い陰が舞い降りた。
「っ、今度はなんだ!?」
「アルティメット・ガイに仲間が居るなんて聞いた覚えがねぇが」
「俺は―――スタイリッシュ暴漢スレイヤー」
「す、スタイリッシュ、暴漢スレイヤー……?」
「このネーミングセンス、間違いなくアルティメット・ガイの仲間だ!だが間抜けだな、どうせ今まで隠れていたなら、人質を解放してから名乗れば良かったも……の、を?」
元軍人の言葉の最中、スタイリッシュ暴漢スレイヤーから何か黒い物が投擲され、西野にナイフを突きつけていた男の顔面を強打した。
ガランガランと音を立てて地面に落ちたのは―――バール。
「人質はこれで解放した。ここは譲ってもらうぞ、アルティメット・ガイ。軍人とは、一度戦ってみたかった」
「……はっ、面白ェッ!!」
目出し帽に全身黒い服という不審者スタイルの男、スタイリッシュ暴漢スレイヤーは迷いなく元軍人へ接近する。
主人はその踏み出し方と距離を見ただけで察する。
(スタイリッシュ暴漢スレイヤー……コイツ、名前だけじゃねぇ、腕も良い)
懐から取り出したナイフを手に応戦する元軍人だが、スタイリッシュ暴漢スレイヤーの巧みなバール捌きに押され気味だった。
片腕がほぼ使い物にならないというのもあるのだろうが、明らかにスタイリッシュ暴漢スレイヤーが場慣れしている。
「……っと、今のうちに」
二人の戦闘に気を惹かれつつも、最優先事項を間違えない。
西野の拘束を解き、猿轡を外した主人は、彼女にそっと手を差し伸べた。
「西野さん、怪我は無い?」
「……だ、大丈夫……」
「そっか。なら―――っと?」
銃声が響く。
主人は首を軽く傾げて弾丸を回避し、男を睨む。
バールが鼻に直撃した影響か鼻血をダクダクと流している男は、息を荒げながら銃を主人に向ける。
「な、なんで当たんねぇんだよ!!」
「ショットガン以外なら、弾丸を見てから避けるくらい簡単に出来る」
「えっ」
「えっ」
「え?」
男からも西野からも「お前おかしいだろ」みたいな目を向けられて、主人は微かに困惑する。
だがすぐに気を取り直して、西野を庇うように前へ出た。
「……とにかく、それはうるさいだけの玩具だ。俺には通じない」
「ば、バケモンかよ……ッ!?畜生ッ、死ねぇえええええっ!!」
男が銃を滅茶苦茶に乱射するが、全てを最小限の動きで回避し、避けると西野に当たりかねない弾丸は回収しておいたスコップで弾く。
すぐに弾切れになり、引き金を引く音だけが虚しく響く。
「お、お前なんなんだよ!?」
「言ったろ、アルティメット・ガイ……全ての悪を裁く正義の光。俺が下す判決はただ一つ―――死刑だ!」
すっかり怯えた様子の男に、主人は容赦なく突撃し、その口の中へスコップを突っ込む。
人間離れした力に口がこじ開けられ、裂ける。
喉を貫通し、確実に死んだ事を確認すると、主人は乱暴にスコップを引き抜いて血を振り払った。
「………こ、殺した……?」
「まっ、待ってくれ、やめ―――ッ!!」
呆然としていた西野だったが、元軍人がバールで執拗に頭部を殴られ死亡する姿を見て、一周回って冷静さを取り戻す。
毎朝会う男子生徒、主人公太郎……アルティメット・ガイ。
謎の覆面戦士、だがどこか聞き覚えのある声をした……スタイリッシュ暴漢スレイヤー。
結構エグイ方法で誘拐犯を殺害した二人を前に、しかし西野に恐怖は無かった。
「I need more power………」
スタイリッシュ暴漢スレイヤーの方が、なんだか哀愁漂う雰囲気でそんな事を呟いていたせいかもしれない。
血塗れのバールを持ちながら、やけに流暢の英語で力が欲しいと宣う……シュールさで笑いを取ろうとしているのだろうか、と西野は本気で思った。
「スタイリッシュ暴漢スレイヤー、お前は一体―――」
「今はまだ、知る時ではない。―――アルティメット・ガイ。また会う日は、そう遠くないだろう」
意味深なセリフを吐くと、スタイリッシュ暴漢スレイヤーを名乗る男は去って行った。
後に残った二人は、遠くからパトカーのサイレンが聞えてくるまで暫し無言で見つめ合い、先に主人が口を開く。
「えっと、今日の事は俺達だけの秘密って事で。特に俺の正体と殺人」
「………え、えぇ。わかったわ」
「明日以降も特に何事も無かったように接してくれると非常に助かるんだけど」
「それも大丈夫。私、そういうの得意だから」
「そっか。なら良かった。―――じゃ、適当に誤魔化しておいてね!」
こうして、西野アカネ誘拐事件は幕を閉じた。
警察たちは西野から「アルティメット・ガイとスタイリッシュ暴漢スレイヤーが助けてくれた」という言葉を聞いた瞬間に嫌そうな顔をし、軽い質問をして無理矢理帰したのだが、それはまた別のお話。
翌日。
「おはよう、アルティメット君」
「……西野さん」
「ふふっ、冗談よ。………昨日は、ありがとう」
「あれくらいなんて事無いよ」
「銃弾を見て避けれるんだもんね」
「そんなおかしいかな」
「おかしい」
二人以外誰もいない玄関で、いつになく談笑する。
しばらくして、二人同時に「それにしても」と間を置き、
「「スタイリッシュ暴漢スレイヤーはない/カッコよかった」」
「え?」
「いや、いいセンスしてると思うけど」
「……そういえばあなたはアルティメットだったわね」
「まさかそっちもダメ?」
「無しね」
「えぇ……」
★★★★★
……ってな感じで、俺は前世でも一応こういうイベントに参加していたのだ。という話。
ただ今の話を聞いて、そして今までの俺を見ていて、足りないと思う物があっただろう。
それは前世の俺も、転生したての俺も思っていた事だ。主人公には必ずあって然るべき要素。
そう。それは必殺技だ。
アルティメット・ガイとしての戦闘は、はっきり言ってシンプル過ぎる。堅実に攻撃を躱し、スコップで攻撃。拳で攻撃。絵面が地味だ。
それはここ最近の俺の戦闘も同じ事。魔力を手に入れたはいい物の、実際にシド以外との戦闘は魔力で目隠しするくらいしかしていない。
これでは主人公ではなく、単なるエンターティナー!ここ最近の俺の主人公力が足りないのはきっと、必殺技を使っていないからに違いない。
まぁ、使うタイミングが無いというのもあるんだけど。
―――前世の時から、俺は漠然と必殺技の構想をしていた。
名前からモチーフから効果まで、細部に至るまで考え抜いた。
結果として俺が辿り着いたのは、主人公という夢以外にもう一つ好きなモノ。
夜の闇の中で無数に煌めく星―――それをモチーフにした究極奥義。
良し、決めた。次になんか大きなイベントがあったら使おう。
使う相手にこだわり過ぎると、いつまでも使えない気がする。
そうと決まれば、早速シドに相談だ!
なんだか、もう楽しくなってきたぞ!
【主人公太郎】
素手でコンクリートを握り潰し、正拳突きで車を破壊し、蹴りで電柱をへし折るパワーと銃弾を見て避ける事ができる動体視力と反射神経を持つ男。
まだ心臓が破壊されれば死ぬ程度だった。
星に何か強い憧れがあるらしい。
メインウェポンはスコップ。
【スタイリッシュ暴漢スレイヤー】
負傷していたとは言え元軍人相手に圧勝した男。
完成された肉体と圧倒的な戦闘技術を持つ。
目出し帽のバーサーカーという異名も持つが、その正体は……!?
核に強い対抗心を抱いているらしい。
メインウェポンはバール。