主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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ゾンビスレイヤー

 

「さっきぶりだね」

「……ええ」

 

気さくに挨拶するシドに、アメジストさんは目を丸くする。

俺は部屋を一通り見渡して、彼女に問いかけた。

 

「ここ、どんな部屋か知ってる?」

「さぁ?私もよくわからないわ」

「出口とか知らない?」

「それも知らない。長い間ここにいるけど、ずっとこうだもの」

「さっき俺達と戦ったのに?」

「気づいたらあそこに居ただけ。どうやって行ったのか、どうして行ったのかもわからないわ」

「ふーん」

 

アルファ達を探しに行きたいのに、困った事になった。

前回も作りが複雑で悩まされたし、勘で歩くと不味いことになるだろうから……うーん。

 

「取り敢えず奥にある扉を使うしか無さそうだね」

「絶対変なところに繋がってるだろ。まぁ、それ以外の道があるわけでも無いし、そっち行くか」

「ねぇ」

 

扉の方へと歩き出した俺達を、アメジストさんが呼び止める。

 

「貴方達の前に、拘束された美女が居ます」

「うん」

「そうだね」

「取り敢えず、助けてみませんか?」

 

顔を見合わせる俺達。

そして少し遅れて理解する。

 

取り敢えず俺の方が近くに居たので、拘束具を一刀両断する。

 

「ごめんごめん、てっきり修行中かと」

「なぜ?」

「そういう拘束具って筋トレにしか使った事無かったから」

「筋トレ?僕は魔力の修行で使ったけど」

「そんな使い方あるんだ」

「どちらも良くわからないのだけど」

 

アメジストさんは大きく伸びをして、色っぽい声を漏らす。

 

「ありがと。ざっと千年ぶりの自由ね」

「千歳超え?にしては随分若々しいね」

「レディーに年齢の話はご法度よ。それに適当に言っただけ。よく覚えていないもの」

「記憶、曖昧なんだ」

「ええ」

 

頷くと、彼女は俺達の方へと近づいてくる。

戦闘中はあまり姿そのものに注意して無かったけど、中々の美人だ。黒子が良い味を出している。

 

「さて。私達、目的は同じよね。早速だけど、協力してみない?」

「目的って言っても、俺はアルファ達……友達を探しに行きたいんだけど」

「僕も一応付き添うつもりだけど」

「多分、私の目的の道中で会えるわ。きっと」

「道中って言っても、別に脱出したいだけなら今すぐでも出来るよ?先に帰る?」

 

剣を抜いて尋ねるも、アメジストさんは寂しそうな笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「残念だけど、私の目的はただの脱出じゃ無いの。そしてその目的は、ちゃんと決まった場所に行かないと叶わない」

「そっか。なら……どうせ一本道みたいだし、一緒に行こうかな。シドは?」

「一本道なんだから一緒に行くしか無いじゃん」

「あぁ、それもそうだな」

「ところで、脱出ならすぐ出来るーとか不思議な事を言っているけど、どうしてそう言えるの?」

「あ、俺?」

 

アメジストさんの質問に、シドも「そうそう、もしかして来た事あるの?」と尋ねて来る。

歩みを止める事無く、俺は端的に答えた。

 

「前に一回だけな。その時も迷子になったけど、適当に破壊してたらシステムが強制的に追い出してくれるから、今回もそれ使えば何とかなると思うぞ」

「一応覚えておこうかな」

「……ここ、魔力が使えないはずなのだけど」

「魔力無しでも、最悪素手で壊せる程度の素材しか使ってないからね」

 

アメジストさんの足が止まる。

真っ暗な通路の目前で俺達も立ち止まり、彼女の方を振り向く。

 

「どうかした?」

「―――なんでもないわ。ただ………えっと、怪力なのね」

「まぁ鍛えちゃいるけど、どっちかって言うと技術面だよ、拳ってのは」

「呼吸のタイミングとか合わせたら、鍛えてなくても多少は強いパンチが出来るモノだよ」

「貴方達二人ともそういうタイプなの……?」

 

呆れた様子で呟かれる。

そういうタイプってどういうタイプの事なんだろう。俺には少しわからなかった。

 

 

 

 

 

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「ごめんなさい。躓いて転んだ先にたまたま扉があって、入ってきちゃったの」

 

ヒロとナツメが聖域へ向かい、イプシロンもネルソンを連れて聖域へ入って行った直後、アレクシアとローズも扉に入り、聖域に侵入した。

当然自分の意思で入ってきたのだが、アレクシアは堂々と「わざとではない」と宣言していた。

シャドウガーデンの面々から呆れたような視線を向けられるも、あまりに堂々としすぎているためか、なんとなく受け入れられてしまった。

 

アレクシアは周囲を確認すると、ナツメに問いかけた。

 

「ヒロはどこにいるの?一緒に入って行ったはずでしょう?」

「そ、それが……この場所に降りてくる直前、まるで今までそこにいなかったかのように消えてしまって……」

「消えた?一体どういう」

「聖域のシステムには不明な点も多い。聖域に拒絶され外に押し戻されたか、或いはこことは違う場所に招かれたのか……ここで議論していてもわからないでしょうね」

 

ナツメに掴みかかったアレクシアを宥めるように、アルファが答える。

その言葉に意見できるほど聖域を知らない彼女は、渋々ナツメから手を離した。

 

「一体何が目的だ?」

 

拘束された状態で無理やり連れられているネルソンが、不機嫌そうにアルファへ尋ねた。

アルファは仮面の奥で微笑む。

 

「かつてこの地で、英雄オリヴィエの手によって魔人ディアボロスの左腕が封印されたと伝えられている」

「それがどうした。左腕を探しにきたとでも?」

「いいえ。私達の目的はディアボロス教団について知ること」

 

その名前にアレクシアとローズが反応する。

ネルソンは一瞬目尻を痙攣させるも、何のことだと惚ける。

アルファは特に意に介さず、迷いなく先へと進んでいく。

 

「それにしても、聖域って随分とボロボロなのね」

「言われてみれば確かに、無理やり直したような痕が至る所に……」

 

歩きながら、アレクシアとローズが呟く。

彼女達の言う通り、少し注意して見れば通路の至る所に修復痕が確認できた。

 

「数年前に、正体不明の侵入者が現れた……と、記録には書かれていたわ。恐らくは、その侵入者が残した傷」

 

アルファが二人に教えるように呟く。

微かにネルソンが歯噛みするが、それを無視して歩き続ける。

しばらくすると、彼女達の前に一つの銅像が現れた。

 

「英雄オリヴィエの像ね」

「英雄、オリヴィエ……?」

 

ローズが首を傾げる。

英雄オリヴィエを知らないのではなく、目の前の銅像が伝え聞く英雄の姿と全く違う為に困惑したのだ。

 

御伽噺にて語られるオリヴィエは男性。しかし、今彼女達の前にあるのは明らかに女性の像。

聖剣と思しき剣を掲げたその姿は、神々しく美しかった。

 

「我々は()()()()()。けれど確信が持てない。歴史の真実、教団の真の目的。そして……」

 

おもむろに仮面を外すと、アルファはローズ達へ顔を向ける。

三人は、その容姿に思わず息を呑んだ。

 

「なぜ英雄オリヴィエと私の顔が酷似しているのか」

「!まさか、貴様エルフの……だが悪魔憑きになって死んだはずでは」

「やはり、貴方は知っているのね」

 

慌てて口を噤むネルソン。

アルファは妖艶に微笑んだまま、そっと石像に触れる。

 

「教団の目的が単なる魔人復活では無い事は察している。けれど確証はない……だから、直接見に行きましょうか」

 

膨大な魔力が石像に注がれる。大気が震えるほどの魔力に、ローズは目を見開いた。

 

「かつて、この地で大きな戦いがあった。英雄が魔人を封印し、幾多の命が散った。魔人の魔力と、戦士たちの魔力がこの地で渦巻き、その魔力の渦に行き場を失くした記憶が閉じ込められた。ここは、古の記憶と魔人の怨念が眠る墓場」

 

魔力に反応した石像が輝き、古代文字が浮かび上がる。

そして、一人のエルフが現れた。

アルファと瓜二つの、しかし黒衣に身を包んだ彼女と対照的な白い装束を纏った彼女は、無言でアルファの隣に立つ。

 

「貴方なら応えてくれると思っていたわ」

 

アルファが言うと、オリヴィエは先導するように歩き始める。

光が周囲を包み、何も見えなくなる。

 

「さぁ、御伽噺の世界に旅立ちましょうか」

 

アルファのそんな言葉だけが、彼女達の耳に聞こえた。

 

 

 

 

 

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暗い道を抜けた先には、豊かな自然が広がっていた。

見覚えのない景色だが、特に珍しがって足を止めるほどでもない。その程度の景色。

 

「記憶の中よ」

 

アメジストさんが無感情に呟く。

俺の記憶では無いし、シドの記憶にしたってここがピックアップされる理由も良くわからないし……大方アメジストさんの記憶なんだろう。

ただ、あまり良い記憶ではないらしい。飄々と振舞っているように見えて、表情が微かに硬くなっている。

 

静かに森の中を進むと、小綺麗な広場が現れる。

陽光の差し込む中、黒髪の少女が俯いて泣いていた。

 

「君にそっくりだ」

「似ているだけよ」

「なんで泣いてるんだろうね」

「おねしょでもしたんじゃない?」

 

青あざだらけの少女を見下ろしながら、アメジストさんは適当に返事をする。

 

俺もシドも特にそのことには触れず、泣き続けている少女を見つめた。

 

「で、ここからどうすんの?」

「先へ進みたいなら、記憶を終わらせれば良いわ」

「終わらせるって、具体的には?」

 

シドの問いに答えるように、アメジストさんは少女のすぐ傍へ向かい、躊躇なく頬を引っ叩いた。

 

「ひどっ」

「良いのよ、自分だし」

 

途端に世界が砕ける。

景色がまるで鏡が割れていくかのように粉々になり、暗闇が広がる。

 

なんだろう、このお洒落なギミック。前に来た時はただの施設見学しかできなかったのに。

アメジストさんが居るのが関係しているのか?案内人とか、鍵とか……なんかそんな感じの働きをしてくれている、的な。

 

「……何してんの?」

「いや、ここって上下の感覚無いからさ」

「覗かないでね?」

「覗かないよ」

 

魔力の吸われる感覚が強い方へと歩く途中、シドが何故か真っ逆さまになっているのに気づく。

上下の感覚が無い……確かに、歩いているようでいてどこかふわふわと浮いているような感覚がある。

だからってひっくり返って歩く必要―――ある!!

 

今のシドは俺の真下にぴったりと足をくっつけた状態で反転している。

地面をあるものと仮定すると、俺とシドは地面に関して対称の位置に居るのだ。

つまりは光と闇、主人公と陰の実力者―――オープニングで映っていそうな、色々と考察の捗る感じの見た目になっている。

 

コイツ、なんて発想力と行動力だ!一歩先に行かれたと認めざるを得ない……!!

 

「心なしか悔しそうにしているのはなぜ?」

「悔しいんじゃないよ。ただ、自分が不甲斐ないんだ」

「……やっぱり、よくわからないわ」

 

再び光に包まれる。

浮遊感が消え、俺達は夕日に照らされた戦場へと降り立つ。

ひっくり返っていたせいか、シドは頭から落下した。受け身は取っていたが、ちょっとカッコ悪い。

 

「死体の山……これもアメジストさんの記憶?」

「そうだけど………もしかして、それ私のコト?」

「あ、うん。瞳がアメジストみたいに綺麗だったから、アメジストさん」

「―――そう」

 

ふい、と顔を背ける。その視線の先には、やはりというか泣いている少女。

ただこの戦場で、しかも大きく窪んだ場所の中心に座っているのは……なんだか意味深だ。

 

「また引っ叩くの?」

「そうね。そんな感じ」

「また泣いてるね」

「泣き虫だったのよ」

 

淡々と会話をしながら、再び少女の前に立つ。

アメジストさんはシドから剣を借りて、少々危なっかしい様子で振り上げた。

 

 

そして次の瞬間、俺はアメジストさんを抱えて跳躍し、シドが鋭い蹴りを繰り出した。

 

 

「っ、死体が!?」

「ゾンビなのに首折られただけで死ぬんだ」

「動きでも止めれればって思っただけなんだけどね」

 

アメジストさんを襲わんと起き上がった死体だったが、シドの蹴りを顎に喰らい、首が240度くらい回転して動かなくなった。

 

しかし戦場のあちらこちらに散らばっている死体たちが、続々と起き上がりこちらへ近づいてくる。

 

「聖域の防衛システムって感じか」

「ウィルスに反応したアンチウィルスソフトみたいな感じ?」

「後は病原菌に反応した免疫細胞って所だな」

「不思議な例えね」

「ま、知らなくても問題ない程度の知識だけどね。―――因みに、君はここで死ぬとどうなるの?」

「最初の部屋に戻されて拘束されるわ。多分ね」

「そりゃ面倒だな。一応聞くけど、剣は使えるタイプ?」

「使えない事も無いわ」

「なら僕に返してもらおうかな」

 

アメジストさんから剣を受け取り、近くのゾンビを雑に斬り捨てる。

袈裟斬りにされただけで、やはりゾンビは動かなくなる。

頭部でも破壊されない限り動き続けるのがゾンビのウリなんじゃないのか?やる気不足ってヤツかな。

 

「ま、雑に死んでくれるなら久しぶりにコイツが使えそうだ」

 

懐から常備している癖に使う機会に恵まれない武器を―――寸鉄を取り出して、ゾンビたちの頭部めがけて投擲する。

全てが狙い通りに命中し、ゾンビたちはバタバタと倒れていった。

 

「寸鉄だ。懐かしいね」

「持ち歩いては居るんだが、どうにも使う機会が無くってな」

「すんてつ?」

「見ての通り、細長い鉄の棒だよ。投げて使うんだ」

 

スコンッ、スコンッ、スコンッと軽快なリズムを奏でながらゾンビの頭部に寸鉄が刺さっていく。

コイツは『熱した鉄を素手で千切って整形する修行』で無数に作っている代物なので、勿体ないとかそう言った感覚はない。

 

寧ろどんどん使ってあげたい気分だ。作っておきながら仕込むだけ仕込んで錘替わりにしか使ってなかったのを、心のどこかで申し訳なくさえ思っていたのだから。

 

「ほら、今のうちにさっさと次に進めてくれ」

「うん、了解」

 

のほほんと少女へ近づいていくシド。ゾンビたちがシドに向かおうとするが、それらを全て俺の寸鉄が食い止める。

 

「飛び道具があるにしても、魔力無しでこんな……」

「鍛えたら誰でも出来るようになるよ。せっかくだし、アメジストさんもここを出たら練習してみる?」

「………悪いけど、私がここから解放されても、貴方達と一緒には居られないわ」

「そりゃまたどうして?」

 

シドが剣を振り上げ、そして少女を両断する。

世界に罅が入った丁度その瞬間、アメジストさんは少し寂しそうに目を伏せながら、柔らかく微笑んだ。

 

「消えてなくなるの。私は、ただの記憶だから」

 

 

バリンッ。

 

 

戦場が、再び暗闇に変わった。

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