主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
オリヴィエに先導されて
身寄りのない子供を集め、魔人ディアボロスの力を埋め込み、適応させる。
アルファの語る内容の真偽は判断できずとも、今彼女達が見ている記憶は、幼い子供たちが種族も性別も関係なく悶え苦しみ、そして死んでいくという残酷なモノだった。
「魔人ディアボロスに対抗するための必要な犠牲……と、教団はそう言っている。事実としてオリヴィエはディアボロスの左腕を切り落としているし、彼女がディアボロスの力、ディアボロス細胞に適応したことは間違いない」
ヒールの立てるカツカツという音が響く。
アルファは一人、話し続ける。
「成長し、ディアボロスの力を得たオリヴィエに、任務が下された。歴史ではディアボロスの討伐とされているが、恐らくそれは虚偽。実際に下された命令は、そう───新たなディアボロス細胞の採取」
「デタラメを言うな!!」
黙っていたネルソンが顔を真っ赤にして怒鳴る。
彼を拘束している女がその首を掴み、無理矢理黙らせた。
「力を得た後も、オリヴィエは教団に従順だった。恐らくは、ディアボロスを倒すことで平和が訪れると、そう信じていたから」
道が段々と白く輝き始める。
無数に牢屋が続く通路は、次第にひび割れていく。
「しかし教団の目的は違った」
新たな世界が広がる刹那、アルファは淡々と呟いた。
「教団の目的は、力の私物化だった」
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戦士のいない戦場。その中心にある黒い塊を前に、アルファは語る。
「見ての通り、ディアボロスの腕は切り落とされた後も生きていた。不用意に近づけば人を殺し、一部を削げば即座に再生する………教団の目的は、まさにその再生能力にあった」
どこからか、赤い錠剤の入った小瓶を取り出す。
アレクシアはその中身に見覚えがあり、つい声を漏らした。
「ディアボロスの細胞を研究し、人間を強化する薬品を生み出した。これは性別を問わず使用可能であり、教団を支える力となっている。けれど教団が求めたモノは、教団が真に力としていたモノは違った」
景色が変わり、彼女達は白い研究室に立っていた。
研究者らしき男の手には、まるで血のように赤い雫が一滴。
歓喜の表情のまま、男は雫を舐めとる。
「莫大な力、そして不老の肉体。生み出されたソレは、まるでディアボロスの血のようだったと聞いている。……どうやら正しかったようね」
ネルソンへ視線を向ける。彼は俯いたまま何も言わず、動きもしない。
「さて、ここにいるネルソン大司教代理と、今液体を舐めた白衣の男……よく似ていると思わない?」
「ッ!」
アレクシアとローズが、慌ててネルソンの顔を見る。
似ているという域の話ではない。もはや同一人物としか言いようが無かった。
「それで、この素敵なお薬の名前はなんと言うのかしら?」
「……雫だ。ディアボロスの雫」
「ありがとう。けれど、このディアボロスの雫も完成品とは呼べず、二つの大きな欠陥を抱えていた」
「完全な不老では無かったのでしょう?だって今のネルソン大司教代理と過去の彼は、頭部に決定的な違いがあるもの」
自信ありげにアレクシアが笑う。
だがアルファは静かに首を横に振り、ネルソンは顔を顰めて断言した。
「髪が抜けたのはストレスだ」
「……ごめんなさい」
いたたまれなくなったのか、アレクシアは微かに頬を赤らめて縮こまった。
「欠陥の一つは効果が永続ではないという事。一年に一度舐めなければ、不老も不死も続かない」
「その通りだ」
「そして二つ。雫はごく少量しか生産できない」
「それも正しい。一年に12滴だ」
「12滴。そう言えば、教団にはナイツ・オブ・ラウンズと呼ばれる隔絶した力を持つ騎士が居たわね」
ナイツ・オブ・ラウンズ。その名前にアレクシアが反応する。
ネルソンは静かに俯き、クツクツと笑う。
「教団はディアボロスの雫を完全なモノにすべく研究を進めている。その鍵となるのが封印されたディアボロスの身体であり、英雄の血を色濃く受け継いだ子孫。私のような、オリヴィエの血を色濃く受け継いだ子孫がね」
「いかにも!そして私こそ、ナイツ・オブ・ラウンズの第11席。『強欲』のネルソンだ!!」
勢いよく顔を挙げたネルソンは、瞳を赤く輝かせ、膨大な魔力を解き放つ。
荒れ狂う魔力の渦に、アレクシアもローズも剣に手を添えた―――が。
ネルソンの身体が漆黒の刃に貫かれ、力を失くして崩れ落ちる。
「アルファさま、すいません。でもデルタ、コイツは狩った方が良いと思ったのです」
「デルタ……」
ネルソンを刺し殺した少女は、どこか誇らしげに胸を張る。
「デルタは狩りが得意なのです。この間もヴォイド様と一緒に熊狩りに」
「黙りなさい」
「あぅ」
アルファの冷たい一言に、デルタは慌てて口に手を当てる。
状況の緩急について行けず困惑しているローズ達は、ナツメの表情が微かに険しくなった事に気づかなかった。
「……言ってしまった事はともかく、獲物を見なさい。まだ終わっていないわ」
アルファの言葉と同時、空間が砕ける。
そして何かが空を斬る音が彼女達の鼓膜を揺らした。
「獣め」
ネルソンが忌々し気に呟く。
彼の頬は裂け、血が流れていた。
だが先程刺されたはずの部分は全くの無傷で、頬の傷さえも瞬きの間に消えた。
「ガルルルル……!!」
四肢を地につけ、低姿勢で構えるデルタ。
唸り声をあげる彼女は、なぜか段々と服が消えていた。
隠されていた耳が、体が、尻尾が、じわじわと露になる。
「あれっ?アルファさま、なんだか魔力が吸われていく感覚があるのです」
「聖域の中心に近づいているのだよ。ここは我らの領域だ。最奥に向かう度に貴様らの力が奪われていくのも当然だろう」
聖職者としての恰好から一転、黒い戦闘装束に身を包んだネルソンが、大剣を手に嗤う。
「改めて名乗ろう。ナイツ・オブ・ラウンズ第11席、『強欲』のネルソンだ。本当ならばもう少し奥へ近づいた所で仕掛けたかったが……構わんだろう。―――貴様らが歯向かった存在の強大さを、その身に刻んでやる」
★★★★★
暗闇を抜けた先は、今度は遺跡のような開けた空間。
天井の高い、真っ白な部屋だ。
ただアメジストさんが拘束されていた場所と違って、鎖で厳重に閉ざされた巨大な扉と、台座に突き刺さった剣があった。
「ここが中心みたいだけど……結局アルファ達とは会わなかったね」
「先に帰っちゃったのかねぇ」
「わからないけれど……私の目的は、この先にあるみたいね」
アメジストさんは扉へ近づいていく。
物々しい雰囲気を放っているが、それを縛る鎖には南京錠も何もない。まるで開けない事を前提としているような……何かを封印している、というような。そんな感じがした。
シドが鎖に手をかけ、引っ張ってみる。だがやはりというかびくともせず、扉は微塵も動かない。
「この先の何が目的なの?」
「魔力の核みたいなモノよ。それを壊せば私は解放されて、貴方達は―――
「でもこの扉、開きそうにないよ?」
「鍵があるはずよ。この鎖を壊して、扉を開く鍵が」
俺達の視線が、台座に突き刺さった剣へと向かう。
派手な装飾の、ザ・聖剣と言った感じの剣。
なるほどなるほど、これはつまり―――主人公が引き抜くタイプのアレだな?
台座の古代文字をアメジストさんが読んでいる間に、俺は柄を片手で握る。
選ばれし者にしか抜けない剣。選ばれし者とは主人公の事。そして俺は主人公。つまり俺が選ばれし者。
簡単な道理だ。片手どころか、触れる前に剣から俺に飛来してきてもおかしくないが―――見栄え重視だ。スタイリッシュに引き抜いてやるぜ!
「……ん?―――ふんッ!………は?」
剣はびくともしない。
なんでさ。
「これは選ばれし者にしか抜けない剣でしょ」
「そうだろうな。だがそれで俺が抜けない理由がわからん。台座には『英雄の直系の子孫』が条件だと書いてるけど」
「―――確かに、そう書いてあるわ。一瞬見ただけで、良く読めたわね」
「古代文字は習得済みだし、これくらい別になんでもないけど………」
こういうのって俺が剣をすんなり引き抜いて、その後台座の文字から俺が『英雄の直系の子孫』だということが、つまりはオリヴィエの血を引く者だという事が判明し、それが後々伏線になったりする……ってなるもんじゃないの?
「おかしい。なんで抜けない?」
「英雄の直系の子孫、じゃないからじゃない?」
シドの言葉は一理ある。
この状況からして、俺が条件を満たしていないという考えを持つのが普通だ。
だがそれはつまり、俺が主人公ではないという事に繋がる。
主人公とは得てして選ばれし者だ。確かに最近は何も持たないヤツが主役を張ったりするが、にしたって何かしらある。
………仕方ない。片手だけでというのは聖剣に不誠実だったという事だろう。今度は両手で、しっかりとやろうじゃないか。
「すゥゥ………ふンッ!!!」
魔力以外の持ちうる全ての技能を生かして力を込める。
途端に激しい警告音が鳴り響き、台座が、何なら聖域さえも揺れ始めるが―――関係ない!俺は主人公だ、主人公なんだ!
この聖剣を引き抜く事が、俺の存在証明なんだァアアアアッ!!!
「オォォォアアアアッ!!」
「な、なんて力なの……!?これで、魔力を使っていないなんて」
「ヒロは僕よりも魔力修行が遅かった分、素の力とか力の使い方とかに時間を割いてるからね。こういう力押しは僕よりも上手だよ。今のところはね」
台座に罅が入る。握りしめた柄はもはや砕け、中の金属部分を掴んでいる。
それでも抜けない。俺の全力を、剣が、台座が、聖域が拒んでいる。
今まで台座からのみだった警告が部屋全体から発せられる。真っ赤に明滅する部屋の中で、俺は恥も外聞も捨てて全力で剣に力を込めていた。
魔力は―――まだだ、ここに入って直ぐに練り始めていたが、もう少しかかる。
「もう少し時間かかりそうだし、僕達は気長に待つとしようか」
「え、ええ。……あの、放っておいて良いの?」
「これはヒロ一人でやらせた方が良いんだ。僕らが手を貸して成功しても、それは侮辱にしかならない」
「……そう。なら、良いけど」
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「ガルルルルゥッ!!グルルルルァアアアアッ!!」
聖域の機能により無数に分裂したネルソンが、次々と屠られていく。
スライムスーツを秘部を隠す分だけ体に纏ったデルタが、まさしく獣のような表情で死を振り撒いていた。
少し離れた場所では、アルファが特に何の変化も無く淡々とネルソンを処理している。
ローズ達はさらに離れた所からその光景を眺めており、中でもアレクシアは呆れたような顔をしていた。
「あれ、本当にシャドウの仲間なの?技も無ければ理性も無いようだけど」
彼女の言葉通り、デルタが戦闘を開始してからこれまで、優れた技巧というべきものは見受けられなかった。
確かに彼女は強い。しかしその強さは『暴』と言うべき強さだった。
あの日地下で見たシャドウの戦い―――卓越を超え、超越した剣技とは、比べるべくも無い。
だからこそ、アレクシアには彼女がシャドウの仲間であるという事が理解できなかった。
ナツメが困ったような笑みを漏らすが、それは激しい戦闘の音とデルタの唸り声で掻き消された。
「―――コピーはこれで最後みたいね」
しばらくして、一人にまで数を減らしたネルソン。
最初の強気な姿勢はどこへやら、怯え切った様子で後退っていた。
だが、彼にもはや何も残されていないのかと言えば、そんな事は無い。
聖域を守る最後の砦が―――かつてディアボロスを屠った英雄が、残っている。
「ま、まだだァッ!来いッ、オリヴィエ!!」
虚空から現れたオリヴィエが、ネルソンを護るように立つ。
その瞳は何も映さず、生気を感じさせない。
デルタは構えるが、先程までと違いすぐに飛び掛かるような真似をせず、黙って睨んでいる。
「……やはり、貴方は」
アルファが呟くと同時、突如異変が起こる。
「ッ、な、なんだ!?」
真っ白で広大な空間が、一面赤く染まる。
激しい警告音と共に、激しい地震が起こっているかのように空間が揺れる。
明らかな異常事態に、ネルソンのみならず全員が驚愕した。
「聖域の中心から、だと……!?いやしかし、これほどの異常は―――」
「アルファ様!調査が終わりました!」
アラートが鳴り響く中、いつの間にやら現れていたイプシロンが豊満な乳房を揺らしつつ声を張る。
その隣には出口が開かれており、部下と思しき黒装束の女たちが続々と退出していた。
「そう。なら帰るとしましょうか。―――因みに、この警報は?」
「私達の行動によるものではない、という事以外は何も」
「デルタにはわかるのです!ヴォイド様の気配が強くなっているのです!」
「ヴォイド……そう、彼が。撤収するわよ」
あっさりと踵を返したアルファ達に、ネルソンとアレクシアが声を荒げる。
「ま、待て!まさかこのまま逃げるつもりか!?」
「待って、どこかにヒロが居るかもしれないの!彼を置いて行くわけには……!」
「―――まずは『強欲』のネルソン。逆に聞くけれど、まだ私達の相手をしてくれるの?」
「うぐ……」
ネルソンは一方的にやられていた事を思い出し、言葉に詰まる。
「そしてアレクシア・ミドガル。ヒロ・ムノーについてだけれど……心配する必要はないわ」
「その根拠は」
「我々【シャドウガーデン】は彼を認めている。それが根拠よ。実力も、思想も、我々と共に歩むに相応しい。……いずれは勧誘したい程にね」
「ッ、ふざけた事を!」
「そして、貴方は他人を心配できるような立場に居ない。それは貴方が一番わかっている事でしょう。まずは私達と共に、ここを脱出するべきだと思うけれど」
その言葉に何も言えなくなったアレクシアは、少し逡巡する素振りを見せた後、出口へ向かっていく。
出ていく直前、彼女は反骨精神故にか、アルファに問いかけた。
「最後に一つ聞かせて。ヴォイドっていうのは何者なの?シャドウとはまた違う、貴方達の上に立つ何者かが居るの?」
その問いかけに、アルファは静かに答える。
「彼は【シャドウガーデン】の『番外位』。上も下も無く、ただシャドウの隣に並び立つ事を唯一許された男。―――今はそれだけで知っていれば良い。いずれ、全てを知る事になるのだから」
侵入者の全員が去った後、オリヴィエと二人残されたネルソンは、警報が鳴り響く空間の中で、複雑な表情を浮かべていた。
「ま、まぁ良い。アルファとかいう女の顔は覚えた。それだけで十分な成果だ。ヤツの血さえあれば、雫の完成も近づくだろう。それよりも、聖域の中心に居るネズミだ。憂さ晴らしに嬲ってやろうじゃないか」
再び獰猛な笑みを浮かべて、ネルソンは中心へ向かう扉を開く。
聖域の消滅まで、後――――。
独自解釈にはなりますが、デルタがヴォイドに気づけたのは中心に近づいていた為です。
後は剣を抜くために全力を出したため、オーラ的なモノが強まったというイメージです。
気功とかそう言った感じの。