主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
早朝。静かで少し涼しい森の中を、俺はシャドウガーデン衣装に身を包んだ獣人の少女、ゼータに先導されつつ歩いていた。
記憶が確かなら、彼女とは年単位で会っていないはずだ。アルファとかベータとかと会う以上の感慨深さがある。
「しかし、まさか本当に見つけてくれるとは思わなかったよ。結構大雑把なオーダーをしたつもりだったけど……大変だっただろ?探すの」
「そうでもないよ。真偽はともかく、噂話程度ならそこら中に転がっていたし……何より、アレを発見できたのは、本当に偶然だったからね」
木々をかき分けながら歩く。こういう舗装されていない道を歩いていると、童心に帰った気分になる。
昔は修業=山だと思っていたからな……夏休み、両親の実家がある田舎に帰省しては「入ってはいけない山」にこっそり忍び込んで夜を明かし、獣たちと時に戯れ時に闘い、己の精神と肉体を鍛えたモノだ。
……もう一度山籠もりとかしてみるのもありだな。
近々ブシン祭というビッグイベントもあるわけだし、主人公力を高める意味を込めて合宿的なノリで……
「それで、そろそろ教えてくれても良いんじゃないかな?どうして私に龍を探すように命令したのか」
「理由、か」
獄炎の龍。俺達が今向かっている場所には、そう呼ばれる伝説的な龍が居るらしい。
そしてその龍こそが、俺がゼータに前々から探すように頼んでいたモノだ。
まぁ厳密には「火を噴く強いドラゴンを見つけたら教えて欲しい」程度にしか言っていないんだけど、ゼータはどうも俺が獄炎の龍を探し求めていたと勘違いしているらしい。
実際「偶々いい感じの龍が居た」ってよりかは「ソイツと戦いたかった……!」って方がカッコ良いし否定していないけど。
さてさて、理由ね。シドが霧の龍と戦ったーって自慢話をしてきたのに触発されたってだけなんだけど……せっかくゼータがシャドウガーデン的なノリで会話してくれているのだ。カッコ良い返事がしたい。
―――という事で、昨日色々と調べてきました。
獄炎の龍という名前を教えてもらってから、取り敢えず文献やら噂話を貴族特権から金までなんでも使って調べてみた所、それっぽいカバーストーリを完成させられた。
咳払いを一つして、俺は一つの物語を朗読するように語る。
「この世の地獄。今向かう先は、そう評される程に過酷な地。未だ活発に動き続けている火山がそこらに立ち並び、溶岩が川のように流れる地表はあまりの熱に草の一本も生えていないという」
「この世の地獄……かつてこの世界を一冊の本にまとめようとした冒険家さえ、遠巻きにその地を眺めて記録するのみにとどめた、人を、あらゆる生命を拒絶する禁足の地。確かにそう言い伝えられているし、私も調査のために少しだけ足を踏み入れてみたけれど………」
思い出したのか、少し苦々し気な顔を見せるゼータ。
「アレは正真正銘、生命が足を踏み入れて良い場所じゃない。色々と工夫して試してはみたけれど、五分も居られれば良い方だった。まぁ、その五分の間に獄炎の龍と思しき存在を確認した訳だけど………あんな場所に、何か利益となり得るものがあるなんて到底思えない。獄炎の龍にしたって、どの話でもその強さと獰猛さしか語られていないし……やっぱり、ヴォイドがわざわざ求める理由がわからないよ」
「文献や噂話だけを拾うだけではそうだろうな。そも、俺が求めた第一の理由はそうした伝聞伝承によるものではないし、俺が注目している利益というのは広く知られていないものだからな」
「広く知られていないもの?」
「言っておくが、話すと少し長くなるぞ」
ゼータは小さく頷き、聞きやすくするためか俺の隣に立つ。柔らかく毛並みの良い尻尾が俺の腕にそっと巻き付けられた。
「金、銀、銅……いわゆる鉱物資源については知っているだろう。それらは希少価値があり、純粋に財となる」
「それはそうだけれど…もしかして、獄炎の龍がその財を貯め込んでいるって?確かに数年に一度、前触れも無く人里を襲うとは言われているけれど、その時に何かを奪っていったとかそう言った話は聞かないよ」
「ああ。別に龍そのものが持っているとは思っていない。そも、思うにヤツは災害の具現だ。『この世の地獄』の火山が一斉に噴火する時、すなわちあの地域が最も活性化する時、ヤツもまた最も力を得る。そして行き場を失くした力を、天変地異として人里にまき散らす。ヤツが現れたと記録されている町は、どれもその時『この世の地獄』に最も近い場所。予想にはなるが、ヤツは最も身近かつ最も命を多く感じる場所を無意味に襲うのだろう。そこに何かを得ようという目的意識は介在しない」
ま、調査した情報を纏めたらそう仮説を立てるのがベストだったってだけだけどね。
「ではなぜ鉱物資源の話をしたのか。それには鉱脈の生成が関わって来る」
「鉱脈?」
「ああ。聞くが、鉱脈とはどのように発生するかわかるか?」
「うーん………この世の地獄に関係する、と考えれば、とても高温な状況……という答えが正解になると思えるけど」
「ほぼ正解だ。鉱脈を形成する鉱物……の元となる成分が、水に溶けた状態で移動し、岩石の亀裂や空洞に入り込んで沈殿して鉱脈が形成される。その形成が最も行われやすいのが高温高圧な環境……つまりは地下深い場所という訳だ」
ちょっぴりドヤ顔気味に解説しているが、内容は結構ざっくりとまとめているので少し怪しい。
が、何故かこの世界では鉱脈の形成について研究が進められていないので問題ないだろう。シドのクッッッソ雑な説明でさえ叡智扱いしてもらえる世界だ。俺の今の説明でも十分なはず。
「さて。そうした鉱脈が大地の隆起などによって地表付近、或いは山などに現れている訳だが……俺が見た中で最も古い資料において、この世の地獄と思しき危険地帯の周辺は、見渡す限りの平野だったそうだ」
「―――つまり、この周囲の山にはかつて形成された鉱脈が無数に眠っている……!?」
「と、考える事が出来るというだけだ。遥か古代から噴火活動を続けている火山地帯……かつてはその地下であったと思しき山々には、果たして何が眠っているのか。我が盟友シャドウは霧の龍にその武威を示す事で古都アレクサンドリアを手に入れたという話を聞く。そこで、同じ手法を取れば真実を得られると考えた、という事だ」
……と、大体こんな感じ。
俺も実際の所鉱脈とか鉱物とかよくわかっていないけど、発言が的外れ過ぎるという事は無いだろう。
感激した様子で俺を見つめて来るゼータに、自然と気分が上がる。コイツもシャドウ様ラブ勢だが、美人は美人。例え演技であろうと、キラキラした目を向けられるだけでテンションが上がる。
「まぁ、所詮は書物から得た知識だ。実際に確かめたわけでも無いし、もしかしたら徒労に過ぎないかもしれない。―――とはいえ、そのチャンスを得られたのは他でも無くお前のおかげだ。改めて感謝するぞ、ゼータ」
「勿体ないお言葉」
普段は、というか二人っきりの時は基本タメ口の彼女だが(やれやれ系クールキャラに敬語かつ敬称で話させるのに違和感を感じた俺がタメ口にするよう頼んだ)こういう時はちゃんと恭しく頭を下げたりと、演技にメリハリがある。
「聞いていると思うが、何か褒美をやろうと思っている。ともすれば、稀に見ぬ大手柄となるかもしれないからな。―――って事で、何か欲しい物とかして欲しい事とかあれば、可能な限り聞くけど」
「それって、なんでも良いのかな?」
「当然。あぁ、可能な限りね?」
例えば死ねとか言われたら、死んだ演技くらいはするけど本当に死ぬことはしない。
俺の夢はまだまだ道半ば。死ぬには早すぎる。最低限、あと六百年くらいは生きて居ようと思っているのだから。
ゼータはわざとらしく「うーん、どうしようかなぁ」と悩む素振りを見せ、そして悪戯っぽく微笑んだ。
「じゃあ、一日ヴォイドの時間を貰いたい、ってお願いは?」
「え、そんなんで良いの?別に時間くらい、一週間程度なら問題ないけど」
アイリス王女のご厚意で、俺にはまだまだ有給が大量に残っているのだ。
恐らく俺という人材を手放さないようにするための策だろう。あの日グレン副団長とマルコさんを助けた甲斐があったという物だ。
ゼータは少し目を丸くして、首を横に振る。
「そんなに貰えないよ。ヴォイドも忙しいだろうし、それに………今はまだ、そう立ち止まっている余裕も無いしね」
「そうか……構わないけど、本当にそれで良いのか?」
「うん。じゃあ、決まりで」
たった一日を、それも俺と過ごす為に使うだなんて……勿体ない事するなぁコイツ。
遠慮せず「シャドウ様と一日過ごしたい」とか頼んだって、アイツに聞いてみるくらいするってのに。
ま、本人がなんか喜んでるっぽいし、良いか。
★★★★★
あれから数十分程経ち、ついに俺達は草木の一本も無い灼熱の大地へ―――この世の地獄へと足を踏み入れた。
ゼータは着いてこない予定だったが、俺の魔力で体を覆えば暑さに悩まされずに済む事が判明したので、普通に着いてきている。
この世の地獄はまさしくその名に恥じない過酷な環境で、溶岩の川がそこら中に流れており、地面は常に振動し、山からはマグマが絶えず噴き出している。
獄炎の龍はその環境に唯一適応した龍とのことで、この『地獄』で悠然と過ごしているらしいが……
「まったく見つからないな」
「おかしいな、前は森との境からでも見られる場所に居たのに……」
時折降り注いでくるマグマを血液のリングで防御しながら、獄炎の龍を探す。
この世の地獄がどの程度の広さなのかわかっていない事もあって、果てしない作業を行っている気分だ。
「―――仕方ない。空から探すか」
その場で飛翔し、上空から『地獄』を眺める。
一見溶岩と火山以外に何も無いように見えるが、俺達が居た場所からそこそこ離れた場所に、ソイツは居た。
黒い体表に、極彩色の翼。蛇のような体でありながら、どこか蜥蜴の要素も感じさせる。
瞳は青く、その牙は鋭い―――って、マジか。
「ッ、ヴォイド!?」
極太のレーザービームが俺を襲う。
今バッチリ目が合ったし、なんなら口からブレス的なモノを吐いてきた。
まさしくドラゴンだ。
「大丈夫大丈夫。躱せたし、あの程度なら当たっても問題ない。―――それより、気づかれたからゼータは少し警戒した方が」
「この地を訪れる者が居るとは思わなんだ」
背後から尊大な声音が聞える。
振り向けば、先程のドラゴンが静かに俺達を見下ろしていた。
「獄炎の龍だな?お熱い挨拶をありがとう。俺はヴォイド―――いや、今はヒロ・ムノーと名乗っておこうか」
ドラゴンスレイヤーの称号は主人公にこそ相応しいからな。
炎を司るドラゴンを倒した男―――うん、まさに主人公!
「獄炎の龍……あぁ、思えばその名で呼ばれる事もあったか。我は名など持たんが、それで良かろう。―――して、人間よ。この地をなぜ訪れた。この地はもはや、我以外の生けるものにとって試練の地。それこそ、同じ龍とてわざわざ訪れようとはしない。だというのに、なぜ貴様はここに居る?」
「簡単さ。アンタと戦いに来た。灼熱に生き、獄炎を操る龍………俺が倒してやる」
「戦う?倒す?何かと思えばくだらない。そんな事が、本当に可能だと思っているのか?」
「さてね。ただ俺は―――」
龍の頭上へ移動し、魔力を圧縮。
「―――人類最強だから、そのつもりで」
そして、解放する。
『“This is Super Nova”』
ブレスは得てして龍の必殺技。それを挨拶代わりに使ってきたんだから、当然俺も必殺技でお返事しないとね。
戦いの火蓋は切られた。
初撃で火山二つと周辺の土地を抉るみたいに消し飛ばしちゃったけど、まぁ龍と人の戦いってそんなもんだよね。
戦闘シーンまで入れると長くなりすぎそうだったので一旦ここで切ります。
後、ヴォイド様がノリノリで鉱脈の話をしている下りですが、僕がネットで適当に調べた事をこれまた適当にまとめているだけですので、もし有識者の方がいましたら優しく正しい説明をしていただくか、温かい目で見守るだけに留めておいてください。
僕、地学とか地理とかやってないんです。
因みにゼータですが、好意はヴォイドに寄せつつも原作通りシャドウを不死にするために奔走しています。
彼女曰く「ヴォイドは優しすぎるから、世界を管理する役目は荷が勝ってしまう。主であれば揺るがずに裁定者となりえるはずだ」とのことです。
それはそれとして家族ともどもご都合主義的に助けられているので(意図せず成功した主人公ムーブ)バッチリ惚れ込んでいます。
そうでも無ければ火山地帯で尻尾マーキングなんてしません。