主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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番外編/漆黒の凶星

 

ヒロの一撃は、決して本気のモノでは無かった。

仮に本気で『“This is Super Nova”』を発動した場合、ゼータを守る魔力ごと一緒に蒸発させてしまうどころか、この世の地獄全域がまとめて消滅してしまうからだ。

 

「……だからって、傷一つ無いのは納得できねぇな」

 

クレーターの奥から鋭く睨んでくる獄炎の龍。その体は全くの無傷。

それどころか寧ろ、先程よりも生命力に満ちた輝きを見せているような―――。

 

「今の一撃、明らかに人間の域を遥かに超えた代物だった。だが無駄だ。龍とはそう易々と死ねぬ存在。まして我は、この地そのものと言うべき存在だ。死なぬどころか、傷さえも()()()()()()

()()()()()()()()()

「何?」

 

龍の言葉を一切無視して、ヒロはコンマ数秒の間に接近し、深紅の刃で両翼を斬り落とした。

翼を失った龍は羽虫の如く落下し、溶岩の中へと沈んでいく。

 

普通の生物であれば死ぬはずだが、龍は失ったはずの両翼を当然の如くはためかせ、ヒロの眼前へと飛翔した。

 

「先の一撃で分かっていた事だが、どうも貴様は人の域を超えた存在のようだな」

「そういうお前も並大抵の龍とは比べ物にならねぇ領域に居るじゃねぇか。原理は謎だが、溶岩に潜れば回復するんだろ、お前」

「その通りだ。さて、どうする。我が力を知って尚、戦うというのか?」

「力も何も、無限に再生し続ける()()じゃねぇか」

「本当にそう思うか?」

 

龍を中心に魔力が渦巻く。大地が鳴動し、火山から溶岩が溢れ出す。

真紅のエネルギーが龍の頭上に集積し、解き放たれる。雨のように降り注ぎながら、灼熱がヒロを襲った。

 

ヒロは最低限の動きだけで攻撃を回避しつつ、視線を四方へと向ける。

 

攻撃が掠りもしない事に龍は感心の声を漏らし、今度は口からエネルギーを放出。

最初に撃ったモノよりも倍以上に太いレーザーは、『地獄』やその先にある森の地面を抉り、焼き尽くす。

威力は凄まじいが、やはりヒロには掠りもせず、回避の動きに一拍遅れてついて行くしかできていない。

 

「まさかソレ二つしか攻撃手段無いとか言わねぇよな?」

「当然。だが調子に乗っていられるのも今の内だ。―――そろそろ、本気で行くぞ!」

 

空を裂く音と共に、龍がヒロに急接近する。

その鋭い爪で彼の身体を引き裂かんとするも、その一撃は深紅の刃が難なく防ぎ、寧ろ龍の腕が斬り落とされた。

 

龍は苦悶の声と共に後退しようとするが、深紅の刃は無数の小さな針へ変化し、逃げる龍の身体を貫く。

 

「ッ、この魔力―――まさか!!?」

「察しが良いな。()()()()だ」

 

突き刺さった箇所が一斉に爆発し、龍の身体を内側から抉る。

血液の針に込められた魔力を爆発させる……言ってしまえばそれだけだが、その攻撃は龍の身体でさえ抉れる威力を誇っていた。

 

ボタボタと血を流しながら、龍は急いで溶岩だまりへと向かう。

ヒロはソレを敢えて止めるような真似はせず、黙って龍の回復を待った。

 

「ぐッ………最初の一撃の時点で凡そ察してはいたが、その魔力制御―――人智を超越したどころの話では無い。この世で貴様に並び立つ者は一人としていないだろうな」

「あー………確かにそうだな」

 

アイツ(シド)は俺よりずっと上だし、並んでるわけでは無いな。と、どこか遠い目をしながら頷く。

龍はヒロの態度が少し変な事に気づくことなく、「だが」と声を荒げる。

 

「やはり我の勝利は揺るがない。なぜなら」

「魔力は有限だがお前の再生は無限……限界のある方が負ける。まぁ当然の意見だ」

「その通り。そして我にはまだこの先の力がある。もはや貴様は着いて来れんよ。―――行くぞッ!!!」

 

再びヒロへ接近する龍。だがその速度は比べ物にならず、音さえも置き去りにしていた。

 

少し驚いた顔を見せつつも突進を回避したヒロは、血液のリングを生成し、瞳を黄金に輝かせて笑う。

 

「これで正真正銘本気モードってか。良いね。なら、俺も久しぶりの『絶滅形態(モード:アナイアレイション)』で相手をしよう」

 

ただ血液のリングを周囲に浮かべているだけだが、ヒロはやけに堂々とポーズを決める。

ゼータはポーズを取る意味こそわからない物の、滅多に見れないヴォイドの本気を自分一人が見られるという事に喜び、子供のように無邪気な笑みを浮かべた。

 

 

最初に動いたのは龍だった。

雨のように降り注ぐエネルギーと、口から放出されるレーザー。量も太さもこれまで以上のソレらが、同時にヒロを襲った。

 

ヒロは動かず、血液が全てを受け止める。

溶岩そのものと言って差し支えない熱を帯びた攻撃にも関わらず、血液は一切蒸発せず、寧ろレーザーやエネルギー弾の方がヒロの魔力に掻き消されていく。

 

遠距離攻撃では埒が明かないと判断した龍は、亜音速で迫り、ヒロを嚙み潰さんと口を開く。

勢いよく閉じられた口から激しい金属音が響いたかと思えば、龍の口から大量の血が溢れ、苦悶の声が『地獄』に響いた。

 

「がぁああああああッ!!?」

「歯を折られて辛いのは人間も龍も同じみたいだな」

 

悶える龍を巨大な槌と化した血液が叩き落とす。

溶岩に沈んだ龍は即座に再生するが、溶岩から出るよりも先にヒロが龍に肉薄していた。

 

「なッ!?なぜここに来て無事で居られる!?」

「修行の成果だッ!!」

 

鼻っ柱を叩き折るように拳を振るう。

龍は潰れたような声と共に火山に激突し、めり込んだ体を震わせながらヒロを睨んだ。

 

「くっ……―――良いだろう。我はこの地そのもの。その言葉の真意を見せてやる」

 

その言葉と同時、ヒロの足元の溶岩が突然噴き出した。

噴火。当然ただの自然現象ではなく、龍の意志によって引き起こされた物だ。

 

噴火の勢いに乗って外へ飛び出した龍が鼻を鳴らす。

 

「この地の溶岩は高濃度の魔力により温度が跳ね上がっている。いかに魔力で体を守ろうと無駄な程にな。例え溶岩そのものを防げたとしても、熱された空気を吸い込むだけで肺が焼け爛れただろう。―――我とてこの地に来たばかりの時はそうだった。死ねぬ体でただ延々と灼熱に苦しみ、長い時を経て適応したのだ。それを、所詮はただの人間にすぎん貴様が耐えれるはずも無いだろう。―――さらばだ、強者よ。貴様であれば我を殺し得たかもしれんが、生憎と我は()()を求めておらん」

「そっか。まぁ殺す資格が云々とかいう話は聞いてるし、俺も今日ここでお前を殺せるとは思ってねーから安心してくれ」

「ッ!?な、なぜ生きている!!?」

 

龍の背後に、無傷のヒロが立っていた。

回転する血液のリングが一部分ずつ分離し、お洒落な装飾の剣へと姿を変えていく中、彼は悪戯っぽく微笑む。

 

「全部言ってた通りだよ。魔力で体を守って、直接的なダメージを減らしたんだ」

「バカなッ!体を守った程度で、あの噴火を耐えられるはずが無い!」

「それも言ってた通りだって。()()()()ってヤツ。昔から溶かした鉄を素手で形を整えたり体に浴びたりする修行をやってたから、熱には強いんだ」

「……は、はぁ?!」

 

ヒロは周囲に浮かぶ剣の内一本を手に取って、切っ先を龍へ向ける。

 

「さて。お前の手札(カード)は大体理解した。切り札の再生能力以外にさほど脅威が無い事、再生能力でさえ、対処はいくらでもできるって事。―――お前はもう、俺の敵じゃねぇ」

「ほ、ほざけ!貴様がいくら強かろうと、溶岩に耐えられようと―――人が龍を倒せるわけが無い!」

「その思い上がりごと叩きのめすだけだ。―――行くぜ」

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

音速を超えた戦闘。漆黒の軌跡が空を駆けるその様子は、一枚の絵画と見まがう程に美しかった。

 

「……そろそろ、終わりかな」

 

龍は斬り刻まれる度に再生するが、一度も攻撃に転じることなく一方的にやられ続けていた。

精神が疲弊し始めているのか、動きが段々と鈍くなってきている。

 

 

「これは、宇宙(ソラ)で最も輝ける天体―――」

「ッ、ま、まだその量の魔力を!?」

 

『地獄』全域を覆う程の魔力を解放し、剣を高く掲げる。

 

聞き覚えのある口上に、ゼータは歓喜すると同時に急いで『地獄』を離れた。

 

 

「“This is―――”」

「させるかァアアアアッ!!」

 

発動させれば終わる。

本能で理解した龍は、悠然と剣を構えるヒロに噛みつく。

 

だがその牙は高濃度の魔力を纏った体を貫通する事が出来ず、逆に砕け散る。

 

慄いた龍へ、ヒロはただ囁いた。

 

 

「“―――Quasar”」

 

 

 

漆黒が龍を呑み込む。

 

宇宙で最も明るい天体(クエーサー)を模した一撃。シドでさえ『アイ・アム・オールレンジアトミック』で相殺しなければ致命傷になりかない破壊力を秘めたソレは、遠く離れたミドガル王国からも観測出来得る程に輝いていた。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

「痒い所はございませんか?お客様」

「あ、あー……もうちょい右で」

 

俺の技の中で最も破壊に特化した必殺技『This is Quasar』により、獄炎の龍は敗北を認めた。

最初こそ溶岩で再生し、息を切らしながらも「まだだ。今の一撃、流石に貴様も疲弊している事だろう」とか「ここからが本番だ!根競べと行こうではないか!」とか言ってきたのだが、追加で二、三発撃った所、威厳も何もない涙声で降伏してきた。

 

やはりというか龍を殺し尽くす事は世界のルール的に不可能だったので、俺もその白旗を受け入れざるを得ず、目的の「この世の地獄及び周辺の土地権利」をありがたく頂戴して今回の戦いは終わった。

 

 

―――で、ここからが予想外の儲けだったのだが、なんと『地獄』のすぐ近くに大量の天然温泉が湧いていたのだ。

 

泉質の違うモノ、温度の違うモノ、細かく分ければ四十以上の温泉がそこにはあった。

 

 

そんなの早速楽しむしかねーじゃんという事で、ゼータに先に帰るように伝えて一人楽しんでいた(混浴できる程俺の思春期スピリッツは枯れていない)………のだが。

 

 

「ふふっ……ヴォイドの背中は大きいね。それに硬くって、とってもたくましい」

「そ、そうか。鍛えてるからな」

 

一度は俺の言葉に従い、去って行ったゼータ。

しかし何故か風呂道具一式を持って戻って来た挙句、バスタオル一枚という無防備な姿で俺の背中を流し始めた。

 

なんだコレ、夢でも見てるのか?

 

 

「よし。じゃあ、次は前を洗おうかな」

「待て待て待て!背中はともかく前はダメだろ!?」

「そんなに照れなくても」

「照れるわバカ!」

 

なるべくゼータを見ないようにしながら垢すり(ミツゴシ製。滅茶苦茶柔らかい)を奪い取り、急いで体を洗って泡を流す。

 

ダメだ。せめてお湯に浸かろう。バスタオルオンリーで、こんな開けた場所に美女(ゼータ)と一緒に居たら耐え切れん。

 

「しっかり洗わないと駄目じゃないか」

「良いんだよ。今大事なのはこの天然温泉を楽しむ事なんだから」

 

泥湯温泉が丁度近くにあったので、そこに緊急避難。

体がしっかり隠れる場所に入れた事で、ほっと息を吐く。

 

ゼータは軽く体を洗って、すぐに俺の隣へ向かってきた。

天然の湯舟とは言え、そこそこの広さはあるというのに。

 

「……あのさ、近くない?」

「そんな事ないと思うよ」

 

耳をピコピコと動かしながら、泥湯の中で俺の手を握って来る。

 

ゼータは確か、金豹族という種族だったはず。豹、つまりは猫だ。

俺の勝手なイメージにはなるが、猫はあまり人に懐かない……というか、人とベタベタしないイメージが強い。

犬しか飼った事ないし、本当に偏見だけど。

 

だというのにゼータのこの距離感………七陰全員シャドウラブ勢なんじゃ無かったのか?

俺の恋愛センサーが間違っていた……なんて事は天地がひっくり返ってもあり得ないし、だけど今のゼータの行動を見ているとまるで俺に気があるような………うーむ、わからん。

 

 

仕方ない。考えるのを止めよう。

幸い浴槽が深いおかげでゼータの身体は殆ど隠れているんだ。意識さえしなければ、そうそう問題は起こらない。はず。

 

「……えっと、家族は元気か?」

「うん。と言っても、最後にあったのは一週間以上前だけど……皆、元気そうだったよ」

「そっか。まぁムノー家領(ウチ)は基本平和だしな」

 

普通、悪魔憑きを発症した者は家族にさえ見捨てられるモノだ。

だがゼータは珍しく、家族全員が彼女を守るために立ち上がった。

その結果家族どころか種族さえも全滅させられそうになったのだが、そこに運よく遭遇したのが俺だった。

 

で、お察しの通り俺が迫る魔の手を蹂躙してゼータの悪魔憑きと家族の傷を癒して、その後ちょっとしたやり取りを挟んでシャドウガーデンの仲間入り&庇護下入り。

 

今頃彼女の家族はムノー家領で晴耕雨読のスローライフを送っているはずだ。

 

「……本当に、ありがとう。あの日、私と家族を救ってくれて」

「救ったなんて言われるほど大層な事してないよ」

 

あの時はまだまだ未熟すぎて、親父さんに傷跡が残ってしまった。

ちょっと歯がゆい。今なら傷も残さず治せるんだろうけど……古傷を再生できる程の腕は今も無いし、もう少し待ってもらうしかなさそうだ。

 

ゼータは目を細めつつ、俺の肩に頭を載せて来る。

だから近いって。

 

「やっぱり、優しいなぁ。―――優しすぎるくらいに」

「そんなか?俺は結構自分勝手な自覚あるけど」

「自分勝手?ヴォイドが?」

 

鼻で笑われる。そんなに自己主張少ないか?俺。

 

「………ま、どうでも良いか。風呂あがったら先に帰ってて良いからな。俺は早速鉱脈探しに行く」

「それくらい手伝うよ」

「良いって。まだ()()があるんだろ?」

 

なーんて、鉱石を独り占めしたいだけなんだけど。

 

「それはそうだけど……」

「もし時間に余裕があるってんなら、今日の事をアルファ達に報告しておいてくれ。そっちのが助かる」

「むぅ………わかったよ。それじゃあ、早速行ってくる」

「え、あぁ。そうか。じゃあ頼んだ」

 

泥を洗い流し、スライムスーツを纏った彼女を、手を振って見送る。

別に今すぐに行ってこいと言う意図は無かったんだけど……別に良いか。

 

 

「―――もうちょっとのんびりしてから、トレージャーハントと洒落込みましょうかねぇ」

 

周囲の山を眺め、そこに眠っているだろう金銀に想いを馳せる。

 

一体何ゼニーの稼ぎになってくれるだろうか。とても楽しみだ。






数日後

「いやぁ、流石ヒロ。こんな秘湯を見つけ出すなんてねー」
「しかも嬉しい金鉱山付きのな。今日だけで結構稼げたんじゃねーか?」
「陰の実力者としての活動資金を満たしつつ、一仕事終えたらすぐに天然温泉を楽しめる……楽園……いや、天国かな、ここ」
「一応『この世の地獄』って言われてるらしいぞー」
「こんな良い所なのにねー」
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