主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
まぐろなるど、というハンバーガーチェーンがこの世界には存在する。
何故かはわからないが前世でよく見た某チェーンとほぼ同じ外観、内装、売り方で、異世界的景観に全くと言っていいほど噛み合っていない。
だがどこか郷愁のようなモノを感じさせる。俺は基本モ●バーガーしか行ってなかったけど、街で見かける回数が多かったのは明らかにマ●クだったし。
「……毎度思うが、なんでマ●クモチーフの店でモ●のとびきりチーズが売ってるんだ……?」
席を探しつつ、小さく呟く。
俺のトレーの上には、三つのとびきりチーズまぐろ。俺が●スバーガーで一番大好きな商品のパクリみたいな品だ。
味も驚くほど一致している。
「バーガーキ●グにロッ●リア、フレッシュネ●バーガー……果てはラッキー●エロ……他店商品が殴り合ってやがる。バーガーの無法地帯か?」
窓際が丁度空いていたので腰掛けつつ、早速一つ目に噛り付く。
やはり美味い。美味すぎる。これ以外の事がしばらくどうでも良くなるくらいには美味い―――
「ヒロ?貴方、どうしてここに?」
「………奇遇っすね、アレクシア王女」
声の主の方を見ると、銀髪二人に金髪一人。
そう言えば、アレクシアからリンドブルムの一件以降、三人で行動する事が増えたという話を聞いていた。
どうも俺は、その女子会とうっかり遭遇してしまったらしい。
「突然『修行してくる』なんて言ってそのまま居なくなって……探したのよ?」
「あー、うん。ちょうど帰って来たんだ。ブシン祭も近いし」
「ヒロ君もブシン祭に出場するのですか?選抜試合では見かけませんでしたが……」
「ははは……ちょうど前日に足を折ってまして」
「そんな!今は大丈夫なんですか?」
「あぁ、はい。全然元気で、寧ろ有り余ってるくらいですよ」
一切断りなく俺のテーブルにトレーを置き、近くの空席からとって来た椅子を置いて相席してくる三人。
元々二人用の席という事もあり、やや窮屈だ。
何より、遠慮って言葉を知らんのか、この三人。
「………別に、ブシン祭の為って訳じゃないんでしょう?」
「修行の事か?―――まぁ、この間見た【シャドウガーデン】に触発されたってのはあるな」
リンドブルムでの一件。一緒に入った癖に俺だけ別行動してしまったモノだから、なんかそれっぽい言い訳を作る必要があり………俺はいきなり聖域の最奥に飛ばされ、そこでシャドウとヴォイドの二人と遭遇。二人の圧倒的な力を見せられ、そのまま何もできずに帰還した―――という事にした。
なぜヴォイドの名前を出す必要があったのかというと、何故かアレクシアが知っていたからだ。
本当は「凄いのは全部シャドウ」という話に纏めたかったのに、一体どうして知っていたのだろうか。あまり聞きすぎても怪しまれると思って黙っているけど、すごく気になる。
「ただ元々ブシン祭前には修行する予定だったし、心意気にちょっと変化があったってだけだよ。―――言っておくけど、結構強くなった自信あるぜ」
「災厄の魔女を相手に勝利したヒロ君が、今まで以上に強くなったと豪語するなんて……本戦で会うのを、楽しみにしています」
「ええ。生憎、負ける気はありませんよ」
「それは私も同じです」
バチッ!と火花が散ったような気がする。
こういうライバルキャラ感ある人が居ると物語が引き締まるんだよな。
「ヒロ様は、これから出場登録に?」
「まだまだ締め切りまでありますし、もう少しのんびり行こうかなって思ってます。そこそこの期間留守にしていたので、やる事が山積みになってて」
「自業自得よ」
「手厳しいっすね……」
さりげなく最後の一個になっていたバーガーを食べ終えた俺は、ごちそうさまと一言呟いて立ち上がる。
女子会に混ざるタイプの男主人公なんて、今日日誰も求めていない。ハーレム物にしたってヒロインだけでわちゃわちゃやってる回を出さねば売れない時代なのだ。
いや、それは昔からか。
「じゃあ、お先に失礼します」
足早にその場を立ち去る。
実際、やることは溜まっているのだ。さっさと帰って、さっさと片付けようじゃないか。
★★★★★
さて、そんなやり取りももはや過去の事。
山積みになっていたタスクを全部終えた俺は、ようやく大手を振って出場登録を行えるようになった。
街は物凄い熱気だ。皆、ブシン祭というビッグイベントに心を躍らせている。
勿論俺も、物凄く楽しみだ。
何と言ってもトーナメントバトル!バトル物の王道!読者やら視聴者やらにはダレると言われがちだが、当事者としては凄く楽しいアレ!!
今回はどういうパターンで行くかなぁ。
やっぱり王道の優勝ルート?それともダークホースに敗れ、後を託すルート?
決勝戦前に強いヤツと本気のバトルをやって「事実上の決勝戦だ……!」と観客たちが打ち震えるルートも捨てがたい。
そう言えば今回、シドはどうするんだろう?
ブシン祭関係の話を全くしてこなかったし、何かアイツなりの考えがあるんだろうけど………っと?
「ちょっと、何よその態度!せっかく人が心配して―――」
「必要ない」
突然聞えて来たレディーの大声。次いで聞えた低い男の声。
見れば、なんか派手な恰好をした見覚えのある魔剣士と、全く見覚えのない、地味で弱そうな魔剣士が居た。
恐らく、派手な恰好をした方が弱そうな方に「アンタ死ぬわよ」とか言って出場を止めさせようとした所、失礼な態度を取られてご立腹……って感じかな?
行ってしまえばあるあるだが、さて、こういう状況、主人公ならどうする……?
「おい兄ちゃん、忠告は素直に聞いておくモンだぜ」
おっとここで一人強面の屈強な男が登場!
大会前のひと悶着ってヤツだな?おいおいおい、どこまで俺を昂らせてくれるんだブシン祭ッ!!
「俺はクイントン。ブシン祭には何度も出場してるが、毎度毎度お前みたいに調子に乗った雑魚が場を白けさせるんだよ。頼むから、家でママのおっぱい吸っててくれねぇか?」
傲岸不遜な態度。だが実際クイントンからは強者の風格を感じる。
俺やシドと比べれば完璧雑魚だが、この中ではまぁまぁだろう。常連を自称するだけはある。
ジョークも陳腐だが、言い方も相まって良い味を出している。
周りを取り囲む野次馬達がやいのやいのと声を張る。
そんな中、完全アウェーな男は猫背のままぼそりと呟いた。
「少なくとも、お前よりは強いさ」
言ったッ!!
あの男、見た目の弱そうな感じと裏腹に、瞳に強い自信があった。
だから俺はこの大会における「ダークホース枠」と仮定して見ていたが……期待通りだぞこの反応!
クイントンのこめかみに青筋が立つ。野次馬達が下品に笑い、喧嘩を煽る。
「おい。口の利き方には気を付けろよ。誰が俺より強いって?」
弱そうな男の胸ぐらを掴んで持ち上げる。握りしめた拳は、ただの脅しじゃない。
クイントンは男の発言によっては容赦なく殴る。
そして俺の予想が正しければ、確実にあの男は―――
「ふっ」
「ッ、躾が必要みてぇだな……!!」
煽ったッ!!
クイントンが拳を振りかぶり、男の顔面目掛けて振り抜く―――そしてその瞬間こそ、俺の出番!!
「なっ!?」
「まだ試合前だろ、
人混みを縫って一瞬で二人に接近した俺が、男の顔面に叩きつけられんとしていた拳を受け止めた。
カッコ良く、スタイリッシュな片手スタイルだ。
クイントンも男も、野次馬から見覚えのある女魔剣士まで、全員が目を見開く。
「テメェッ、邪魔してんじゃ―――ッと、その顔、見覚えがある。最近噂のヒロ・ムノーだな?」
「俺が誰かはどうでも良い。クイントン、だったか?血気盛んなのは結構だが、よってたかって、なんてのは気分が悪い。───それとも、俺とアンタで
クイントンが生唾を呑み込む。
数秒見つめ合った後、彼は舌打ちと共に男から手を離し、踵を返した。
命拾いしたな、なーんて捨て台詞もセットだ。
なかなかわかっている男である。
「………礼は言わん」
「だろうな。───アンタ、強いだろ。俺が何かしなくても問題なかった。違うか?」
野次馬がぞろぞろと去っていく中、俺と男だけが動かずに見つめ合う。
微かに瞳が揺らいだ辺り、図星だろう。
「……………どうして、そう思った?」
「第一に、目だ。アンタの目には自信があった。思い上がりの雑魚とは違う、もっと強く、事実に裏付けられた輝きがな。第二にその立ち振る舞い。猫背で重心も安定せず、脱力気味。あまりに弱そうだ」
「なのにオレが強いと?」
「ああ。悪いけど、
「完璧すぎるが故の不自然さ……か」
「ああ。強さを隠す理由は千差万別。追及はしないさ。ただ、俺以外にも気づく奴がいるかもしれないから、次からは今言った点に気を遣うと良い」
名も知らぬ男に、俺は静かに背を向ける。
完璧だ。『誰もが侮る雑魚に扮しているダークホースの正体を唯一見抜き、これから始まる戦いが一筋縄では行かなさそうな事を読者や視聴者に予感させると同時に己の観察眼の鋭さ、修行の成果を披露する主人公』ムーブ………まさか出場登録前という、最高のタイミングでこれが出来るだなんて!!
やっぱりコイツが居ると、俺の主人公ムーブに彩りが加わるな。
感謝するぜ、
「ま、待ちなさい!!」
「……ん?」
スキップしそうな心を落ち着かせつつ悠然と歩いていた俺の背に、女性の声が浴びせられる。
見れば、先程の喧嘩の発端となった見覚えのある魔剣士。一言で言い表すなら、青。鎧から髪色まで真っ青な……それでいて、勝気な性格を感じさせる目つき。
どこで会ったんだろう。いや、話したイメージが無いぞ?
じゃあ見たって事になるが………あっ、もしかして女神の試練?
思えばベガルタ七武剣だかなんだかの、ボロネーゼだかなんだか……ベータに教えられた覚えがある。
後は呼び出しの時に、節穴とか言われてたな。
よし。これは『始まる前から強者のチェックは怠らない、情報戦でも差をつける系主人公』をやるチャンスだ。
カッコ良く振り向いて、名前を呼ぶ。
この青髪の美人さんは―――
「誰かと思えば、ベガルタ七武剣のボロネーゼ・節穴さんか」
「その名は捨て―――いや待て、私はアンネローゼ・フシアナスだ!!」
「えっ」
―――は、恥ッッッずゥウウウウッ!?
ポーズは歴代で五本の指に入るほどの決まり具合だったのに、セリフミスかよォオオオ!?
顔を真っ赤にして憤慨する節穴―――もとい、フシアナスさんに慌てて頭を下げる。
「す、すんません、マジで間違えました。フシアナスさんですね。フシアナスさん」
「……アンネローゼで良い」
「は、はい。ボロネー……アンネローゼさん」
美味しそうな名前だねとか思って申し訳ございませんでした。
「それで、俺になんの用でございましょうか」
「さっきの、あの弱そうな人との会話。どういう事?」
「……はい?」
どういう事、と言われましても。俺にはそうとしか思えなかった。
だって説明はさっきの会話、というか俺の一方的な暴露で終わったはずだ。
思えばこのボロネーゼ―――もといアンネローゼさんは野次馬達が興味を失くして去って行った中、一人だけ俺達を熱心に見つめていた。
つまり俺の解説もしっかり聞いてたはずだが、あれ以上聞きたいような事が果たしてあっただろうか。
首を傾げる俺に、アンネローゼさんはやや声を荒げて尋ねて来る。
「あの男の強さを、どうしてアナタは知る事が出来たの?」
「あの、俺の話聞いてました?」
同じ事を短期間で二度も説明するのは余り面白い作品とは言えない。
主人公として自分の物語が駄作になるのは避けたい事だ。
嫌そうな態度を隠しもせず溜息を吐くと、アンネローゼさんは一瞬口ごもりつつ、
「聞いてたけど……どうしてあの男をそこまで注視していたのか、って事よ」
「別に注視なんてしていませんよ?」
「嘘よ。アナタはさっき、あの男がどの瞬間でも弱そうに見えたって言っていたじゃない」
「まぁ確かにそうですけど……ただ視界に映っている間の情報でそう判断したってだけですよ。―――ブシン祭なんてビッグイベントに参加しようとする人の群れ。どこを見たって、自分の強さを見せびらかしているヤツばかりだ。それは俺も、貴方も同じ事。そんな中に一人だけ、露骨に弱そうな人が居たら……そりゃ、気づくでしょう?」
それを注視と言われれば話は違うが、そんなの些細な事だ。
アンネローゼさんは言葉に詰まった様子で、わなわなと震えた。
気づいていない貴方が悪いんですよーと言ったように受け取られたのだろうか。そんな意図は全くないのだが。
……さてと。これ以上話す事も無さそうだし、それっぽく締めて今度こそクールに去るか。
「互いに女神の試練を突破した者同士、戦えるのを楽しみにしています。勿論、負ける気はありませんので、そのつもりで。―――また会いましょう、アンネローゼさん」
なんかこういう事言うと、俺と戦う前に他の強い奴に負けて、アンネローゼさんを倒したヤツと戦う事になった俺に意志を託して……って展開になりそうだけど、それもそれで面白そうだし、良いか。
その日の夜。
「あーあ、試合が終わるまで黙ってようと思ってたのに。実力どころか正体までバレてるなんて思わなかったよ」
「ま、第三者視点って意味じゃ良い感じに整ったじゃねぇか。『誰もが侮る雑魚。しかしその実力は最強』な陰の実力者に、『陰の実力者の正体に唯一気づいた』主人公。このブシン祭、既に熱いぜ」
「まぁね。―――で、僕らが戦う事になったとして、ヒロはどうするつもりなんだい?」
「下準備は着々と進んでるさ。魔法の言葉、『修行』を使えばなんてことは無い」
「楽しみだね、初めての公式戦」
「勝つのは十中八九俺だがな」
「まさか。常に主人公の先に立つのが陰の実力者さ」