主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
「何やってんのよ、あの女は……」
不機嫌さを隠そうともせず、アレクシアが呟く。
対面に腰かけているナツメが、感情の読めない声色で淡々と告げる。
「ローズ様は王都の北へ逃亡したとのことです。恐らく、まだ王都は出ていないでしょう」
彼女達の友人であるローズが婚約者を刺して行方をくらませるという事件が、先日発生した。
新聞で大々的に報じられているモノの、詳細を知る者はそう多くない。
にも関わらず、ナツメはやけに詳しい情報を当然のように語っていた。
アレクシアはそれを胡散臭いと思いつつも、実際役に立つので複雑な心持ちだった。
「オリアナ国王は自国の問題として処理したいようです。ミドガル王国へ手出し無用の要請を出しました」
「怪しいわね」
「はい。ミドガル王国の法で裁く事も可能でしょうが、確実に両国間に摩擦が生じます。恐らく、介入は無いでしょう」
「紅の騎士団含め、実際
「ヒロ様は現状、最も動きにくいでしょう。ブシン祭を控えている身というのもありますし、何より現在、この国ではアイリス王女に次いで知名度があり過ぎる」
「姉様含め、動くだけで摩擦に繋がりかねない………どうせ、お父様も様子見に徹するでしょうね」
事なかれ主義の父親を思い出し、さらに不機嫌そうな顔を見せるアレクシア。
「ローズ様の婚約者は公爵家次男のドエム・ケツハット。捕まれば王族と言えど、重罪は免れないでしょう」
「死罪とまでは行かなくても、幽閉か流罪か……あの人が捕まるよりも前に、私達で確保しましょう。なんでいきなりこんな事をしたのか、聞きださなくっちゃ」
「お待ちください。ローズ王女は私達に何も話さず、この一件を引き起こした。つまりは、私達を無関係のままに留めたかった」
「……だから?」
鋭い視線がナツメを射抜く。
彼女はやはり動じずに、静かに答えた。
「安易な行動は控えるべきかと」
「何それ、見捨てろって事?」
「いえ、ただ良く考えて行動するべきかと」
「私が考え無しだって言いたいワケ?」
「いえ、ただもう少し時間をかけて考えた方がよろしいかと」
「私が馬鹿だって言いたいの?」
「いえ、ただ人には得意不得意があるかと」
「言いたい事があるならはっきり言えば良いじゃない」
「そんな、畏れ多い……」
わざとらしいくらいに不安そうな態度を見せるナツメ。
アレクシアは途端に真顔になり、無言でナツメの胸ぐらを掴んだ。
豊満な胸がぷるんっと揺れる。
「カマトトぶってんじゃねぇぞ」
「ひぃっ、こ、殺さないで……」
「だからわざとらしいんだよ」
ぐい、と服を引っ張る。
豊満な胸がさらに揺れる。元々胸の露出が多い服を着ていた事もあってか、今にもこぼれそうだ。
「あ、あぅぅ……」
「ぶっ殺すぞ」
「は、はゎゎぁ……」
小馬鹿にしているんじゃないかと思う程わざとらしい演技に、アレクシアは自然と一番腹立たしく思っている事さえも口にする。
「ついでに言っとくけど、人の男に色目使うのやめろ」
「な、なんのことですかぁ……?」
「―――アイツ、ぶりっ子は嫌いだって言ってたわよ」
「ッ!!!???!!?!?」
ナツメのメッキが剥がれた事で多少留飲が下がったのか、アレクシアは乱暴に手を離し、鼻を鳴らしてソファに座った。
だが今度はナツメが詰め寄る番だった。
演技中とは言え、アレクシアの今の発言はどうしても問いただす必要のある重要事項だったのだ。
「ローズ先輩には何か事情が」
「ちょっと待ってください。本当にヒロ様が、そうおっしゃられていたと?」
「別にどうでも良いでしょ。そもそも私の恋人なんだから」
「何もよくありませんッ!!嘘ですよね!?私を動揺させるために吐いた、でまかせなんですよね!?ねぇッ!!?」
やけに切羽詰まった様子で詰め寄って来るナツメに、アレクシアは「面倒くさい事になった」と顔を引きつらせる。
「わ、わかったわよ、そういう事で良いから」
「そういう事で良いってなんですか!?ま、まさか、本当にヒロ様が……!?」
「あーもう、出鱈目よ出鱈目。適当に言っただけ」
「………ほ、本当ですか?実は本当にぶりっ子が嫌いとか、そういう事は……」
「無い無い」
何を言わされているんだろう。ちょっとした虚無感を味わいながら、アレクシアは心底安堵した様子で目尻の涙を拭うナツメを見つめた。
「……話を戻すわよ。ローズ先輩には何か事情があって、私達を巻き込まない為に黙って行動した。それがムカつくって話」
「は、はぁ」
「あの日、一緒に聖域に踏み込んだ時から、私達は一蓮托生の仲間。腹ん中で何考えてるかはともかくとして、仲間としてやっていく事になった。あのとんでもない爆発の後、そう約束したでしょう?」
「とんでもない爆発………」
ナツメはアレクシアの言葉を、内心鼻で嗤っていた。
あの漆黒は、紛れも無くヴォイド様の一撃だった。
知らなくて当然とは言え、そんな貧相な語彙でしか表現できないだなんて……やはり、ヴォイド様のパートナーに相応しいのは銀髪青目の可愛いエルフしかいない。
ぶりっ子は嫌いじゃないようだし。ぶりっ子は、嫌いじゃないようだし。
そんな事を考えつつも、黙って続きを待つ。
「仲間を見捨てるなんて真似はしない。例え貴方でも、私は見捨てたりしない。いいわね?」
「……はい」
アレクシアは立ち上がり、そのまま退出しようとする。
その背に向かって、ナツメは感情の読み取れない声音に戻り、告げた。
「では、私はローズ様の情報を集めます。婚約者、ドエム・ケツハットの方も黒い噂がありますし、そちらも同時に」
「急に協力的ね。私はまずは姉様に相談してみるわ。後、ヒロにも聞いてみる」
「……ヒロ様に?」
「私が誘拐された事件、覚えてるでしょ?あの時、どうして私を見つけ出せたのか……結局聞けずにのらりくらりと流されてるけど、人探しについて何らかの知識か力があるのはほぼ確定事項。頼めば、協力してくれるかもしれない」
「これからブシン祭があるというのに?」
「だから聞くだけよ。断られたら、流石に無理強いするわけにもいかないし」
ドアノブに手をかけ、そこでふと思い立ったようにナツメに視線だけ向け、
「一応、気を付けてね」
「アレクシア様も」
一人残されたナツメは、小さな声で呟いた。
「―――ローズ・オリアナとドエム・ケツハット。二人の情報を集めなさい」
「はっ」
黒服の少女は、音も無く消える。
ブシン祭の裏で、何か大きな事件が動き始めていた。
★★★★★
ブシン祭、予選。ヒョロ、俺、シドの三人は炎天下の中、言ってしまえばしょうもない試合の数々をダラダラと見ていた。
なおジャガは実家で芋掘り中らしい。名前だけでなく、家業まで芋関係とは恐れ入った。
「……さっきから、何を熱心にメモしているの?」
「バトルデータを集めているのさ。素人は勘で賭けに参加するが俺は違う。データを集計し、統計を取り、確率をもとにベットするのさ」
「データ、ねぇ」
戦績は勿論、癖や体調、天候の影響、使用武器に苦手対面などなど、色々と集める必要があるだろう。
この男、いつもギャンブルで擦ってるイメージしか無いが、そういう情熱はあったのか。
感動しつつ、ヒョロのメモ帳を覗き見る。
書いてあることは単純で、『強そう』『弱そう』『わからない』の三つ。
舐めてんのか。そりゃ一生当たらんわボケ。感動を返せ。
「賭けってのはな、トータルで勝つもんさ。一試合の勝った負けたじゃ無く、十試合単位での利益を取る。確率を収束させるんだよ」
「ふーん、凄いね」
シドが欠伸交じりに聞き流す。
まぁ、あの程度のメモ書きしかできない時点でどんな御大層な事を言い連ねても無駄でしかない。
はぁ、これだったらアレクシアと一緒にローズ会長探しに勤しんでおけば良かった。
なんでも恋人を刺して絶賛逃亡中らしい。試しに魔力ソナーで軽く探してみた所まだ国外まで逃げていないようだし、拿捕は容易い。
ま、主人公イベントかどうか怪しい所だし、一旦何もわからないって事で放置してるけどもね。
「その話、興味深いね」
すごく調子に乗って話していたヒョロに、背後から声をかける男が一人。
見れば金髪に金の鎧に金の剣の、ゴールドフェア真っただ中みたいな男が居た。
俺もやろうと思えばこういう恰好できるんだよな。なんてったって鉱山を手に入れた男だし。
最近見に行ったらミツゴシの発掘隊がそこそこ大きな山に手を加え始めてたけど。
「あ、あなたは……!?」
「知ってるの?」
「不敗神話のゴルドー・キンメッキさんですか!?」
ご、ゴルドー・キンメッキ?一周回って安っぽい名前だな……。
目を輝かせるヒョロに、ゴルドーは爽やかに髪をかきあげた。
「その二つ名は少し恥ずかしいな。常勝金龍ゴルドー・キンメッキと呼んでくれ」
「はいっ、常勝金龍ゴルドーさん!!」
「……なんか盛り上がってるけど、有名人なの?」
「さぁ?」
思えば最近、この世界の名前センスに驚かされてばかりだ。
このキンメッキ然り、ツギーデ然り。節穴ボロネーゼさんも、最近ローズ会長がブッ刺したでお馴染みドエム・ケツハットも。
なんならシドが「誰もが侮る雑魚。しかし本当は陰の実力者」ムーブをするために変装しているジミナ・セーネンも、実在した男らしい。
今はとっくに死んでいるようだが。
「君はバトルデータを収集しているのかい?」
「はい!!」
「見込み、アリ。オレもデータ収集は欠かさず行うようにしているんだ」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。常に勝つために……ね」
なんか怪しい通販でも見ている気分になって来た。
シドも同じらしく、次に自分の試合があるのもあってか、「うんこしてくる」と適当に言って去って行った。
俺はもう今日の分の試合終わっちゃったしなぁ。暇だわ。
★★★★★
長々とどうでも良い前置きみたいな話を語るゴルドー相手に、ヒョロは一切集中を切らさずに話を聞いていた。
正直聞くに堪えない武勇伝の陳列だったが、遂にゴルドーの言う『常勝理論』が語られ始めた。
「さて、次の試合を例に挙げよう」
「3回戦第12試合!ゴンザレス・マッチョ厶対ジミナ・セーネン!」
いや名前酷いな。ジミナは相変わらず地味で弱そうだし、ゴンザレスはゴンザレスでザ・巨漢って感じだし……うーん、これが異世界ってヤツか。
「俺の理論では大体の実力は戦う前にわかる。まずはゴンザレス。肉体、風貌、表情、立ち姿……一目見るだけで中々の実力者である事がわかる。バトルパワーは1346、と言った所かな」
「ば、バトルパワー!?なんですかソレ!?」
「集計したバトルデータをもとに戦闘力を算出したモノさ。―――例えばヒロ・ムノー君。近頃話題の魔剣士という事で、密かに君の試合を見させてもらったが………バトルパワーはおよそ5000。オレが今まで見て来た中でも五本の指に入る実力者だね」
「はぁ、どうも」
「おぉッ、良くわかんねぇけどすげぇじゃねぇか!!―――やっぱドカンと賭けるならヒロか……?」
なんかブツブツ呟いているヒョロはともかく、中々嬉しい事を言ってくれるじゃないか、この人。
俺達が学園に入学して最初の夏休み。
発生したイベントの内容や数を考慮した結果、今は大体中盤に差し掛かって来たあたりだと判断している。
物語中盤は、序盤に出てきた敵がしょうもない雑魚に見えて来る時期。
例えるならゼノン先生レベルの敵が、秒殺されるネームレスモブ枠に降格する時期だ。
『本当の全力』を基準とした場合、現在俺が表に出しているのは二割六分。ゼノン先生と戦った時が一割未満で、ルスランと戦った時が例外的に四割。アメジストさんと戦った時には一割四分程度で……今は修行を挟んだという体で振舞ってるし、こんなもんだろ。
ともかく俺の二割六分は、彼から見てバトルパワー5000相当のモノらしい。
実際どの程度凄いのかわからんけど、なんか高評価っぽいゴンザレスから大きく離したこの数字、さぞ良い結果なのだろう。
「それで、対戦相手の、ジミナ・セーネンってのはどのくらいなんですか?」
「ジミナか………ッ、嘘だろ、そんな―――」
「そ、そんなに強いんですか!?もしかして、ヒロ以上!?」
ヒョロが目を剥く。
だがゴルドーは吹き出すように笑った。
「まさか!あの男、とんでもない雑魚だ!ゴンザレスとはまさに対極と言って良いだろう。三回戦までどうやって勝ち上がって来たのか……いや、どうやって魔剣士として生きて来たのか不思議なくらいに弱い!」
「え、ええッ!?」
「バトルパワーは33。残念だが、この試合にはもう見るべきところは無いね」
肩を竦めてやれやれと言わんばかりのポーズを見せるゴルドー。
………なんだ。データがどうのとか言ってたから、シドの実力偽装も見抜けるんじゃないかと思っていたが……期待外れだったらしい。
アイツの偽装能力の高さもあるだろうけど。
「さて、一つ参考までに、君が注目している魔剣士について聞かせてもらえるかな?」
「注目、ですか」
試合から目を離し、俺に質問してくるゴルドー。
ヒョロも俺の意見が気になるようで(賭けの参考にするつもりだろう)メモ帳を構えてこちらを向いた。
「ミドガル最強の呼び声高く、前回は見事に優勝したアイリス・ミドガル王女は勿論、ベガルタ七武剣の肩書を持つボロ―――アンネローゼ・フシアナス、
「ふむ、三人とも大会マニア界隈で特に注目されている魔剣士だね。特にアイリス王女なんかは優勝候補筆頭だ」
「
「「はぁ?」」
二人が訝しむような視線を向けてきたと同時、ドサッ、と何かが地面に落ちる音が響いた。
そして、困惑の混ざった声色で審判が手を挙げる。
「しょ、勝者、ジミナ・セーネン!」
「ッ、何ぃ!?」
「は、はぁッ!?なんで!?」
ジミナは相変わらず気怠そうな態度で、その場を去った。
後には気絶しているゴンザレスや、審判に対し罵倒する野次馬達と、驚きで口を大きく開いたままのゴルドーとヒョロが残る。
―――よし。シドの試合も終わったし、帰ろっと。
ゴルドーが学生に過ぎないヒロを自分以上(ブシン祭時のバトルパワーは自称4300)と判断したのは、経歴と戦闘をある程度確認した為です。
しっかりと勝てる対戦相手を選ぶ彼なら、若手だろうと有名な魔剣士は調査するだろうという僕の妄想ですが。
なお確認した戦闘はブシン祭予選1〜3回戦だけなので、5000周辺という評価も結構ズレてたりします。