主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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邪眼は無いのか

 

日は変わってブシン祭予選四回戦。

王都の外の簡易リングとは打って変わって、本戦でも使われるちゃんとした闘技場での戦いが始まった。

 

流石に四回戦目ともなれば注目度も上がり、客席もそこそこ埋まっている。

勿論空席も沢山あるが、この様子だと本戦は満席御礼間違いなしだな。

 

「うォおおおっ!王都ブシン流免許皆伝の一撃を喰らへぶゥッ!?」

「勝者ッ、ヒロ・ムノー!!」

 

 

対戦相手の顔を真正面から平手で叩き、一撃で沈める。

今の所、ずっとこの戦い方しかしていない。

主人公が本気を見せるのは、まさに「ここぞ」という時。つまりは観客たちが見ているだけでその凄さに圧倒されるような熱戦を繰り広げられる強者との戦いの時だけなのだ。

 

 

……にしても、王都ブシン流の免許チョロすぎないか?結構な頻度で免許皆伝自慢されてるぞ俺。

特に盗賊狩りしてる時とか。

 

 

 

「流石だな、近頃話題のヒロ・ムノーさんよ」

 

ジミナの試合がまだ残っているので観客席まで戻って来た俺だったが、適当な席に座った所に突然声をかけられる。

 

見れば、浅黒い肌にガタイの良い男。

覚えている。ジミナ相手に突っかかっていた、セリフのセンスが良いあの人だ。

 

「あの時の、クインテットか」

「クイントンだ」

「………そう、クイントン」

 

ダメだ。ここ最近わかりやすい面白ネームが続きすぎたせいで、こういう普通の名前がどうも覚えられない。

 

 

隣、邪魔するぜ。と一言断って、彼は俺の隣に腰かけた。

野蛮そうな見た目の割に随分と礼節がしっかりしているなこの人。

 

「アンタの試合は一回戦の時から追わせてもらってるが……強いな。全員顔面ビンタでノックアウトとは」

「全力をそう易々と見せるつもりも無いんだ」

「ハハハッ、だろうな。アンタはそういうタイプだろうよ」

 

会場がトンボ(グラウンドの土を整えるアレ)で整えられるのを眺めつつ、俺達は互いの顔も見ずに会話を続けた。

 

「次の試合、()()()が出るな」

「ジミナ・セーネン……一回戦で呆気なくやられると予想していた雑魚が、四回戦まで昇って来たのが気になる、ってとこか?」

「ああ。それに、見る気は無かったが偶々アイツの三回戦が目に入ってな。周りの連中は、ゴンザレスが勝手に倒れたと勘違いしていたようだが……ありゃ、アイツがなんかしてたな」

「―――へぇ」

「面白い話をしているわね」

 

この人意外と見る目あるなぁ、とちょっと感心していた所、またしても誰かから声をかけられる。

今度は女性の声。聞き覚えのある―――というか、節穴さんだ。

 

「かのベガルタ七武剣様もジミナの試合が気になるってか?」

「その名は捨てた。今はただのアンネローゼだ」

「おっと、ソイツは失礼。―――んで、嬢ちゃんは昨日のアイツの試合、見てたのか?」

「ええ。そこの近頃話題の彼が、明確に『強い』と断言した男だもの」

 

今思ったけど、俺を差す肩書が『近頃話題の』しかないのちょっと寂しいな。

もっとわかりやすくってシンプルかつカッコ良い、二つ名的なのが欲しい。

後でシドと話し合ってみるかな。

 

アンネローゼさんは俺の隣に腰かけ、足を組んだ。

 

断りも無しか。クイントンは一言あったのに。育ちの差か?―――いや、こっちの方が育ち良さそうに見えるけども。

 

「それで、嬢ちゃんは昨日の試合、アイツが何をしたのか見えたか?」

「……わからなかった。ただ、彼の右手が動いたように見えた。そこから先はわからなかったけど」

「右手で顎に三発、転んだところに足払い」

「……えっ?」

「昨日のジミナの攻撃だ。わざわざ足払いまでして、躓いて転んだ感を演出してたな」

 

まぐろなるどで買ったウーロン茶を飲みつつ、種を明かす。

クールにさも当然のように語ったが、内心はウッキウキだった。

 

こういうのがやりたかったんだ。誰も気づいていないダークホースの実力に、いち早く気づく強キャラ系主人公!

 

血流を速めて体温を上昇させ、じんわりと汗を流しているのがポイントだ。

「野郎、やりやがった……!!」感の演出!シドがこの場に居たら、思わず賞賛の拍手を送っていたことだろう!

 

「仮にそうだったとして、なんでそんな手間を」

「アンタ等含め、全員に雑魚だと思われる為に演技をしている男だぞ?ソイツがあんな簡易の舞台でいきなり全力を見せると思うか?」

「あの場は偽装に徹していた……と言う事?」

「……なんにせよ、次の試合でわかる事だろ。四回戦目のジミナの相手は、あの不敗神話だ。俺は詳しく知らんが、名前くらいは知っている」

 

あぁ、メッキさんか。

あの人すっごく自信満々に振舞ってたけど、予選でアイツと当たっちゃうのか。可哀そうに。

 

いや、一番被害を被るのはヒョロか。アイツは確かゴルドーさんに一点賭けだ!!とか息巻いてたし、このままじゃ………うん、俺には関係ないな。

 

アンネローゼさんは不敗神話の名前を聞いた途端、苦笑した。

 

「不敗神話……言い得て妙ね。修行の旅の途中、何度か彼と試合で当たった事がある」

「って事は、嬢ちゃんが負けたのか?」

「違うわ。戦えなかったのよ」

「…………あぁ、なるほどな。だから『データ収集』ってか」

 

アンネローゼさんのセリフに、彼が熱弁していた内容の真意をようやく理解した。

しかしクイントンはまだわからない様子。

 

「彼は自分より強い相手とは決して戦わない。厳密には、負ける可能性のある試合には絶対に臨まないの。事実、彼とは三回ほど当たったけれど……どれも、試合前に棄権されて無効試合になったわ」

「だからこその不敗神話、ってか。絶対に負けないようにしてるわけだからな。となるとゴルドーに期待はできないってか」

「そうでもない。勝てない相手から逃亡するとは言え、大会では常に上位に食い込んでいる。小規模な大会なら優勝経験だってあるわ」

「なるほど、決して弱いわけでは無いって事か」

 

むしろ逃げる選択肢を堂々と取れる分、並の魔剣士よりも強い気がする。

主にメンタルが。

 

 

話している内に、遂にゴルドーとジミナが入場してきた。

金ぴかド派手なゴルドーと、無味無臭の具現みたいなジミナ。対極の存在に見える。

 

「実力差を精確に測る目。それがゴルドーの真の強みと言って良い」

「ジミナはソレを曇らせる程の実力偽装が出来る強者か、或いはアーティファクト頼りの卑怯者か……見ものだな」

「付け加えて言うなら、不敗神話は確実に勝てる相手としか公の場で戦っていない。誰も彼の本気を見た事が無いの」

「それも含めて、面白い試合になるってか」

 

アーティファクト頼り、ねぇ。

そりゃジミナ、いや、シドに対する一番の侮辱と言って良い。

 

アイツの積み重ねを、ただの借物扱いとは。

関係ない俺が腹立ってきたくらいだ。

 

 

「四回戦、第六試合!ジミナ・セーネン対ゴルドー・キンメッキ!試合開始ッ!!」

 

 

最初に動いたのはゴルドーだ。

派手な両手剣を手に素早く接近し、ジミナの首を狙って薙ぐ。

 

対するジミナの方は剣を握るどころか、回避行動をとる素振りすら見せない。

 

普通に考えれば、ゴルドーの一撃で呆気なく首がちょん切られるだろう。

 

 

だが当然、ジミナ(シド)はそんな『普通』の枠に収まるようなヤツではない。

 

 

 

―――コキッ―――

 

 

 

「おい、マジか」

 

クイントンが微かに身を乗り出す。

彼だけでは無く、観客たちのほとんどが、そして何よりもゴルドーが驚愕していた。

 

ゴルドーの一撃は、ジミナにかすり傷一つ付けずに空ぶっていた。

致命的な隙を晒したゴルドーは、一気に血の気が引く。

 

だがその隙を前に、ジミナは緩慢な動作で剣を引き抜くだけに終始した。

 

慌ててゴルドーが後方に飛び去り、体勢を整える。

観客席からは何を言ったのかわからなかったが、口の動き的に「お前、舐めてんのか?」とかそんな感じだろう。

 

「見えたか?」

「かろうじてね。アナタは?」

「当然」

「流石だな。俺には見えなかった」

 

さっきの首の動き、明らかに()()()為の動きだったし、クイントンにも見えたモノだと思っていたが……そうでも無かったらしい。

 

なおやった事は極めて単純で、攻撃のタイミングに合わせて首をコキッっと鳴らしただけだ。

だが誰もが「避けられない、これは死んだな」と思うようなタイミングまで耐えてのソレは、ふざけているとは思うが神業の域にあると言って良いだろう。

 

「で、アイツは何をしたんだ?」

「首を鳴らした」

「は?」

「だから、首を鳴らしたんだ。コキッ、コキッって」

「―――おいおいおい、まさか首を鳴らすタイミングと攻撃のタイミングが偶々重なったってか?」

「偶然かもしれない。だけど、必然だった可能性も否めない」

「はぁ?」

「ジミナは私でも目で追うのがやっとの速度で首を鳴らしたんだ。普通の人間にできるような事じゃない」

「確かにそうだが……」

 

どうにも納得できない様子のクイントン。

俺は特に付け加えて言うような事も無いので、黙って戦場を眺める。

 

 

しばらくの間一方的に喋っていたゴルドーだったが、突然大量の魔力を放出し始めた。

金色の魔力が、龍の姿を幻視させる。

 

「見えるか!?これまでとは違う本当の魔力が………常勝金龍の力をなめるなよ!」

 

先程よりもずっと速く、ジミナに接近する。

随分と声を張っているようで、何を言っているのか鮮明に聞き取れた。

 

……しっかし、今のセリフどっかで……

 

「邪神・秒殺・金龍剣!!」

 

飛影じゃねぇか!!

口上から技名まで飛影じゃねぇか!ちょっと違うけど!!

 

「くしゅっ」

「ぶべらッ!?」

 

正真正銘、全力で攻撃したのだろうゴルドーは、しかし派手に吹っ飛ばされて倒れた。

その吹っ飛ぶ姿は、いつぞやのシドが魅せたモブ式奥義の一つ、きりもみ回転受身を彷彿とさせた。

 

因みになぜ吹っ飛んだのかと言うと、ジミナの持っていた剣がくしゃみと同時に微かに跳ね上がり、そこにゴルドーが運悪く激突したのだ。

運悪く、なんて言ったが多分ジミナは狙ってやったのだろう。アイツはそれくらい余裕で出来る男だ。

 

「しょ、勝者、ジミナ・セーネン!」

 

しばらくの間倒れたまま動かないゴルドーを無言で眺めていたが、遂に彼は立ち上がること無く、審判によって勝敗が決定された。

 

てっきり技名的に、邪王炎殺黒龍波よろしく使用者の魔力を爆発的に増やす栄養剤(エサ)で、さらに大量の魔力を得たゴルドーが起き上がり、最終ラウンドへ―――的なモノを想像していたのだが、そんな事は無かった。

 

なんか拍子抜けだな。クイントンもアンネローゼさんも、きっと呆れ気分に……

 

「ゴルドー・キンメッキ……まさかこれほどとはな……」

「ふぁっ?」

「ええ。彼が格上との戦闘に意欲的に望んでいたならば、今以上の研鑽を積んでいたならば……彼は世界有数の強者となっていたでしょうね」

「え、えぇ……?」

 

なんか二人ともゴルドーに感じ入っていた。なぜ?

 

「それで、ジミナは最後に何をしやがった?」

「なんとなくわかるけれど……彼の実力を見抜いているらしい、アナタの意見が聞きたいわ」

「あぁ、ジミナ?お察しの通り、くしゃみだよ」

「は?」

 

ぽかんとするクイントン。アンネローゼさんはやっぱりと言いたげな表情を見せ、ジミナへと鋭く視線を向けた。

 

のそのそと去って行くその姿は、やはり弱そうだ。ただこの前と違い、時折姿勢が安定するタイミングが生じている。俺のアドバイスをしっかりと吸収したのだろう。

今度アイツが正体を変えて実力を偽装した場合は、もしかしたら気づけないかもしれない。

 

「くしゃみをして、持っていた剣が微かに跳ね上がって……その切っ先に、ゴルドーが激突した。それがさっきの試合の結末よ」

「は、はぁッ!?くしゃみと龍がぶつかって、龍が負けたってか!?んな馬鹿な話があるかよ!?」

「でもそれが現実よ。ジミナの剣に激突して、ゴルドーは敗北した」

 

アンネローゼさんの言葉にクイントンが肩を怒らせて立ち上がる。

 

「馬鹿馬鹿しい。俺は認めねぇぞ、あんなヤツ」

「……ジミナもアンタもBブロックだろ。疑うんなら、予選最後の試合で直接確かめてやりゃ良い」

「ああ。そうさせてもらうぜ。もしアイツがそこまで上がって来れたらの話だがな。―――そん時ゃ見てろ。俺がアイツの化けの皮を剥してやる」

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

「ぶべらッ!?」

「勝者、ジミナ・セーネン!!」

「デジャヴだな」

 

情けない声と共にきりもみ回転し、派手に地面に激突したクイントン。

いつぞやのゴルドーと殆ど同じやられ方をした彼に、俺は死んだ目でそう呟いた。

 

なお隣の席に座っていたヒョロはクイントンに賭けていたらしく、首を絞められた鶏みたいな声を出していた。

ヒョロの次のセリフが「金貸してくれ~」の類だろうと簡単に予想できた俺は、気配を消して即刻退散する。

 

しつこいのだ、コイツのせびりは。

 

 

 

 

 

 

「「乾杯~!」」

 

ブシン祭予選最後の日。当然のように本戦へと駒を進めた俺達は、せっかくだし豪華なモノでも食おうぜという事になり、焼肉屋に来ていた。

なおミツゴシ資本の店であるため、友達料金で食べ飲み放題10割引きだ。

 

良い店知らない?って聞きに行っただけなのに、ここまでしてくれるなんて……ガンマ、お前良い奴だな、マジで。

 

「お互い、予選は良い塩梅で進められたな」

「だね。ヒロはどんな相手も顔面ビンタで一撃必殺、僕はダークホースとして注目されつつある……完璧な流れだ」

「問題は本戦の盛り上げ方だよなぁ。どういう組み合わせになるかで話が変わって来る」

「決勝戦で僕らが当たって、最後の最後に派手な大盛り上がりってのもアリだし……二回戦とか三回戦とかで当たって、事実上の決勝戦!ってのも良いよね」

「後は俺ら以外の参加者の扱いだよな。アイリス王女とかクレアとか、後はアンネローゼさんとか。ネームド感のある参加者をどう捌くか」

 

肉の焼ける音をBGMに語らう俺達二人。

騒がしい店内では、俺らの会話に聞き耳を立てるような輩も居ないので、安心してこういう打ち合わせが出来る。

 

「ヒロは今回、どういうムーブで行くんだっけ」

「修行を経てさらに強くなった物語中盤辺りの主人公、をイメージしてはいるな。ただアイリス王女をここで超えてしまって良いのかという懸念もある。魔力のゴリ押ししかしない単調な人とは言え、肩書はミドガル最強の魔剣士だし」

「難しい所だね」

「肩書で言えばアンネローゼさんも中々だし、そっちもどう処理するかが課題だな。未だにベガルタ七武剣ってのがどんだけ凄いのかイマイチ掴めてねーし…………他のベガルタ七武剣と知り合いの人とか居ないかな」

「ベータとかガンマとかに聞いてみれば?結構顔が広いみたいだし」

「片や売れっ子小説家、片や大商会のボス……聞いてみる価値はあるか」

 

 

その後は焼肉を食べながら他愛ない話や本戦関係の話をし、夜遅くになって帰宅した。

 

因みに焼肉はハチャメチャに美味しかった。今度ガンマにお礼の品でも渡そう。








焼き肉屋とかまぐろなるどのマック以外の店の商品とかは、大体ヒロのせいです。
語り始めると結構止まらないタイプで、意図せず教え過ぎたことがしばしばあります。
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