主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
シドと無料焼肉を楽しんだ翌日、まずはガンマに会うべくミツゴシ商会を訪れた。
昨日と同じく堂々と入口の列を無視して入店した俺は、すぐさま従業員のお姉さんに捕まった。
「あのですね、実は俺、ここのオーナーとお友達でして」
「存じております」
昨日と全く同じやり取りを違うお姉さんと行いつつ、関係者以外立ち入り禁止の通路を通って屋上へと向かう。
毎度毎度緊張するな、コレ。
「列にお並びいただけない場合は、ここから退店していただいております」とか言って屋上から突き落とされるんじゃないかって冷や冷やする。
当然、高度6000メートルくらいまでなら魔力無しで着地しても衝撃を殺せるので問題ないが、店から追い出されるってなんかこう……嫌じゃん。
結局、俺の想像していたバイオレンスな退店は求められず、いつも通り玉座の間的な場所に通された。
玉座の隣にそこそこ豪華な椅子と机が用意されており、お姉さんにそこへ座るよう促される。
着席すると、氷の入った果物ジュースを差し出された。
凄くサービスが良い。しかも俺の好きなグレープフルーツジュースだ。
「……来たか」
大きな団扇で扇がれながら黙って待っていると、外にガンマの気配を感じる。
俺が立ち上がると同時に、優雅なドレス姿のガンマがゆっくりと入室してきた。
全体的に涼し気なファッション。夏を感じさせる。
「お待たせいたしました」
「いや。こっちこそ突然来て悪いね」
「いえ、そんな……」
懲りずにヒールを履いているガンマだが、今度は転ぶこと無く俺の下までやって来た。
恭しく跪いた彼女に、俺は取り敢えず昨日の礼を言う。
「焼肉、美味しかったよ。店自体もかなり良かった。ありがとう」
「喜んでいただけて何よりでございます」
「うん。で、昨日の今日で悪いんだけど、一つ聞きたい事があってさ」
「何なりとお申し付けください」
「ベガルタ七武剣の知り合いとかいない?」
「ベガルタ七武剣、ですか」
ガンマが目を丸くする。
いきなりこんな事を言われたら、そりゃそうなるだろう。
流石になんの説明も無しに頼むのは気が引けるので、ちゃんと事情を付け足す。
「ブシン祭本選で、ベガルタ七武剣の一人と戦う事になるかもしれなくってさ。どの程度強いのか、事前に知っておきたいなって思って」
「なるほど………でしたら、良い相手が居ます」
「え、マジで?」
「はい!―――カイを呼んできなさい」
「はっ」
ガンマの指示を受け、お姉さんが足早に退室する。
少ししてドアが開き、クールな雰囲気を纏った金髪のエルフが現れた。
片方の目が隠れるような髪型で、微かに眼帯の紐が覗いている。
隻眼……バトル物あるあるだな。
「彼女は22番目のナンバーズ、カイです。イプシロンの部下ではありますが、時折ミツゴシで働いています。元ベガルタ七武剣ですので、ヴォイド様の望むデータが得られるかと」
「へぇ」
不躾ながら観察させてもらう。
直立不動の姿勢からは、鍛錬の量や練度、技量などが確かに伝わってくる。
緊張した様子の彼女に、俺はヴォイドとしての演技を意識しながら声をかけた。
「話は聞いているか?」
「いえ。ヴォイド様が、私をお呼びになられたとだけ」
「なら簡潔に言おう。ヒロ・ムノーとしてベガルタ七武剣と戦う機会があるかもしれない。ブシン祭という大舞台でだ。そこで、事前に他のベガルタ七武剣と戦い、どの程度の実力を持つ存在なのかを測っておこうと考えた訳だ。演技の為にな」
カイは答えない。
言いにくそうな表情で、視線を逸らす。
何かあるのだろうか。
ていうか、シャドウガーデンってそんなビッグネームも所属する劇団になっていたのか。びっくりしたよ。
「何か問題があるか?」
「い、いえ。ですが、その……私がベガルタ七武剣であったのは過去の事。既にかつての在り方は捨てておりますので……期待に、沿えないのではないかと」
なんか表情に陰があるな。
捨てて、の時に感情の揺らぎを感じたし……ふむふむ。勘でしか無いが、もしかしてシャドウガーデン設定が関わっているのかな?
シャドウガーデン加入時に全てを捨てる的なプロセスを踏んで(という体で)いるから、かつての戦い方をするのは手放しに頷けないという話―――的な。多分そんな感じだ。
元々悪魔憑きという、全てを失ったモノの代名詞みたいな存在の集まりだしね。シャドウガーデンって。
であれば俺はその設定に則って説得しよう。
「酷な事を言っている自覚はある。一度は捨てたモノを、再び握れと言うのだから。それがどれほど辛く苦しい事なのか、俺では推し量る事しかできん。その点については、すまないと思っている」
「そっ、そんな、謝罪など……!?」
「だがその上で頼みたい。もし難しいというのであれば、ナンバーズとしての戦術が混ざる事も許容しよう。だから頼む。どうしても必要な事なんだ」
「っ―――あ、頭をお上げください。ヴォイド様がお望みであるならば、従うまでです」
よしっ、大成功だ。
これでアンネローゼさんと戦う事になった時の演技に備えられる。
圧勝して良いのか、それとも辛勝の方が良いのか。
成長系主人公ムーブには、適度な実力開示が前提条件だからな。
「ありがとう。では早速戦える場所に向かいたい所だが……ブシン祭の闘技場に似た場所は無いか?広さとか」
「それでしたら、アレクサンドリアはいかがでしょうか」
「アレクサンドリア、か」
確かシドが霧の龍を倒して手に入れた土地、だっけ。
盗品置き場だった廃村が、増えていく元悪魔憑き達によって手狭になったから探しに行って……って話だった気がする。あんまり覚えていないけど。
かつて滅びた都、というくらいだし、きっとコロシアム的な建物があるのだろう。
ガンマはそれをお勧めしてくれてるのかな?
「直接行った事も無かったし、良い機会か。―――よし、早速行くぞ」
「はっ」
「行ってらっしゃいませ」
カイを引き連れ屋上へ出る。
清々しい快晴。良い
「一応聞くけど、カイは飛べる?」
「申し訳ございません。飛行は……」
「そうか。なら失礼するよ」
「はい……?って、えぇっ!?」
歩いたり馬車を使ったりすると時間がかかるので、一言断ってからカイを抱きかかえる。
いわゆるお姫様だっこだ。ちょっと気恥ずかしいかもしれないが、さっさと向かいたいので我慢してもらう。
「舌、噛まないようにね」
「は、はぃ」
返事を聞いてすぐに跳躍し、誰にも見えない速度で飛行する。
『そらをとぶ』と言えば普通行った事のある場所にしか行けないが、俺は違う。
目的地は古都、アレクサンドリア。予想到着時刻は十分後だ。
★★★★★
という事で到着しました、アレクサンドリア。
普通に都市って感じだが、畑があったりと自然豊かな部分もある。
「ヴォイド様!?」
「あ、ラムダ。久しぶり」
ちょっとグロッキー気味なカイを降ろしつつ、血相変えて駆け寄って来たラムダに軽く挨拶をする。
ラムダは片目を常に閉じている褐色肌のエルフ。
鬼教官、鬼軍曹という言葉はまさに彼女の為にある、みたいな厳しい指導者で、七陰達からの信頼も篤い人だ。
確か七陰達が【シャドウガーデン】ごっこを二の次にする、という宣言をした後の加入だったっけ。世界各地に散らばってーってヤツ。
ゼータくらい滅多に会わなくなっていたから、なんだかじーんと心に沁みるモノがある。
旧友との再会ってヤツかな。
「な、なぜここに……?それも、カイを連れて」
「色々あってベガルタ七武剣と人前で戦う可能性があるから、どの程度なのか確認しようと思って。あぁ、気になる事はあるだろうけど、彼女の許可は貰ってあるから大丈夫」
「そ、そうですか……んんっ。と言う事は、ここに来たのは戦うための場所を求めて、でしょうか」
「そうそう。でも見た感じ、使われてるっぽいね」
「いえ。ヴォイド様が使われるのであれば、すぐにお譲りします。―――訓練は中止だ!」
ラムダの指示を受け、黒いボディスーツ姿の少女達が素早く行動する。
空くまで待とうかなー、って事でここに着陸しただけなんだけど、なんだか急かしてしまったようだ。
一礼して訓練中らしい少女達の方へ向かっていったラムダを見送りつつ、カイに声をかける。
「そろそろ大丈夫?」
「は、はい。申し訳ございません」
「謝らなくて良いよ。寧ろ俺に付き合わせて悪いね。空飛ぶの、初めてだった?」
「はい……」
出来る限り揺らさないように心掛けてはいたけど、カイの様子を見るに余り快適な旅では無かったようだ。
「会場準備、完了いたしました」
「あぁ、ありがとう」
綺麗な姿勢で敬礼するラムダ。
この速さでこの広さのフィールドを整えるとは流石だ。
「じゃあ、早速始めようか。そっちのタイミングで始めてくれて構わないからね」
「は、はい」
カイは気合を入れる為か自分の両頬を叩く。
緊張で少し体が硬くなっているようだが、大丈夫だろうか。
★★★★★
合図は無く、勝負が始まる。
カイは無言のままヴォイドへ接近し、突きを放つ。
超高速の刺突は、フェイントを織り交ぜた巧い攻撃だった。
だが、ヴォイドは素手で本命の攻撃を絡め取り、足払いでカイのバランスを崩させた。
転びそうになったカイは地面に手を付いて跳躍し、ヴォイドから距離を取る。
―――が、姿勢を整えたその瞬間にはヴォイドが眼前に迫っており、強烈な蹴りが彼女の脇腹を抉った。
「かはッ……!?」
地面を転がるカイを、ヴォイドは追撃する事無く眺める。
これはあくまで実力を測るための戦い。ただ倒すだけなら意味が無いのだ。
「わかるか?」
ラムダが構成員たちに対し、簡潔に尋ねる。
数秒待ち、誰も答えられないと判断した彼女は、二人の戦いから目を離すことなく告げた。
「ヴォイド様は魔力を一切使用していない」
構成員たちがギョッとする。
当然だ。ヴォイドの動きは、明らかに魔力無しでは不可能なモノ。
魔力を使い、全力で槍を振るう
「そしてあのパワーは、単なる怪力等では無い。魔力で身を守っている相手であろうと悶えさせる一撃は、鍛え抜かれた『技』によるものだ。呼吸、角度、力の流れ……攻撃に関する全ての事象を制御できるようになれば、あのような芸当も可能だ。―――私は以前、意識調査の結果でデルタ様の戦い方に憧れる者が多いと出た時、『アレはデルタ様にのみ許された戦い方だ、貴様らは基礎を重んじ、技を磨け』と言ったな。その果てにあるのが、ヴォイド様の戦い方だ」
突き出された槍を絡め取る。横薙ぎの一撃にそっと手を添えて、軌道を逸らす。
足で隙を作ろうとされれば、逆にそれを隙として姿勢を崩させる。
武の極地。
例えカイがスライムの特性を十全に生かした戦法を取ったとしても、この差は微塵も縮まらないだろう。
「どうした?動きが鈍いぞ」
「はぁあああッ!!」
汗を流し息を切らし、すぐに限界を迎えそうなカイに対し、ヴォイドはどこまでも余裕だった。
踊るかのように動き、隙を逃さずに
アンネローゼとは得物が違うながらも、なんとなくベガルタ七武剣の実力を掴みつつあった。
「……よし。そろそろ終わろうか」
「はぁ、はぁっ……はい」
「ありがとな。おかげで色々決められたよ」
漆黒の魔力がカイを包む。傷が癒え、消耗した魔力や体力が再生し、心なしか肌や髪の色艶も良くなる。
「お礼、って程でも無いけど。少しサービスしておいたから」
「あ、ありがとうございます!!」
見事な直角のお辞儀に苦笑いしつつ、ヴォイドは手をヒラヒラと振った。
彼にとっては本当に大した事では無いのだが、カイや離れたところで彼らを見ているガーデンメンバー達にとっては身に余る光栄だった。
「ラムダ達も、邪魔して悪かったね。そろそろ帰るよ」
「邪魔などと、そのような事はございません。むしろ、その偉大なる御力の一端を見て、皆やる気に満ち満ちております」
「そっか。―――あ、そうそう。ブシン祭の本戦、俺とシャドウが戦う事になると思うから、暇だったら見に来てね」
「ッ、御二方が!?」
動揺が広がる。
「多分派手に戦う事になるだろうし、面白いと思うよ」程度の誘いだった為に、ヴォイドはラムダ達の反応に軽く首を傾げた。
「……必ず、見させていただきます」
(そんな覚悟の決まった顔をする事かな……?)
温度感に疑問を覚えつつも、ヴォイドは特に何も言うことなくカイを抱きかかえ、そのまま飛び去った。
残された構成員たちが、初めて見たヴォイドの戦いに触発されてかいつも以上に真剣に訓練に臨むようになるが、それをヴォイドが知る事は無い。
★★★★★
一筋の光のみが差し込む、神秘的な空間。
純白の羽根が降り注ぐこの場所で、俺はピアノを演奏していた。
理由は特に無い。強いて言えばピアノの運搬を手伝った報酬……とかだろうか。
「流石、ピアノも上手だね」
「お前ほどじゃ無いが、練習はしてたからな」
演奏を終えた俺は、たった一人の観客に対し恭しく一礼する。
にこやかに称賛してくれたシドにピアノを譲ると、わざわざシャドウの姿に変身してから演奏を開始した。
曲名は、月光。
幻想的に輝く月を幻視させるほどの演奏技術は、言うなれば美の極致。
芸術という分野においても、陰の実力者は己の実力を見せつける―――とか言っていたが、まさしくその通りだった。
「―――それで、結局決まったの?ブシン祭本戦をどう楽しむのか」
「ああ。お前以外の相手は、全部圧勝する事に決めたよ」
「へぇ。それはまたどうして?」
演奏を止めず、シャドウが尋ねる。
俺が過去に言った「演奏とかコイン遊びとか、そういうのをしながら会話するのってなんか良い雰囲気あるじゃん?」という発言が、彼のお気に召した証拠だ。
「元ベガルタ七武剣の子と戦ったって話、さっきしただろ?それで決めた」
「弱かったんだ」
「強さも巧さも特に凄いかって言われると微妙だったし………下手に苦戦する演技したら、整合性がな」
「僕と当たった時に、ちょっと面倒な事になっちゃうもんね。でも王女様も圧勝で良いの?」
「毒を食らわば何とやら、だ。ベガルタ七武剣なんてビッグネームに圧勝する癖に、王女様には大苦戦ってのもおかしな話だろ。それなら正体不明のダークホースにだけ苦戦する方が現実味あるわ」
「それもそっか」
ピアノの音だけが響く。
しっかり最後まで聞き届けたいという思いはあるが、ふと何者かの気配を感じたので、無言でその場を退散。
一応マナーとして、シドに「誰か来たから先に帰るね」と魔力信号で伝えておく。
―――しかし、こんな場所に迷い込むなんて誰だったんだろ。
子供にしては、気配が大きかったし…………ま、良いか。
シャドウとヒロが仲良くしてるって所を見られなければ、他は特に気にする事も無いだろう。
最初559番ちゃんを出す予定でしたが、横道に逸れまくってしまったので諦めました。
なおこの作品の559番ちゃんはとある理由からシャドウとヴォイドのどちらにも狂信状態になっています。
ヒントは『合体必殺技』です。