主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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本戦ッ!!開幕ッッッ!!

 

「で、こんな朝早くに男の部屋まで遊びに来てなんのつもりだ?狂気のブラコン(クレア・カゲノー)

「なんでフルネームなのかとか、名前呼ばれる時にそこはかとない悪意を感じた事とか、その他諸々には一旦目を瞑ってあげる。ただ、私は別に遊びに来たわけじゃ無いから」

 

早朝。何故かクレアが俺の部屋にやって来た。

一瞬シドの部屋と間違えたのかと思ったが、このブラコンがそんなミスを犯すはずが無い。

だがそうなると、コイツが俺に用があってやって来たみたいになる。それもおかしい。

 

なぜならコイツは重度のブラコン。昔から俺とシドが仲良く遊んでいるだけで嫌そうな顔をし、嫉妬か何か知らんが俺に突っかかっては勝負を挑み、一方的にボコボコにされては振出しに戻る……ってのを繰り返してきた女だ。

俺に対し全く無関心なのが七陰達ならば、異常なまでに嫌っているのがクレアだと言える。

 

そのクレアが、わざわざ自分から俺に会いに来るなんて……天変地異の前触れかな?

 

「はぁ。では用件をどうぞ」

「宣戦布告よ」

「はい?」

「ブシン祭、私が優勝するわ。アイリス様にも、他の魔剣士たちにも―――何より、アンタにも勝ってみせる」

「…………あの、なんで俺が出場するの知ってんの?」

「この間シドに教えてもらったの。『そう言えばヒロが本戦出るっぽいよ』って。他にも、私の制裁から逃れようとするために色々教えてくれたわ」

「なるほど」

 

制裁って、もしかしていつぞやアイツの首に絞められた跡が残ってたヤツ?

やれやれ、姉弟でSMとはなんと深い業を背負っておられるのか。

 

納得顔の俺に対し、クレアは視線を逸らし、急に小さな声で「……それで?」と言ってきた。

………え、何?いきなり宣戦布告されて、それで?って言われて何を言えば良いの?

 

主人公なら普通、宣戦布告されれば「絶対(ぜってぇ)負けねぇからな!!」と拳を突き合わせるのが流儀だが……別にコイツ、ライバルキャラって訳でも無いしなぁ。

かといってヒロインでも無ければ、師匠ポジでも敵ポジでも無いし………あれ?俺にとってクレアってなんだろう?

シドの姉、くらいしか属性が無いぞ?

 

「それで、と言われましても」

「だから!私の宣戦布告に、こう、なんかないワケ!?」

「セリフをカツアゲされるの初めてだよ俺」

 

困った。友人の姉(ライバルでもヒロインでも敵でも無い)キャラに宣戦布告された主人公って何すれば良いんだ。

 

「そうだなぁ………お互い、がんばろー?」

「なんで疑問文なのよ。そしてやる気が全ッ然感じられない。やり直し」

「え、やり直しとかあんのコレ!?」

「私が満足するまで終わらないわよ」

「め、面倒な女だ……」

「何か言った?」

「なにも」

 

好きでもないどころか嫌ってすらいる男とそんな長い時間過ごしたいと思うか?思わねぇだろ普通。

やっぱネジ外れてるわ、この人。

 

と、心の内でどれほど言ってもこの状況は変わらなそうだ。いや、変化はするだろう。悪化という意味で。

 

 

主人公にあるまじき長考を晒す俺に、クレアは最初こそ腕を組んで黙って待っていたが、ふと溜息交じりに呟いた。

 

 

「―――わかってる。私の事なんて、眼中に無いんでしょ」

「え?」

「261回。私がアンタに負けた回数よ。当然、覚えちゃいないでしょ?」

「………クレア。流石にそれは嘘だよ」

「嘘じゃないわよ。………ほら、覚えてない」

 

影のある表情で俯くクレア。

全くコイツらしくない。本戦近いから緊張してるってか?

 

「とにかく、今度こそ私が勝つ。他の誰でもなく、私が、アンタを倒す」

「………アイリス王女とか、他の優勝候補にやられるとは思わねーの?」

「そんな弱気な事を言うような男?」

 

ぐうの音も出なかった。

主人公とは相手が誰であろうと、決して弱気にならずに立ち向かうもの。

主人公を目指す俺もまた然りだ。

 

クレアは言いたいことを言って満足したのか、踵を返して去っていく。

本当にただ宣戦布告しに来ただけらしい。

 

「はぁ。───クレア」

「……何よ」

 

不機嫌そうに振り向く彼女へ俺は肩を竦めて、

 

2()6()2()()だぞ。サバ読んでんじゃねぇ」

「~~~ッ!?」

 

眼中に無い?笑わせんな。

確かに今の実力自体は弱いの一言に尽きるが、クレアは何よりも強い意思を持っている。

弟への執着とは別に、強さに対する貪欲さを持っている。

 

ヒロインでも無ければライバルでも無く、さりとて敵という訳でも無い不思議な立ち位置のキャラだとは思うが…………決して、俺はコイツが嫌いじゃない。

 

 

クレアは派手に驚いたかと思えば、震えた声で「これで勝ったと思わない事ね!!」とか言って去っていった。

 

なるほど。じゃあこれで俺の263勝だな。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

なーんてイベントもありつつ、ブシン祭本戦がついに始まった。

 

俺は紅の騎士団所属の期待の新人だったりアレクシアの(表向きの)恋人だったりという理由から、超VIP席での観覧と相成った。

右隣にアレクシア、左隣にアイリス王女という普通の人なら緊張で死んでしまうようなロイヤルシートだ。

が、俺としてはむしろありがたい。

「ここに座ることの重大性なんてわかりませんが」的な顔をすることで、一昔前のラノベ主人公感を演出できるのだ。身の程知らずは主人公の特権。

 

「予選は色々と立て込んでいて見られませんでしたが、噂は聞いていますよ。どの相手も一撃で倒していたのだとか。流石はヒロ君です」

「いやぁ、それほどでも」

「何と言っても『修行』してきたらしいですからね。きっと本戦では凄まじい活躍を見せてくれるはずですわ、姉様」

「修行!それはそれは……ふふっ、私もうかうかしていられないかもしれませんね?」

 

サービスの紅茶を味わいつつ、王女二人と会話を楽しむ。

 

なおこんな素敵な笑みを向けてきている我が上司は、絶対に俺と当たることが無い。

 

なぜなら彼女の初戦の相手はジミナ・セーネン。

「誰もが侮る雑魚、しかしその正体は陰の実力者!」というムーブ中のシドだ。

バカ魔力で突っ込むデルタ式戦法のアイリス王女では、天地がひっくり返っても勝てないだろう。

 

勿論そんな事を馬鹿正直に話せば俺の立場が危ういし何よりシドの邪魔になってしまうので、ここは曖昧な笑みで誤魔化しておく。

 

「……あら?」

 

スタッフに連れられてやってきた少年を見て、アイリス王女が呟く。

同時に俺とアレクシアが眼を丸くし、連れられて来た方は引き攣った表情を浮かべた。

 

先程言った通り、ここは超VIP席。選ばれし者のための高級席だ。

だというのになぜか、シドが連れてこられた。

無駄に高級席を取るような真似をするはずの無い、何よりここの席を取れるような肩書の無いシド・カゲノーが。

 

「………すみません、どうも席を間違えてしまったようです。失礼します」

「お待ちください。シド・カゲノー君ですよね?クレアさんから話を聞いています。貴方の席は、私の隣で間違いありませんよ」

 

アイリス王女の微笑みを前に、シドはさらに表情が引き攣る。

 

クレアから話を、ねぇ。なるほど、クレアが俺達と同じ超VIP席のチケットを入手して、それを紆余曲折あってシドが受け取ったって事かな?

会長が失踪したおこぼれとは言え、学園からの出場枠を獲得したわけだし、この席に座る権利はあるか。

 

それを弟に譲渡する当たり、流石は、って感じだけど。

 

居心地悪そうにアイリス王女の隣に座ったシドは、サービスのコーヒーを無言で啜る。

なおこれでもかってくらい背中が丸くなっているが、これはアイツなりの抵抗だろう。

極限までモブっぽい姿勢を取る事で、なんとかバランスを取ろうとしているのだ。

 

こんなに頑張ってるんだから放っておいてあげてくれ、と思いつつも、アイリス王女はシドの方を向いたまま口を開く。

 

「先日は、申し訳ございませんでした。罪の無い貴方を、約一週間に渡って拘束してしまって」

「あ、頭を上げてください……」

 

アレクシアの一件について謝罪する我が上司。無論、王女がこんな公の場で一下級貴族に頭を下げるなんて異例の事態だ。

周りの学生たちが少し騒がしくなってきた。

 

さらに強い視線を浴びるようになったシドは、わかりやすく冷や汗を流し始めている。

 

「チケット、貰ったのか?」

「うん。姉さんが「私の試合を見て少しは勉強しなさい」って」

「なるほどねぇ」

 

助け舟、というわけでも無いが、混沌としてきた場の空気を変えるべくシドに話しかける。

シドはしっかりと意図を察したようで、普段よりも気の抜けた声音で返答してきた。

 

「クレアさんから、貴方の話はよく聞きます。とても仲の良い姉弟のようですね」

「いえいえ、そんな事は全然全く」

「それに、アレクシアとも仲良くしてくださっているのだとか」

「いやぁ、仲良くというか……金貨と犬の関係と言いますか」

 

チラリとアレクシアに目を向けるシド。釣られて俺もアレクシアの方を見ると、すこぶる意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

アイリス王女は金貨と犬、という言葉にピンと来ないようで、小首を傾げた。

 

「投げた金貨を犬に取って来させる遊びです、姉様」

「お犬さんと遊んでいた、という事でしょうか」

「犬は犬でも、黒い髪をした人間大の犬ですけど」

「??そのようなお犬さんがいるのですか?聞いた事もありませんが……」

「いやぁ、金貨の出所は王家な訳ですし、そういう意味では僕がお世話になっていますので、ええ」

 

よくわかっていないアイリス王女と、性格の悪いアレクシア、おまけに金の亡者シド(ポチ)

酷い会話だ。なまじ挟まれて会話しているから妙な居心地の悪さを感じる。

 

「話は変わりますけど、注目している選手とか、いますか?アレクシア………王女も」

「別に無理して王女呼びなんてしなくて良いのよ、シド・カゲノー君?」

「そんな畏れ多い……」

「注目している選手、ですか」

 

どうせここに座り、王女達と会話をしたのだからこれ以上喋ろうが同じ事。そう考えたのか、今度はシドの方から会話を振った。

 

大会の注目選手。多分質問の意図としては自分(ジミナ)がいかに注目されていないかを確認したいって事なんだろうけど………さて、この二人がどう答えるやら。

 

「当然、本戦に出る選手たちは皆注目しているつもりですが………強いて挙げるならば、三人。一人は元ベガルタ七武剣、アンネローゼ・フシアナスさん。初出場ですが予選段階でかなり注目されていると聞きます。先日は女神の試練を突破したという話も聞きますし、要注意、と言った所ですが………ヒロ君の一回戦の相手でもありますね」

 

学生たちがどよめく。

対戦表は既に公開されているというのに、なんでこんな初めて知りましたって感じの反応が出てくるんだろうか。

興味無かったのか?

 

「二人目はシド君のお姉さん、クレア・カゲノーさんです。彼女は紅の騎士団に所属してくださっていますし、実際に彼女の戦いを目にしたのは一度や二度ではありませんが……才能と、積み重ねられた努力。学生の身でありながら、既に世界有数の実力を持っていると見て良いでしょう」

 

学生たちが、今度はうんうんと頷く。

クレアってそんなに注目されてたのか。ローズ会長のおこぼれだろ?って見下してる奴らが大半だと勝手に考えてたけど……ま、実際学園での予選で結構な活躍をしてたわけだし、注目されててもおかしくは無いか。

 

「最後に、ヒロ・ムノー君。本人の前で語るのもなんですが、誘拐事件もテロ事件も解決し、女神の試練も見事に突破。特にテロ事件の際は、魔力を封じられた状態で単身テロ組織と交戦、そして見事に学園を解放。業績も実力も、申し分ないと言えるでしょう。―――恐らく、出場者の中で最も困難な敵となるでしょう」

「一応答えておくと、私もほとんど同じよ。それに姉様が入るわね」

「なるほど」

 

ふむふむ、最高の評価だ。過去の功績を含めて語ってくれたのがポイント高い。

それだけの事を成し遂げた男が、修行を経てさらに強くなって帰って来た―――これは修行回明け特有の無双回、突入するしかないでしょ。

 

「因みに、アイリス王女は一回戦目で戦うジミナって選手の事、どう評価してますか?」

「ジミナ・セーネン……彼の試合は、生憎見れていませんので何とも」

「私は評価だけ聞いたわ。どの試合もまぐれ続きで、運だけの選手って話よ」

 

二人の言葉を聞き、シドは満足そうに頷いた。

まさに計画通りか。ジミナ=雑魚の方程式が完成されている現状は、まさしくアイツの望むモノだ。

 

「……選手ではありませんが、後一人だけ。注目している方が居ます」

「選手以外に?」

「ええ。ブシン祭初代優勝者の、武神と呼ばれたエルフの剣聖―――ベアトリクス様が、いらっしゃっているのだとか」

「そんなっ!」

「彼女はもう十年以上も表舞台に立っていないはず!」

 

学生たちが大仰な反応を見せる。アレクシアも結構衝撃だったようで、目を丸くしていた。

 

そんな中俺とシドは、静かに顔を見合わせて小首を傾げた。

 

 

 

うん。どちら様?








【クレア・カゲノーのひみつ】

・ヒロの事は別に異性として見ているわけでも何でもないが、挑んでは敗北というのを繰り返している事もあってか、結構重たい感情を向けているぞ。


【アレクシア・ミドガルのひみつ】

・ヒロに勘違いされている事はわかっているながらも、どう解消すべきかわかっていない様子。なおヒロの欠点(描写するタイミングが無いだけで結構多い)を一番わかっているのは自分、というちょっと歪んだ優越感でライバルの胡散臭い作家エルフと差をつけているぞ。
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