主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
ブシン祭本戦二日目。
俺とシドは超VIP席を全力で満喫していた。
「まさか軽食もサービスに入ってるなんてね」
「飲食物はほぼ全部ミツゴシの提供らしいぞ」
「へー」
「………随分呑気ね、ヒロ」
「下手に緊張していくより、ある程度ほぐれてた方が良いと思ってな」
アレクシアの苦言を受け流し、コーヒーを飲む。
なんでもコーヒーはミツゴシでしか扱っていない品らしい。市場独占なんて、ガンマも中々のやり手だ。
「………それで、アイリス王女は?」
「ヒロ君の試合は必ず見に行きます、とは言っていたけど……今どこにいるのか、私もわからないわ。部屋に籠ってるか、心機一転鍛え直しているか……」
「あ、アイリス様!!それと、隣の方は……?」
ひそひそと俺達が話している最中、入口の方から驚いたような声が聞えて来る。
見れば、どこかやつれた様子のアイリス王女と、ボロ布を纏った何者かが居た。
なんだろう、あのボロ布、どこかで見たような―――。
「彼女は武神、ベアトリクス様です。私が招待しました」
あぁ、そうそう。ベアトリクス―――ってやべぇッ!!俺が強キャラムーブする相手を間違った人じゃん!!
ど、どうしよう。万が一俺の話をされたりしたら、実力偽装がバレる危険性も……いや、落ち着け。あの人なんか天然っぽかったし、どこか抜けてる感じもあるし………きっと俺の事なんて碌に覚えちゃいない。仮に名前を覚えられていたとしても、きっと細かいやり取りなんて覚えていない!そうに決まってる!
一瞬の内に心の平穏を取り戻した俺は、素知らぬ顔でアイリス王女が来るのを待つ。
VIP席の面々がどよめくのに便乗するのは、今は無しだ。
仮に相手が俺の事をしっかり覚えていた場合、余計に傷口が広がってしまう。
「おはようございます、ヒロ君、シド君。アレクシアも、遅れてごめんなさい」
「おはようございます」
「はよーございます」
「い、いえ。大丈夫ですけど………その、姉様の方は」
「怪我は殆ど治っていますし、問題ありません。ではベアトリクス様、こちらの席へどうぞ」
「ありがとう」
何事も無かったかのように振舞うアイリス王女。余程察しの悪いヤツで無ければ見抜けてしまう取り繕ってる感は、見ていて痛々しい。
だが本人が隠そうとしているなら、この公の場で暴いてやる必要も無い。俺は敢えて放っておこう。
因みにクレアは二回戦第一試合が出番だから、控室に居るぞ。
「ベアトリクス様、お会いできて光栄でございます。表舞台に出られるのは、随分と久しいのでは」
「うん。人探しをしている」
二人が座ったタイミングを見計らって、貴族達が挨拶の為にやって来る。
人口密度の高い場所が苦手な俺は、少々テンションが下がった。
「人探し、でございますか」
「姪だ。私によく似たエルフの子だ。心当たりはないか?」
「はぁ、ベアトリクス様によく似たと言われますと……」
「ベアトリクス様のような美人であれば、一度見れば忘れる事はないと思いますが……」
「ミツゴシ商会はエルフを多く雇っているようですし、一度そちらへ行かれてみるのはいかがでしょうか」
「そうか。ありがとう」
名も知らぬ貴族Aよ、結構良い線行ってるぞ。
アルファもミツゴシ関係者らしいし、もしかしたら再会もワンチャンあり得るかも……なーんて。
「申し訳ございません、ベアトリクス様。この場に居る者はみな顔が広いので、探し人も見つかるのではと思ったのですが……」
「良い。手がかりになりそうな情報も手に入ったし、満足」
「そうですか。それは良かった。―――ところで、ベアトリクス様は試合の方は見られていますか?」
笑顔ながら、陰のある表情での問いかけ。
ベアトリクスは特に気にすることも無く、何故か大量に持っているまぐろなるどのバーガー(サンドが正式名称らしい)を一つ取り出しつつ答えた。
「ヒロの試合は見た」
「ヒロ君の試合、ですか?」
包み紙を剥しつつ、彼女は頷く。
同時に俺は、すごく嫌な予感を感じた。
「ヒロ君に注目していた、という事でしょうか?」
「うん。ヒロは強い。―――私よりも、ずっと強い。いつか、戦ってみたい」
熱っぽい視線が向けられる。貴族達やアイリス王女、アレクシアの驚きの視線や、シドからの同情の視線も一緒に。
うんうん。―――ちくしょうッ、言いやがったこの女ァッ!!!
「ヒロ・ムノー……様、ですか……確かに、先日の試合は凄まじかった」
「しかしエルフの剣聖、武神ベアトリクス様以上……?」
「ともすれば、此度の優勝はヒロ・ムノー様かもしれませんなぁ」
貴族達が値踏みするような視線を向けて来る。
あーあ、設定崩壊の音が聞こえる……。
「あと、シドも注目してる。きっと強くなる」
「なりません」
天然エルフの刃が、今度はシドを突き刺した。
食い気味に否定するが、注目される事に変わりはない。
次は俺がシドに同情する番だった。
というかいつの間にベアトリクスと知り合ってたんだ?コイツ。
「あの少年が強くなる?」
「先の発言と言い、もしかすると過剰評価をする嫌いがあるのかもしれませんな……」
「クレアさんの弟ではありますが、彼には才能が無いようですし……」
やはり好き放題言われるシド。ついでにベアトリクスの観察眼も貶される。
聞えないようにしているつもりなのだろうが、生憎と俺イヤーは地獄耳。シドも同じくらい耳が良いので、余裕で聞き取れる。
ベアトリクスはどうなんだろう。全くの自然体だけど。
「ベアトリクス様が言うのですから、そうなのでしょう。―――もう一つ、お聞きしたい事があるのですが」
「なに?」
「………ジミナ・セーネンという男を、どう見ますか?」
空気が凍る。アイリス王女の声色も、いつもと比べてかなり低い。
ジミナ・セーネン。殆どの観客、選手がノーマークだった男。
だが初戦でアイリス王女相手に圧勝したこともあって、今や一、二を争う注目株だ。
「ヒロが次に戦う相手?」
「ええ。―――私が、敗れた相手です」
自嘲気味に呟くアイリス王女。空気がさらに重くなった気がした。
貴族達もアレクシアも、愛想笑いで誤魔化そうとしている。
そんな中、ベアトリクスは俺の顔をチラリと見て、答えた。
「ジミナを見た事は無いけど、多分ヒロが勝つ。だって、ヒロは強いから」
「………そう、ですか」
アイリス王女はそれだけ答えると、俯いて黙り込んだ。
この最悪な空気は、貴族達が逃げるように自分の席へ座り、第一試合が始まるまで続くのだった。
「―――はははっ、俺が勝つってよ、
「いやいや、大損だよ。なんてったって、あの予想は
★★★★★
二回戦第四試合。ジミナ・セーネンとヒロ・ムノーという、今最も注目されていると言っても過言ではない試合は、既に目前に迫っていた。
客席の騒がしさはこれまでの試合の倍程度になっており、どちらが勝つとか負けるとか、そんな会話が四方から聞えて来る。
そんな中、9×9席分を占有している謎の美女集団が一部観客達の視線を集めていた。
不思議なことに、全員が美女。なぜかエルフと獣人のみで構成されている。
「すっげぇ美人たちだなぁ………って、あの銀髪の子、作家のナツメ先生じゃあねぇか!?」
「あん、何寝ぼけた―――ほっ、ほんとじゃねぇか!!しかも隣に座ってるの、音楽家のシロンさんだ!!この前見たから間違いねぇ!!」
「ねぇ、あの奥に居る人、ルーナさんじゃない?ミツゴシ商会の!」
「この前のイベントで、挨拶してた人だわ!」
近くの席の人達が、やんややんやと盛り上がる。
今各界隈で最も熱い人物として注目されている美女達が、何故か集まって試合観戦に来て居る。
理由はわからないものの、普通に生きていればお目にかかれないだろう奇跡的光景に、観客達は感動のあまり涙さえ流した。
……だから気づかない。自分達が見つめている美女達の会話の内容が、全く頭に入ってこない事……聞こえているにも関わらず、ソレを意味のある文章だと理解できなくなっている事に。
「……うん、完璧。周りには、私達の話す内容が理解できなくなってるはず」
「流石イータね。認識阻害のアーティファクト……まだ試作段階だと聞いていたけれど、問題なさそうね」
「……ヴォイド様、考案。会話内容を理解されないようにすることだけに効果を絞った事で、範囲を大幅に拡張する事に成功」
「そう、彼が………」
イータは懐へカンテラのようなアーティファクトを仕舞う。サイズ的に入りそうも無いが、すんなりと収納された。
アルファは彼女の言葉に意味ありげに微笑むと、周囲に目を向けた。
注目はされている。だがそれはあくまで見た目に釣られているだけで、会話自体が気になっている者は一人もいなかった。
「それでも注目はされるわね。『陰に潜み、陰を狩る』……まだまだ遠いみたいね」
「アルファ様、アルファ様!まだ始まらないのです!?」
「落ち着きが無いなぁ、これだから待ての出来ないおバカなワンちゃんは」
「なんだとメス猫っ!!」
「やるかバカ犬!」
遠い目をしていたアルファに、デルタが耳をせわしなく動かしながら尋ねる。
アルファが答えるよりも前に、隣に座っていたゼータが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。デルタは途端に不機嫌になり、ゼータに掴みかかった。
ゼータもやられっぱなしでは済まさず、掴まれたまま掴み返してそのまま反撃―――
「二人ともやめなさい」
「あぅ」
「はい……」
鋭い眼光と言葉に、二人は耳も尻尾も垂れさせて、縮こまった。
アルファは深くため息を吐くと、すぐに表情を柔らかくして微笑んだ。
「ヴォイドもシャドウも、二人に喧嘩しながら見て欲しいだなんて思っていないはずよ」
「うぅ……」
「わかったよ……」
「アルファ様、ご報告が」
二人が姿勢を正したタイミングで、ミツゴシ従業員衣装のラムダがアルファの元へやって来る。
アルファが頷き許可を出すと、ラムダは淡々と語った。
「ご命令通り、全てつつがなく進行しております。場内スタッフ、警備、どちらも構成員と入れ替わっています。既に場内は我らの手中と言えるでしょう」
「そう。順調なら良いわ」
「………その、本当によろしいのでしょうか?私ばかりか、潜入任務中の者達も試合観戦に集中してしまって」
「構わないわ。ヴォイドが言ったのでしょう?『見に来てね』って」
元ベガルタ七武剣アンネローゼとの戦いを控えたヴォイドが、実力偽装の精度を高めるべく急遽行ったカイとの試合。
その時居合わせたラムダをはじめとするガーデン構成員達は、ヴォイド直々に彼とシャドウの試合を見るように
【シャドウガーデン】において盟主シャドウと番外位ヴォイドの命令は何よりも優先される。
彼らは常に最適解を行く。その指示もまた、最良にして最高なのだ。
「しかし、ヴォイド様はなぜ急にあのような指示をお出しになったのでしょう?それに、そもそもなぜ御二方が戦うのか………皆目見当もつきません」
ガンマが言葉を挟むと、アルファは少し困った顔を見せる。
「二人が戦う事に意味は無い―――と、あの指示があるまでは思っていたわ。けれど……」
「今は違う、と………因みに、なぜ意味が無いと考えていたのか、お聞きしても?」
「それは…………ふふっ、秘密よ」
「ひ、秘密、ですか?」
普段の彼女らしからぬ言葉に、ガンマが目を丸くする。いや、ガンマだけではない。彼女の言葉が聞えていた面々は、皆驚いた表情を見せた。
まだ【シャドウガーデン】が三人だけだった時の記憶。
七陰という概念すら生まれていなかった時の、大切な思い出。
別に誰にも言うなと口止めされたわけでは無い。
だが、話してしまえば特別さが薄れてしまう―――と、なんとなくそう思って、つい隠した。
なにせ、あの二人は。
『―――悪いなシド、コレで俺の勝ち越しだ』
『いやいや、これは明らかに僕の勝ちでしょ。ね、アルファ?』
『はー?いやいや、どっからどう見ても俺の勝ちだろ。な?』
超がつくほどの。
『いーや、僕だ!』
『俺だね』
『僕!』
『俺!』
『『アルファ!!僕/俺
―――負けず嫌い、なのだから。
★★★★★
(理由なんてどうでも良い。俺はただ、『主人公』に憧れた。自分もそうなりたいと、心の底から思った)
出口へ向かって、一歩一歩ゆっくりと歩く。
(きっかけが何だったかは覚えていない。ただ物心がついた時には僕はもう『陰の実力者』に憧れていた)
腰に佩いた剣の重みを、外から感じる熱気を、微かに感じている緊張感を、静かに噛みしめる。
(子供が抱くバカな夢。叶うはずも無い、漠然とした夢。それが俺の原動力だったし、今もその為に走り続けている)
指を鳴らす。首を鳴らす。
二人の鳴らした音が、控室内に反響する。
(他の皆が夢を忘れても、僕だけはその熱情に動かされ続けた。日常の全てを修行に費やし、不要なモノは全て切り捨て、磨いた実力は隠し続けた)
ドアノブに手が触れる。
試合場と控室を隔てていた扉は、同時に開かれた。
(折れる事は無かった、なんて言うつもりは無い。修行の最中、自分に才能がない事、自分では『主人公』になれないという事を、何度も言われてきた。いつまでも子供じみた夢を追いかけるなんてバカなことは止めろと、殴られた事もある)
陽射しは無い。暗雲が空を覆っている。
(時々、少しだけ……ほんの少しだけ、センチな気分になる事もあった。誰にも理解されない孤独。どれだけ修行を重ねても、僕が憧れた『陰の実力者』のような圧倒的な力は手に入らないという、現実)
砂を踏む音が、二人の放つ緊張感に当てられて静まり返った場内に響く。
(だが諦めなかった。一度たりとも、この夢は手放さなかった。それは、俺がそれだけ『主人公』という夢に強く焦がれていたというのもあるし………修行の中で、同じ熱を持ったアイツと会えたこともあっただろう。碌な会話もしていない、何を志していたのかも知らない、同い年の少年と)
歩きつつ、両者同時に剣を抜いた。
(だけど僕は諦めなかった。当然、僕がそれだけ『陰の実力者』になるという夢に焦がれていたから、というのが理由だけど………それに、孤独な修行の日々の中で、同じ目をした男を見つけた。センチな気持ちになる度に、現実が立ちふさがる度に、僕は彼から勇気を貰った。碌に会話もした事の無い、何を夢見ていたのかさえ知らない、同い年の少年に)
ここでようやく、二人は目を合わせる。
その表情は、狂気の混ざった笑みだった。
(そして、この世界に来てコイツと出会った。『陰の実力者』を志す、俺や影野と同じ目をしたこの男。前世は俺と同じ世界のはずなのに、魔力修行をしていたとかいうイカれた男。最近じゃ純粋な戦闘能力まで俺を越そうとしているヤバい奴。最強系主人公も当然視野に入れている俺にとって、最大の壁と言えるだろう)
(『陰の実力者』を目指す中で、核という最大の敵に悩まされる事になった僕だけど、この世界に来てもう一つ、超えなくてはならない壁が現れた。それがヒロ。『主人公』を志す、僕や主人君と同じ目をしたこの男。途中から魔力修行に精を出し始めた僕と違って、物理的な戦闘技術と純粋なフィジカルを磨く事に文字通り命を懸けた男。『陰の実力者』は最強でなければならない。コイツに一度も勝ち越し出来ていない今の僕では、夢のまた夢だと言えるだろう)
「二回戦、第四試合!」
審判が声を張り上げる。
(ただ一人親友と呼べる男だし、感謝だってしている。コイツのおかげで、今の俺がある。だが、だからこそ)
(ヒロは多分、唯一胸を張って親友だと呼べる男だ。ヒロのおかげで、『陰の実力者』
「ジミナ・セーネン対、ヒロ・ムノー!」
((―――コイツに、勝たなくっちゃいけないッッ!!))
「試合ッ、開始ィッッ!!」
審判が手を振り下ろす。
誰もが注目する試合が今始まる。
同時に、二人の体は
シャドウ様の独白についてですが、僕がシャドウ様はなんだかんだ孤独や未練を捨てきれていないんじゃないかと思っているので、もしシャドウ様が捨てきれない感情に悩まされる時、自分と同じ道を歩む人間がいたら……と色々妄想して、あんな感じになりました。
『誰からも理解されないような夢を抱き、一度たりとも諦める事無く、ひたすら鍛え続け、その結果自分と対等かそれ以上の力を手に入れた男』ってシャドウ様ポイント最大値獲得の模範解答だと思うんですよね。
因みに、この作品でヒロに最も重たい感情を向けているのはシャドウ様です。
なぜなら、
【主人公太郎】
・当たり障りの無い会話しか交わしていない物の、自分と同じような情熱を瞳の奥から感じた男。心細さを感じる度に、同じく努力している仲間がいる、と己を奮い立たせることができた事に感謝すらしている。
西野の一件でアルティメット・ガイとして活動している事を知り、さらに評価が上がった。
【ヒロ・ムノー】
・『陰の実力者』ムーブに欠かせない『主人公』を志す存在。自分や主人と同じ情熱を持って夢を叶えようとしている所もポイント高い。
互いを高め合う仲間であり、夢の為に協力し合う親友であり、超えるべきライバル。
と、こんな感じの高評価なので。
そうでも無ければ、最強にして孤高であるべき『陰の実力者』が合体必殺技なんてモノを一緒に作ろうと協力してくれるはずが無いんですね。