主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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この全て、今賭けて

 

 

 

「試合ッ、開始ィッッ!!」

 

審判が手を振り下ろすと同時、ヒロとジミナはバラバラになって死んだ。

手が、足が、胴が、首が―――全身が同時に斬り刻まれ、地に落ちた。

 

一体何が、と一部を除いた観客達が戦慄した次の瞬間には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「な、何が起きているの……?」

 

死んで、死んで、また死んで……異常としか言えない状況を前に、アレクシアは震えた声で呟く。

 

「………思い込まされている」

「え?」

「筋肉の収縮、目線、殺気、重心の微かな移動………そして魔力。二人は全てを使い、無数のフェイントを繰り出しているんです」

「ふぇ、フェイント?」

「本来ならば、両者にしか見えないはずですが……恐らくあまりに卓越したフェイントに、第三者である私達にも『斬られた』ように見えてしまっている。―――ですが、それは」

「両者ともに、武の頂点にでも立っていなければ起こりえない……」

 

クレアが呟く。

 

二人はまだ刃を交えてすらいないにも関わらず、表世界の住民たちは皆、その超越した技術に息を呑んでいた。

 

なお、裏の世界の住民であるドエムは。

 

(な―――なんなんだアイツ等は!?ジミナ・セーネンはまだ良い、ヤツは全くの未知数だった。裏の世界の住民である事は確定していたと言っても過言では無かったし、あのレベルの実力を持っていたとして……危険ではあるが、おかしな話では無かった。だがヒロ・ムノー。ヤツの実力が裏の世界で通用するレベルだという事はわかっていたが……これほどだったとは。もはや要警戒などという段階で済ませて良い男では無い。あの刃は、ラウンズにも届きうる……!!しかもヤツは、明確にディアボロス教団と敵対する姿勢を見せている。奴の存在は、教団関係者全員にとって危険だ………!!)

 

キリキリと痛む胃を抑えつつ、額の汗を拭い、この後自分が取るべき行動について、必死に思案していた。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

少しして、死に続けるのを止め見つめ合う二人。

痛い位の静寂と極限の緊張感に誰もが口を噤む中、アルファは口の端を歪め、

 

「―――始まるわね」

 

ギィィンッッッ!!

 

 

激しい剣戟の音が場内に響き渡る。

遂にヒロとジミナによる戦いが幕を開けたのだ。

 

だが、観客達は激しい剣同士の衝突よりも、二人の振り下ろす剣が()()()()()()()事に驚愕した。

 

原理は先程二人が死に続けたのと同じである。

一撃に織り交ぜられた無数のフェイントを、観客達は全て致命の一撃と勘違いし、そのビジョンを脳が再生してしまうのだ。

 

 

しかし二人の本気を見た事がある七陰達にとっては、この程度驚く事でも無く。

 

「頑張ってぇー!ヴォイド様ぁー!!がんがえぇー!!」

「言えてないわよ……?」

 

ヒーローショーに来た子供の如く応援するベータに、イプシロンが呆れたように呟く。

だがツッコミを終えるとすぐに「主様ー!!頑張ってくださぁーい!!」と声を張り上げた。

 

二人とも、「ベータ/イプシロンのおかげで勝てたよ」と言われたいのだ。

なお言ってもらえる保障は無い。

 

「二人とも子供だねぇ」

「そう言わないの。貴女もしなくて良いの?応援」

「………」

 

小馬鹿にするように笑ったゼータに、アルファが尋ねる。

するとゼータは無言で視線を隣に移した。

 

「ボスもヴォイド様もがんばれなのですー!!行け行けぇー!!」

「……二人と一緒はともかく、このワンちゃんと一緒は……」

「ふふっ……黙って見守るのも、応援よね」

「っ、うん。そういう、こと」

 

誤魔化すようにドリンクを手に取り、ストローを咥えて黙り込む。

やや頬が赤くなっている事に笑いつつ、アルファは超高速で繰り広げられている剣戟に意識を向けた。

 

(………本気ではない。けれど……ヴォイドの方は、実力を隠しているにしては()()()()()()()。切り結ぶ前のフェイントも、剣戟に織り交ぜられているフェイントも……どれも、表社会のヒロ・ムノーとしてのソレを逸脱している。彼の事だから、後の事も考えているのでしょうけど……)

 

「―――貴方には、何が見えているの?」

「はい?何かおっしゃられましたか?」

 

意図せず溢した言葉に、ガンマが小首を傾げる。

アルファは微笑んで誤魔化すと、内心で「終わるのを待ちましょうか」と一度考えるのを止め、純粋に二人の戦いを楽しむ方向へシフトした。

 

 

 

 

「……嘘」

「これが、御方々の……」

「凄い……」

 

(………カイとの模擬試合を見せた時点で、訓練への意欲は十二分に向上したと思っていたが……なるほど、ヴォイド様の狙いは意欲向上では無く、自分達の実力を疑わせない為のパフォーマンスか)

 

名も無い構成員達が二人の戦いに感動、或いは畏怖する姿を見つつ、ラムダは冷や汗を流していた。

 

(事実、御二方と構成員達には壁がある。御二方の偉大さを証明する物は、悪魔憑きの治療法の確立と、【シャドウガーデン】の結成のみ……その御力は勿論、その御姿さえ見た事が無い者も多い。中には口にしていないだけで、御二方を疑うような者もいただろう。―――それを、二人の試合を見せるという形で分からせる………なんと恐ろしい方だ。いや寧ろ、敵対行動を取り粛清対象に選ばれるような者が現れる前に、自分らの偉大さを見せる事でその意志を削いだのは『慈悲』というべきなのか……?)

 

「あぁ………シャドウ様、ヴォイド様……私を照らす月光、私を優しく包む漆黒………」

 

(……で、あれば559番(コイツ)を連れて来る必要は無かったかもしれない。何せとっくの昔に御二方の偉大さを、その身で知っているのだから)

 

場内の二人に祈りを捧げながら、恍惚とした表情を浮かべるピンクブロンドの少女。

幹部候補として注目される程の実力と忠誠心を持つ559番に、ラムダは何とも言えない表情を浮かべ、溜息を吐いた。

 

(【シャドウガーデン】で唯一、()()()()()()()()()過去を持つ………か。この信仰心とも呼べる忠誠心も無理は無いだろうが………コイツの場合、御二方の偉大さを見せれば見せる程、逆に危険だったかもしれないな)

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

卓球は100メートルを走りながらチェスをするようなもの、という言葉がある。

アレはまさしくその通りだ。球を打ちあう度、読み合いが発生する。相手の攻撃を読み、相手には読まれないように攻撃する。

 

戦いもまた、同じだ。

 

一撃を繰り出す度、距離を測る度、目線を送る度―――全ての動作に読み合いが生じ、俺達はどちらがソレを制するのかを競い合う。

 

 

試合が始まって直ぐに、まず俺達は()()()()

首を刎ねるぞ、腕を斬るぞ、胴を裂くぞ…………と、殺気を、目線を、動作の起こりを、全てを利用して煽りあった。

 

当然、そこで慌てて防御したり、回避行動を取ったり、そんなつまらない事はしない。

寧ろ堂々と、全く気にしていない様子で一歩前に出る。その都度、また煽る。

 

そうして煽りあって、極限まで高めて―――そこでようやく剣を振るう。

 

最初の応酬は、パフォーマンスのような物だ。

派手な音を鳴らし、観客達さえ騙すようなフェイントを披露し、ちゃんと外野が目で追えるような速度で剣を振るう。

 

空を斬り、空を斬り、刃の側面を滑らせるように受け流し、そしてまた空を斬る―――見栄えを重視した剣戟は、次第に速度を上げ、殺意を増していく。

 

観客の反応が、段々と意識から追い出されていく。

俺も、きっとジミナ(シド)も、互いしか見えなくなっている。

 

 

そこまで来れば、()()()()()()()

 

 

『お先にどうぞ』

『どうもありがとう』

 

 

そんな会話をちょっとした動作で交わしつつ、本当の戦いが始まる。

 

まず最初に仕掛けて来るのはジミナだ。なんせ、俺が譲ったのだから。

綺麗な太刀筋が俺を真っ二つに切り裂かんと振り下ろされる。

 

俺はソレを少し体を傾ける事で躱し、その動作に合わせて刺突を繰り出す。

その攻撃をジミナは跳躍する事で回避し、落下の勢いに任せて再度剣を振り下ろした。

 

一旦その攻撃を回避するついでに距離を取り、体勢を整える。

今の刺突を紙一重で躱していれば、そのまま続く攻撃でダメージを与えられたが……流石に、その程度は読まれていたらしい。

 

 

……仕方ない。盤外戦術で攻めようか。

 

「振り下ろしばかりで芸が無いな、スタイリッシュ剣技はネタ切れか?」

「ふっ。まさか、ここからが本番だ」

 

急接近、からの横薙ぎ。

その一撃は受け流し、鳩尾を狙ってキック。

左腕でガードされるので、蹴りの勢いに任せて再び距離を取り、気配を殺して接近。

 

脇腹を狙った攻撃は、呆気なく防がれる。

 

「砂埃と、直前に放った殺気で隠れられたと思ったんだけどな……!」

「残念だが、丸見えだったぞ」

 

無言の剣戟が再開される。

恐らくだが、既に観客の殆どが目で追えない速度になっているだろう。

 

 

……しかし、やりにくい。

ジミナは剣技こそスタイリッシュな剣(本人談)に制限しているが、魔力はシャドウの時と同じ量使っている。

『秘剣・魔力断ち』を積極的に使用しているが、女神の試練で見せたのもあってか、やはりすぐに対応された。

 

魔力制御を妨害した次の瞬間にはすぐに制御し直しているのだ。例えるなら、紐を解いて一秒も経たないうちに結び直されている感じ。

改めてシドの魔力制御力の恐ろしさを感じると同時、理不尽さに笑えて来る。なんなんだコイツ、脳筋にも程があるだろ。

 

攻撃しても躱されるか防がれる。仮に防御を突破できた所で、魔力を一点集中し、威力を殺される。

魔力断ちで攻撃した所で、ダメージはさほどない。

俺がアイツから喰らっているダメージを考えれば、圧倒的にこっちの形勢不利。

 

だが、俺はまだ、純粋な剣技しか見せていない。

ソレも本気の六割だ。人前で見せて良い実力はとっくにオーバーしているが……コイツに勝つには、ここからさらに(カード)を切らなければならない。

 

 

「どうした、この程度か?」

 

大きく距離を取った俺に、ジミナが煽るように尋ねて来る。

俺はそれに対し、不敵に笑って()()()()()()()

 

「“This is―――”」

 

当然、周囲を暗転させるような魔力放出では無い。大量の魔力を使うぞ、と感知される程度に、体内で魔力を活性化させただけ。

なんなら俺が使った所で違和感のない程度の量だ。

 

だが、俺の言葉も相まって、ジミナを焦らせる事に成功したらしい。

苦々し気な表情を浮かべ一瞬の逡巡を見せた後、俺の攻撃を未然に防ぐためか、全力で接近してくれた。

 

 

そうだ。()()()()()()()()()()!!

 

 

「“Comet”」

「ッ!!?」

 

コンマ数秒の間のみ、魔力を解放する。

極限まで圧縮された魔力が、俺の身体能力を爆発的に強化する。

一切歪みの無い緻密な魔力紋様が全身を覆い、俺はその刹那だけ、彗星(Comet)と化す。

 

音速を遥かに超えた拳を顔面に受けたジミナは、観客席まで飛んでいく。

俺は想定以上の完璧な結果に高揚し、巻き込み事故とかそう言った事を一切気にせず、笑った。

 

「これまでは魔力を爆発させることばかりを目的としていた。だからスーパーノヴァもクエーサーも、この戦いだと使えなかった」

 

安全だと思われていた客席に被害が及んだことで、観客達が悲鳴を上げる。

俺の言葉はその声にかき消されているが、寧ろ聞かれない分好都合だとそのまま続けた。

 

「だから逆に考えた。魔力を体外に放出するんじゃ無く、体内で大量消費する事で一撃の威力をスーパーノヴァやクエーサー相当にまで押し上げる!まさしく逆転の発想だ。コペルニクスもびっくりだろ!!」

 

返事は無い。そもそも、アイツにもこの言葉は聞こえていないかもしれない。

 

だがそれで良い。この技が実践使用しても全く問題ない事が明らかになった時点で、勝率はグッと上がった。

 

「―――場外戦闘に関するルールは、書いてねぇよな?」

 

魔力を再び圧縮し、解き放つ。

ジミナが居る観客席まで、瞬間移動レベルの速度で飛来する。

 

「………流石、と言っておこう」

 

刃を振り下ろす刹那、ジミナは瓦礫の中で動かずに、ポツリと呟いた。

 

そして狂気的な笑みを浮かべ、青紫の魔力が紫電のように迸り、

 

 

 

「―――けど、僕の方が上だ」

 

 

 

気づいた時には、空を飛んでいた。

そして遅れて気づく、腹の痛み。

 

なるほど、シドは俺のコメットを即座にラーニングし、使ったというワケだ。

そして俺が攻撃するよりも先に、刃を振るった。

 

「………げほっ」

 

あの理不尽野郎、本当にふざけてやがる。

俺がアレを完成させるまでに、どんだけ試行錯誤したと思っているんだか。

 

 

―――ああ、だけど、悔しいし、ムカつくけども。

 

 

「面白ェよ、こんな逆境―――」

 

巨大な建物に激突し、空の旅は終わりを迎える。

先程のジミナの如く、瓦礫の中に埋もれながら、俺は笑った。

 

「―――こんな逆境(主人公イベント)、最ッ高じゃねぇか!!」

 

 

雨が、降り始めた。







次回、『HIGHEST』
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