主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
マリーさんを無事に駅まで送り届け、改めてシドと合流した俺は、番外位ヴォイドの姿で町を縦横無尽に駆け回り、グール狩りに精を出した。
例えば、魔剣士協会の近くで。
「覚醒の時は近い……」
「これはまだ前奏にすぎん。この程度で危機に陥るのならば、逃げる事を推奨する」
「あ、貴方達は……」
「我らは【シャドウガーデン】……」
例えば、色町で。
「『暴走』が始まる……死にたく無ければ逃げろ……」
「我らにとっては児戯に過ぎんがな───」
「こ、この数のグールを一瞬で……!?」
例えば荒くれ者の集う路地裏で。
「もう、時間が無い……」
「『赤き月』の狂気は、すぐそこに迫っている……」
「す、すげぇ!よくわかんねぇけど助かった!!」
他にも色んな場所で、俺達はグールを狩った。狩って、狩って、狩りまくった。
……その間、シャドウのセリフはずっとワンパターンだった。
何だコイツ、botか?
「いやぁ、楽しいね。颯爽と現れ、意味深に去って行く陰の実力者ムーブ」
「はぁ………お前いつもの語彙はどうしたよ。ずっとセリフ同じじゃねぇか」
「良いじゃん別に」
「良かねーだろ………しっかし、こんだけ走り回ってんのにクレアがどこにも見当たらねぇとはな。野垂れ死………ぬわけねぇか」
「姉さんはタフなレディだから。多分どっかで生きてるよ」
「タフなレディか。はははっ、言えてる」
元々の活動拠点でもある、宿屋の屋上で駄弁る俺達。
もう何匹のグールを倒したのかも、何人の財布を盗み取ったのかも数えきれない程、走り回った。
長時間お楽しみしてたのも相まって、ちょっと疲れてきたな。精神的に。
「そろそろ紅の塔、行っちゃおうか」
「そうだなー……あれ?お前、別に吸血姫とか興味無いんじゃ無かったか?」
「いやぁ?吸血鬼の始祖って肩書には興味があるね。物語のキーパーソンって感じするし」
「どっちかって言うと本編クリア後のおまけボス枠だと思うが……」
三日で都市を滅ぼした、とかなんとか。そんな話を聞いたことがある。
そんなのがヒロインになるの?とか思ったかもしれないが、世の中にはラスボス系ヒロインという言葉もある。この程度の虐殺、キャラが立って丁度良いくらいだろう。
それに異世界モノにおける吸血姫という肩書は、そんな後ろ暗い過去を補って余りあるヒロイン力を誇ってるしな!
「ま、そうと決まればさっさと行こうか。現金も置いて身軽になったわけだし」
「これで塔にあるだろう金銀財宝も大量に回収できること間違いなしだね」
「……お前、完全それ目当てだろ」
「あれ、もしかしてそっちは興味ない感じ?」
「あるけどさぁ」
当然金は欲しい。あんな見るからに「金銀財宝、沢山ありまっせ」って感じの建物があったら、回収したくなって然るべきだとは思う。
ただ今はそれ以上に吸血姫ヒロインが欲しい。
マリーさんとの情事のおかげで心にゆとりができたとは言え、ヒロインが居ない現状に対する不満はまだ消えていない。
強盗目的で侵入しましたー、で出会ったところで恋愛に発展する事はなさそうだし、今回は財宝を一旦諦め―――いや、待てよ?
『血の女王』、つまりはやんごとなき身分の少女。その姿を見た者がいない事から、ここ最近は高い塔に引きこもって外界との交流を断っている―――あるいは、断たれていると考えるのが妥当。
そうすると、ある一つのストーリーが見えてくる。
自由を知らず、窓の外を眺めるだけの退屈な日々を過ごしていた吸血鬼の少女。閉塞感に満ちた日常を送る中で、次第にその心までもが閉ざされていった。
―――しかし、ある日
怪盗は財宝を探す最中、少女の部屋へ迷い込んでしまう。
『あなたは、誰?』
吸血姫と怪盗。この出会いをきっかけに、二人の物語が始まる―――!!
「これだぁあああああああッ!!」
「うわっ、どうしたのさ。急に叫んだりして」
「決まったんだよ!今回の俺の立ち回りが!今回俺が取るべき主人公像が!」
「へぇー。どんなの?」
「怪盗だよ怪盗!塔の中っていう籠の中に閉じこもってる吸血姫に、自由な姿を見せる怪盗系主人公!!金銀財宝とあなたの心を盗むんだよ!!」
「それは随分と都合の良―――んんっ。状況にマッチした主人公像を思いついたね」
「だろ?」
番外位ヴォイドからヒロ・ムノーへ戻り、屋根を蹴って空を飛ぶ。
目指すは紅の塔。ヒロインと金銀財宝が、俺を待っている!
★★★★★
『番犬』は、己の不運を嘆いた。
どこまでも白いその男にとって、殺人こそが生きる理由だった。
人を殺す瞬間に生を感じ、自分こそが生存競争の頂点に立っているのだと喜悦した。
だが『紅の塔』に挑んだ彼は、右腕と生きる理由を奪われ、鎖に繋がれた。
『白い悪魔』と恐れられたのは昔の事。今の彼は、ただの『番犬』だった。
「ヒッ、ヒヒッ………」
『赤き月』が始まり、街にグールと吸血鬼とが解き放たれた今、番犬も自由を与えられていた。
だが、それでも彼は塔に留まった。『血の女王』を討伐するために訪れるだろう、魔剣士たちを殺すためだ。
しかし蓋を開けてみれば、いつまで経っても魔剣士は一人も来ず。
ついに視界に人影が映ったかと思えば、その影は『白い悪魔』であっても息をひそめ、去るのを待つしかないような、逆らうべきではない真の強者。
黒の塔の支配者、『暴君』ジャガノート。
白の塔の支配者、『妖狐』ユキメ。
片や巨大な鉈を、片や鉄扇を振るい、2人の強者はほんの少し離れたところで、衝突を繰り返していた。
「いい加減くたばれ売女ァ!」
「ほんま、野暮な男やわ」
戦闘がこちらへもつれ込もうとしているのを目撃し、番犬は慌てて姿を隠した。
あぁ、なんという不運だろう。
せっかくの『赤き月』だというのに、待てども人一人来ず。
ついに来たかと思えば、己では逆立ちしても敵わない、無法都市の支配者達。
早くこの嵐が過ぎ去ってくれれば良いのに───番犬がそう願った瞬間、『暴君』と『妖狐』の間に、二つの影が降り立つ。
片や漆黒のローブに身を包み、片やこの場にそぐわない、学生服姿で。
「なんだ?てめぇらは」
「ぬしさんらは一体……?」
二人の支配者が同時に問う。
剣戟が止んだことで番犬も顔を上げ、闖入者達の返答を待った。
二人は一瞬目を合わせると、黒衣の男が先に口を開いた。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者───」
その名前に、支配者達が目を見開く。
無法都市にさえ、その名前が轟く謎の人物。
ここ最近話題の事件に、必ずと言って良いほど名を連ねる組織『シャドウガーデン』の長にして、全てが謎に包まれた強者。
ただ一点知られていることは、人知を超越した魔力を持つ、『魔人』と呼ぶに相応しい者ということだけ。
「てめぇが噂の……」
「ほんなら、隣のぬしさんは?シャドウはんの組織、『シャドウガーデン』の配下は女だけと聞いていんすが……」
神秘のヴェールに包まれた強者と、ともに現れた少年。
自然と全員の視線が彼に向き、咳払いと共に答えが告げられる。
「俺はヒロ。コイツとは
「知らねぇ名だな。……ただてめぇ、どっかで見た顔だな」
「ヒロはん………聞いたことがありんす。外で最も注目されている魔剣士とか」
「最も注目?………あぁ!思い出したぜ、てめぇが!よっぽど強ぇと聞いたが───なるほどな、シャドウもてめぇも、噂通りのヤツらしい」
フードの下で、陰の実力者の口角が上がる。
ヒロはほんの一瞬俯いたかと思うと、顔を上げて刃を抜いた。
支配者の二人が、風を切る音と肉を裂く音―――そして、何か一定の質量をもったものが落ちる音を聞くまで、気づくことが出来なかったほどの抜刀。
自然であり、超高速であり、強力。ただの一学生が振るって良いような剣ではなく、思わず息を呑み───瞬間、飛びのく。
一体、何を攻撃したのか?
刃を振るった事に気づいてなお、自分が攻撃された
だが、警戒心を一気に強めた二人に、ヒロは軽く笑った。
「こっちを覗いてる奴がいたから、そいつを斬っただけだよ」
彼が指さした方を向くと、そこには首だけが転がっていた。
かつて『白い悪魔』と呼ばれた『番犬』の首―――彼は名乗る事も、門の上から登場することも許されぬまま、その首を斬り落とされていた。
「………暴走の時は近い───行くぞ、強き剣士よ」
「はいはい、っと。―――はぁ、味方になると頼もしいんだがな」
いつまでも動かぬ『妖狐』と『暴君』に痺れを切らしたシャドウが、悠然と塔へ侵入する。
その後に『強敵と共闘することになった主人公が言いがちなセリフ』をモノローグ風に呟いて、ヒロも続こうとし───
「あっ、そうだ。『妖狐』ユキメ、だっけ?」
「―――な、なんざんす?」
「多分、言っても意味わかんないとは思うけど。―――ありがとう」
「はぁ……?」
わかっていない様子のユキメに手を振って、今度こそ去っていく。
呆けていた彼女は、少し遅れてからその発言の真意に気づき、小さく噴き出した。
それを訝しむように睥睨したジャガノートは、しかし何も言わず塔へと入っていく。
最後残されたユキメも、ひとしきり笑った後、ゆっくりと歩き出した。
転がった番犬の首に、誰も構うことはなく。
そして、『紅の塔』に侵入しようとする者も、以降現れず。
死して濁った瞳は、門の上から胴体が転がり落ちてくるその時まで、月を仰いでいた。
★★★★★
紅の塔に侵入する直前、なんかそこそこ強そうな二人が争っているのを目撃した俺とシドは、俺がヴォイドではなくヒロの姿をしていたのもあり、かねてより考えていた
そう─――陰の実力者と主人公の共闘!!
仲間以外と協力するシーンは、いつの時代も、どんな人間にも刺さる、物語の面白ポイント。
神秘のヴェールに包まれ未だ実力の底が見えない陰の実力者が、その一端を見せるためのファン・サービス回でもあり………いつか主人公と陰の実力者が本当に和解し、仲間になる可能性を示唆する超重要な回でもある。
「あとは俺が適当なトラップに引っかかって、一緒に密室に閉じ込められることで完成だな」
「そこで陰の実力者の核心に迫る会話が行われたりするんだよね………!でも、僕としてはまだそういう回は早いかなー。内面に触れるようなシーンはもっと引き伸ばしたいかも」
「それはちょっとわかる。いくら『リセット』入れる予定でも、今のストーリーでもうちょい楽しみたいっていうか……陰の実力者のアレコレに踏み込むとなると、物語終盤になっちゃうもんな」
「ま、共闘回は一回じゃないとダメ、なんてルールも無いし。そこは臨機応変に行こうよ」
長い階段を上りながらシナリオ談義に花を咲かせる。
シドの第一目標は宝物庫らしいが、せっかく共闘設定にしたのだから一緒に行動しよう、とのことで、俺とヒロインの出会いを見届けてくれることになった。
そう───自由を知らない少女の心を華麗に盗む、怪盗主人公としての活躍を!
「そろそろ最上階か」
「怪盗になるんだよね?一旦物陰に隠れておくよ」
「おう、サンキュー」
スライムをモノクルとシルクハットに変え、衣装を敢えて真っ白に。ついでにトランプまで作った。
これで俺もまじっくヒロだ。声も某高校生探偵のソレに変えておこう。
「ふっふっふっ………今宵、『紅の塔』の秘宝をいただく───」
わざと足音を立てて屋上へ。赤い月に照らされた夜は、なんとも雰囲気がある。
白い衣装に赤い光がベストマッチだ。
カツカツと歩いて行った先には、人影が見える。
逆光でよくわからないが、きっと彼女こそ血の女王ちゃんだろう。
屋上に出ることが出来ている時点で大分自由だと思うが、まぁ良い。ラプンツェルだって外の空気は吸ってたんだ。このくらい誤差誤差。
さぁ、俺のヒロインよ!その可憐な声を聞かせてくれ───!!
「貴様、侵入者か」
「………うん?」
なんだろう。渋い男の声が聞こえてきた気がする。
「『暴君』か『妖狐』のどちらが先にここまで辿り着くかと考えていたが……まさか、名も知らぬ貴様が最初とはな」
あっ、気のせいじゃない!男の声だ!
ってかよく見たら突っ立ってんの男じゃん!!
「………君が、ここの主かい?」
ま、まだ従者の可能性がある。コイツ相手に「プリンセスの心は私がいただく……」とかカッコつけることで物語がピシっと引き締まる可能性が、まだ、ある。
一縷の望みをかけて訊ねると、男は鷹揚にうなずいた。
「そうだ。この紅の塔を支配しているのは、今は私―――」
「男じゃねぇか!!」
“This is Super Nova”
これ以上の問答は不要だった。
ヒロイン求めてやってきた塔には、何故か渋い声の男しかおらず。せっかくの怪盗衣装も、高まっていた期待も、全てを無駄にさせられた俺は、怒りのままに超新星爆発を喰らわせた。
ブシン祭を経て完璧な制御が可能になった爆発は、目の前の男だけが蒸発させ、床も、塔そのものも綺麗に残した。
「お見事。コメットの修行で魔力制御も様になったって言ってたけど、その通りみたいだね」
「まぁな。………しかし、血の女王は不在か。知らん間に政権交代でも起きてたのか」
「うーん。普通に出かけてて留守なのか、さっきの男が反逆して乗っ取ったか、最初から女王なんていなかったのか……なんにせよ、ここには居なさそうだね」
「だな。知らん男の死体と……なんだこれ、玩具?……くらいしかないし。宝物庫向かうかー」
少し先に、心臓がくりぬかれた男の遺体と、なんか強欲の瞳みたいな握り拳大の玩具?が転がっているのが見える。
逆に言えば、それくらいしかない。あぁ、あと棺桶もあるか。中身空っぽだけど。
なんかのパズルギミックかもしれないなー、なんて思いながら偽強欲の瞳を男の遺体に入れて、しかし結局何も起きず。
最後の期待すら裏切られた俺は、大きく溜息を吐いて───せめて、あの男の所有する財宝が生涯遊んで暮らせるレベルであることを期待して、その場を後にするのだった。
はぁ。結局、ヒロインは手に入らず、か。あーあ。
「男じゃねぇか!!」
↑CV桑原由気を期待してたらCV杉田智和をぶつけられた男の図
でも女の姿でCV杉田だったらアーカード的なもんだと思って大喜びする模様。
なんだこいつ(なんなんだこいつ)
書籍版は未だに買えてないしカゲマスは長い事やってないしアニメはなんかアマプラじゃ見れなくなってるけど、俺は書くぞ……!!の精神で復活。
ちなみに赤の女王狙いでもあったはずのシドが金銀財宝第一になっているのは、彼なりの優しさです。
「(よくわかんないけど)自分がヒロイン候補と関わると嫌そうだし主人公ムーブの邪魔をしてしまった事も無いわけでは無いし。血の女王は譲ってあげよーっと」的な。