主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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姉なる者とハンターと

 

時は少し遡る───。

 

「―――あ、あのバカ共………!!」

 

クレア・カゲノーは激怒した。必ず、かの無知蒙昧のアホ共に天誅を下さねばと決意した。

 

危険だからと、活動拠点でもある宿に置いてきたはずの弟、シド。

そして、一緒に着いてきていたはずのライバル、ヒロ。

 

いるはずの二人がどこにもおらず、書置き一つ残していない事に、クレアは知らず拳を握った。

 

─――が、同時に脳裏へと嫌な予感が過る。

 

ヒロ、アレは良い。ブシン祭の舞台ではジミナとかいう青年に扮していたシャドウに敗北を喫していたが、それ以外の場面で彼が追い詰められている姿を彼女は見たことが無い。いわんや、敗北する姿をや、だ。

 

だがシドは違う。

ヒロは勿論、彼女(クレア)にも一度たりとして勝った事のない、弱く愚かな───故に愛おしい、弟。

ヒロと一緒なら大丈夫だろうが、もし二人が別々に行動していたら?二人がいない理由が、全く別だったら?―――無法都市の人間に、誘拐されていたら?

 

最悪の想像に思わず歯噛みする。

そして、居ても立っても居られないとばかりに駆け出した彼女に、中年の男が襲い掛かった。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛!!」

「邪魔!!」

 

目が血走り、変な呻き声を上げている、明らかに正常ではない様子だったが、クレアは気にすることなくハイキックを側頭部へ叩き込み、宿を後にした。

 

「シドッ、シドッ!!………ヒロッ!!」

 

シドの名を呼びながら───そして時折、どうしようもなくムカつく(一番頼りにしている)男の名前も呼び、走る。

路地裏という路地裏を全て確かめるように、顔を覗かせては走り去り、因縁を付けられては蹴り飛ばし、グールに飛び掛かられては斬り捨てた。

 

途中、話の通じそうな相手がいれば呼び止め、黒目黒髪の少年を見かけなかったか───二人、見かけなかったかと声をかける。

 

しかし探せども尋ねども、手掛かり一つ見つからず。

 

思わず足を止めた彼女は、すぐ目の前の路地で、黒髪の何者かが、グールに貪られている姿を目撃し───

 

「やめてッ!!!!」

 

一瞬にしてグールが細切れになる。しかし、貪られていた少年は、既に息をしていない。

見れば、顔も体もぐちゃぐちゃだ。

 

間に合わなかった───。血塗れになりながらも、クレアは彼を優しく抱きしめた。

 

「シド……ごめんなさい、私がこんなところに連れてきたせいで………!」

「黒目黒髪の少年を探しているというのは、あなた?」

「っ、誰よ」

 

後悔の涙を流す彼女の背後に、いつの間にか一人の女性が立っていた。

赤い髪の女剣士。ただ者ではない雰囲気に、クレアの表情が強張る。

 

「私はメアリー。ヴァンパイアハンターだ。黒髪の少年を探し回っている頭のおか………女がいると聞いてきた。心当たりがある。もしかしたら、役に立つかもしれない」

「そう………学生服を着た、地味で目立たない子と、妙に顔の良いヤツを探していたの。でも……もう、シドは……弟は………」

 

ぎゅ、と遺体を抱きしめる力を強める。

悲壮感溢れる声に、同情の言葉をかけようとして───メアリーは違和感に気づく。

 

「その死体の服は、学生服には見えないけど」

「え?―――本当じゃない。誰よアンタ」

 

ぽいっ。名も無き遺体は、容赦なく投げ捨てられた。

 

「妙に顔の良いヤツ、の方は見覚えが無いが………地味で目立たない子なら二人、覚えがある。一人はグールに襲われている人を見て、「フフフ……」と微笑んでいた」

「それのどこが目立たないヤツなのよ。……絶対違うわ。私の弟はそんな笑い方しない」

「なら、もう一人の魔剣士だ。『血の女王』の配下に連れ去られた、これと言った特徴のない黒目黒髪の……」

「っ、ソイツよ!!」

「そうか……」

 

憐れむような視線が向けられる。

 

「助けられなくって、ごめんなさい。………彼を見たのは、もう前のことだし………今頃は」

「くっ………。どこに、連れ去られたの?」

「『紅の塔』だ。きっと彼は、贄にされると思う」

「贄……。まだ、助けられると思う?」

「………正直、わからない。『赤き月』がじきに始まり、その時に彼の命は失われるはずだけど……その前に殺されている可能性だって」

「まだ間に合うかもしれないのね!?なら教えて!シドは、どこにいるの!?どうすれば助けられるの!?」

 

食い気味の言葉に押されつつ、メアリーは数秒悩んで、その視線を細切れになったグールへと向けた。

 

「そのグールは、あなたが?」

「ええ、そうよ」

「……なら、私に協力して欲しい。『血の女王』エリザベートが目的の私と、弟の救出を目的とするあなたなら、協力できるはず。グールを細切れにする程の力があるなら、心強い」

「良いわ。協力する。弟を助けられるなら、私はなんだってする」

 

威勢の良い即答に、メアリーが頷く。

姉と最古のヴァンパイアハンターが、手を組んだ瞬間だった。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

「いだっ!?」

「あぐっ!?」

 

『紅の塔』、地下書庫。部下三人と共に調査に赴いていたベータは、壁から大胆な登場をした二つの人影に思わず溜息を吐いた。

 

クレア・カゲノーとメアリー………彼女は、二人を一方的に知っていた。

 

知っているからこそ、対処に困る。

目撃者は全員()()()をするのがルールだが、この二人は……特にクレアの方は、手出しができない相手だ。

 

自分達の侵入が早速バレてしまった事に慌て、剣を構える二人へ、ベータは柔らかな声音と共に両手を上げた。

 

「私達に戦う意思はありませんよ、クレア・カゲノーさん」

「ッ!私を知っているの?」

「ええ。ブシン祭優勝、おめでとうございます」

「そういうこと。私も有名になったものね。……戦う意思はない、って言ったわね。なら、あなた達は何者?目的は何?返答次第ではこちらも引くわ」

「クレア」

「良いじゃない。体力も時間ももったいないし、何より見るからに吸血鬼と関係ない。というかその衣装……もしかして、シャドウガーデン?」

 

フードの奥で目を細め、そして頷く。

紅の騎士団という、シャドウガーデンを目の敵にしている組織に所属しているのだ。既に自分達の特徴も割れているし、気づかれてもおかしくはない───そう思いつつ、ならば明かしても問題ないだろうと口を開く。

 

「ええ。私はシャドウガーデンのベータ。お察しの通り、吸血鬼とも、この塔とも関係ない侵入者よ」

「どうして侵入したの?」

「そうね………始祖の血のサンプルが欲しかったから、かしら」

「っ、なぜ?」

 

始祖の血、という言葉が出た瞬間、黙って成り行きを見届けるつもりだったメアリーが思わず口を挟む。

それを一瞥し、ベータは数舜の内に「話せること」と「話せないこと」を選別し、答えた。

 

「私達は悪魔憑きについて調べているのだけど、その過程で吸血鬼と悪魔憑きの血が元は同じという仮説が生まれたの」

「それは始祖に対する冒涜だ!!」

「私達に始祖を冒涜する意図はないわ。あくまで仮説。………それよりも、始祖を冒涜された事で怒るのね。『最古の吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)』さん?」

「私のことを知っているの……?」

「噂程度にはね。………私達について、話せることは話したけれど。納得してもらえたかしら?クレアさん」

 

柄を握り、ベータを睨むメアリーと対照的に、クレアは剣を握ろうともしていない。

シャドウガーデンは敵対組織ではあるものの、今は(シド)の救出が最優先なのだ。話を聞く限り邪魔になることも無いだろうし、対立する必要はない。

 

だが、それはそれとして聞き捨てならない単語が出てきた。弟の救出が第一である以上、長話は出来ないが……せめて、せめて一つだけ聞いておきたい。

 

その一心で、彼女は口を開いた。

 

「ええ。けど、一つだけ聞かせて。………悪魔憑きに、治療法はあるの?」

「それは……私からは答えられないわ。言えるとすれば、あなたが心配する必要はない、とだけ」

「どういう意味よ」

「そのままの意味です」

 

フードの下で、ナツメの時に見せるような笑みを浮かべるベータ。

勿論二人にその顔が見える事はないが、雰囲気から営業スマイルを浮かべている事を察したのだろう。クレアはこれ以上聞いても意味がないと、頭を振った。

 

「いいわ、行きましょうメアリー。これ以上時間をかけたら、弟を助けられなくなる」

「……!」

「―――弟さん?」

 

歩き出した彼女を引き留めるように、ベータが首をかしげる。

同時に、背後に控えていた黒服の一人が、思わずと言った様子で声を漏らした。

 

「ここの連中に攫われたのよ。『血の女王』の贄にされるかもしれないの」

「それは本当ですか!?」

 

フードの下からわずかに蜂蜜色の髪を覗かせた少女が、一歩前に出る。

 

「……ヒロまで……弟の友達まで、どこに行ったかわからないし。とにかく私がアイツを助けてあげないと」

「そんな……っ」

「666番。控えなさい」

「で、ですがッ………いえ、すみません……」

 

声を低くしたベータに、666番と呼ばれた少女が引き下がる。

訝し気な視線を向けていたクレアだったが、今は一秒だって惜しいのだと出口へ向かう。

 

が。

 

「―――最後にもう一つだけ。『安息の地』を、もう目指すつもりは無いのですか?」

「は?なによそれ」

 

思わず振り向いたクレアだが、ベータの視線が自分ではなくメアリーに向かっている事に気づくと、メアリーの顔を覗き込む。

 

だが、彼女がその表情を伺うよりも前に俯いたメアリーは、クレアを押しのけるようにして、何も答えぬままに部屋を出ていった。

 

わからないながらも、時間がないのは変わらない。今度こそ、クレアは部屋を出ていった。

 

「はぁ。失態ね、666番」

「……申し訳ありません」

「あなたのことは、ラムダもアルファ様も買っているの。………それに、ヴォイド様も……」

 

 

(「大会中、多分ローズ会長が来ると思うんだけど……もし会ったら『自殺はダメよ』とか言ってあげて欲しいんだよね。俺の知り合いって明かしてくれて全然オッケーだから。ま、出来たらで良いけど」

「………ローズ・オリアナが、自殺すると?」

「あー、うん。多分だけどね。まぁ、念のためだよ念のため。ほんとは俺がやるべきなんだろうけど……流石に、シドと戦ってる途中に生徒会長の事まで気にする余裕ないだろうし。だから───頼んだぞ、我らが配下よ」)

 

 

「………とにかく、減点ね。以降気を付けなさい。664番、665番もよ。仲間のフォローも任務の内だということを忘れないように」

「「はっ!!」」

「―――さ、任務に戻るわよ。と言っても、始祖の血のサンプル回収は、シャドウ様、ヴォイド様両名が動かれるまで待機する必要があるけれど……ここの資料は値千金。重要な物は全て回収。万が一動かせないなら写しを取りなさい」







なろう版だとメアリーがミリアって名前になってるんですが、ピクシブ百科とかアニオタwikiとか見てもどこも触れてないんですよね。
なんで無かったことになっているのか、地味に気になってます。

オルバ子爵の娘と名前被ってたからですかね?
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