主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
第二の勘違い、始動。
因みにヒロのメインヒロインはベータとアレクシアです。
二人のいがみ合いが好きだからです。
「貴様ら、何者だ!!」
オルバは目の前の光景に微かに慄きつつ声を荒げた。
床に転がる部下達の死体。余裕を感じさせる姿で立っているのは、部下の話にあった侵入者。
七人の少女と、一人の少年。全員が黒い衣装に身を包んでおり、少年だけが赤黒い剣を携えていた。
「我らは【シャドウガーデン】。陰に潜み、陰を狩る者」
「シャドウ、ガーデン……?」
聞き覚えのない名前に困惑するも、頭を振って気を取り直すオルバ。
「この場所に忍び込むことの意味をわかっているのか?貴様らはもはや、生かして帰すわけには―――」
「『ディアボロス教団』の支部だろう?教団に楯突く事の重大性も承知の上だ。この世界の中枢にこびりついた悪……我らが切除する」
「貴様ッ、どこまで知っている!?」
表の人間が知るはずもない事を平然と口にした少年に、オルバは激昂しつつ剣を振り下ろす。
赤黒い魔力を迸らせ、空を裂く音と共に襲い来る刃を、少年は剣を持っていない手の甲で撫でるように逸らした。
ほんの僅かな力で攻撃を逸らされた事にギョッとしたオルバへ、少年は口の端を歪める。
「―――全てだ」
「なんだと……ッ!?」
「我らは全てを知っている。故に屠るのだ、貴様らをな」
「………戯言をッ!」
一撃を逸らされた事で少年の言葉に真実味を感じてはいるものの、オルバは敗北の予感を、弱気な心を振り払うように怒鳴り、魔力を解き放った。
空気が震える程の、可視化された魔力。
赤黒い波動は、普通の相手であれば戦意を奪うことすらできただろう。
―――普通の相手であれば、だが。
「っ、な、なんだ!?灯りが、消えた……ッ?!」
オルバの視界が漆黒に染まる。
同時に感じる悪寒、威圧感。
(なんだ、何が起こった!?この一瞬の内に、あの子供は……………いや、まさか!?)
松明を破壊された、目を潰された、そんな事ではない。
最も単純で、それでいてあり得てはいけない結論。
自分の視界を塞いでいるもの―――否。自分の目に映っている物は。
「魔力で、
「御明察」
少年の、一切の光を遮断する程に黒い魔力が解き放たれ、部屋を包んだ。
そのために彼は視界を奪われたのだ。
「ば、バカな!それほどの魔力放出など、あり得るはずが……!」
「その
絶句させられる。
自分より二回りは年が離れているだろう少年が、それほどの力と覚悟で自分達を………この世の闇を討とうとしている事に。
「我が名はヴォイド。【シャドウガーデン】の『番外位』………来るが良い、ディアボロス教団の者よ。その命脈を穿つ」
光を呑み込む魔力の帳の中で金色の瞳が爛々と輝く様に、オルバは唾を飲み込んだ。
★★★★★
「………逃げたか」
最初こそやや乱雑ながら攻撃してきた教団の男だったが、あまりに自分の攻撃が通用しない事に諦めたのか、地面を破壊して地下へと逃げた。
うんうん、想定通りだ。後はシドがちゃんと待機してくれてれば終わり。
……途中、なんか相手の魔力が爆発的に増えた気がしたけど、なんだったんだろ。
別に俺やシドの脅威になるようなモンでも無さげだったし放置しちゃったけど……なんだっけ、ディアボロスの雫とか?いやアレはラウンズ用の不老不死の薬か。
「追わなくても良いの?」
「敵のホームに攻め入るんだ、逃走経路は全て確認済みだし………
要はシャドウがいるから大丈夫だよ~、という事だ。
これを言うと、シャドウ様ラブ勢の七陰達は大喜びしてくれる。
見ればほら、ベータもガンマもデルタもイプシロンもゼータもイータもみーんな感激している様子。
でもこれが俺の事だったら多分「あっそ、で?」くらいに留まるんだろうなと思うと涙が出そうだ。
「さて、クレアの拘束を解いて帰るか」
「連れて行かなくて良いの?」
「放置していれば勝手に帰るさ。それに、わざわざカゲノー家まで侵入してクレアを帰したら面倒事が増える」
「そう。なら行きましょうか」
美しい金髪を揺らし、アルファが先を歩く。
俺は全員が奥へ向かってから少し遅れて付き従い、クレアの居る牢獄へと向かった。
因みに彼女は右手の肉が削げた状態で気絶していた。
多分自分で削いだのだろう。気でも狂ったかな?
★★★★★
「……なんて事もあったねぇ」
「結局実演できたシナリオは後にも先にもアレくらいだったな。因みにやってみた感想はどうだった?」
「いやぁ、良かった良かった。彼、盗賊にしてはそこそこ強かったし、何より演技が迫真だった!」
「セリフ回しも良い感じだったしな。あんな逸材が王都にも沢山居れば良いが」
「きっといるさ。居なくたって、僕ら二人のやることは変わらない、だろ?」
あの一件から二年の月日が流れ、遂に俺達はミドガル魔剣士学園に入学する事になった。
移動を前日に控えた俺達は、慣れ親しんだ廃村へ訪れ、思い出話に花を咲かせていた。
「アルファ達は夢から覚めちゃったみたいだし、なんだかスタート地点に戻った気分だ」
「そうだなー」
アルファ達はもう居ない。
クレア誘拐事件の後、彼女が王都へ向かった日に、彼女たちが住んでいた家を残して、皆巣立っていった。
ディアボロス教団が世界規模の組織だと言うことを知ったから、それに対抗すべく私達も世界中に散る必要がある……とかなんとか言って、現在の当番制を残しつつ去っていったのだ。
正直、悲しかった。いくら嫌われていても、シャドウ様ラブ勢である以上は俺の主人公プレイ、陰の実力者の相棒プレイに付き合ってくれる俳優だった。
だが彼女たちは教団との戦いを
だってそうだろう。ディアボロス教団の事なんて、調べようと思えば一ヶ月もあれば粗方わかる。事実俺がそうだった。
特に、彼女達が俺達の下を去る口実にした「ディアボロス教団は世界規模の組織」という部分。あんなのちょっと調査すれば半日足らずでわかることだ。それをわざわざ「今初めて知りました~」みたいに話されても嘘乙としか言えない。
まぁ、仕方のない事だろう。いつまでもごっこ遊びに興じられるほど、みんなも子供じゃない。
前世も今も変わらない。いつまでも一緒に遊ぶつもりだった友達は去り、後には俺だけが残る。
いや、今の俺にはシドがいる。それだけで十分じゃないか。
七陰は美人揃いで良い画になったが、どうせ一人残らず『シャドウ様ラブ&ヴォイドは別に』だったんだ。今後ヒロインを獲得する事を考えたら、寧ろ彼女達が去っていった事―――ヒロインにとんでも美人と一緒にいる姿を見られての勘違いフラれパターンが消滅した事は、喜ぶべきだろう。
「………なぁシド」
「んー?」
「入学記念に、魔力有りの全力勝負しようぜ」
「お、良いね。そう言えば最近してなかったし、ここでの最終戦って事でやっちゃおうか」
俺の漆黒の魔力と、シドの青紫の魔力が周囲に満ちる。
なおこの戦いで山が五、六個消滅し、隕石でも落ちたかのようなクレーターが大量に生成されたのだが、それは俺達には関係ない話である。
★★★★★
時間の流れは早い。アルファ達が俺達の下を去ったのも遠い昔の事のよう。
俺達がミドガル魔剣士学園に入学して、数ヶ月の時が流れていた。
その間、シドは全力でモブ的立ち位置をキープし、俺はモブからスタートして「あれ?実はコイツ凄いやつじゃね?」と微かに注目される成長系主人公ムーブに勤しんでいた。
具体的には、シドの成績は常に中の下。俺は敢えて下の下から始めて現在上の下。
スタートダッシュは最悪からキメるのが主人公だからね。
さて、しばらくはさほど大きなイベントもなしに話が進んでいたが、ようやく俺達の物語が加速するような一件が訪れた。
『学園のアイドルへの罰ゲーム告白イベント』!
アレクシア・ミドガル王女。この国の王女様で、べらぼうな美人。入学前からヒロイン候補として目をつけていた人だ。
彼女もまた入学して一年も経っていないにも関わらず、既に告白して玉砕した男子生徒は数知れず。中には派手な公開告白の末にフラれ、ショックで病院へ運ばれた者も居た。
で、そんな人相手に俺達は告白することになった。
モブ友二人とチーム戦でボードゲームをやり、わざと敗北してこのモブイベにも主人公イベにもなりうる罰ゲームを受けることにしたのだ。
シドはフラれ、凡百のモブの仲間入りを果たす為。
俺は
無論、アレクシア王女に婚約者候補が山ほどいる事も、彼女が煩わしく思っているだろう事も調査済み。
数多のラブコメを履修した俺なら偽装恋人になるくらい朝飯前である。
なお告白の順番だが、じゃんけんの結果シドが最初でその後に俺ということになった。
「最高峰のモブを、究極の玉砕を見せてあげるよ」
罰ゲームが決定した日の帰り道、シドは自信満々にそう語った。
なら俺の返す言葉は、決まったようなもの。
「なら俺は完璧な主人公を見せてやるよ。ラブコメの波動に震えな」
具体的な告白の方法は簡単だ。オーソドックスな「好きです、付き合ってください」を馬鹿正直に言えば良い。
こういうのは下手に奇を衒わずに、芋っぽい感じで行くのがベスト。
コイツなら偽装恋人として御しやすそうだなとでも思ってもらえれば良い。
そもそも告白イベントですぐにでも惚れてもらう必要は無い。偽装恋人生活の途中でいかに好感度を上げるかが勝負なんだから、ここで下手に気張る方が逆に不味い。
「なんだよヒロ、やけにご機嫌だな」
「んー、まぁな」
「まさか今日の罰ゲームを忘れたわけでは無いですよね?告白ですよ、こーくーはーく!」
「俺とシドの二人が、だろ?」
昼飯を食いながら、俺達で選んだモブ友二人(ヒョロ・ガリとジャガ・イモというらしい。いかにもモブだ)と話す。
食堂で最安値の定食に舌鼓を打ちながら、俺とシドは「はいはいわかってますよ」と頷いた。
「しかし、今朝も一人フラレてたな」
「あんな大量の薔薇の花束まで用意してたのに……流石は王女様ってところですかね」
「骨は拾ってよ?」
「おう、全力で笑ってやらぁ」
「罰ゲームですからねぇ」
シドの言葉にニヤニヤする二人。うんうん、実にモブだ。セリフに表情に態度、どこをとってもモブ。
「ただ、ヒロ君だと成功しちゃいそうな感じありますよね」
「そうかな」
「確かにな。ヒロは俺達の中でもモテる方だ。女子の間で結構噂されてるしな」
「男子や教員からの評価も良い感じだしねー」
これだよこれ!主人公はモブ友からも「コイツは少し違うな」と思われててこそ!
くぅ〜、入学してからの地道な努力が実を結んでる実感!!
ナイスだヒョロ、ジャガ!そしてシド!
「ま、シド君の告白が最初らしいですし、ヒロ君が万が一にも王女様と交際することになっても一応罰ゲーム的に問題ありませんね」
「えー、僕が成功する可能性ゼロ?」
「たりめーだろ。お前みたいなどこにでもいそうなヤツが成功できたら、今頃王女様は誰かと付き合ってるっつーの」
「だな。悪いがシドじゃ無理だろうよ」
酷いなぁ、と笑うシド。一見すると友からの心無い言葉に傷ついているようにも見えるが、その実内心では大喜びしている。
俺にはわかる。「これぞまさにモブ!」とウッキウキのシドが容易に幻視できる。
そんな一幕を挟み、ついに放課後。待ちに待った玉砕タイム&主人公ルート突入タイム。
人気の無い裏庭へ王女を呼び出し、早速シドが『渾身のモブ玉砕』を披露する。
「ア、ア、ア……アレクシアおうにょ!」
スタッカート気味のどもりに始まり、微かなビブラートを感じさせる名前の呼び方。王女の部分なんて、滑舌が迫真すぎて「にょ」になっている。
滑り出しからなんとモブ臭い!流石はシドと言うべきか、手をズボンで必死に拭い、緊張で手汗やばいですアピールまでかましていた。
「す、すすすっ……す、好き、ですぅ……ぼ、僕と、付き合ってくぁさぃ……?」
自信のない疑問文チックな告白!指先の震えからなにまで、全てがモブらしさで構成された
やるじゃねぇかシド。お前の勇姿、しかと見せてもらった。
バレないように俺とアイコンタクトを取ったシドに、俺はサムズアップを返す。さぁ、次は俺の番……
「よろしくお願いします」
「え?」
「は?」
「「なぁっ……!?」」
い、今なんて?
「貴方のような人を待っていたの」
シドの手を取り、アレクシア王女はそんな事を宣う。
……思えばシドの告白、あまりにモブだった。
そしてアレクシア王女には婚約者候補がいくつかいる。当然全員完璧なイケメン達で、彼女はそれを疎ましく思っている。
であれば、そんな婚約者候補達を諦めさせる(或いはそれまでの時間稼ぎ)にはシドのように高いモブ力を持つ男が最適というのも頷ける。
「ちょっ、ちょっと待ったぁ!!」
茂みから飛び出して叫ぶ。王女は微かに驚いた顔をし、シドはまるで光明を得たとばかりに安堵した顔を見せる。
「あ、アレクシア王女!俺も貴方が好きです!シドより……彼よりもずっと貴方を愛している!だから、だから付き合うなら俺を!是非俺と付き合ってください!」
「えーっと……」
アレクシア王女は困ったように俺とシドとを見比べる。
どうせどっちを選ぶのも彼女にとっては同じ。ならば考え直してもらえるように、シドよりも熱い想いを抱いていると示せば良い……と考えての乱入だったが、取り敢えず掴みは成功。
だが最後の一押し。コレをどうするかで俺のラブコメ主人公ルートの成否が決まる。
考えろ、前世で培った恋愛スキルをフル活用し、シドでは無く俺を選んでもらえるだけの情熱的な一言を絞り出せ……!!
こういう時は……そう!褒める!何故好きになったのかの理由、惚れるきっかけを告げ、同時に褒める!
人間、褒められて悪い気はしないものだ。それはアレクシア王女とて同じはず。
よって、事前調査で得た情報や俺自身の彼女への所感を元に導き出される答えは―――
「貴方の
そう、コレがベストアンサー。
事実俺は彼女の剣が好きだ。きっとシドも同じことを言うだろう。才能という華こそ無いが、愚直に努力してきた事が良く伝わってくるまさに『努力の剣』。
姉であるアイリス・ミドガル王女が天才の剣などと持て囃されているせいで劣った凡人の剣と蔑まれがちだが、俺はこちらの方が好きだ。
……それに、俺個人の感情を抜きにしても『今まで周りに否定されてコンプレックスだったモノを初めて認めてくれた男』になれば、少なくともテンプレ的に「キュンッ!」とならない筈がない。
「そんな剣を振るう貴方が好きです!どうかお付き合いしてください!!」
どうだ、この全てにおいて完璧で究極のパーフェクトコミュニケーション!楽しく話せたな!そしてようこそ俺のラブコメ主人公ルートォ!!
「――――は?」
おかしい。いつまで経っても俺の差し出した手は握られず、感激したような声も聞こえてこない。
寧ろ地の底から響くような、凍えきった怒りの声が聞こえる。
恐る恐る顔を上げると、視線だけで俺を殺そうとしているかのように睨みつけているアレクシア王女。
俺は感情の機微に聡い。恋愛センサーは常に最高感度で稼働中。
だから、今の俺の状況も正確に判断できるのだ。
……やっべー、地雷踏んじゃったよ。
【ディアボロス教団について】
シャドウ→あるわけが無い。全員それを承知の上でノッてくれてたと思っている。
ヴォイド→探したら普通にあった。けど誰も信じてくれない上に、あるかどうか探ろうともしていないっぽいと思っている。
七陰→本当に存在する事を知っている。シャドウもヴォイドも教団について自分たち以上に理解していると思っており、置いていかれないようにしようと日夜努力している。
因みにヒロが「俺が一か月で見つけられたのに」とか言っているのは自己肯定感が異常に低い為です。普通ならどれだけ頑張っても数か月以上要します。
世界規模の悪の組織を舐めすぎですね。