主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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あまりに陳腐で、だからこそ美しい物

 

「………」

 

薄暗い牢獄。鎖に繋がれ椅子に拘束されたアレクシアは、虚ろな目で石造りの天井を眺めていた。

腕にはいくつもの注射痕、切り傷が生々しく刻まれており、口元には粥のような水気の多い何かが付着している。

かれこれ一週間ほど、時間経過もわからないこの牢獄で、彼女は狂った白衣の男に血を抜かれては乱雑に食事を与えられる日々を過ごしていた。

 

隣の牢獄には、これまた鎖に繋がれた人型。

だがアレクシアと違い椅子に座っているわけでは無く、またどこからどう見てもただの人間ではなかった。

 

褐色の肌。白目の部分が黒く、瞳は赤い。どこか溶けたような口をしており、片腕が無い。

化け物、以外の呼び方が見つからないソレは、ただ地面を見つめるのみ。

 

「……一体、いつになったら出られるのかしら」

 

思い出すのは、いつだって外の事。

姉や、周囲の人間。学校生活に王女としての暮らし。そして、自分と偽りの恋人関係にあった少年。

 

―――そしてその偽装恋人だった少年がやけにお勧めしてきた、どうしても許しがたい少年。

 

「………なんて、もうどうでも良いんだけど」

 

自分の剣が嫌いだった。姉の天才の剣に遠く及ばず、比較されるだけの凡人の剣が嫌だった。

敬愛する姉は褒めてくれたが、それは慰めでしか無かった。惨めなだけだった。

 

 

あの男は、ソレを好きだと言った。そんな剣を振るう君だから好きだ、と。

 

 

最初こそ許せなかった。入学してから告白の類は両手の指を軽く超える数受けてきたが、ここまで最低な口説き文句は無かった。

 

だが、冷静になって考えてみると―――と言っても冷静になったのは偽装恋人からも「君の剣が好きだ」と言われてからだが―――あの男はあの男なりに、自分の想いを告げただけだったんだろう。

それに対してムキになって、いつまでも毛嫌いし続けたのは我ながら子供過ぎる。彼女は微かに反省した。

無論、こんな極限状態にでもならなければそんな事は考えなかっただろうが。

 

「………このまま死ぬのかしらね、私。だったら彼とも一回くらい付き合ってあげても良かったかも」

「ウゥ」

 

隣の怪物へと語り掛けてみる。返事は微塵も求めていなかったが、呻き声が返って来た。

 

 

アレクシアはシドとの偽装交際を気に入っていた。口は悪く態度も悪く、金に汚く欠点だらけ。実に好みの男だった。無論、シドへの恋愛感情など微塵も持ち合わせてはいないのだが。

 

そして恋愛感情を持ち合わせていないのはシドとて同じ事。寧ろフラれようと躍起になっていたまである。

だからこそアレクシアはわざとらしく抱き着いてみたり衆人環視の前で甘える振りをしてみたりしたわけだが(嫌そうな顔が面白かったとのこと)どうせ死ぬのなら唯一記憶に残る告白でフラれたヒロとも付き合ってみて良かったな、等と考えるようになっていた。

 

シド曰く「僕とすこぶるそっくりさんだよ、在り方がね」とのことだし、多分第一印象にさえ目を瞑ればシドのように楽しく偽装交際が出来たことだろう。彼女はただ血を抜かれるだけで退屈な一週間を、そんな意味も無い想像で過ごしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「――――?外が、騒がしい?」

 

それからしばらくして、眠ろうと試みていたアレクシアはやけに外が騒がしい事に気づき目を開けた。

何かが破壊される轟音。耳をすませば、逃げ惑う人々の絶叫すら聞こえる気がする。

隣の怪物も、アレクシアと同じく天井を見上げていた。

 

「何が起きてるか知らないけど、ついでにここも全部壊してくれないかしら」

 

彼女がそう呟いたと同時に、バガンッッ!!と扉が蹴破られる音が聞こえる。

同時にここ一週間毎日のように聞かされた声―――狂ったように血を抜く男の、情けない声が響いた。

 

「や、やめ、やめろっ離せ!あぁっ、畜生!畜生畜生畜生!なんなんだよお前っ、や、奴らの仲間だとでもいうのか!?ぼ、僕の研究所を破壊して、僕をはは、破門一歩手前まで追いつめたアイツ等の!!」

「おかしいな、魔力反応は確かに――――あ、居た居た」

「………えっ?」

 

近付いてきた影は、あの白衣の男のモノではなく。見慣れた学生服姿の少年―――ヒロ。

 

なんでこの場所に?と尋ねようとしたが、それ以前に気になる要素が多すぎた。

まず、白衣の男。何故か両手両足が切断された状態で、首根っこ掴まれてヒロに引きずられていた。

ヒロは何故か制服が血塗れで、見える範囲だけでも十を超える傷が確認できる。

 

手にはボロボロの剣。さながら()()()()()()()刃こぼれだらけのソレを肩に載せ、微かに荒い息を整えながら、ヒロはアレクシアの檻の前に立った。

 

「――――えっと、事後?」

「いいえ、卑猥な事はされてないわ。そこの男が注射フェチで血液フェチなら話は違うけど」

「う、うわぁあああっ!?ぼ、ぼぼぼっ、僕の腕!足ぃ!?」

 

アレクシアは粥のような物を乱暴に与えられていたせいで、まるで卑猥な液体が体中に付着しているかのように見えた。

彼女自身なんとなく察しがついたのでヒロのボケにも聞こえる問いかけに真面目に返答したが、そこで白衣の男が手足を見て叫ぶ。

 

なんと今まで自分の両手両足が欠損していた事にすら気づいていなかったらしい。情けなく泣き叫ぶ男を、ヒロは一瞥もせずに顔面を突き刺して殺す。

 

「……助けに来てくれたの?」

「男の子なんでね。嫌われているとわかってても、好きな人相手にカッコつけたくなるんだ」

「―――なんて気障なセリフ。最高ね」

「そりゃどーも」

 

開けっ放しの檻の中に堂々と入り込み、アレクシアの拘束を破壊する。

懐からハンカチを取り出して彼女の汚れと血を拭うと、ヒロはどこか気取った様子で手を差し伸べた。

 

「お手をどうぞ、プリンセス。長い間座りっぱなしだったんでしょう?」

「あら、ご丁寧にどうも。ナイト様とでも呼んだら良いかしら」

「ふっふっふっ、ならば愛の騎士『ラブリーナイト』と」

「ダサいのは嫌よ」

「だ、ダサい!?」

 

わりかし本気でダメージを受けた様子のヒロに苦笑しつつも、アレクシアは彼の手を取って立ち上がる。

大きく息を吐くと、改めて傷だらけのヒロを眺めた。

 

 

―――こんなになってまで助けに来るなんて、どうかしてるわね。

 

 

気取った態度も、いつまでも頭から離れない最低な告白も、あまり好みではないはずなのに。

彼女の口の端は、いつの間にやら愉快そうに歪んでいるのだった。

 

 

「じゃ、行きますか」

「待って。その………」

 

言いにくそうにしながら、アレクシアは怪物の方を見る。

ヒロもそちらを見ると、「ああ」と小さく呟いてから、安心させるように笑った。

 

「大丈夫大丈夫。あの子にはもっと適役な王子様が居るから。―――女の子だけど」

「王子様?」

「ま、気にする必要は無いよ。それよりも、連中の最大のターゲットはアレクシアだから、さっさと逃げないと」

「え、ええ。わかったわ」

 

ヒロの言葉に不思議そうにしつつも、アレクシアは一応納得した様子で彼に付き従う。

途中で地面に転がる死体から剣を拝借しつつ、地下道を走る。

 

 

「でもまさか、貴方が助けに来るなんてね」

「愛しのシド君じゃ無くて悪ぅございましたね」

「別に彼とはそういうのじゃ無いのだけど」

「俺よかアイツのが好かれてるでしょうに。―――叶わぬ恋とは、ほろ苦い」

「もしかしてだけど、実は楽しんでない?」

「まさかぁ」

 

まともな会話ができる存在に、自分でも知らない内に飢えていたのかもしれない。

喉は乾ききっているのに、言葉が湯水のように溢れる。

 

アレクシアは第一印象に囚われずにヒロと会話をして、純粋に楽しいと思っていた。

お調子者で、どこかバカで、でも憎めない。なるほど、所々シドに似ている部分もあるかも知れない。

 

 

「ねぇ、()()

「何?」

「その――――」

「勝手に逃げられては困るね」

 

アレクシアの言葉を遮るように、暗闇の奥から声が聞える。

あまりに聞き覚えのある声にアレクシアは目を見開き、ヒロは密かにニヤけた。

 

 

()()()()来ましたか。先生―――いや。()()()()()()()()、ゼノン・グリフィ」

「おや、私の事を知っていたか、と言いたいところだが……一つ間違いがある。自称ではない、私こそ、次期ラウンズに相応しい人間だ」

 

 

ゼノン・グリフィ。ここに居て良いはずが無い人間が、堂々と立っていた。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

「貴様、何者だ!!」

 

 

この国の王女、アイリス・ミドガルは困惑していた。

突如発生した同時多発的破壊行為。飲食店から貴族の邸宅まで、なんの関連も無さそうな建物が次々と破壊されていく異常事態。

犯人も動機も何もわからないソレは各地で次々と発生し、アイリス達騎士団の人間は常に一手遅れて行動していた。

 

忸怩たる思いを抱えつつ、被害を受けた地点へと移動していたアイリスの前に、美しい金髪のエルフが現れた。

黒いスーツに身を包んだ彼女は、明らかに怪しい―――というか、今まさに破壊された建物の中から出てきた。

 

 

コイツが王都に混乱を招いた張本人……?と、柄を握りいつでも戦闘を開始できるように構えながら、アイリスは睨みつける。

一挙手一投足を見逃すまいとする彼女に、エルフは名乗った。

 

 

「アルファ。【シャドウガーデン】のアルファ」

「何故このような凶行に及んだ!」

「それを知る必要は無いわ。貴方はただの観客に過ぎないのだから」

「……何?」

 

ピクリ、と眉が動く。

小馬鹿にするような発言に、アイリスは不愉快そうに声を漏らした。

 

「貴様が、貴様らがやっている事はただのテロ行為だ!私は決して、そのような事を許さない!」

「貴方の許しを請うつもりは無いわ。――――もうじき、()()が動き出す。全てはその瞬間に始まり、そして終わる」

「彼ら……?」

「世界に蔓延る悪を暴く最強の光であり、我らを優しく包む絶対の闇…………いずれわかるわ。貴方が舞台に上がってくるような事があれば、だけれど」

「っ、世迷言を!」

 

雨粒が吹き飛ぶ程の魔力放出と同時、アイリスはアルファへと突撃する。

渾身の突き。あくまで捕らえて話を聞く必要がある為に、急所は避けた。だが手加減無しの本気の一撃。

アルファの体は容易に貫かれ、そのまま捕らえられる―――はず、だったが。

 

 

その一撃は、いつの間にやら彼女が握っていた黒い剣によって防がれていた。

 

「一体どこから……!?」

 

勢いよく後退したアイリスの目に、背を向けて去っていくアルファの姿が映る。

雨と闇の中へと消えて行くアルファを、アイリスは追う事が出来なかった。

 

彼女は見つめるばかり。

【シャドウガーデン】……一度も聞いた事が無い組織の名前を、小さく呟きながら。

 

 

 

 

 

「……彼女に私の姿を見せる………これで良かったのよね、ヴォイド」

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

アレクシアは眼前の光景に、ただ絶句した。

 

剣術指南役を担当する程の強者であるゼノン相手に、一学生に過ぎないヒロが喰らいついている―――否。

 

 

「くっ、君は確か王都ブシン流四部の生徒だったはずだが……!!」

「本気でやらないようにしてるんだ。殺し以外はな」

「はははっ、()の順位付けは所詮飾りという事か。私も同意見だよ!!」

 

 

()()()()()

 

ゼノンは言葉でこそ余裕を見せているが、表情は硬い。その上ヒロに攻めることができず、防戦一方だ。

明らかに今までの彼とは比べ物にならない魔力を放出していながら、である。

 

ヒロは時折傷口から血を吹きだし顔を顰めてはいる物の、圧倒的な手数でゼノンを追いつめていた。

 

 

 

「――――あぁ、そうだったのね」

 

 

完成された、というにはやや未熟さが残る物の、それでも彼女の遥か先にある剣。

凡人の剣……ヒロの剣は、まさしくアレクシアのソレと同じだった。

 

「貴方は、私が夢見た道を……」

 

積み上げられた努力。それはきっと血の滲むような物だったのだろう。彼の歩んできた道が、剣技を通して見えて来る。

 

アレクシアは脱力しきって座り込み、ただヒロとゼノンの打ち合いを眺める。

 

素敵だと思った。自分はこの剣が好きなのだ、とも。

同時に、先日シドに言われた言葉、ヒロの告白の言葉、そして―――自分の剣が嫌いになったきっかけでもある、いつぞやの姉の言葉を思い出す。

 

そういう事だったのか。姉も、ヒロも、シドも、この感情を抱いたからこそ「好きだ」と言ったのか。

 

 

 

命を削りながら戦っているかのような、逆境にありながら諦めず戦い続ける物語の英雄のようなヒロを、アレクシアはただ静かに見つめた。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

ゼノンの剣を受け流し、逸らし、殴る蹴るの致命傷にならないダメージだけ与えていく。

時折わざとらしく傷口を()()血を噴き出す事で、実はギリギリなんですアピールも忘れない。

 

「クソッ、まさかこれほどとはね……!次期ラウンズとしての魔力を、次期ラウンズとしての剣をもってしても防戦一方とは……!まさかこれほどの()()()が潜んでいたとはね」

「俺は実力者と呼ばれる程じゃねーよ。まだまだ未熟者なんでな」

 

やめてくれゼノン先生。隠れ潜む実力者はシドの役目なんだ。俺はあくまで主人公。頭角を現し始めた、実は裏の世界との関係も!?系主人公なんだ。

 

 

……とはいえ、ここまでは完璧だ。

剣を捨て、ゼノンの手を取ってダンスでもしてしまいたいくらいにはご機嫌である。

 

アレクシア王女の救出シーン。シドとの協議の結果、ヒロとして救出し、憎まれ口を叩かれながら脱出というシナリオに決定。

アレクシアがどこまでノッてくれるかが不安要素だったが、想像以上にジョークにノッてくれた。

 

そして逃げる途中で現れる敵の親玉。正直拍子抜けレベルの弱さだが、肩書は十分。「あのゼノン・グリフィと戦ったのか!?」と後々語られる事間違いなしだ。

 

この後わざとらしく追いつめられるために()()()()()()()()()()おいたので、救出前の激しい戦闘で受けた傷が!という演出もきっと上手く行く。

 

―――そして、動けなくなった俺にゼノンの凶刃が振り下ろされる直前、天井を突き破って現れる『陰の実力者』。

 

 

シナリオナンバー13、必ず成功するぞ!!

 

 

「未熟者?謙遜も過ぎればなんとやら、というヤツだろう。君のその剣、ボロボロだ。体の傷を見るに、教団のメンバーと戦闘になったようだね。だというのに、私のこの新品同然の剣と何度も打ち合って壊れていない………衝撃を全て受け流しているんだろう。だから何時まで経っても武器が破壊されない」

 

あ、オイ。それはツッコむなよ、お約束だろ!

 

確かに木の枝で鉄剣と打ち合えるくらいには衝撃を受け流す技術は高いと自負してますけど!

でもそれって成長系主人公が最初の戦いで使っていい技じゃないでしょ。ソレは後々「お前は無意識のうちにやっていたのだ」とか師匠ポジに言われて、ようやく能動的に使えるようになるものだ。

 

 

―――あ!無意識で使ってる体で行けばいいじゃん!

俺ってば天才!アドリブ力で差をつけるぜ!

 

「衝撃を、受け流す……?まさか、俺がそんな……」

「とぼけるなよ。思えば私の攻撃は、全て手ごたえが()()()()。まさか無意識にやっていました、なんてふざけた言い訳が出来るとでも思っているのかい?」

 

 

ふ、ふざけてないやい!

 

クソッ、ゼノンは良い声してるしセリフ回しも良い感じだし敵としては申し分ないが、ツッコミが激しすぎるな。

このまま続けてると俺が敢えて手を抜いている煽り厨系主人公のレッテルを貼られる羽目になってしまう……どうする。

 

 

選択肢一。俺のトークパワーで論破する。

 

選択肢二。「くっ、もう限界だ……!アレクシア王女、せめて貴方だけでもお逃げください……!」と言って都合の悪い事を聞かせない(ゼノンはどうせ殺すのでどうでも良い)

 

そして選択肢三。

 

 

「ヒロ・ムノー。一体君は―――ッ!?」

 

特殊な歩法を利用し、さながら瞬間移動でもしたかのようにゼノンの前に現れる。

相手がガードする暇を与えずに振り下ろされた刃が、ゼノンの片腕を斬り落とした。

 

慌てて後退するヤツを、逃しはしない。ただ一歩踏み込んで、刺突を放つ。

 

心臓は狙わない。あくまで狙いが逸れた風に、肺あたりを刺す。

 

 

 

―――選択肢三。有耶無耶にする。

 

「どうしても守りたい人が居るんでね。滅多に出さねぇ本気まで出させられちまって、こっちはちょっと疲れてんだ。おしゃべりがしたいなら、あの世でするこったな」

 

息が荒いフリをして、咳き込むフリもする。

それを見たゼノンは、表情を苦悶に歪めつつも立ち上がり、懐から小瓶を取り出した。

 

「……いいや、死ぬのは君さ。誇ると良いよ。次期ラウンズの私に、一生残る傷を与えた事を。我が『最強』の力を以って君を殺す事で、その栄誉を称えようじゃないか」

 

コルクの蓋を噛んで外し、中身を口へ放り込む。

赤い錠剤を噛み砕いた瞬間、ゼノンの魔力が爆発的に増大――――ってこれ、アレか!クレア誘拐事件の時の、急に魔力が増えたヤツ!

 

「な、なんて魔力……!?」

 

アレクシアが戦慄したように声を漏らす。

 

いやいや、爆発的に増えたとは言えこの程度よ?制御も全然なって無いし、あんまりビビらなくても―――待てよ。これってもしかして……

 

「覚醒者3rd。この力を御せる私こそ、ラウンズに相応しい……。満身創痍の君に使うには勿体ない程の力だが……私なりの敬意だ。積み上げられたその努力、我が最強の力を以って終わらせよう」

「ッ、駄目ッ!!」

 

アレクシアが叫ぶ。

だがその時には既に中古で買ってきた剣は破壊され、袈裟斬りを喰らっていた。

 

血が噴き出す。ついでに自分で開けた穴からも血を大量に溢れ出させる。

 

わざとらしく口からも吐血しておこう。

 

「ごはぁっ……!?」

「防ぎきれなかったようだね!だがやはり君は凄いよ、今の一撃で体を切断するつもりだったが、ギリギリ致命傷にならない程度に済ませるなんてね!」

 

放たれた蹴りをわざと受け流す事無く喰らい、アレクシアの真横まで吹っ飛ぶ。

地面を転がり、無様に倒れた俺はこれでもかとばかりに咳き込んだ。

 

「ヒロ!!」

「ははっ、はははははっ!!どうだ、これが教団の主力!次期ラウンズの力だ!!」

 

まるで先程見た鎖に繋がれていた怪物のような容姿になったゼノンが、大口を開けて笑う。

何度も俺の名前を呼びながら体を揺するアレクシアに呻く事で生存報告をしつつ、俺は地上で待機しているだろう『アイツ』に向かって魔力で信号を発する。

 

特殊な操作を行う事で可能な、魔力の不可知化。それを応用して編み出した魔力信号は、俺とアイツだけの連絡手段だ。

 

 

 

こういう時の為の、な。

 

 

 

 

愉快そうに笑っていたゼノンだったが、ヤツと俺達との間を隔てるようにして天井が崩落し、黒い影が舞い降りる。

 

フードと仮面で顔を隠したその姿は、まさしく『漆黒を纏いし者』。

 

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」

 

 

スライムの剣をゼノンへ向け、シャドウは名乗った。

 

 

 

 

あぁ。実に良い。

――――これぞ、最強キャラと主人公の初会合シーンだ!!





アルファにわざとアイリス王女に姿を見せるように指示したのは「謎の組織の存在は適度に匂わせてこそだよね」というシドとヒロの話し合いの結果故です。

要は格好良ければそれで良し。
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